あの魔女を殺せ


 グロテスクだけどなぜか惹きつけられるという生人形をつくるという三姉妹。
その新作のお披露目に招かれたフリーライター・麻生真哉は、愛娘と共に群馬の山中にある館に向かう。
ところが発表の夜、姉妹の長女が部屋で丸焦げになって発見される。そばには同じように焼かれた人形が落ちており、部屋は密室となっていた。
孤立状態のまま、参加者たちは館を捜索するが、姉妹は次々と殺されてしまう。
魔術を受け継ぐ一族の、おぞましい欲望から生まれた悲劇。

 愛する妻を失ってから、娘と共に倹しく生きてきた麻生。
しかし仕事のため、怪しい噂のある姉妹に近づいたことで起こる悲劇が、想像を絶する。
三姉妹の事件だけではない件も含め、ゾッとする場面が多くて恐ろしかった。
ただの殺人事件で終わらない怖さが残る。

たかが殺人じゃないか (昭和24年の推理小説)


昭和24年、敗戦した日本に進駐軍が推し進めた改革で男女共学の新制高校3年生になった勝利少年。
推理研と映画研の二つの部合同で行われた修学旅行替わりに一泊で湯谷温泉に行くことになった。
楽しんでいた部員たちだが、そこで一つの殺人事件に遭遇してしまう。
さらに夏休みの間にもう一つの事件とも出くわし、勝利は推理小説家を目指す身として事件に挑む。

 『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』に続くとあったので、同じ少年が主人公かと思ったら、彼は成長していた。
そして今度は絵描き兼探偵として、事件を解決へと導いていく。
前半は一兵が出てこないので、全く別の話かと思っていた。
しかし、まだまだ未熟な勝利少年の助けとして呼ばれた一兵が、落ち着いた青年として現れ、ゆっくりと皆を納得させていく様子は別人のようだった。
さらに、今回の殺人も背景には悲しい過去が隠されていて、やり切れない気持ちで終わるため、スッキリ解決したわりには切ない気分が残る。

襷がけの二人


 親が定めた縁談で、製缶工場を営む山田家に嫁ぐことになった十九歳の千代。
女中が二人いる裕福な家庭で千代は、若奥様となった。
無口な夫とはいい関係を築けなかったが、元芸者の女中頭・初衣、そして朗らかな芳との関係は良好で、三人は姉妹のように仲良くなった。
やがて芳は嫁に行き、初衣とは戦火によって離れ離れになってしまう。
しばらくは暗く、必死で生きていた千代だが、ひそかに憧れていた初衣と、また会えることになる。

 生きているのかもわからない相手と、また巡り合えた時の喜びが、冒頭にある。
そこに至るまでの日々を辿っていきながら、千代の思いにふれるたび初衣との日々がどれほど楽しい時間だったのかが分かってきて嬉しくなる。
そして戦争が起こり、悲惨な日々の千代は苦しくなるが、それでも最後に巡り合える日を知っているのでむやみに辛くならずに済んだ。
長さのわりに読みやすく、千代の気持ちが素直に入ってくる。

書架の探偵、貸出中


 推理作家E・A・スミスの複生体(リクローン)のE・A・スミスは、図書館間相互貸借の制度によって、海沿いの村の図書館に送られた。
そこで母親と暮らしている13歳の少女チャンドラに借り出された彼は、何年も前に姿を消した彼女の父親探しを頼まれる。
解剖学教授の父親は革装の本を残しており、その本には極寒の氷穴がある“死体の島”の地図がはさまれていた。
そしてチャンドラからは、また別の依頼を受けてしまう。

 ウルフの未完の遺作。
スミスと同じように図書館の蔵者として作られた者たちと共に、地図に書かれた場所を探す。
いくつかの謎を解いて帰ってきたスミスは、次にチャンドラの依頼である家の幽霊を探り始める頃には、章の間のつながりが亡くなってきて、まだ未完である所以を感じることができる。
扉の向こうが異世界とつながっているという、前作と同じ展開が出てきたときは少しがっかりした。
それでも前作はうまく断絶させる方法をとっていたことを思うと、今回はどんな手段ができただろうかと想像することは楽しい。

深夜の博覧会 (昭和12年の探偵小説)


 昭和12年、銀座で似顔絵を描きながら漫画家になる夢を追いかける那珂一兵。
彼のところへ、帝国新報の女性記者・瑠璃子が開催中の名古屋汎太平洋平和博覧会の取材に同行して挿絵を描いてほしいと訪ねてきた。
名古屋へ向かった二人だが、銀座で名古屋にいた女性の切断された足が見つかったというニュースが入り、それが一兵が好意を寄せている少女の姉だとわかる。
一兵は、似顔絵描きで培った観察眼で事件を推理する。

 どうやら続き物だったようで、ところどころ一兵がこれまで手掛けた推理の話が出てくるが、今回の事件については全く問題なく読めた。
男女それぞれの嫉妬が起こした事件でもあって、彼らの性質が事件の起こし方に大きく関係していて恐ろしかった。
殺された杏への残酷さも辛いが、彼女のために一生をかけた犯人の執念も恐ろしい。
しかし生きている者に対する願いもあって、ただ憎むだけでは終わらないため、最後は一兵の切ない思いだけが残った。

書架の探偵


 図書館の書架に住むE・A・スミス。
彼は、推理作家E・A・スミスの複生体(リクローン)であり、生前のスミスの脳をスキャンし、その記憶や感情を備えて、図書館に収蔵されている。
その彼を貸し出したのは、コレットという女性。
亡くなった父が残した本に、隠された秘密があるので解明してほしいというのだ。その本は、本物のスミスが書いた推理小説だった。

 貸し出されたスミスは、コレットと共に調査を始める。
しかしすぐに謎の男たちに襲われたり、逃げた先でもコレットが行方不明になったりと困難は続く。
クローンが図書館で貸し出されていることや、コレットを探している最中で出会う夫婦が個性的だったり、自動運転の空飛ぶ車があったりと、おもしろい設定がいっぱいでとても楽しかった。
正体不明の追っ手から逃げながらスミスは次第に真実を探り当てていくが、思いもよらない出来事が積み重なって少しも予想ができなかった。

博物館の少女 怪異研究事始め


 明治16年、身内を相次いで亡くした大阪の古物商の娘・花岡イカルは、遠い親戚を頼り東京へやってきた。
そこで出会った少し年上のトヨと仲良くなり、彼女と訪れた博物館で館長に目利きの才を認められ、博物館の古蔵で怪異の研究をしている織田賢司(= 通称トノサマ)の手伝いをすることになる。
トノサマの指示で蔵の整理を始めたイカルは、帳簿と収納品の称号が合わないことに気づく。
紛失したのは黒手匣というものだった。

 目利きを見込まれたイカル。
だがその目利きから、横流しされた品を街で見つけてしまい、事件に巻き込まれてしまう。
だがトノサマの家の使用人であるアキラに助けてもらいながら、事件を追うイカルの言動が勇敢で頼もしい。
ヒトが起こした盗難事件と、不思議なままの出来事が上手く重なり合い、最後はほんわかした気分で読み終えた。