親が定めた縁談で、製缶工場を営む山田家に嫁ぐことになった十九歳の千代。
女中が二人いる裕福な家庭で千代は、若奥様となった。
無口な夫とはいい関係を築けなかったが、元芸者の女中頭・初衣、そして朗らかな芳との関係は良好で、三人は姉妹のように仲良くなった。
やがて芳は嫁に行き、初衣とは戦火によって離れ離れになってしまう。
しばらくは暗く、必死で生きていた千代だが、ひそかに憧れていた初衣と、また会えることになる。
生きているのかもわからない相手と、また巡り合えた時の喜びが、冒頭にある。
そこに至るまでの日々を辿っていきながら、千代の思いにふれるたび初衣との日々がどれほど楽しい時間だったのかが分かってきて嬉しくなる。
そして戦争が起こり、悲惨な日々の千代は苦しくなるが、それでも最後に巡り合える日を知っているのでむやみに辛くならずに済んだ。
長さのわりに読みやすく、千代の気持ちが素直に入ってくる。
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