ブラックバースデイ


 二つの家族が同棲しているという不思議に、主人公の駒之助は不審に思っていた。
なぜなら彼らはまるで息をひそめるようにひっそりと、外出もせず暮らしていたからだ。
実は彼らはテレビでも有名だった「取り違え子」の2家族だった。
二つの家族に起こった悲劇の真相に、駒之助は気になり始める。

 調べていくうちにどんどんわかっていく二つの家族の秘密。
恐ろしい出来事が次々起こって飽きないが、次第に嫌な予感もしてくる。
イヤミスまで行かないかもしれないが、恐ろしい人物は他にもいると感じさせるのが上手。

滅びの園


 突然上空に現れたクラゲ状の未知の物体。
それと共に白く有害な不定形生物<プーニー>が出現し、あらゆるものを飲み込んでいく。
また、抵抗の弱い者には精神にまで支障をきたす。
そんな中、一人の男が未知の物体の核付近に囚われていた。
人々は彼を説得し、核を壊して地球を守るために団結する。

 未知の物体が生き物なのかもわからない状態で、それに囚われてなお生きている男。
彼が生きて戻れるのか、そのまま未知の物体と融合するのか、不思議な世界が繰り広げられる。
何人かの特徴ある人物が起こす行動も奇妙で面白い。
想像もつかない近未来があった。

ツノハズ・ホーム賃貸二課におまかせを


 不動産会社の営業マン、澤村聡志は、気が弱くてなかなか成果をだせないでいた。
そんな彼の後輩として移動してきたのは、トップセールスを誇る美人営業・神崎くららだった。
人使いが荒い彼女のエネルギーに圧倒されつつ、大家と店子の間を飛び回る澤村に、いくつかのおかしな出来事が起こる。
「先輩が知恵を絞ってくださいね」というくららに次々と指令を出されながら、澤村は店子や大家さんを観察し、人々の思いをくみ取っていく。

 くららのエネルギーに押されてへとへとになる澤村。
それでも一緒に歩き回るうちに見えてくる彼女の人となりに魅かれ、そこから大家さんたちの観察へと思考が飛ぶ様は、彼の失敗した結婚へとつながり、まさに思考の変換。
くららぐらい押しが強く、ポジティブで、人を巻き込んでいくパワーが、羨ましいようなしんどいような。
結末はどれもハッピーエンドだけど、そこに至るまでを読んでいるだけでかなり運動した気になってしまう。

ネバーブルーの伝説


 アスタリット星国で写本士見習いとして働く15歳のコボル。
近隣諸国で起こった戦争や災害で失われていこうとしている書物を集め、写本して保護するために日々訓練をしていた。
ある日、塵禍に見舞われた隣国・メイトロン龍国へ赴いたコボルたちは、白に踏み込んだとたんに黒い霧の犬に襲われる。
訳もわからず逃げ出したコボルたちは、そこで出会った不思議な少女と共に隠されていた真実を知り、世界へ伝えていこうと決心して冒険へと旅立つ。
 
 大人たちに教えられたものが真実ではなかったと知り、自分の力で変えていこうとする少年少女たちの物語。
隣国の秘密や災害の真実、広い世界へ目を向けて驚き、未知の現象に慄く。
それでも向かっていく力強いエネルギーがあふれていて一気に読めた。
特別な役割を持っていたいという純粋な願いも瑞々しくて、楽しいファンタジーだった。

おやごころ まんまこと


 神田にある古町名主、高橋家の跡取り息子・麻之助は、近頃持ち込まれる悩みが増えていて困っていた。
そんな時、幼馴染の清十郎からも相談事を持ち込まれる。
悪友3人組は、それぞれの立場を超えて知恵を持ち寄り、江戸の困りごとを解決していく。
そしてついに妻のお和香に子が宿り、麻之助は居ても立っても居られない。

 「まんまこと」シリーズ第9弾。
のんびりしていたいと思っても、はや人の親になる麻之助。
人と人とのもめ事は庶民同士でと決められているためお武家や旗本には手が出せないが、友たちと協力して今度も様々な人の困りごとを聞く。
どのシリーズもちょっとづつ成長している。

怖い患者


 区役所に勤務する愛子は、同僚女子の陰口を聞いたことがきっかけで、たびたび「発作」を起こすようになり、クリニックを受信すると「パニック障害」と言われた。
この恐怖がただのパニックのはずがないと、愛子はドクターショッピングを始めてしまう。
 介護施設を併設する高齢者向けのクリニックでは、利用者の人間関係が次第に悪くなり、雰囲気がピリピリし始めるが、施設長は平等に接しようとするあまり、解決させないまま放っておくことになっていた。
 など、クリニックの周りで起こる人々の思いを濃縮して毒に変えたような不気味さが漂う短編集。

 怖いのは患者だが、医者だって他の科にかかば患者に変わる。
うっすらと張った毒の膜を一つ一つめくって奥へ進んでいくようなうすら寒い怖さがあった。