炎上フェニックス 池袋ウエストゲートパーク17


 コロナで仕事を失った、エッセンシャルワーカーという名の若者と肉体労働者。
パパ活をしていた女性が半グレに脅されていたり、ただ女性にぶつかっていくだけのぶつかり男、自転車配達員のトリプルワーカーに舞い降りた災難と、ストーカーに会い、その後ネットの誹謗中傷で身も心も削られた女子アナ。
コロナで生活が変わってもトラブルは変わらない。

 今回も気持ちの悪い事件ばかり。
カーストの下半分の暮らしを辛そうに見ている人がどれだけいたって誰も救えるわけでもなく、体を張って生きている人は体を張って自分を救わないといけないと生きていけない現実。
しんどいねぇって言うしかない。

ファウンテンブルーの魔人たち


 5年前、新宿に巨大な隕石が墜落し、一帯は壊滅状態に陥った。
そこへ再開発してできたのがブルータワーで、その一室に小説家の前沢倫文は恋人の英理と住んでいた。
ある日、アメリカ、ロシア、中国のロケット開発に関係していた人物が突然死する。そして現場では「白い幽霊」が目撃されていた。
特殊な癖を持っている前沢は、マンション内を偵察し始める。

 近未来の巨大タワーを舞台に、前沢や英理、そしてAIロボットのマサシゲが、新宿へ落ちた隕石の謎と、タワーの地下深くで進められているある計画を探る。
主人公の頭の中を、考えていることをつらつらとそのまま垂れ流しているようで長い。それでも淡々と描かれていて感情的になることがないので割とすらすらと読めた。
ただ隕石をめぐる各国の政治的な陰謀が暴かれるのかと思いきや、もっといろんな人の目論見が集まっていて、最終的にはなんとなく解決へ向かっているようなというあたりで終わっていた。
結局は事件というより人間の進化の選択肢を見せたもので、こんなこともあるかもねという想像が膨らんでいき、最初の疑問はもうどうでもよくなったかのよう。

本日も晴天なり 鉄砲同心つつじ暦


 鉄砲同心の跡継ぎである丈一郎は、射撃の訓練はしているが、副業のつつじ栽培の方が気に入っていた。
泰平の世になって長く、武士も本業だけでは食べていけなくなった幕末、頑なにつつじの世話をやろうとしない父との口論も日課となってしまう。
一家六人を養うには仕方がないのだが、交配で作り出す代わり品種を楽しみにしている丈一郎のところに、父の昔馴染みが訪ねて来る。

 にぎやかな一家の様子がとても微笑ましい。
鉄砲の火薬が使いようによっては肥料にもなり、物は使い道でずいぶん違うということを考えさせられる。
頑固だけど子供のような父が可愛く見える部分も多く、どんなことも発散して溜め込まないのでどんよりしない。
家族それぞれの個性もきっちり描かれているので想像もしやすく、楽しい団らんだった。
子供には見せない夫婦の約束の話でほっこりするのは、もう私がそちら側の年に近いからか。

ボーダーライト


 神奈川県内で薬物売買や売春などの少年犯罪が急増し、高尾巡査部長は係長の堀内から原因を探るよう指示される。
ペアの丸木と街へ出て情報を集めていると、犯罪に手を染める若者に共通して最近人気の『スカG』というバンドの噂を聞く。
高根拠はないがどうにも気になると言う高尾は、かつて荒れていた赤岩が薬物の取引現場で捕まったと聞いて話を聞くことにした。

 赤岩の高校にいる目立たない賀茂という生徒は時々オズヌが降りてくるという。
徐福やオズヌと絡めるのが好きなようで、今野敏作品にはたびたび出てくる。
でもどうも、憑依したというよりただ都合の良い時だけ人格が変わり、他力本願で丸く収めているような不自然さがいつもある。
今回は他にも憑依したという女性ボーカリストが登場し、戦うわけでも見逃すわけでもなく、ただすんなり従うだけとなり、修羅場も盛り上がりもなかった。
力の差が大きいということなのだろう。
それにしても乗り換えが早いし、無条件で従うほどの魅力が感じられない。

月夜の羊 紅雲町珈琲屋こよみ


 コーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」を営む杉浦草。
ある日、風に舞う雲形のメモ用紙を拾う。そこには「たすけて」と書かれてあった。
折しも女子中学生が行方不明中で、草は警察へ連絡する。しかし、少女はすぐに家出だったとわかり、一安心するが。

 家出少女は変装が趣味でいろんな顔を持っていた。
偶然発見した独居老人を助けたことで気づいた不審感を、明るく吹きとばすような身軽で楽しい友人ができたことで、また新しいもめ事にも巻き込まれてしまう。
今回は草の行動力や意志の強さを出した1作目のような雰囲気だった。
不審に感じることや納得できないことが次々と起こり、もやもやした感情を振り切るべく、草は小蔵屋であるイベントまでしてしまう。
読みやすく、季節や空気の流れも感じられるような描写が、ほっと一息入れた気分になる。
悲しいことが多かった今回はちょっと後味も苦め。

准教授・高槻彰良の推察6 鏡がうつす影


 お化け屋敷の鏡に幽霊が移るという噂が立ち、高槻の元へそのお化け屋敷で働くバイトの子から連絡が入る。
長野であったことの記憶がすっかりないことで元気がない高槻を心配していた深町は、依頼を受けることを進め、皆で見に行くことになった。
 「ムラサキカガミ」という言葉を二十歳まで覚えていたら死ぬ、という都市伝説があり、実際に家に紫鏡があるという民宿を経営している家の娘からの依頼。
そして婚約者の肩に人面痕が出たという高槻のいとこからの依頼。

 今回も不気味で、恐ろしい思いをする。
3人で行動することが増えてきたため、それぞれの役目ができてきて安心はできるが、不気味さも増している。
そして今回も、本物の怪異と出会うことになる。
でも、深町の力に頼ることを隠さなくなった高槻は、深町を信頼していることがわかるし、それにとことん付き合おうとする深町はもう自分を卑下したりもしていない。
それだけに、これからはただ怪不思議を解決していくだけでは済まない気がしてくる。

曲亭の家


 お鉄が嫁いだのは、当代一の人気作家・曲亭馬琴の息子だった。
外面だけは良いが吝嗇で、何事も自分の思うようにしないと気が済まない馬琴と、癇癪持ちの姑・百、体格だけは良いが病弱な夫。
陰気で笑いのない婚家で、お鉄は苦しくてしょうがなかった。
それでも子供ができてしまったために、馬琴の罵倒や姑と夫の突然起こる癇癪に耐える日々。

 馬琴を身近で見ていたお路(鉄)にとって、馬琴の人柄と描く戯作はどんなものだったのか。
その分析がなるほどと納得できる。
そりが合わないと常に感じつつも離れることをしなかったお路の考えはわからないけど、どんなに叱責されても馬琴の口述筆記をやり遂げる様子はどれほどエネルギーが要っただろうか。
そして馬琴や家族の様子を例える描写がとてもユニーク。
「繰り返しの毎日の中で、小さな幸せを見つけることの才能が人を幸せにする」としみじみ感じるお路に、しんみりする。

Team383


 自分でもそろそろと思っていたもの、免許の返納。
タクシーの運転手をしていた葉介は、家族に進められ、返納の手続きを行った。
すると帰りに、同年代の小太りな男性に声をかけられる。
「ママチャリカップに挑戦しましょう」
近所の中華料理店を本拠地にして、70代の男女がママチャリレースに挑む。

 チームを組んだ5人は皆同年代。
練習のあとは中華料理店でビールを飲むという新しい習慣を手に入れた葉介。
そしてメンバーそれぞれの問題や人生を、それぞれの視点で描く。
病気や家族の問題など様々だが、割と普通で印象に残るようなものはない。
キャラクターの個性にしても、現実的な範疇で突飛ということもないため、身近ではあるが区別もつきにくい。

アイスマン。ゆれる


 山本知乃は、祖母の遺品である文箱の中から見つけた古文書の力を使い、男女の相思相愛を使ったことがある。
体の悪い母と二人暮らしのため結婚はあきらめていた知乃だが、ある日高校の同級生・東村と再会し、好きになってしまった。
しかしあの術は自分には使えない。
そんな中、同じく東村を好きになった友人から、術をかけてほしいと頼まれ、困惑した知乃の元へ、不思議な影が近づいてきた。

 古文書に書かれた禁忌の技だったり、魔女のような叔母だったり、夢の中のようにふわふわした物語。
術をかければ自分の体を削ることに気づき、次はないと影からの忠告まで受けてしまった知乃は悩むが、気の弱さと母の一大事で捨て身になったりしても、うまいぐあいに事が収まってしまった。
ただ、東村の礼儀正しさが胡散臭いほどで、投資の話が出た頃にはすっかり詐欺師だと思ってしまっていた。
小説というよりアニメのほうがあっているストーリー。

御師弥五郎 お伊勢参り道中記


 伊勢詣の世話役・御師の手代見習いとして修業中の弥五郎。
御師のくせに伊勢にはいきたくないという訳ありだが、ある日出会った武士のような商人の清兵衛に頼み込まれ、伊勢まで用心棒として伊勢参りに同行することになった。
清兵衛は材木商だが、不当に吉野杉を売買したという濡れ衣を着せられ、さらには命まで狙われていた。
清兵衛を狙う悪党に不審な点を見つけた弥五郎は、用心棒をしつつ事の次第を調べ始める。

 一生に一度は行きたいと誰もが願う伊勢参り。
だが弥五郎はそれに虚像を見、嫌悪していたが、清兵衛とのかかわりで少しずつ考えが変わってくる。
伊勢が人々にどんな夢を見せているのか、そして故郷に残してきた遺恨とのケジメ。
不利な局面も知恵で乗り切る様子は頼もしかった。
西條奈加ははずれがない。