カレーの時間


 25歳の誕生日、うちで誕生日を祝ってくれるはずだった。
しかしそこに突然現れた祖父のおかげで一転して重い雰囲気となる。
そしてなぜか、年寄を一人にしておくのは危ないからと、僕・桐矢が同居することになってしまった。
ゴミ屋敷を片付けることから始まった同居は、苦手だと思っていた祖父の生きてきた歴史を知ることであり、家族の歴史を知る事であった。

 頑固で口うるさく文句ばかりの祖父に、最初はうんざりしていた桐矢だが、祖父がなぜそんな風になっていったのかを知っていくうちに考えが変わる。
男だから、男のくせに、男らしくと育ってきた祖父が、女ばかり生んだ祖母をどう思っていたのか。
母達との確執が解ける日が来るのか。
桐矢と祖父の両方の心の内を覗いているうちに、幸せの時間だったカレーを囲んでお互いの価値観がぶつかる。
世代が変わるとこうも考え方が違うのかと思いながら読んだ。

さまよえる古道具屋の物語


 ある日ふと気づく、いつからあったのかわからないけど古ぼけた佇まいの古道具屋。
そこを見つけたら入ってみたくなり、そして何かを買わされる。
人生の岐路に立った人たちが、絶望や苦悩を抱えた人ならば入ることができる店。
買わされたのは、絵がさかさまになった絵本、そこが抜けたポケットがついているエプロン、取っ手のないバケツ、穴がない貯金箱。
それらを買って、いいことがある人もいれば、堕落していく人もいた。
そして彼らはどこかでつながっていることが分かり始め、不思議な店は彼らにしか意味がないのだと気づく。

 時空を超えて現れる古道具屋が、客の好みも意見も聞かず商品を売る。
あなたに今必要なものだからと言われて困惑する人たち。
いい話で始まったからほっこりして読み進めると、ひどい話も出てくるので油断はできない。
繋がっているけど時間はまちまちなので、人物の関係図がどうなっているのか混乱した。

魔法使いと副店長


 買ったばかりの新居に妻と息子を残して単身赴任中の四十路男・藤沢太郎。
スーパーマーケットの副店長として日々頑張っているが、そんなある日、窓を破って一人の少女が押しかけてきた。
一緒にやってきたモモンガに似た小動物は目付け役だと話し出し、太郎は困惑する。
一人暮らしの男の部屋に、どう見ても10歳くらいの女の子が急に出入りしたら警察沙汰になる。
慌てる太郎に少女はなんと、自分は魔法使いの見習いだと話し出す。

 見た目よりも言動が幼い少女はアリス。
人間界に修行に来たという話はどう考えても胡散臭いが、ドタバタな日々で考える暇もなく、友達を作ったり公園で飛ぶ練習をしてみたりと振り回される。
ファンタジーというには現実っぽく、ライトノベルというにもなんだか社会人生活のしんどさもしっかりあって、ねじくれ家族小説というだけあってよくわからない。
少女の成長物語という感じで読めば単純に楽しめる。

箱庭の巡礼者たち


 洪水でがれきだらけになった街の片隅で見つけた黒い箱。
それは箱庭だった。しかも生きている。その秘密を知る人たちとのぞき込むうち、彼らは箱庭の中に入っていってしまう。
そこでは王がいて、竜や吸血鬼もいた。英雄が生まれ、銀の時計で世界を移動したり、不思議な発明をする人、意思を持った機械人形、挙句の果てには不老不死の薬と、あらゆる異世界があった。

 一つ一つは現実なのに、合わさるとすべてがどこかの箱庭で誰かに観察されているという、入れ子のような世界。
どこと誰がつながっているのかを考えながら、それぞれに楽しい世界が広がる。
最後は壮大な話になり、広がっていく宇宙のような余韻で終わる。
でもちょっと大きすぎてうさん臭く感じてしまった。

サイチカさんのベレー帽&ハンドウォーマー


使用糸:元廣 毛混並太 (501)、パピークイーンアニー(986)、パピープリンセスアニー(532)、パピーシェットランド(43)
編み図:NHKすてきにハンドメイド 2020年 11 月号 サイチカ ベレー帽&ハンドウォーマー
使用針:4号棒針、5号棒針 80g~100g

黒猫と語らう四人のイリュージョニスト


 一月前に大学に長期の休暇願を出してから、黒猫は一切の連絡を絶った。
学部長の唐草教授から、探してほしいと頼まれた付き人は、失踪前に研究室を訪ねてきた4人に、話を聞くことにした。
黒猫はなぜ姿を消し、ずっと連絡が取れないのか。
なぜその4人と会っていたのか。
付き人もこの先を考えなければいけない時が来ていた。

 久しぶりの黒猫シリーズでわくわくしていたが、なにやら不穏な気配。
黒猫は相変わらず美学を語るが、なぜか探偵のように4人の人物の影を明らかにしてしまう。
こんな風に追い詰める人ではなかった気がしていた。
いつもと違う雰囲気だったのに、結末は全く予感も予想もしなかったから衝撃が大きかった。
これで終わり?ちょっと辛すぎる。

誘拐屋のエチケット


 炎上やスキャンダル、またはほとぼりを覚ますためにや危険から身を守るため、誘拐屋と呼ばれる闇の職業の者が対象を誘拐し、運びます。
一人で仕事をこなしていた腕利きの誘拐屋・田村は、新人を育てるよう組織から指示される。
やってきた新人はおしゃべりで人懐っこく、涙もろくてすぐに同情しておせっかいを焼く困った奴だった。
契約外の仕事までやってしまう新人に、田村はいやいやながらもつい付き合ってしまう。
ところが二人は過去に意外なつながりがあった。

 誘拐という物騒な仕事だが、クールなはずの田村もいつのまにか新人に巻き込まれ、対象の事情を知ってしまう。
それぞれは関係のない人たちだったはずだが、最後の依頼で田村とつながってきて驚いた。
それでも軽い文章で暗さを出さず、ハードボイルドなはずの仕事も気軽に依頼できるような気がしてしまう。
雰囲気が似ていると思ったら「ルパンの娘」シリーズの人だった。