からくりがたり


 高校三年の冬に自殺した兄が残した日記には、教師や妹の同級生、喫茶店のウエイトレスたちとの、恋愛遊戯が事細かに綴られていた。
それは事実も交ざっていたが、およそ兄とはかけ離れた人格で、やがて妹は疑念を抱く。
さらにその日記に登場した女性たちを訪ね歩くうち、彼女たちは次々と事故や事件で死亡していることを知る。
市内で毎年年末に起こる殺人事件と、時々現れ語り掛ける正体不明の男とは。

 女友達のやや行き過ぎたはしゃぎっぷりと、自殺した兄の暗くこごった欲望の沈みっぷりが対照的。
でも全体的に下品で、そのうち気持ち悪くなってきたうえ、最後まで混沌とした物語だった。
ホラーのような雰囲気もあって、不気味さが残る。

剣持麗子のワンナイト推理


 亡くなった町弁のクライアントの仕事を引き継いでいたら、次々に舞い込む厄介で金にならない仕事。
ある日、「武田信玄」と名乗り、住所も本名も言わない男に呼び出される。
どう見てもホストだが、不動産会社の事務所に侵入したら、死体があったらしい。
他に、認知症のおばあさんを家まで送ったら、男が首をつっていたり、やたらと死体と出会う夜に、通常の仕事のために麗子は夜明けまでに解決しようと奮闘する。

ドラマに使われていた話もあり、イメージがしやすかった。
人懐っこいが胡散臭い刑事の橘にもいいように使われているような気もしながら、武田信玄と名乗っていた黒丑をアルバイトとして雇うことになったりして麗子のお人好しな面がたくさん出ていた。
最後の話は、黒丑の父親も出てきたたため時系列が混乱した。

犬は知っている


ゴールデンレトリバーのピーボは、警察病院のファシリティドッグだ。
小児病棟に常勤して患者の治療計画にも介入し、入院している子供たちの心を癒している。
だが、彼にはもう一つ大事な仕事があった。
特別病棟に入院する受刑者と接し、彼らから事件の秘密や真犯人の情報などを聞き出すことだ。
死を前にした犯罪者たちが語る本音を、今日もピーボは静かに聞いている。

 手術を怖がる子供に付き添って手術室の前まで行ったりする傍ら、凶悪犯と向き合うピーボ。
他に人間のいない部屋で彼らが語る事件の真実を聞き出す特殊な任務だが、その仕事に矜持を持っているような姿も見せ、なんとも頼もしい。
やがてハンドラーの笠門巡査部長の傷まで癒し、また次の子供たちの元へと行く。
ファシリティドッグという彼らの仕事が本当にあるものだと初めて知った。

藍色ちくちく-魔女の菱刺し工房


 菱刺しの工房をやっているより子先生と出会ってから、憂鬱から抜け出せなかった綾の生活はがらりと変わる。
なぜかついてくる賢吾と共に工房へ通うようになり、そこで出会う人たちとの交流で目標を見つける。
母の認知症に悩む女性や、より子の孫で引きこもりの亮平など

、菱刺しを通してつながる人々。

 いろんな悩みを抱えた人たちが、どんな経緯でここに来ることになったのか、一人ひとりの背景を取り上げている。
菱刺しの歴史や模様の意味などもところどころで詳しく描かれ、知らなくても充分に楽しめ、興味を持てた。
実物を見てみたい。

競争の番人 内偵の王子


九州事務所への転勤となった白熊楓。
昔からいる人たちの結束が強い場所で、なかなか話をしてもらえず、パワハラ気味の上司と敵意むき出しの同僚、そして人当たりが良く誰に対しても優しいが自由な上司に疲れ切っていた白熊。
呉服業界のカルテルを探るうち、巨大なカルテルに行きつく。
本部のメンバーもやってきて、それぞれ別口の摘発に動くうち、地元の暴力団も絡むと知る。

 九州へやってきた白熊は、知り合いもなく、同僚ともなじめず、疎外感を感じていたが、本部の仲間がやってきてからは調子を取り戻す。
白熊と小勝負の関係も変わらずで安心する。
そして解決を見る頃には、また白熊は地元の大きな力によって戻されることになる。
普段は知ることのない仕事と、地域の権力者、個性的な登場人物の多さで全く飽きない。

屍人荘の殺人


 神紅大学ミステリ愛好会会長の明智と助手の葉村は、映画研究部の夏合宿に強引についていく計画を立てていた。
その合宿はなにやら曰くがありそうで、直前になって脅迫状が届いたため、多数のキャンセルが出たという。
一緒に参加してほしいと頼まれた同じ大学に通う探偵少女、剣崎比留子と共にペンションへ向かった明智と葉村だが、そこで予想もしない出来事に巻き込まれ、宿泊先のペンションに立てこもりを余儀なくされる。
果たして生き残れるのか!

 第27回鮎川哲也賞受賞作。
王道のミステリという感じのタイトルに、夏のペンションに閉じ込められるクローズドサークル。
そして次々と起こる殺人という、まさしく王道。
だけど襲ってくるのは人だけではなかった。
王道の中にちょっとおかしな点も入れ込んで、ダジャレまで混ざりこむのでギャグホラーの様子もあるが、最後はやっぱり王道の動機を持った犯人。
読みやすくてしっかり作りこんであった。
あれ、明智は?という肩透かしもあったりして、なんだか怖い思いはあまりしなかった。

アミュレット・ホテル


 このホテルには、本館と別館がある。
駐車場も通路も分けられた別館には、特別な会員しか宿泊どころか立ち入ることもできない。
そこは、二つのルールさえ守ればなんでも揃い、警察も介入しない犯罪者だけが使うことができるホテルだった。
しかしそこで、殺人事件が起こる。このホテル専属の探偵である桐生は、独自に調査を進め、犯人には相応の対価を支払わせる。
つまり、命を奪った者にはその命で、犯行方法と同じ方法で。

 犯罪者の集まるホテルでおこる、犯罪。
それを調査して推理し、犯人を特定して処分を下す。
犯罪者が集まるだけあって、その手口は普通ではない。
それらが解き明かされる過程は面白く、また読みやすいので重苦しい雰囲気もなく読める。
ホテルの存続にかかわるような事件も起こり、桐生も命を懸ける推理をする。