走馬灯交差点


 ロクデナシの父親から急に呼び出されて行った先には、見ず知らずの女性の死体があった。
なぜか通報もせず死体を捨てに行くことになってしまった朝陽。
 殺人事件を捜査中の刑事が、橋から突き落とされて死んでしまう。
いくつかの殺人が入り乱れる、まさに交差点。

 関係する人たちが順に入れ替わり、それぞれまた殺人を犯す。
もはや誰が誰で、中身が誰の時に誰を殺したのか混乱しながら読むしかない。
独り言が多くてそれも混乱をさらに大きくしていくため、一層複雑になっていき、解決するのか不安になってくる。
それでも一応は説明がされるが、その頃にはもうすっかり訳が分からなくなっていた。

エンドレス・スリープ


 大井の港湾倉庫で火災が発生した。ただの火災かと思っていたら、そこから冷凍された5人の死体を発見する。
最初に身元が判明したフリーライター・如月啓一が書いたと思われる原稿には、6人の素性が書かれており、警察はそこから身元を特定し、なぜ冷凍されていたのかを調べ始める。
少しずつ公表される如月のブログと警察の調べが交互に描かれ、冷凍されていた経緯や身元などが分かり始めると、より一層不気味な謎が深まってく。
彼らはなぜ、冷凍されていたのか。

 一人ずつ判明していく死体の素性。
彼らは皆、死の間際にいたことが分かる。
そして彼らの、身震いを起こすほどの死への恐怖が伝わってきて恐ろしくなる。
ただ、警察の視点で描かれている部分がそれを中和させてくれいて、ホラーの部分が薄まっていたために読みやすかった。
コールドスリープ、不死、延命、緩和ケアなど、死を考える題材にはいいかもしれない。

神の呪われた子 池袋ウエストゲートパーク19


 新興宗教「天国の木」に走った母親に振り回され、薬も病院も連れて行ってもらえずに、週末は布教活動に振り回されている女子高生のルカ。
50代の教祖の次の花嫁候補となってしまい、マコトはなんとか逃れようとするルカに手を貸すことを決める。
 転売目的でビンテージのウイスキーを狙い、小さなバーに嫌がらせを始める悪質なバイヤー。
闇バイトの連続強盗団などが登場する4編。

 宗教二世、闇バイトや転売ヤー、個人情報を盗み取る行き過ぎたファンなど、今回も今問題になってることがテーマ。
タカシとマコトのやり取りもいつも通り。
そしてタカシの強さも描かれている。その分マコトの知恵は今回はあまり出てこなかった気がした。

残照 アリスの国の墓誌


 新宿ゴールデン街に店を構えるバー『蟻巣』の最後の日。
マンガ家・那珂一兵が亡くなってからもミステリ好きの常連が集まったこの店で、彼らは思い出に浸る。
そして話題は、一兵のマネージャーをしていた姉の千鳥と、祖母の死における残りの謎に向かう。

 家を飛び出して似顔絵書きをしていた一兵が、有名漫画家となり、すでに死していたことに衝撃を受ける。
そして彼の生涯で付きまとった身近な人の死の謎と姉への思い。
今度も切なさがたくさん入っていた。
探偵役として登場しているもう一人の様子も気になるが、そちらは今後登場するのだろうか。

スナック墓場


 妹はいくつかの指がないけれど、それを少しも恨むことはなく、いつも朗らかに笑っている。
きれいにすることが楽しい職人気質の夫婦のクリーニング店にやってくる女は、なぜか下着も持ち込んでくる。
工場のラインで働く、二人の女性。
どれも女性が日々の中でふと感じる事が、静かに語られた短編集。

 特に事件が起こるわけでもない、静かな毎日を切り取った小編なので、いつ終わっても良いし続いても良いような話ばかり。
印象に残るようないい話でもない。
ただ、時々起こる発作で商店街をめぐるオジサンを、皆が順番にバトンのように話を繫げて無事に家まで戻す話だけは面白かった。

馬鹿みたいな話! 昭和36年のミステリ 〈昭和ミステリ〉シリーズ


 昭和36年、中央放送協会(CHK)でプロデューサーとなった大杉日出夫から、ミステリドラマの脚本を手がけることになった風早勝利。
キャストをそろえ、様々なトラブルを乗り越えたクライマックスで、主演女優が殺害されるという事件が起こる。
現場のスタジオには大勢の人がいたのになぜ!
風早と那珂一兵は、大きな密室となったスタジオでの事件に挑む。

 一兵と風早、大杉、瑠璃子と、おなじみの顔がそろう。
今度も辛い過去を覗くことになり、それやはっぱりよく知った顔。
事件は解決しても切なさが残るのは毎度同じで、今回はある程度覚悟ができていたためダメージは少なかった。
それと、これまでよりはマイルドなイメージ。
ラジオがメインだった時代に、テレビの世界へ飛び込んだ大杉たちの大きな挑戦の話。

あの魔女を殺せ


 グロテスクだけどなぜか惹きつけられるという生人形をつくるという三姉妹。
その新作のお披露目に招かれたフリーライター・麻生真哉は、愛娘と共に群馬の山中にある館に向かう。
ところが発表の夜、姉妹の長女が部屋で丸焦げになって発見される。そばには同じように焼かれた人形が落ちており、部屋は密室となっていた。
孤立状態のまま、参加者たちは館を捜索するが、姉妹は次々と殺されてしまう。
魔術を受け継ぐ一族の、おぞましい欲望から生まれた悲劇。

 愛する妻を失ってから、娘と共に倹しく生きてきた麻生。
しかし仕事のため、怪しい噂のある姉妹に近づいたことで起こる悲劇が、想像を絶する。
三姉妹の事件だけではない件も含め、ゾッとする場面が多くて恐ろしかった。
ただの殺人事件で終わらない怖さが残る。

たかが殺人じゃないか (昭和24年の推理小説)


昭和24年、敗戦した日本に進駐軍が推し進めた改革で男女共学の新制高校3年生になった勝利少年。
推理研と映画研の二つの部合同で行われた修学旅行替わりに一泊で湯谷温泉に行くことになった。
楽しんでいた部員たちだが、そこで一つの殺人事件に遭遇してしまう。
さらに夏休みの間にもう一つの事件とも出くわし、勝利は推理小説家を目指す身として事件に挑む。

 『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』に続くとあったので、同じ少年が主人公かと思ったら、彼は成長していた。
そして今度は絵描き兼探偵として、事件を解決へと導いていく。
前半は一兵が出てこないので、全く別の話かと思っていた。
しかし、まだまだ未熟な勝利少年の助けとして呼ばれた一兵が、落ち着いた青年として現れ、ゆっくりと皆を納得させていく様子は別人のようだった。
さらに、今回の殺人も背景には悲しい過去が隠されていて、やり切れない気持ちで終わるため、スッキリ解決したわりには切ない気分が残る。

襷がけの二人


 親が定めた縁談で、製缶工場を営む山田家に嫁ぐことになった十九歳の千代。
女中が二人いる裕福な家庭で千代は、若奥様となった。
無口な夫とはいい関係を築けなかったが、元芸者の女中頭・初衣、そして朗らかな芳との関係は良好で、三人は姉妹のように仲良くなった。
やがて芳は嫁に行き、初衣とは戦火によって離れ離れになってしまう。
しばらくは暗く、必死で生きていた千代だが、ひそかに憧れていた初衣と、また会えることになる。

 生きているのかもわからない相手と、また巡り合えた時の喜びが、冒頭にある。
そこに至るまでの日々を辿っていきながら、千代の思いにふれるたび初衣との日々がどれほど楽しい時間だったのかが分かってきて嬉しくなる。
そして戦争が起こり、悲惨な日々の千代は苦しくなるが、それでも最後に巡り合える日を知っているのでむやみに辛くならずに済んだ。
長さのわりに読みやすく、千代の気持ちが素直に入ってくる。

書架の探偵、貸出中


 推理作家E・A・スミスの複生体(リクローン)のE・A・スミスは、図書館間相互貸借の制度によって、海沿いの村の図書館に送られた。
そこで母親と暮らしている13歳の少女チャンドラに借り出された彼は、何年も前に姿を消した彼女の父親探しを頼まれる。
解剖学教授の父親は革装の本を残しており、その本には極寒の氷穴がある“死体の島”の地図がはさまれていた。
そしてチャンドラからは、また別の依頼を受けてしまう。

 ウルフの未完の遺作。
スミスと同じように図書館の蔵者として作られた者たちと共に、地図に書かれた場所を探す。
いくつかの謎を解いて帰ってきたスミスは、次にチャンドラの依頼である家の幽霊を探り始める頃には、章の間のつながりが亡くなってきて、まだ未完である所以を感じることができる。
扉の向こうが異世界とつながっているという、前作と同じ展開が出てきたときは少しがっかりした。
それでも前作はうまく断絶させる方法をとっていたことを思うと、今回はどんな手段ができただろうかと想像することは楽しい。