ワトソン力


 自分の周りの人の推理力を大きく上げる力を持つ和戸。
だがなぜか自分にはその力がでないので、和戸の所属する警視庁捜査一課の検挙率は前代未聞の10割という。
しかしなぜか、彼はとらえられ、窓のない小部屋に連れてこられていた。
犯人は顔も出さず、なぜ連れてこられたのか分からないまま監禁された和戸は、これまで自分には効果がなかったその力を、自分に使ってみる気になった。
そしてこれまで和戸が解決してきた事件を思い返す。

 周りの推理力を高める力をワトソン力と名付けた和戸。
これまでの7つの事件を順に思い返していくのだが、どんな状況でも発揮される便利機能だが、それがかえって身を危なくしてしまう。
居合わせた素人みんなが拙い推理を発表する場面はおもしろく、これだけのバリエーションを考えるのは大変だと勝手にねぎらいたくなる。

魔眼の匣の殺人


 葉村譲と剣崎比留子は、葉村のクラスメイトから聞いた預言者の話が気になり、預言者と恐れられる老女の住む場所へ向かう。
人里を離れ、かつて班目機関の研究所だったという施設に一人で済むという。
そこへ、唯一の通行手段である橋が燃やされ、高校生と思しき男女、墓参りに来たという女性、ツーリングの途中でガソリンが切れて困っていた男性、車のトラブルで困っていた父子と共にその施設に閉じ込められてしまう。
預言者はこの二日のうちに男女二人づつが死ぬと予言しており、皆は慄きながらも救助が来るまではどうしようもなくなってしまう。

 葉村と比留子はまたしてもクローズドサークルでの恐怖と戦うことになる。
班目機関の秘密を覗こうとしたばかりに巻き込まれる参事に二人は慣れてしまったように見え、謎解きも複雑になってくる。
細かすぎて覚えていないこともあったりしたが、二人は危険を冒しながらもなんとか犯人を追い詰める。
そしてこの班目機関はまだ立ちはだかるようである。

令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法


 架空の法律で、その法律に振り回される人々の様子を描く。
過剰な動物愛護の精神で、動物にも教育を受ける権利や性質に応じた環境を得る権利などができ、それに従って裁判も起こるようになった。
自家製の醸造酒を家庭の味とする風習が広がった世界。
現金が禁止された世界など、今の社会で問題になっていることを法律にしてみた結果。。

 今世間で問題になっていることを、ちょっと大げさにしてみたらどうなるか、そんな極端な世界を想像してみる。
ゾクッとするような怖い事も起こり、どうなってしまうのかと不安になる。
これまでの新川帆立の作品とはちょっと違ったダークな世界。

先祖探偵


 東京谷中銀座の路地裏で、探偵事務所をひらいている邑楽風子。
風子は捨て子で、養護施設を出てからバイトでためたお金でたんていをはじめた。
先祖を辿る探偵をしているのは、自分の先祖を探す手助けになればと思ってのことだった。
 先祖は武田信玄にゆかりがあるはずだと言い張る男性や、先祖の祟りかもしれないのでどこの祖先が原因か調べてほしい、学校で祖先を調べるという宿題が出た、などの依頼に、あちこちをめぐっては調査をしていく風子。
やがて、自分の両親につながるのではないかという仕事が舞い込む。

 ずっと孤独だった風子が、自分の祖先を知りたいと思って始めた仕事。
やがてつながる縁と、風子が捨てられた理由に説明がついた頃には、まるで想像もつかなかった出来事が分かる。

おっかなの晩 (日本橋船宿あやかし話)


 江戸草川に浮かぶ島、日本橋の箱崎。
川辺の小さな船宿を切り盛りする女将のお涼。
彼女の元へ届く手紙の中には、吉原にいる花魁・清里からのものがあった。
清里は狐憑きと言われてしばらく客足が遠のいていたのだが、それを逆手に取った接客をするようになり、また人気が戻ってきていた。
そしてお涼の元へは、時折不思議な客もやってくるという。

 面倒見が良いお涼のところへやってくるのは、人だけじゃなかった。
そして彼らは、お涼に頼みごとをしたり、癒されたりして去っていく。
なかにはちゃんと落ちが付いた話も合っておもしろい。
お涼の子供の頃の話もあって、彼女の不思議な魅力がつまっていた。

モップの精は旅に出る


 大輪の花が描かれたワンピースにハイヒール、髪を頭のてっぺんでお団子にしたその女性は軽やかに歌いながら掃除をしていた。

英会話学校の事務をしている翔子のところに、受講生の男性から婚姻届けが届く。
たった一回面談をしただけのその男性が怖くなり避けていたら、その男性が死体で発見されたという。
翔子は深夜に出会った清掃員のキリコと仲良くなって話を聞いてもらう。
するとキリコは真相を見つけてしまうのだった。

 深夜に清掃員として働くキリコが活躍するミステリーだが、完結章を一番に読んでしまった。
知らなくても全く問題はなく、読みやすいしキリコの様子が楽しそうでミステリーだけど軽やかな気分になれる。
シリーズということなので、見つけたら他も読んでみたい。

うまいダッツ


 高校の喫茶部。
ゆるい活動の喫茶部のなかで特に「おやつ部」と言われている1年の4人は、それぞれ好みのおやつを持ち寄って食べていたある日、不思議な噂を耳にする。
「うまい棒一本で、世界の秘密がわかるらしい」
一人一回のみ、しかも一日に一人だけ、質問に答えてくれるというその人物を探しに行く。
 メンバーのうちの一人のおばぁちゃんが家でブローチを無くしたので探しに行くことにしたおやつ部。
SNSでつながった友達と気まずくなってしまった理由を知りたいというメンバーのために頑張るおやつ部。
先輩の頼みでお菓子のシルエットクイズに参加するおやつ部。
彼らの楽しい部活の様子。

 喫茶部ではあるものの、レトロ喫茶をめぐる人、コーヒーに凝る人などいろいろで、そのこだわりのうんちくも細かくて楽しい。
そんな中、コンビニやスーパーでも売っているおやつを食べる活動というなんとも微笑ましい4人。
高校生活の楽しみ方がいっぱいで、お菓子もいっぱい出てきて、懐かしいお菓子がたくさん食べたくなる。

からくりがたり


 高校三年の冬に自殺した兄が残した日記には、教師や妹の同級生、喫茶店のウエイトレスたちとの、恋愛遊戯が事細かに綴られていた。
それは事実も交ざっていたが、およそ兄とはかけ離れた人格で、やがて妹は疑念を抱く。
さらにその日記に登場した女性たちを訪ね歩くうち、彼女たちは次々と事故や事件で死亡していることを知る。
市内で毎年年末に起こる殺人事件と、時々現れ語り掛ける正体不明の男とは。

 女友達のやや行き過ぎたはしゃぎっぷりと、自殺した兄の暗くこごった欲望の沈みっぷりが対照的。
でも全体的に下品で、そのうち気持ち悪くなってきたうえ、最後まで混沌とした物語だった。
ホラーのような雰囲気もあって、不気味さが残る。

剣持麗子のワンナイト推理


 亡くなった町弁のクライアントの仕事を引き継いでいたら、次々に舞い込む厄介で金にならない仕事。
ある日、「武田信玄」と名乗り、住所も本名も言わない男に呼び出される。
どう見てもホストだが、不動産会社の事務所に侵入したら、死体があったらしい。
他に、認知症のおばあさんを家まで送ったら、男が首をつっていたり、やたらと死体と出会う夜に、通常の仕事のために麗子は夜明けまでに解決しようと奮闘する。

ドラマに使われていた話もあり、イメージがしやすかった。
人懐っこいが胡散臭い刑事の橘にもいいように使われているような気もしながら、武田信玄と名乗っていた黒丑をアルバイトとして雇うことになったりして麗子のお人好しな面がたくさん出ていた。
最後の話は、黒丑の父親も出てきたたため時系列が混乱した。