姥玉みっつ


 静かな老後を送ろうと思っていたお麓は、幸いにも明主の書役の仕事を得て、明主の家からも近い「おはぎ長屋」に移り住んだ。
すると50年も前からの幼馴染が二人、なぜか同じ長屋に移り住んできて、毎日やってきては姦しい。
うっとおしいと思いつつも、ある日行き倒れた母娘を見つけてかくまうことになる。
母と名乗る女は数日後に死に、娘は声を出せない。
その出会いから三人はさらににぎやかな騒動へと巻き込まれていく。

 主人公が年寄というのが面白い。
うっとおしいと思いつつも50年も前からの知り合いでは気心も知れていて扱いも慣れたもの。
静かな老後とはかけ離れた生活だけどお麓も楽しそう。
世間や身分に縛られながらも、精いっぱい楽しもうとする3人を見ていると元気が出る。

仕事のためには生きてない


 ロックを愛し、大学時代の友人とバンド活動をしている多治見勇吉。
広報部で社長のSNSへの発言が炎上し、その対応に追われている最中、勇吉はスマイルコンプライアンス準備室〉という部署に異動になる。
社長の言い出した「スマイルコンプライアンス」という実態不明の思い付きを社則に入れろというのだ。
会議のための会議、忖度管理職への根回し、時間切れまで繰り返される「充分な検討」という名の意味のないやり直しに疲弊する勇吉。
なぜ自分はこんなになって働いているのか、と自分に問う。

 『被取締役新入社員』を思い出させる。
無茶ぶりと丸投げに消耗しながらも、なんとか抜け出す方法を探る。
仕事が趣味とはいえないが、一日の大半を過ごす職場は少しでも楽しい方がいい。
少しでも快適な場所にしたいと願う者たちの戦い。

青姫


 村の名主の弟であった杜宇は、ある日武士と悶着を起こし、村を出奔した。
放浪の末たどり着いたのは、青姫とよばれる統領の下で自由経済の郷だった。
そこで杜宇は米作りを命じられ、田を開墾から始める。
そのうち郷にもなじみ始めるが、ある日ぼろぼろの男が郷にやってきた。
それは杜宇の出奔の訳となった武士であった。

 これまでの朝井まかての作品とは全く雰囲気が異なり、ファンタジーのような趣があった。
不思議な郷で米作りに奮闘し、わがままで意地も悪い青姫に振り回されながらも郷になじみ、そこでの居場所を見つける杜宇。
やがてすべてを思い返す年まで長生きをする杜宇の一生を、その場にいたような感覚になって読んだ。

産婆のタネ


 浅草天王町の札差、坂田屋の娘お亀久は、幼いころかどわかしに遭い、その時助けに入ったぼて振りの魚屋が切り殺されるのをまじかに見てしまう。
それ以来、男と血が怖くなり、外に出ることもできなくなる。
さらに許婚である材木問屋、万紀の長男紀一郎が紀州で山崩れに巻き込まれ行方知れとなり、お亀久はもう死のうとした。
そんなお亀久に怒った母は、難産でようやく生んだお亀久を取り上げてくれた産婆のタネ様のところへ連れていき、しばらく見習いをしてみろという。
子を産み育てるのがいかに大仕事かをお亀久に教えるためだったが、お亀久は産婆という仕事に興味を持ってしまう。

 今でいう引きこもりになってしまうお亀久。
家が裕福なので勉強もさせてもらえていたのだが、見習いとなってからのお亀久はタネと稲に教えられながら、子を産み育てるという女たちを見てだんだんと考えが変わっていく。
女というだけでこんなに不自由なのかと愕然としながらも、自分の生き方を見つけたと感じるお亀久はまだまだ子供だが、周りの大人たちの頼もしさが非常に強い。
そのせいか安心してお亀久の考えも受け止められた。

焔【ほむら】と雪【ゆき】 京都探偵物語


 鯉城は、怪我をして警察を辞めてから、探偵をしている。
病弱の幼馴染の露木の知恵を借りながら、立場の違う二人だから気づく視点で可能性を探り真実を見つけていく。
自らに火をつけて死んだ男、別荘で鳴り響く怒号の謎、製薬会社社長の妻に付きまとう不審な男など、大正の京都で起こる事件を追う。

 二人の立場が違うおかげで見えてくる世界が違うが、お互いの思いが推理に大いに左右されていて、どっちも納得がいく部分もあればいかない部分もある。
特に露木の執着が大きく、その部分だけ見れば不気味でもあるが、起こる事件はいつの時代も変わらない人の思いだった。
二人の対比は面白いが、推理には強引な部分があった。

でぃすぺる


 小学校卒業まであと半年。
ユースケは、自分の好きなオカルトを聞いてほしくて、“掲示係”に立候補する。
すると、委員長になるとばかり思っていた優等生のサツキも立候補してきた。
転校生のミナも加わり、三人で掲示新聞を作ることになる。
サツキが掲示係を選んだ理由は、去年亡くなった従妹のマリ姉の犯人が捕まっていないため、少しでも解決に近づけたいという思いがあったのだ。
マリ姉のパソコンから見つかった、町の七不思議の話をヒントに、小学生最後の二学期を過ごす。

 オカルトを押すユースケと、理屈で責めたいサツキ、そして冷静な判定を下すミナという構図で七不思議を解き明かしていく様子は楽しい。
ふとしたきっかけで気づくことに喜ぶ姿は頼もしいし微笑ましい。
何か所か腑に落ちない場所があったけれど、登場人物の面白さがあったので突き進んでこられた。

蠟燭は燃えているか


 宇宙ホテルでの事件から無事逃れ、脱出ポッドの中で生演奏をした京都の女子高生真田周。
しかし、待っていたのは配信動画の炎上だった。
それから周の周りは迷惑系動画配信者や動画絵の誹謗中傷で日常を過ごすことも困難となる。
そんな時、週の動画に「まずは金閣寺を燃やす」というコメントが書き込まれ、そこから次々と国宝や文化財が放火されていく。
一連の放火にはどんな意味があるのか、週は瞳子と会えるのか。

 宇宙ホテルの結末からすぐの出来事。
瞳子を探すために配信した動画から、京都の文化財の多くが焼かれてしまうことになってしまい、周は戸惑いながらも瞳子へ近づいている事を感じている。
加害者であり被害者でもある周の周りに集う、加害者家族と被害者家族。
彼らの思いが煮詰まって思い雰囲気となる。
でもどこかに、いくら子供でもそこまで世間知らずかと思うような行動や、逆にそこまで大きなことを考えついて行動できるのかといった違和感もあった。

兇人邸の殺人 〈屍人荘の殺人〉シリーズ


 閉園となった遊園地を買い取り、廃墟テーマパークとして人気の施設に、「兇人邸」があった。
そこでは、従業員が定期的に消えるという噂が流れていて、さらに葉村たちが追っていた班目機関の記録が眠っているらしい。
ある企業の社長から同行を依頼され、ヒルコと葉村は夜中に「兇人邸」へ忍び込む。
ところが、その屋敷で見つけたのは鉈を振り回す巨大な殺人鬼だった。

 ヒルコと葉村がまたもや命の危険にさらされる。
今度は巨大な屋敷に殺人鬼と共に閉じ込められるというホラーな設定。
そしてどうしても予想できない結末に毎回驚かされる。
班目機関のことも少しずつわかってきて、おもしろくなってきた。

縁切り上等!―離婚弁護士 松岡紬の事件ファイル


 夫のモラハラと浮気に耐えられなくなった聡美は、小さな子供を抱いて実家に逃げた。
その途中で出会ったのは、縁切寺として名高い「東衛寺」の娘で、離婚専門弁護士の松岡紬だった。
同性婚カップルの親権問題、定年間近の夫と別れたい妻など、離婚したい女たちの仲介をする紬だが、彼女は結婚どころか恋愛というものに感情が動かない。
幼馴染で探偵の出雲と組んで困っている女たちの悪縁を断ち切る。

 誰が見てもモラハラなのに本人は全く自覚がないなど、もうどうしようもない問題から、今を逃せば死ぬまでチャンスはなさそうだという案件など、いろんな問題に立ち向かう。
もし自分が何かのトラブルに巻き込まれたら、養育費を払いたくないから資産を隠そうとするような男にもきっちり交渉してくれる紬のような弁護士に出会いたいと思う。

詐欺師と詐欺師


 海外で稼いで一時帰国していた詐欺師の藍は、ある政治家のパーティで知り合ったみちるに興味を持った。
あらゆる事を犠牲にして親の仇を殺すことだけを生きる理由にしてきたみちるは、仇である戸賀崎グループ筆頭株主の戸賀崎喜和子を探すために金を欲しがっていた。
普段なら関わらない藍だが、なぜかみちるから目が離せず、復讐に付き合うことになるが、思いもよらない事に巻き込まれていく。

 世界中の悪党から何億という金をせしめてきた藍にとって、みちるのとる行動は拙く、ついかまってしまう。
そのうち引き返せないところまで来てしまい、みちるの執着と同じくらい暗くて深い闇をのぞき込んで怖い真実を知ることになる。
これは逃げ出せないんじゃないかと思った頃、また不思議ななりゆきですんなり脱出までできるが、この先の二人が気になってしょうがなくなってしまう。
タイプの違う詐欺師と、犯罪者たちのゲーム。