遠の眠りの


 大正末期、貧しい農家に生まれた絵子は、本を読むのが好きだった。
旅籠をしている裕福な家の子の本を借りては読んでいたが、ある日父と喧嘩をして家を追い出される。
絹糸を織る女工として働いていたが、市内に初めて開業した百貨店「えびす屋」を覗きに行っていた時に支配人と出会い「えびす屋」で「お話係」として雇ってもらえることになった。
そこで出会ったキヨという娘役の子と仲良くなるが、キヨには秘密があった。

 貧しい生活から抜け出し、自分の力で生きていこうとする絵子の、少女から娘へと成長する姿を描く。
いくつかの仕事をし、そこで出会う人たちとの交流も新鮮。
そしてキヨとの出会い。
絵子の、流されながらも自分で選びとる生き方が、静かな文体で大きな事件があるわけではないのに続きが気になって止まらなかった。

ノウイットオール あなただけが知っている


 ヤクザ相手に法外な報酬を吹っ掛ける高校生探偵。
M-1を目指そうといきなり声をかけてくる同級生や、未来からやってきて結婚を迫られる女子高生。
ある町に住む、ちょっと変わった人たちの物語。

 一つ目の高校生探偵の話と、特殊な病の性で失恋続きの女性の話は面白かった。
同じ町に住み、すれ違っているかもしれない人たちの話として繋がってはいるが、未来人との交流では疑問や違和感が大きく、しっくりこない。

流星シネマ


 都会のへりのガケ下の町で、地域の新聞を作っている僕。
発行者のアルフレッドが国へ帰ることになり、後を継いだ僕は、深夜営業のオキナワ・ステーキ〉を営むゴー君、「ねむりうた」の歌い手にしてピアノ弾きのバジ君。〈ひともしどき〉という名の詩集屋を営むカナさん、メアリー・ポピンズをこよなく愛するミユキさんなど、個性的な住民に囲まれて次のネタを考えている。

 崖下にある町。
200年前にクジラが川をさかのぼってやってきたという噂がある。
そんな町で、僕の周りで起こる出来事を静かに描いている。
ちょっと退屈だけど、クジラの骨が見つかって住民が一致団結したりする。

質草女房


 彰義隊に入った夫に、戦いの前に手元に金が必要だと質屋に預けられた妻・けい。
質屋をたたむという親父の頼みで、けいの夫である篠田を探すことになった貧乏浪人の柏木宗太郎は、逃亡先と考えられる会津へ向かう。
その途中、新政府軍の参謀・速水興平と出会い、行を共にすることになる。
無事篠田に会えるのか、または死んでいる確証を持ち帰れるのか。

 夫に質草として預けられたけいは、夫を信じて待っている。
そのけいが気になってしまった宗太郎は、質屋の親父からの礼金目当てに篠田探しを始めるが、楽な旅ではなかった。
篠田の正体には途中で気づくが、もうすっかり話に引き込まれていて宗太郎と篠田が気になってしょうがない。

マカロンはマカロン ビストロ・パ・マル・シリーズ


 下町の小さなフレンチ・レストラン、ビストロ・パ・マル。
フランスのあちこちで料理の腕を磨いた三舟シェフの料理はもちろん絶品だが、名探偵でもあった。
今日も、そこへやってくる客たちの小さな憂いや謎を解く。

 従業員が女性のみの新しい店にきたパティシエが急に姿を消した理由も、蝶ネクタイが似合う素敵な大学教師が経験した悲しい別れの訳も、豚足をめぐる少年と母親の再婚相手との物語も。
どれも静かに語り掛けながら客たちの心をほどいていく。
フランス料理の店だけあって、フランスの習慣や料理の謂れなどもあって楽しい知識がたくさん。
料理も美味しそうだった。

ソラリス


 惑星ソラリスは、意思を持った「海」に表面を覆われていた。
地表のほとんどを覆う、一つの生命体である海。
その謎を追い、ステーションに派遣された心理学者ケルヴィン。
そこでは、変わり果てた研究員たちがいた。
やがてケルヴィン自身もその奇妙な出来事に遭遇する。

 何世紀も人類からのコンタクトを無視し続けているソラリスの海。
それは生命体なのか。人類と全く違った未知の理性とどう付き合えばいいのか。
SF史上に刻まれる不朽の名作らしいが、情景描写や心理の迷いの描写が長くて退屈だった。
でも、一つの大きな意志を持つ海というのは面白い。

おりせ人形帖


 魂が宿った人形たちの声が聞こえる不思議な力があるおりせ。
おりせは小さいころから人形の声を聴くことができた。
女では人形師に慣れないと言われ、婿を取るしかないとわかってはいても、気持ちは結婚などしたくない。
そんなおりせが人形たちの声を聴き、人形にも人にも気持ちを繫げていく。

 このところ手に取る本はなぜか人ならぬものの声が聞こえる主人公の話が多い。
今度のおりせは人形に取り付いた何者かの魂との会話。
でもどの人形も生きている人を攻撃しようという気持ちはなく、忘れている名前を思い出したい、幼くして死んでしまったけど母の側にいたいという穏やかな望み。
そのせいかずっと優しい雰囲気で穏やかな気持ちで読み進められた。

やっぱり犬は知っている


 警察病院で働くファシリティドッグのピーボ。
今日も死が近い犯罪者の側で、秘密を聞き出す。
でもそれだけじゃない。猟奇的殺人者を察知したり、万引き犯をかぎ分けたりと今日も忙しい。

 人の気持ちを感じる能力に優れたピーポ。
病気の子供に寄り添ったりもするし、よからぬことを企む人には緊張して、その相棒である笠門巡査部長に知らせる。
その能力は警察内でも有名だが、表向きの仕事じゃない部分の暗さにいつもドキッとする。
でもその優しさと美しい毛並みで柔らかな印象だけが残る不思議な話。

ホテル・カイザリン


 子供の頃から他人の物を欲しがってきた千尋。
誰もいないはずの上の階から毎夜洗濯機を動かす音がする。
お気に入りのホテルに放火してしまう鶴子。
ちょっと怖い話の集まり。

 短編ですぐに読めるけど、じっくり考えると怖い事。
そんな話が集まった一冊だった。
ある集落の奇病の話はどことなくホラーだったし、いろんな恐怖でいっぱいになる。

蝶として死す 平家物語推理抄


 1183年、源氏の木曾義仲軍が平家を破って都入りした。
平家一門は都を捨て西国に落ち延びたが、平清盛の異母弟である平頼盛は一門と決別し、都にとどまっていた。
そんな頼盛に、彼を知恵者と聞いた義仲に「首がない五つの屍から恩人の屍を特定してほしい」と頼まれる。
ただでさえ遺体は身元が分かりくいのに、そのうえ首がないとはほとんど不可能と思われた。
しかし頼盛は、遺体の特徴から恩人の体を当ててしまう。
源氏と平家の有名な人物を登場させ、頼盛の知恵が光る短編集

第15回ミステリーズ!新人賞受賞作を含む6編。
政治のやり取りや史実を知らなくても楽しめた。
頼盛の知恵に頼る人たちの気持ちや、おもわず裏を読んでしまいそうになる頼盛、

時代が違っても人々は今と同じ悩みを抱えている。
優雅な貴族たちの様子も垣間見ることもでき、ややこしい人物関係図を知らなくても充分楽しめた。