やさしい猫


 シングルマザーの保育士・ミユキさん。
災害地へのボランティアで出会った8歳年下の自動車整備士であるクマさんと、一年後に偶然再会してから付き合い始める。
そして何度目かのプロポーズでやっと結婚を決めた頃、二人に大きな問題が立ちはだかる。
ただ家族で一緒に暮らしたいという希望が奪われそうになり、必死で抵抗し戦う家族の姿を描く。

 語り部はミユキさんの娘であるマヤ。
誰かへの手紙のような語り口でさらさらと綴られるが、クマさんが外国人であるという理由で起こる大きな問題が暗くて大きな影を作る。
そして、勝率の低い戦いにも負けるもんかと乗り出す3人。
入国管理局で起こる事件が時々ニュースになるが、それを題材にしているので生々しい場面もあって、時に読むのが苦しくなる。
これは問題提起のために書かれた物語。

元彼の遺言状


 1年付き合ってきた彼から差し出された婚約指輪が安物だったためにその場で振り、翌日にはボーナスを減らされて頭にきて勢いで辞めてしまった弁護士の麗子。
そのままはけ口を探してずっと昔に3か月だけ付き合っていた栄治にメールしたことがきっかけで、その栄治の遺言に振り回されることになる。
 栄治は大手製薬会社の御曹司で、相続する多額の資産をめぐって「自分を殺した犯人に全財産を譲る」という遺言を残していたのだ。

 ドラマを見ていたのでそのイメージが強かったが、ドラマで最後まで存在感があった篠田が途中で消えてしまった。
それでも話は走るように進み、麗子のパリッとした性格のおかげで物騒な出来事もすっぱり切り捨てられ、ちゃんと栄治の考えた通りに収束させてしまう。
読みやすくて爽快。

名探偵じゃなくても


 いつもの居酒屋で飲んでいた三人は、紳士然とした男性・我妻に声をかけられた。
彼は、かつて小学校の校長を務めていた楓の祖父の教え子なのだという。
今は認知症を患っている祖父だが、今でも楓が持ち込む相談事を聞くと頭がさえ、名探偵のごとく謎を解いていく。
そんな祖父に、我妻は相談があるという。

 少しづつ進む祖父の症状に心を痛めながらも、謎を解く時に見せる顔が見たくて通う楓。
ただ、岩田と四季の楓への思いが語られるうちだんだんうさん臭くなっていく。
それは楓に魅力が感じられないためで、都合よくプリンセスに仕立て上げられて行っている。
極端な自己犠牲に走る四季にも同情しにくい。

泥棒は深夜に徘徊する ― 泥棒バーニイ・シリーズ


 仕事の決行は週末と決め、今夜は下見だけのつもりだったのに、どうしても別のいい場所を見つけてしまったら立ち去れなくなったバーニィ。
しっかり道具も持っていたことから、忍び込むことに成功するが、そこでまたもや住人が帰ってきてしまう。
ベットの下に隠れたバーニィ。
そこで彼は、なんとも嫌な場面を見てしまう。
さらに、偶然その一画で別件の強盗殺人が発生しており、街角の防犯カメラに姿をとらえられていたために、今度は殺人の容疑者になってしまう。
そこでバーニィは今度も自分の無実を証明するために走り回ることになる。

 偶然だと思われたことが仕組まれたことだったり、そこにバーニィのちょっとした嘘も混ざってますますややこしくなってくる。
そして国をまたいだ犯罪に絡んできて歴史の知識も手に入り、バーニィはすっかり探偵となってしまう。
今回はちょっとわかりにくかった。
最後のキャロリンとの種明かしが楽しみになる。

累犯障害者


 刑務所内にいる受刑者には、障碍者も多くいた。
彼らは障害があるがゆえに、裁判で自分の気持ちを表現することができずに重い刑をそのまま受け入れてしまっていたり、通常の作業ができないために隔離されていたりする。
精神障害者、知的障害者、認知症老人、聴覚障害者、視覚障害者、肢体不自由者の彼らの話を聞いて、今ある日本の問題を訴える。

 福祉の手からすり抜けてしまった彼らがどうして罪を犯したのか。
そしてそんな彼らは出所後どうなるのか。
障害の理解が充分ではない時、どう扱っていいかわからずに放置される。
珍しく小説ではないけど、読みやすく、わかりやすかった。
福祉がいかに届きにくいかと強調されていた。

泥棒はライ麦畑で追いかける―泥棒バーニイ・シリーズ


 ある日、古本屋にやってきた美女に頼まれ、有名作家が昔書いた手紙を盗み出すことになったバーニィ。
ところが、作家の住むホテルへ忍び込んだら、またもや死んだ人間がいたのだった。
 正体を隠し続けた作家が、これまで書いた私的な手紙が競売にかけられるとなって、コレクターや恋人だったという人物たちが集まってきて、今回もにぎやかな謎解きとなる。

 またもやバーニィは、自分にかけられた殺人容疑を晴らすため、事件を解決する羽目になる。
そして今回は、ちょっと粋な方法も使って解決させていて、これまでの同じような印象を変えた結末となった。
さらに、前回の登場人物が奇妙な友人となって加わり、彼が面白い位置にいるので、今回の作家もまた出てきてくれるときっと楽しいと期待をする。

泥棒は図書室で推理する―泥棒バーニイ・シリーズ


 失恋の痛みを癒すために、バーニィは田舎の古い屋敷を改造したカントリーハウスへ行くことにした。
でももちろんそこはバーニィだから、ただ行くわけではない。
ホテルの図書室にあるというレアな初版で稀覯本があるというので、いただきに行くのだ。
キャロリンと猫のラッフルズを連れて向かったそのホテルは、どこもかしこも本だらけだったが、大雪に阻まれて陸の孤島と化していた。
そして起こる殺人事件。またもやバーニィは、探偵の力を発揮する羽目になる。

 失恋した相手は前作のイローナかと思ったら違っていた。
その時からいくらか時間がたっていたらしい。
雪で閉ざされ、橋は落ち、電話線が切られたホテルで起こる連続殺人というよくあるシチュエーションだが、バーニィの関心は稀覯本であり、事件の解決に乗り気ではなかった。
それでもキャロリンにせっつかれ、屋敷を調べ始めるバーニィ。
そして再開した恋人とは完全に分かれることを決める。
その決断をした理由を知り、より彼のことが好きになった。

泥棒はボガートを夢見る―泥棒バーニイ・シリーズ


 古本屋へやってきた美しい客に一目ぼれしたバーニィ。
その美女イローナとボガートの話で意気投合し、その夜から15日連続でボガートの主演映画を見に通う。
しかし、旧友からバーニィの話を聞いたというある客が持ち込んだ仕事をうけて侵入した高級アパートで、なんとバーニィは失敗してしまう。
恋をしたバーニィが見失ったものは、恋人か仕事か。

 恋をした女性は、バーニィに仕事を依頼した人物ともかかわりがありそうだし、依頼されて盗んでくる予定だった書類はどこへ行ったのか。
依頼者が死んでしまい、犯人はわかったのにバーニィにはできることがない。
今回のバーニィは、皆を集めて犯人を追い詰めるという名探偵もやるけど、どこか締まらない役どころだった。
恋に浸り、仕事に失敗し、犯人は突き止めるが逃げられ、追い詰めることができない。
それでもなぜか不思議と情けなくない。
不思議な泥棒さん。

育休刑事


 捜査一課の巡査部長である秋月は現在、育休中である。
男性刑事として初めての1年間の育児休暇中、生後3ヶ月の息子を連れていると、世界が今までと違った見え方をする。
そしてトラブルを呼び込む体質の姉と一緒に出掛けていたある日、偶然入った質屋で三人は強盗に出くわしてしまう。
育休中なはずなのに、被害者であるはずなのに、息子を抱いたまま捜査に加わることになってしまう秋月。

 育児中であるがゆえに気が付く目線で捜査をするという特殊なタイプ。
現在の社会問題もいくつも盛り込まれていてなるほどと思える部分も多いが、いくつも続くとうんざりしてくる。
縁のない人でも気づきにはなるが、ちょっと盛り込みすぎでしんどかった。

赤目姫の潮解 LADY SCARLET EYES AND HER DELIQUESCENCE


 早朝、手漕ぎのボートで三人、人里離れた屋敷へと向かう。
私と鮭川は、声を持たない美しい赤目姫といられることで最上の喜びを感じていた。
そして訪れた屋敷で、さらにはチベットやナイアガラの滝で、それぞれが赤目姫と過ごした時間を話すうち、意識も時間も錯綜し、やがて混線していく。

 視点も時間も入れ替わり、また人物も入れ替わったりしていくため、どれが本来の自分の感情なのかすらわからなくなる。
もちろん脈絡もないし、結末もない。
ストーリーが破綻してただ困惑するままに終わった。
この手の物は苦痛。