クローバー


 わがままで強気で何でも押し通す華子と、そんな華子にされるがままの理系男子・冬冶。
ある日華子にストーカーさながらのおしかけ彼氏がやってくる。
やがて冬冶にも、大学で気になる子ができ、4人のすったもんだの恋愛話。

 軽快でするすると話は進み、嫌みな人物もなく、少しずつ打ち解けていく4人の関係が楽しい。
華子の身勝手さは極端な前向きさと同じ感じで、言うことを聞いてしまう冬冶の気持ちもわかるし、それを見ているほかの人にも不快感は感じさせない。短編なので気楽に出来事にも向き合えて、明るい読後感。

私刑


 雪の舞うセントラルパークで、全裸で殺されている女性が見つかる。
犯行手口からゴールトの仕業とわかり、スカーペッタ、マリーノ警部、ベントン捜査官が捜査を進める。
やがて被害者はゴールトの双子の妹だと判明した。
ゴールトを追い詰めようと、ルーシーも含めて大掛かりな罠を仕掛け、やっと長い戦いが終わる。

 わざと自分の姿を見せつけるようなうすら寒い犯行が繰り返され、やっとゴールトの尻尾をつかむことに成功したケイたち。
薄気味悪い出来事ばかりで暗い気持ちだったのが、最後はほっとして力が抜けた。

死体農場


 ある日教会から自宅へ戻ったエミリーが何者かに連れ去られ、死体となって発見された。
死体の内腿と胸の上部及び肩の肉は切りとられていたため、テンプル・ゴールトの仕業だとみなされ、ケイとマリーノは捜査を始める。
だが、犯行手口に共通点は多いものの、一向に証拠はでてこない。
不信に思った二人が目を付けた次の被疑者は。

 マリーノが迷走している。仕事以外の面で。
ケイの行動にも精神的な揺れが見られて一貫していないので、こちらも揺さぶられてばかり。
今回はルーシーが大きな役割を持ったため、そちらへの興味が増してケイとマリーノの存在感が薄くなった。
マリーノが一番信用できそうな登場人物となってきた。

真犯人


 死刑囚ロニー・ジョー・ワデルが刑を執行されたその夜、まるで彼が起こした事件とそっくりな殺人事件が起こる。
その後も、女性霊能者の殺害現場ではワデルの指紋が見つかり、同僚の検屍局主任まで殺される。
ケイは身近な者として、メディアから執拗に攻撃され、辞職をするよう通告されてしまう。

 専門的な検証による証拠集めの様子が興味深かった。姪のルーシーも得意分野で活躍し、ケイのネガティブな精神状態が続いて暗くなりがちなのを時々リセットする。
ただ、真犯人を作った者が、なぜ囚人を選び出したか、逃亡を成功させられたかのところがあっさりとしか書かれてなかったので、いまいちすっきりしない。

小さき者たち


 屍体が悪霊にならぬよう見守る“家守”として、父と共に暮らしてきたモチカ。
父の後を継ぐと思っていた自分の運命が、ある日訪ねてきた祖母によって一変した。
突然連れてこられた大きな町で、少年たちが15歳になると必ず受けることになる神からの“試しの儀”に臨むモチカ。
そこでは、献上人として神に命を捧げる者を選んでいた。

 一つの国の繁栄と衰退。
高い理想で作られた国は、世代を重ねるごとに建前が増えていく。
理不尽な仕来りに疑問を持つものたちの声が亡霊となって襲ってくる不気味さと、従うしかない者たちの窮屈な不満がとぐろを巻いて順番にやってくる。
決まり事を外から見たときに感じる滑稽さが目いっぱい詰め込まれていて、描写も細かいので、状況がくっきりと目に浮かぶ。

赤の王


 大砂漠で生まれた赤子は、赤い紙に赤い目をした、火を操る子供だった。
親代わりの師匠を殺され、逃げ出した子供・シャンは、バヤルという町でマハーンという少年と出会い、友情をはぐくむ。そして二人は砂漠の国ナルマーンからの使者と共に凶王サルジーンを倒すべく修行を積むが、やがて真実に気付き始める。
 
 ナルマーン年代記三部作の、完結編。
先のシリーズは読んでいなかったけれど、問題なくその世界を楽しめた。
少年の心の動きや大人たちの目論見、様々な技の使い手、面白そうな設定がたくさんあった。
そしてくどくならない程度の長さと軽いやりとりが、少しの間の現実逃避にはぴったり。

検屍官


 バージニア州都リッチモンドの検屍官ケイの下には、毎日のように解剖を必要とする遺体が運ばれてくる。
そんな中、今一番注目されている連続殺人事件の遺体には、異常なほどの残忍さの痕跡が残されていた。
犯人の痕跡はいくつか残されているものの、遺体が増えるばかりで捜査ははかどらず、難航していた。

 遺体に残された痕跡から手がかりを探す専門家。
その目の付け所に驚きと興味が沸くが、登場人物たちは皆それほど特徴がないため、区別しにくかった。
誰の考えが出てきても、誰でも言い出しそうなことであったり、どんな行動もさして特別意外でもない。
唯一印象に残るのは姪のルーシー。
彼女の活躍が今後出てくればきっと楽しくなるだろう。

夢は枯れ野をかけめぐる


 早期退職して無職の48歳、独身の羽村祐太は、ある日高校の同級会で奇妙な相談を持ち掛けられる。
暇な祐太はそれを受け、ご近所さんとの交流も楽しみ始めた。
祐太の周りで起こる、介護や孤独死などの、ちょっと憂鬱な大問題を、それぞれの視点から描く短編集。

 介護、惚け、死などの、暗いイメージのことを、祐太の視点でさらりとさせて語るため、気の重くなる事が思いのほか気詰まりではない雰囲気になっている。
最初は探偵ぽい立場を持たせようとしていたようだが、むしろ後半の祐太のほうが魅力的だった。
ご近所さんの、いろんな「老い」。

高校事変 IV


 スキー場に向かう中学生たちを乗せたバスが新潟県の山中で転落事故を起こし、その中に優莉結衣の弟が乗っていた。
彼らは吹雪の中、近くの廃屋へ避難したが、そこで弟は、運転手を銃殺し、その後自殺した。
結衣は、弟の行動に疑問を感じ、調べ始める。そしてかつて父の組織と敵対していた半グレ集団「パグェ」とのつながりを見つけた。

 今度もたくさんの敵と戦う。今回は公安刑事二人と共に。そしていつものように、手近なもので武器を作り、見事に生き抜いた。傭兵のようなサバイバル術。
躊躇なく敵を襲い、そのくせ子供には無条件で優しい。人物像としては岬美由紀と同じ素質を持つため、毎回大規模な戦いばかりでも違和感はない。スキーツアーのバス事故や、京都アニメ会社での事件など、世間で起こった事件をすぐさま取り入れているため妙にリアルで恐ろしさも増す。
ネタは尽きなさそう。

むすびつき


妖退治で有名な高僧、寛朝から呼び出しをうけた若旦那。
しかも、妖と共に来てほしいと言われ、長崎屋の面々はそろって広徳寺に出向いた。
そこで見せられたのは、どうやら付喪神になったばかりの小さな玉。
そしてその玉は、若旦那のもとへ行きたいと願っていたようだ。

今回は若旦那の前世とかかわりがある話が続く。
安定のクオリティだが、その分ほっこりしたりやきもきする出来事が少なくなってきた。
皆といつまでも一緒にいたいと願う若旦那の気持ちが、変化を恐れているよう。

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