しあわせの輪 れんげ荘物語


 激務だった会社を早期退職したョウコは、古いアパート「れんげ荘」で倹しく自由に暮らしていた。
老後に不安は感じながらも兄夫婦のところに、突然やってきたネコたちのことや、れんげ荘の住人たちとの交流を描く。

 シリーズなのを知らずに読んで、何のことやらわからないこともいくつかあったが、それは突き詰めるほどのことでもなく、日常が流れていく。
そのせいか身近な人という感じがなくどこか他人事で入り込めなかった。

インビジブル


 昭和29年、政治家の秘書が、麻袋を頭にかぶせられた刺殺体として発見される。
初めての札事件捜査で意気込む大阪市警視庁の新城は、国警から派遣された警察官僚の守屋と組み捜査に当たる。
守屋はエリートなのに捜査の仕方も知らず、イライラする新城。
すると同じような刺殺体が発見され、事件は連続殺人となる。
戦争を挟んだ日本の混沌とした時代を描く。

 儲かると聞いて開拓団として満州へ渡った者たちが、その後戦争によってどんな人生を送ったのか。
暗くて苦しい時代を生きた者たちの事件だったが、時代と政治、大阪弁がなじまず、最後まで息苦しい感じが抜けなかった。
この手の作りは私には合わないようだ。

メアリ・ジキルと怪物淑女たちの欧州旅行  1ウィーン篇 アテナ・クラブ


 特異な能力をもつ“モンスター娘”こと〈アテナ・クラブ〉の面々は、メアリの家で一緒に暮らしていた。
ある日、メアリに宛ててヴァン・ヘルシング教授の娘ルシンダから救助を求める手紙が届く。
メアリたちは二手に分かれ、ルシンダを助け出すためにウィーンへ向かう。

 メアリたちはそれぞれの特技を生かして暮らしていて、今度もそれを生かせると信じて旅立つ。
心もとない旅費はホームズが助けてくれたが、今回はホームズはほとんど登場しない。
メアリたちの大活躍でルシンダを監視の強い施設から助け出すことができたが、今度は自分たちが誘拐されてしまうというところで終わる。
途中でみんなのコメントが入るのは前回からだが、やっぱりそれが邪魔で気分がそがれてしまうので物語に集中できなかった。
結局どんなふうに進んだのかが残らず、興味も薄れた。

芦屋山手 お道具迎賓館


 先祖から受け継いだ芦屋山手のとある屋敷に住む「先生」と呼ばれている一人の男性。
彼が畑仕事の最中に土の中から見つけた白い器。欠けたりもせずきれいであったので「先生」は洗って日々の茶碗として使っていた。
しかしそれは、長時を経て付喪神となった白天目茶碗だった。
「先生」は彼をシロさんと呼んで、同じように付喪神となった器たちと賑やかな日々を過ごす。

 かつての権力者たちに愛され、現在は行方不明となっている器たちが付喪神となり、お茶席の時に集まっては思い出を語る。
実在した器たちが、誰の元で、どんなふうに使われていたかが語られるため、歴史としてみれば面白いのかもしれないが、主人公のシロさんや付喪神たち、持ち主の「先生」も含めてキャラクターとして登場しているのに個性が薄くて読んでいて少しも面白くなかった。
物語にするのか、器の歴史を追うのか、中途半端な印象だけが残る。

青く滲んだ月の行方


 隼人は、別れた咲良の荷物を箱に詰め、送り返す手続きをする。後輩の大地は、「女の子との遊びはクレーンゲームみたいなもの」と言ってみせる。
自殺をテーマにした劇の台本を作っている最中に、クラスメイトが自殺してしまい、作り直すことにしたB。
悩める少年たちの世界。

 毎日なんとなく過ごして、面白い事も忙しい事もあるけどなんとなく退屈な頃。
そんな世代の若者たちの出来事が、ただ淡々と描かれる。
盛り上がることもなく、暗すぎることもないので、夢中になることもなく、楽しくもなく、続きはどうでもよくなって、読むのを辞めてしまっても何も問題はない。
もちろん何も残らないし、次の章に入ればすぐに忘れてしまう。

灰かぶりの夕海


 千真の前に現れた少女は、関東に起こった大災害で亡くした恋人に、名前や姿形、癖までもそっくりだった。
生きる気をなくしていた千真の前に現れた少女を拾い、千真のしていた配達の仕事を手伝い始めた時、訪ねた家で二人は死体を発見する。
しかも死んでいる女性は、配達先の恩師の妻だった女性とそっくりだった。
死んだはずの女性と似た人物が、二人も。
千真の周りで、何が起こっているのか。

 現在の日本に近いけど、ちょっと違う過去を持っている設定。
最初は短い間に視点や人物がころころと変わり、何が言いたいのかわからず、少しも興味をそそらないプロローグを集めたような感じ。
そのうち焦点を当てられた千真と夕海だが、夕海が非常に気味が悪い。
純粋な少女を表現するには無知すぎて、同情もできなかった。
ドッペルゲンガーみたいに似ている人ともそんなにあちこちで出会うはずはないし、なんだか無理やりでうさん臭さばかり目立った。

女たちの審判


 死刑囚・梶山智樹。
彼が殺人を犯した訳、彼に友情を感じる看守、ハト行為と言われる不正をして梶山にメモを届けた刑務官、娘がいると知り、一目会いたいと脱獄を計画する梶山。
一人の死刑囚を中心に、拘置所内で起こる様々な人間模様。

 全体的に暗く、平坦な語り口調で進み、時に数年を飛び越して、梶山が逮捕されてからを描く。
判決を言い渡した裁判官や、家族にも視点を向けて、梶山からだんだん広がっていくため梶山の人となりは少しづつ見えてくる。
それでも事件を起こした理由は語られず、タイトルの「女たち」と限定されていることにも疑問が沸いた。
そして、最後に明かされる関係者たちのつながりがちょっとわざとらしく感じた。

天龍院亜希子の日記


 第30回小説すばる新人賞受賞作。
ブラックな人材派遣会社の営業をしている田町譲。忙しいのに人は補充されず、夜中まで働くこともザラで、それでも残業代はほぼなし。
付き合って3年の彼女ともなんだか離れ気味。
そんな時、えらく豪華な苗字を持つ小学校の時同級生だった天龍院亜希子のブログを見つけてしまう。
つまらない日々を、今はもうどうしているのかも知らない同級生の平凡なブログを読むことで流している田町の、平凡な日々。

 天龍院亜希子のブログが何かにつながるわけでもなく、本当に平凡な日常だった。
彼女とのこと、同僚とのこと、派遣スタッフのことで終わる毎日がだるそうに語られる。

孤虫症


 主婦の麻美は、夫には言えない”趣味”を持っていた。
週に3度、それぞれ曜日によって決めた男たちと逢瀬を習慣にしていたが、男たちが次々とおかしな症状で原因不明の死を遂げる。
やがて麻美自身もおかしな音に困らされ、腹部の痛みを感じ、やがて体中に虫が入り込んでいるように感じられ、手を切り落として失踪してしまう。
それは、麻美から相談を受けていたという妹にも起こる。これは忌まわしい家族のつながりのせいか。

 奇妙で、気味の悪い話だった。
近所の人たちの薄暗い悪意や、母親からの開き直った悪行、周りのすべてから責め立てられるような不気味な出来事は、やがて気が狂わんばかり。
しかもそれは麻美の身に起こったことか、妹か、母か。女たちの嫉妬も絡まり、道筋を立てて考えることができなくなりそうで、しばらく違和感と嫌悪感でいっぱいになる。
この手の話は苦手。

お化けのそばづえ


 子供のころからお化けが見えた。そいつらは真っ黒な顔で襲ってきて、おれ・須磨軒人はいつも怖い思いをする。
時に人に取り付いて凶行を起こすお化けは、どこへ引っ越してもやってきた。
しかし軒人はやがて結婚し、子供ももうすぐ生まれるときになって、妻にとりついたお化けが自らを殺そうとしている場面に出くわし、もう逃げ出せないと決心する。
霊能力者、お祓い、お札、様々な手を使って、自分と家族を守るためにあらゆることを試す軒人。

 お化けに襲われ、ずっと怖い思いをしてきた主人公。
訳も分からずただ見える人の話かと思ったが、ちゃんと理由が明かされる点では解決を見た分納得はいったが、ひたすら怖がっているだけの軒人の様子が話のほとんどで、うんざり。
参考文献もいくつかあったので、もう少し詳しく土地に絡めた信仰についての話が出てきたらよかったなと思う。