泥棒は抽象画を描く


 友達のキャロリンが飼っている猫が攫われた。身代金は25万ドルで、払えなければある絵画を持ってこいという。
美術館のものは警備が厳重なので、個人所有の物を狙おうと計画たバーニィは、とある高級なマンションへ忍び込む。
ところがそこにあったはずの絵が無くなっていて、代わりに住人の死体があった。

 バーニィの入るところには必ず死体がある。
無くなった絵はどこへ行ったのか、バーニィは捜索を開始するが、今回は登場人物が多すぎて把握しきれなかった。
さらに同じマンションでもう一つ死体が出てきてからは、美術館や銀行の人たちも巻き込んでどんどん話が大きくなる。
そしてバーニィは泥棒なのに、皆の前で犯人を指し示すという探偵となる。

お初の繭


 産業もあまりなく、貧しい地域に住むお初は、12歳で生糸工場へ出稼ぎに出ることになった。
各地からやってくる少女たちが集められたのは、淋しい土地ながら特別な糸を吐く繭が育つ場所で、そこで集団生活をしながら仕事が始まるのを待っていた。
ところが、毎日腹いっぱい食べ、日に三度も風呂へ入るという清潔で快適な日々を過ごしているうちに、だんだんと焦ってきたお初。
皆が飲んでいる薬にアレルギー反応がでたことで一人隔離の生活になってしまい、工場の異様な雰囲気を客観的に感じることができたのだった。

 ホラー。
割と早いうちから不気味な雰囲気は出ていて、少女たち以外の登場人物の名前も不気味。
そして予想もできるが、どうしても目が離せない。
深みへはまるお初。
出てくる糸や街の名前が、怪しいが滑稽なため、ひたすら気味が悪いだけではなかったせいで読みやすい。
だが不吉な予想はどれも必ず当たり、恐ろしい余韻を残す。

こぼれ桜 摺師安次郎人情暦


 摺師の安次郎は、亡き女房の実家へ預けていた息子の信太を引き取り、神田明神下の長屋に父子二人で暮らしていた。
その仕事ぶりは評価され、愛想はないが信用は得ていた。
ある日、弟弟子の直助が慌てて持ち込んだ情報は、友の彫師の伊之助が好色本を作ったという罪でお縄になったというものだった。
しかも、見るからに下手なものであるにもかかわらず、伊之助は自分が作ったと認めているという。

 元は武家育ちだった安二郎が摺師になった経緯は少しずつ明かされるが、それによる身内との確執が最後まで底で流れていて、安二郎の摺師としての仕事の様子と並行して書かれている。
大きな軸の一つと言っていいが、そちらは暗いばかりでつまらなく、摺師としての仕事の方が断然面白かった。
登場人物も皆個性豊かで混乱することもなくすんなり入り込め、摺師と版元、絵師や彫師との関係も興味が沸いた。