広域警察 極秘捜査班 BUG


 10年間、航空機墜落事故の犯人として死刑囚となっていた16歳のハッカー・水城陸。
その能力のため、死刑執行直前に救い出され、命と引き換えに名前と経歴を変えて警察の極秘捜査班に加えられる。
しかしそこは監視され、一人で外出さえできない捜査機関だった。
陸は、いつか人生を取り戻すと決め、その機会をうかがっていた。

 すべてが監視されている環境で次に取り掛かった事件が、10年前の事件で死亡したと思われていた人物だったことで、陸は希望を見出す。
仕事仲間も皆何かを隠している環境で、自分をはめた者たちをあぶりだそうと必死で考える様子が伝わってくる。
謀略に関しては何枚も上で、頭が切れる大人に戦いを挑む様子は無茶に思えたが、情報が集まってくると形勢が変わっていくため次の展開に興味が沸いていき、どんどん目が離せなくなる。
国が発行する公式な通貨が仮想通貨になる時代も本当にやってきそう。

老虎残夢


 第67回 江戸川乱歩賞受賞作。
師父から、奥義はこれから集める3人の中から選ぶと伝えられ、唯一の弟子である紫苑は戸惑う。
そして集められた師父の知己たち。
しかし再会の宴の後、湖の孤島に立つ楼閣へ戻っていった師父は、毒を盛られ、腹を刺された状態で死んでいるのが発見される。
孤児だった紫苑を拾って技を仕込み、血のつながらない少女を娘として育てた武術の達人の死が殺人なら、仇を撃たなければならない。

 集められた者たちとのやり取りの中で紫苑が考える疑問や可能性は、専門知識を持たなくてもたどり着ける理論でわかりやすい。
そして雪で閉ざされた孤島で起こる事件として密室殺人は王道なのに、特殊な武術のせいで大きく雰囲気を変えている。
最後には師父の執念が強く立ち込めてきて怖くもなるが、後を引く不快さはなく、ずっしりと長い冒険をした気分になって終わる。

プルオーバー


使用糸:ハマナカ Pure Merino 合太 (1)(6)(14)(17)
参考編み図:毛糸だま P88 michiyoの4Size knitting の模様を使用
使用針:5号針 4号針 363g

亀と観覧車


ホテルの清掃員として働く涼子は16歳。
夜間高校に通い、怪我で失業中の父と、鬱病と言いながら毎日パチンコに通う母がいて、生活保護を受けている。
ある日、クラスメイトに誘われて「クラブ」へと出かけた涼子は、小説家だという初老の男性・南馬に出会う。

 南馬との出会いが、涼子の生活を変えていく。
父と母にうんざりしながらも放っておけず、こまごまと面倒を見る涼子の世界の狭さに驚き、ただのスケベ爺だと疑っていた南馬への見方も変わる。
面白がって受け入れてくれた南馬が逝き、両親の時は冷静だった涼子がどうするのか不安に思うところで終わるため、想像が膨らむばかり。

めぐり逢いサンドイッチ


 靭公園にある『ピクニック・バスケット』はサンドイッチ店
笹子と蕗子の姉妹でやっている小さな店だが、常連もいて毎日楽しい。
やってくるお客さんの中には悩みを抱えた人もいて、タマゴサンドが嫌いだという人には故郷のタマゴサンドを、コロッケが憎いという人にはサンドイッチにしておいしく、店主の笹子がふんわりとパンにつつんでくれる。

 ほんわかした笹子の雰囲気が心地よい店となっている。
どんな人も優しく見つめている感じがするが、穏やかゆえに印象も薄い。

圓朝語り


 ふと見かけた落語に感動し、侍の株を売ってまで弟子入りしたいと押しかけてきた蔓草に戸惑い迷う圓朝。
そんな折、大川のほとりで、蕎麦屋の娘が絞殺される。
お吉というその娘は、圓朝がよく通う店で愛想よく客をあしらう、人気ものだった。
下手人はわからないまま時がたつが、どうしても気になる圓朝は、個人的に調べようと思い立つ。

 師匠に嫉妬され意地悪をされても「悩んで芸の肥やしに」と言っていた圓朝。
その師匠が死んだあとの彼の芸は、悩み多きものだったようだ。
お吉を殺めた犯人を推理し、話を聞きに回っては徒労に終わるという日々の中で、あちこちから聞いた幽霊話や呪い、悋気で身を持ち崩す者たちのことを取り入れて新しい話を作ろうと苦悩する。
圓朝を語るうえで欠かせない「牡丹灯篭」、一度聞いてみたい。

噂を売る男 藤岡屋由蔵


 神田旅籠町、足袋屋の軒下にむしろを引いて古本を売る男。
その男・吉蔵が売っていたのは、裏が取れた噂や風聞といった事実。
人によっては使い道があり、またどう使うかは買ったものの自由という吉蔵のところには、時には侍や町年寄の隠居、果ては藩の関係者と、様々なものが顔を出すようになっていた。
そこでつかんだ噂がやがて、日の本を揺るがす大事件とつながっていく。

 町の噂を売る男。
きっちり裏を取るやり方で信用を得ていた吉蔵だが、危ない奴らも呼び寄せていたために起こった事件。
手下が命を落としてしまうという、どうしても許せない一件を追ううちにわかる事の大きさに驚くが、興味も沸く。
急がず、自棄にならず、じっくり詰めていく話の進め方が、頼もしい力に後押しされているようで落ち着いていられた。
さらに史実での顛末を知っているために、事件の大きさより吉蔵の気持ちに想像を働かせることができた。