藩邸差配役日日控


 神宮寺藩七万石の江戸藩邸。
「何でもや屋」とも揶揄されるお役目の差配役に就いている里村五郎兵衛は、日々様々な事に目を配らせている。
世子・亀千代君が失踪したとの知らせに慌てふためいたり、ご正室の猫が行方不明となったり、御用商人を巡る不正入札が発覚したりと忙しい。
「誰にもできぬお役を果たすのが差配方じゃ」という信条の元、一つ一つに誠実に向き合う五郎兵衛。

 何でも屋という通り、大きな陰謀から小さな修理の依頼まで、様々こなす五郎兵衛。
そして少しずつ信頼を得ていく様子や、持ち込まれる秘密への向き合い方など、真摯な姿に好感を持つ。
最後に明かされる飛び切り大きな秘密を、その親にすら守り通す姿は頑なとも見える。
読み始めから終わりまでに印象が大きく変わる物語だった。

目には目を


 娘を殺された遺族が、少年Aを探し出し、殺害した。
すぐさま自首したものの、反省は一切してないという。
ライターの仮谷苑子は、自首した田村美雪に少年Aの居場所を告げ口した少年Bを探し出し、なぜそんなことをしたのか聞くために取材をしている。
候補は、同じころ少年院にいた5人。
それぞれと面会し、自伝を書くという名目で取材を始める仮谷。
そして見つける真実と、仮谷の正体。

 最初から暗く、重い雰囲気。
少年院にいた子たちの話は皆どこか言動がや感覚がおかしく、理解できない仮谷は混乱する。
そして何人にも話を聞いていくうちにわかってくることが恐ろしい。
どんなに考えても理解できない事の怖さ。

池袋NO NAME 池袋ウエストゲートパーク21


 池袋で多発しているトクリュウの強盗事件。
闇バイトに手を出したGボーイズがいることで関わらずを得なくなったタカシとマコト。
元締めを突き止めて罪を償わせることを決めたが、なかなかつかめない。
その時Gボーイズの一声で閃いたマコトは、ある罠を仕掛ける。

 闇バイト、市販薬や処方薬でのオーバードーズ、やたら自己評価が低い生配信者など、今回もイマドキな話題。
Gボーイズのトップであるタカシはこのところ現場に出ることが減っていたけど、今回は個人的にマコトと一緒に出掛ける。
暴力的な部分もでてきたが、これぞタカシといった感じで久しぶりに楽しく読めた。

廃院のミカエル


 食品輸入会社の社員としてアテネで働く美貴は、一度食べただけだが忘れられない蜂蜜を探して廃墟となった修道院へ立ち寄る。
するとそれ以降、周りで奇妙な事が連続する。
偶然連れとなった二人と共に、心が冷える瞬間に幾度も出会ううちにたどり着く、修道院の隠された真実。

 不気味な現象に何度も出会ううち、うっかり本当に天啓を受けたような気になってしまう美貴。
思い込みと宗教はいったん決まってしまうと変えるのは難しい。
その中で、違う考えの人による理性的な観察と行動で、少しづつ過去の出来事が明かされていく。
若い修道士の行動と重ね合わされて発覚する、悪魔の所業と描かれたミカエル、そして蜂蜜。
すべてがつながった時には霧が晴れたようになる。

みかんとひよどり


 創作ジビエ料理の店のシェフをしている亮。
だが客が少なく赤字続きで、オーナーからいつ解雇されるかと思うと鬱々としていた。
そんな時、山に入り猟をしていると道に迷い、遭難してしまう。
無愛想な猟師・大高に助けられた亮は、大高の狩った獲物を買って店に出す契約を取り付けた。

 冷たい態度の大高だが、見捨てることはしない。
亮の店にもいいヒヨドリを届けてくれて、やがて店も繁盛していく。
おいしそうな料理が並んで気になってしょうがない。
個性的な大高やオーナーが、平凡な亮の周りをどんどん鮮やかにしていく様子が楽しい。
ちょっとタイトルが中身と合ってないような弱いような気がするのが残念。

鏡じかけの夢


 願いを込めて磨くと叶うというその鏡。
持ち手の願いを飲み込みながら次々と時代と人を乗り換えていく。
あの人の妻と入れ替わりたいと願う看護婦、踊り子に心酔する富豪、孤児と奇術師、貧乏から抜け出したいと願った双子。
叶った先にある事はおかまいなし。

 不思議な力に取り込まれ、手放せなかった人たちの物語。
ほとんどは不幸に終わるが、どれも思いもよらない場面がくる。
たいていは自分の望みだったために嫌な後味を持つサイコホラーで、意思のないはずの鏡だけが永遠に存在し続ける不気味さがじわじわとやってくる。
そんななか、奇術師と弟子の話は一つだけ口直しのように鏡への良いイメージとなった。

ボスポラス 死者たちの海峡


 イスタンブールで、日本人音楽家の女性が自殺した。
彼女は駐在員の妻たち3人を、自分を自殺に追い込んだとして遺書に書き残していた。
その遺書の真意を探るための捜査員は3名。
やがて、トルコ在住の日本人コミュニティの狭さと陰湿さがみえてくる。
さらに関係ないと思われていた連続転落死亡事件までつながっていく。

 登場人物が多くて混乱した。
警察の関係者までもが日本人コミュニティの人たちとつながりがあり、小さな出来事がどこまで計算されているのかと驚いた。
誰に注目していいかも長い間決められず、そのうちうすら寒い悪意がのぞいてきてようやく気付く。
後味も苦く、読み終わった日は夢見が悪かった。
それくらい後を引く不気味さだったが、どんどん焦りが出てくる流れで途中で止めれば余計気が滅入りそうだと思って読み終えたが、スッキリとはかけ離れた後味で、印象は強烈に残る。

もつれ星は最果ての夢を見る


 量子テレポーテーション通信の開発によって、遠く離れた星同士でも通信が可能になった時代。
宇宙開発コンペに参加するため、地球から十光年離れた星に降り立ったエンジニアの零司と相棒のAI・ディセンバー。
しかし割り当てられた場所に到着したとたん、他の参加者の遺体を発見してしまう。
コンペ運営本部との通信も途絶え、未開の星で孤立無援となった零司。
不審な宇宙船や参加者ではない人物と出会って命を狙われたりと、零司は本来の仕事ではない事に奔走することになる。

 はるか未来、地球以外の星へ人類が到達した後の話。
AIとペアになり、新しい星の新規開拓コンペに参加したと思っていた零司は、相次いでやってくる襲撃者にとまどい、やがて知らされる事実に愕然とする。
崩壊する地球からすんでのところで抜け出し、200年もの間冷凍睡眠で放浪していたという零司の行動が、そして彼の作り出したAIが、人類の行く先を決めるという大ごとにまで発展し、途方もない行く末を想像させる。
オープニングの、各コンペ参加者の様子を綴ったプロローグを読んだ時点では、つまらないと感じて一度本を閉じたが、暇に飽かせて続きを読んでみて良かった。
つかみは失敗だが本編はとても面白かった。

皇后の碧


 精霊たちが生きる世界。
鳥の精霊の王に拾われた、土の精霊の子・ナオミ。
羽は持たないが不自由はなく暮らしていたナオミはある時、風の精霊を統べる蜻蛉の精霊の皇帝から「私の寵姫の座を狙ってみないか?」と誘われる。
皇帝の後宮には皇后と愛妾(つま)がおり、彼の胸には皇后の瞳の色に似ている緑の宝石を選び抜いた首飾り「皇后の碧(みどり)」が常に輝いていた。
ナオミはなぜ自分に声がかかったのか訝りながらも、かつて鳥の王の妻であり、皇帝に召し出されたイリス皇后の様子を探りに、後宮へと向かう。

 八咫烏シリーズとはかなり印象が変わるファンタジー。
皇帝の横暴におびえる日々から、後宮の内部を見て回るうちに気づく事、立場によって見え方がこんなに変わるのかと驚く。
そのうえ鳥と虫との性質の違いがもたらす考え方の違いも大きい。
皇帝の秘密は大きかったが、イリスの秘密でもあり、納得させられる。

図書館の魔女 霆ける塔


 一ノ谷にある知恵の塔の主・マツリカが攫われた。
宿敵ミツクビの罠にかかり、閉ざされた山城で彼女が淹れられたのは、夜ごと雷の降り注ぐ不可思議な塔だった。
一方、ハルカゼ、キリン、そしてキリヒトを中心にマツリカを救い出そうとする一行が旅立つ。
マツリカがいる場所の検討もつかずに途方に暮れる一行だが、わずかな手がかりからたどり着けるのか。

 マツリカが攫われた先は、地図にも載ってない砦。
そして毎夜の雷と凍った湖、雪あかりで近づくものはすぐさま見つかってしまうという場所。
いつもはマツリカがその知恵を振るい、難題を解きあがしていくが、今回はハルカゼが大活躍だった。
ほぼハルカゼの知恵のみで切り抜ける後半は、息をつく暇もない。
そしてマツリカは救出を信じ、しっかり手を打っていた。
今回はわかりやすくハラハラした。