むかしむかしあるところに、死体がありました。


 弦の恩返し、桃太郎、一寸法師など、よく知っている昔ばなしのお話に、さらりと死体が混じっている。
はなさかじいさんが殺されていたり、一寸法師が容疑者だったりといった、どこかで間違えた昔ばなし。

 むかしむかしのお話は、もともときれいごとだけではなかったし、惨いことも非情なことも多いのだが、するりとわき道にそれてしまうと突然死体が増えていたりする。
どこから間違えたのかと思い出すうちに、どんどん話は進んでいって、全く違う後味になっていた。
でもどれも、もの悲しいというよりは悪意の方が大きく、煙に巻かれた感じで残念な気分になる。

死にふさわしい罪


 一族でするクリスマスパーティーの準備を手伝うため、母方の伯父の別荘へとやってきた和典。
駅で出会った不思議な女性が、隣家の人であり、また楽しみにしてて突然更新が途絶えた数学のブログの作者の妻だと知り、和典は新記事の下書きがあるという女性に頼み込んで見せてもらうことにした。
ところがその女性の家では1年前、ブログの作者である女性の夫が行方不明となっていることを知る。
漫画家だった叔母が秘密を握っていると思い、女性の家を訪ねてみるが。

 少女をターゲットにした作品や、中世ヨーロッパが舞台の作品では、一文字も読み漏らすまいというほどの集中力を持って読んだのに、少年が主人公のこのシリーズはとたんにつまらなく感じるのはなぜだろう。
同じように緻密な設定と興味深い専門分野の知識が織り込まれているが、どうも熱中できない。

高校事変 XI


 慧修学院高校襲撃事件後、日本で緊急事態庁が発足した。政府の行動力のなさを押し倒して次々と打ち出す政策に、日本は好景気となる。
日本近海に油田も発見されたと思い込まされ、国民は浮かれていた。
そして、ホンジュラスの襲撃からも何とか生き残った結衣は、帰国する。
緊急事態庁を操っていた優莉架祷斗が日本を支配し、破壊しようとする場に向かうため。

 優莉の兄弟がだんだん集まってくる。
戦う相手が兄弟になってきた頃から、規模は大きいが小さい世界の争いとなり、途端につまらなくなってきている。
結衣の母が誰かも明かされるが、ほかのシリーズとの関連がこんなに違和感を出すのは珍しい。
同じように、ほかのシリーズと絡む樋口有介のものは、見つけると嬉しくなる関連だったのに。

うらんぼんの夜


 閉鎖的で、排他的、そこら中に地蔵があり、人々はただ祈る。
そんな田舎を嫌い、早く都会に出たいと願う高校生の奈緒は、東京から越して来た亜矢子と仲良くなる。
嫁いできて20年にもなる奈緒の母でさえよそ者扱いする村の年寄にうんざりしながらも、亜矢子に村でのしきたりを教える奈緒に、周りは警戒を深めていた。
そして盂蘭盆会が来る。

 戦争がはじまった頃、村を出たいと願う少女が地蔵にかけた願いの後で年寄りがたくさん死んでいった。
そんな出来事から、地蔵へよそ者が参ると呪われるというしきたりができ、亜矢子の一家が越してきてからは、不審に思う奈緒を追い詰めるように、年寄りたちは団結していく。
それまでは奈緒への共感しかなかったのに、突然奈緒の感情がひっくり返る。
その変化に追いつかないまま終わるため、何度か読み返した。
狐に化かされたかのようだった。
デビュー作の『よろずのことに気をつけよ』を思い出させる不気味さだった。

炎上フェニックス 池袋ウエストゲートパーク17


 コロナで仕事を失った、エッセンシャルワーカーという名の若者と肉体労働者。
パパ活をしていた女性が半グレに脅されていたり、ただ女性にぶつかっていくだけのぶつかり男、自転車配達員のトリプルワーカーに舞い降りた災難と、ストーカーに会い、その後ネットの誹謗中傷で身も心も削られた女子アナ。
コロナで生活が変わってもトラブルは変わらない。

 今回も気持ちの悪い事件ばかり。
カーストの下半分の暮らしを辛そうに見ている人がどれだけいたって誰も救えるわけでもなく、体を張って生きている人は体を張って自分を救わないといけないと生きていけない現実。
しんどいねぇって言うしかない。

ファウンテンブルーの魔人たち


 5年前、新宿に巨大な隕石が墜落し、一帯は壊滅状態に陥った。
そこへ再開発してできたのがブルータワーで、その一室に小説家の前沢倫文は恋人の英理と住んでいた。
ある日、アメリカ、ロシア、中国のロケット開発に関係していた人物が突然死する。そして現場では「白い幽霊」が目撃されていた。
特殊な癖を持っている前沢は、マンション内を偵察し始める。

 近未来の巨大タワーを舞台に、前沢や英理、そしてAIロボットのマサシゲが、新宿へ落ちた隕石の謎と、タワーの地下深くで進められているある計画を探る。
主人公の頭の中を、考えていることをつらつらとそのまま垂れ流しているようで長い。それでも淡々と描かれていて感情的になることがないので割とすらすらと読めた。
ただ隕石をめぐる各国の政治的な陰謀が暴かれるのかと思いきや、もっといろんな人の目論見が集まっていて、最終的にはなんとなく解決へ向かっているようなというあたりで終わっていた。
結局は事件というより人間の進化の選択肢を見せたもので、こんなこともあるかもねという想像が膨らんでいき、最初の疑問はもうどうでもよくなったかのよう。

本日も晴天なり 鉄砲同心つつじ暦


 鉄砲同心の跡継ぎである丈一郎は、射撃の訓練はしているが、副業のつつじ栽培の方が気に入っていた。
泰平の世になって長く、武士も本業だけでは食べていけなくなった幕末、頑なにつつじの世話をやろうとしない父との口論も日課となってしまう。
一家六人を養うには仕方がないのだが、交配で作り出す代わり品種を楽しみにしている丈一郎のところに、父の昔馴染みが訪ねて来る。

 にぎやかな一家の様子がとても微笑ましい。
鉄砲の火薬が使いようによっては肥料にもなり、物は使い道でずいぶん違うということを考えさせられる。
頑固だけど子供のような父が可愛く見える部分も多く、どんなことも発散して溜め込まないのでどんよりしない。
家族それぞれの個性もきっちり描かれているので想像もしやすく、楽しい団らんだった。
子供には見せない夫婦の約束の話でほっこりするのは、もう私がそちら側の年に近いからか。

ボーダーライト


 神奈川県内で薬物売買や売春などの少年犯罪が急増し、高尾巡査部長は係長の堀内から原因を探るよう指示される。
ペアの丸木と街へ出て情報を集めていると、犯罪に手を染める若者に共通して最近人気の『スカG』というバンドの噂を聞く。
高根拠はないがどうにも気になると言う高尾は、かつて荒れていた赤岩が薬物の取引現場で捕まったと聞いて話を聞くことにした。

 赤岩の高校にいる目立たない賀茂という生徒は時々オズヌが降りてくるという。
徐福やオズヌと絡めるのが好きなようで、今野敏作品にはたびたび出てくる。
でもどうも、憑依したというよりただ都合の良い時だけ人格が変わり、他力本願で丸く収めているような不自然さがいつもある。
今回は他にも憑依したという女性ボーカリストが登場し、戦うわけでも見逃すわけでもなく、ただすんなり従うだけとなり、修羅場も盛り上がりもなかった。
力の差が大きいということなのだろう。
それにしても乗り換えが早いし、無条件で従うほどの魅力が感じられない。

月夜の羊 紅雲町珈琲屋こよみ


 コーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」を営む杉浦草。
ある日、風に舞う雲形のメモ用紙を拾う。そこには「たすけて」と書かれてあった。
折しも女子中学生が行方不明中で、草は警察へ連絡する。しかし、少女はすぐに家出だったとわかり、一安心するが。

 家出少女は変装が趣味でいろんな顔を持っていた。
偶然発見した独居老人を助けたことで気づいた不審感を、明るく吹きとばすような身軽で楽しい友人ができたことで、また新しいもめ事にも巻き込まれてしまう。
今回は草の行動力や意志の強さを出した1作目のような雰囲気だった。
不審に感じることや納得できないことが次々と起こり、もやもやした感情を振り切るべく、草は小蔵屋であるイベントまでしてしまう。
読みやすく、季節や空気の流れも感じられるような描写が、ほっと一息入れた気分になる。
悲しいことが多かった今回はちょっと後味も苦め。