ゾウに魅かれた容疑者 警視庁いきもの係


 警視庁「いきもの係」のオアシス、田丸弘子が、定時連絡を絶ち、行方不明となった。
嫌な予感がした須藤は、弘子の自宅を捜索し、あまりにもきれいに片付いていることを不審に思う。そして、不自然な動物園のチケットを見つけた。
動物とくれば薄。
さっそく相談し、どうやら海外に連れ出されたとわかった須藤は、あらゆる伝手を使って薄と共に弘子を救い出すことを誓う。
偽造パスポートまで用意し拉致されたのは、ラオスだった。

 身内の一大事、長編となった今作は、読みごたえも充分。
薄は相変わらずの頓珍漢な受け答えで話の腰を折りまくり、本題を忘れそうになるが、ツッコむ須藤ももう慣れたもので、薄に流されながらも見失わない。
ダジャレも、おじさんが言えばただうすら寒いだけなのに、薄が言っておじさんがつっこむ構図は和やかにさえ見える。
海外の大きな密漁・密輸ルートで命の危険もあったりと、薄の生存力の高さと須藤の勘が存分に発揮されていて楽しかった。

暮鐘 東京湾臨海署安積班


 「安積班シリーズ」短編集。
江東区有明で発生した強盗事件は、被害者が病院で死亡し、本格的な操作が開始された。するとそこへ、犯人は自分だと男が出頭してきた。
あっさり解決かとほっとした雰囲気が漂う中、ひとり須田だけはもやもやとした違和感を抱えていた。
 飲み屋で偶然出会った鑑識のベテランと推理競争をしたり、速水のチームの連携を見せつけられたり、署内の人間の複雑でバラエティーに富んだ考えが飛び交う。

 短い話の中で、安積班のメンバーの個性がよくわかる。
それぞれの視点を大事に拾い上げ、日々起こる事件の様子が日常として描かれている。
速水や相楽との絡み、チーム内での考え方の違いなど、署内をいろんな角度から見ているよう。
でも安積を買っている人たちが綴る賞賛は、そこまで納得できる出来事がなかったようでしっくりこない。

准教授・高槻彰良の推察5 生者は語り死者は踊る


 大学で百物語をやるという企画が持ち上がる。
夜通しのイベントなので学生だけでは許可が下りず、民俗学の准教授である高槻に監督してほしいと依頼される。
100話目の妹を亡くした男子学生の話のあと、暗闇となった香以上に「おにいちゃん」という声が聞こえ、皆は驚き恐れるが、高槻は一人、白けた顔をしていた。
 そして夏休みになると、深町と高槻と佐々倉の3人は、深町の故郷へと向かう。
そこで行われていた「死者の祭り」を確かめに。

 百物語はいつものように高槻が見抜き、先生らしくしっかり教えを説いて頼もしくもあり、以前読んだ圓朝の話も出てきて興味深かったが、青い提灯の祭りから生還する場面は、ドラマの方が納得できるストーリーだった。
不思議な生き物である沙絵の力が大きく働いていたが、現実の問題として今までの怪異を解き明かしてきたこのシリーズにはかえって不自然に感じた。
ドラマのように、伝説や逸話の教訓をもとにしてひとつづつ解決していく方が高槻らしい気がする。

棟居刑事の恋人たちの聖地


 便利屋・山名泉は、病床の老人から、渋谷のカフェ『恋人たちの聖地』で未来の薬を受け取ってきてほしいという依頼を受ける。
不思議な体験をした山名だが、そこで出会った一人の女性に心を奪われてしまう。
するとある日、その女性からいきなり連絡が入り、「兄を助けてほしい」と言われる。

 半分がすぎるまで、棟居刑事が出てこない。
不思議なカフェが窓口のタイムトラベルもので、刑事事件の話じゃないのかと不審に思ってしまうくらい。
そしてその事件はおおむねタイムトラベルの話で終わるため、臨場感も感情移入もなく、盛り上がりもなかった。

悪魔を殺した男


 「逆さ五芒星」を残した連続殺人犯の阿久津は、一人隔離された病室にいた。
面会にやってくるのは、かつての相棒・天海。
阿久津の能力を使って事件を解決してきた天海だが、それを利用しようとする者が現れた。
阿久津は、その巧妙な心理戦に勝てるのか。

 触れた物の記憶を読み取れるという阿久津を信じる天海は、どんなに隠しているつもりでも阿久津への気持ちを回りに悟らせていたために利用される。
発覚していない犯罪を裁くために人を殺してきたために「悪魔」と呼ばれた阿久津をも罠にはめようとするもう一人の「悪魔」の様子は、姿が見えない気味悪さが最後まであって気が抜けないが、いろんなところに手を出して散らばりすぎた感じがする。
誰もが関係者となってしまった時にはこじつけが過ぎる気がした。

犬用セーター


使用糸:パピー ブリテッシュエロイカ (134) 12号棒針 152 g
    毛糸ZAKKAストアーズ Sucre(05)(06) 10号棒針 35g
参考編み図:イヌのための毎日ニット 愛犬のあったかウェア&小物を手編みで


使用糸:元廣 アクリル並太(10)(12)(13)(29)12号棒針 各94g、99g、83g
参考編み図:透かし編みのわんこ服

ボーンヤードは語らない


 U国の空軍基地から、兵士の変死体が発見される。
サソリに刺され、転落死したように見せられていたが、実はまた別の犯罪を隠蔽しようという目論見が隠されていた。
少佐のジョンは、刑事マリアとその部下である漣に、非公式に操作を依頼する。
 さらに、彼らがなぜ警察官になったのか。お互いに抱く疑問に答えるように、マリアと漣の過去も語られる。

 息が合っているのかわからないような二人の過去が、それぞれ明かされた。
マリアは昔から人と違った観察眼を持っているし、漣はその冷静さから俯瞰した着眼点から事件を見渡せる。
二人の特徴がよく出た短編集となっていた。

追憶の烏 八咫烏シリーズ


 奈月彦と、浜木綿、そして愛らしい紫苑の宮との幸せなひと時。
そして雪哉は外界への遊学へ行き、何もかもが違う世界に一生懸命だった。
それが、一変する。

 シリーズが進むにつれて、毎回予想を裏切られる。
それも大きなショックを伴って。
今度も、雪哉の視野が広がった分、崩れたものも大きかった。
好きなシリーズで好きな登場人物もたくさんいるのに、愛着や執着を感じている者から切り捨てられるようで、苦しくて仕方がない。
美しい余韻を残した第1作目との落差が大きすぎるが、次に何を見させられるのかと興味も尽きない。
頭がついていかない程のスピードだった。

欺瞞の殺意


 無実にもかかわらず、自白して「殺人犯」として服役していた元弁護士の治重。
自白と反省、そして協力的なその態度から、治重は無期懲役を言い渡された。
それから40年以上たち、仮釈放された治重は、事件関係者でまだ存命していた澄子へ長い手紙を送る。
「わたしは犯人ではありません。あなたはそれを知っているはずです。」

 舞台、話の構成から、かなり昔に書かれたものかと思ってしまうような雰囲気だが、2020年のもの。
関係者数人だけの、事件の日の推理だけで話が進むため、閉塞感があり、時間が止まったよう。
そのなかで登場人物を駒のように動かしながら様々考えることで、じっくり話に入り込める。
入り組んだ謀略にはなるほどと思わせるが、結末はおおよその予想通り。