あの日、タワマンで君と


 就職活動を途中でやめ、配達員をしていた山下創一。
ある日、高級レストランから料理を届ける仕事が入った。
依頼人は六本木でもっとも高いタワーマンションの最上階に住む多和田という男で、到着すると強引に部屋に上がらされる。
そこから、創一の生活は一変する。
いつしか多和田の部屋に入り浸るようになり、さらにエスカレートしていく。

 最初から不穏な雰囲気が漂うが、それはずっとついて回る。
享楽的な生活、金にものを言わせ、他人を操り、やがて綻びが広がっていくという一通りの流れが違わず起こる。
どの部分も不快でしょうがなかった。

れんげ野原のまんなかで


 秋庭市のはずれにある、ススキ野原のど真ん中に建つ図書館へ配属された新人司書の文子。
利用者が少ないため暇なのだが、ある時から小学生の肝試しの場所になってしまったり、本を並べて暗号を作る者が現れたり、大雪の日に図書館に閉じ込められそうになったりと事件は絶えない。
しかし、博識な先輩の力を借りてどうにか解決していく文子。
小さな図書館の、それでも忙しい日々。

 尊敬している先輩・能勢の言動は、とても優しく深い考えがあってこそで、毎回感心するが、新人司書の文子の言動は子供っぽすぎて共感が沸かない。
図書館へ家出しようとか、大きくてきれいな本を読む楽しみとか、いい話も多い。
最後、子供の頃の傷を背負って生きている人物に対しては厳しい能勢だったが、その後の行動は「なるほど!」と思わせた。
地主さんの家で起こった出来事など、面白くて納得できる印象に残るシーンは多いのに、主人公の文子の魅力だけがイマイチだった。

虚池空白の自由律な事件簿


 自由律俳句の伝道師といわれる俳人・虚池空白と、編集者の古戸馬。
2人は落書きや看板など、街の中で見かける詠み人知らずの名句〈野良句〉として集めていた。
行きつけのバーの紙ナプキンに書かれた文字、急逝した作家が一筆箋に残した遺言めいた言葉、夜の動物園のキリンの写真と共にSNSに投稿された言葉など、偶然見かけた言葉から、それらの背景を推察する。

 誰が残したメモなのか、どんな意味があるのかを推理していく二人。
時にそれが犯罪めいた出来事まで見つけ出してしまう。
でももともとの「自由律俳句」になじみがないせいか、なんだかしっくりこない。
ただの日常の謎なのに、わざわざわかりにくい言葉を使って煙に巻かれている感じがずっとあった。

クリムゾン・リバー


 山間の大学町周辺で次々に発見される惨殺死体は、両目をえぐられ、ひどい拷問を受けていた。
その頃、別の街では墓あらしや小学校への侵入事件があったが、何も取られていなかった。
それぞれの事件を追うベテラン刑事と若手警察官。
しかしその事件がつながるとき、何十年も続く恐るべき計画が明らかになる。

 一つは想像するだけで全身が緊張するような恐ろしい拷問を受けた死体。
一つは何も盗られていない侵入事件。
両極端な出来事が少しづつ繋がる様子が、発見と驚きと恐怖で目が離せない。
そして思いもよらない結末へとつながり、驚きでいっぱいになる。
種の選別ともいえる大掛かりな実験と、主人公の行く末が気になってしょうがなくなる。

三人書房


 作家となる前の江戸川乱歩が、兄弟で営んでいた古本屋。
そこへ持ち込まれるのは、松井須磨子の遺書らしいと言われる手紙や、浮世絵の贋作の噂など様々。
同じ時代を生きた宮沢賢治や高村幸太郎などとの交友と、不可解な事件に興味を持つ若き日の乱歩。

 第18回ミステリーズ!新人賞受賞作。
乱歩が興味を持つのは、不可解な事件。
それを、知人を通して現地をみにいったりして謎を解いていくのだが、三兄弟の個性は特徴的なのになぜか区別がつきにくい。
古本屋をやっていたわずか二年の間の出来事とあって儚いイメージがあり、乱歩が独自に調査して製本し、こっそり値札をつけてやなに並べていた本というのが興味を引くが、それについては関連してこなかったのが残念。
読みにくかった。

女たちの江戸開城


 慶応四年、鳥羽伏見の戦いに敗れた十五代将軍徳川慶喜が江戸へ逃げ帰って来た。
江戸へ向かって官軍が進発しようとしている中、慶喜の弱腰を非難する者もいたが、慶喜は江戸を戦場にしたくないと言い、自ら蟄居する。
そこへ、慶喜から朝廷との仲立ちを頼まれた皇女和宮の密命を受けた大奥上臈・土御門藤子が、京都へ向け命がけの旅をすることになった。

 藤子が持つ和宮の親書を、京都の帝へ。なんとしても。
人がたくさん死んでいく戦をなんとかして止めるため、そして和宮を京都へ戻すため、藤子は急ぐ。
その旅の中で護衛としてついてきた者たちとの絆も生まれるが、死んでいく者もいた。
怖い思いを何度もしながら、大奥で地位のある立場だった藤子がやり遂げるのは2度の旅だったのだが、話は旅のことだけだった。
江戸開城というタイトルなのに、城のことも大奥のこともほとんどなく、ただ急いだ命がけの旅のことばかり。
藤子と仙田のことは気になるが、タイトルとの違和感が大きかった。