先祖探偵


 東京谷中銀座の路地裏で、探偵事務所をひらいている邑楽風子。
風子は捨て子で、養護施設を出てからバイトでためたお金でたんていをはじめた。
先祖を辿る探偵をしているのは、自分の先祖を探す手助けになればと思ってのことだった。
 先祖は武田信玄にゆかりがあるはずだと言い張る男性や、先祖の祟りかもしれないのでどこの祖先が原因か調べてほしい、学校で祖先を調べるという宿題が出た、などの依頼に、あちこちをめぐっては調査をしていく風子。
やがて、自分の両親につながるのではないかという仕事が舞い込む。

 ずっと孤独だった風子が、自分の祖先を知りたいと思って始めた仕事。
やがてつながる縁と、風子が捨てられた理由に説明がついた頃には、まるで想像もつかなかった出来事が分かる。

おっかなの晩 (日本橋船宿あやかし話)


 江戸草川に浮かぶ島、日本橋の箱崎。
川辺の小さな船宿を切り盛りする女将のお涼。
彼女の元へ届く手紙の中には、吉原にいる花魁・清里からのものがあった。
清里は狐憑きと言われてしばらく客足が遠のいていたのだが、それを逆手に取った接客をするようになり、また人気が戻ってきていた。
そしてお涼の元へは、時折不思議な客もやってくるという。

 面倒見が良いお涼のところへやってくるのは、人だけじゃなかった。
そして彼らは、お涼に頼みごとをしたり、癒されたりして去っていく。
なかにはちゃんと落ちが付いた話も合っておもしろい。
お涼の子供の頃の話もあって、彼女の不思議な魅力がつまっていた。

モップの精は旅に出る


 大輪の花が描かれたワンピースにハイヒール、髪を頭のてっぺんでお団子にしたその女性は軽やかに歌いながら掃除をしていた。

英会話学校の事務をしている翔子のところに、受講生の男性から婚姻届けが届く。
たった一回面談をしただけのその男性が怖くなり避けていたら、その男性が死体で発見されたという。
翔子は深夜に出会った清掃員のキリコと仲良くなって話を聞いてもらう。
するとキリコは真相を見つけてしまうのだった。

 深夜に清掃員として働くキリコが活躍するミステリーだが、完結章を一番に読んでしまった。
知らなくても全く問題はなく、読みやすいしキリコの様子が楽しそうでミステリーだけど軽やかな気分になれる。
シリーズということなので、見つけたら他も読んでみたい。

うまいダッツ


 高校の喫茶部。
ゆるい活動の喫茶部のなかで特に「おやつ部」と言われている1年の4人は、それぞれ好みのおやつを持ち寄って食べていたある日、不思議な噂を耳にする。
「うまい棒一本で、世界の秘密がわかるらしい」
一人一回のみ、しかも一日に一人だけ、質問に答えてくれるというその人物を探しに行く。
 メンバーのうちの一人のおばぁちゃんが家でブローチを無くしたので探しに行くことにしたおやつ部。
SNSでつながった友達と気まずくなってしまった理由を知りたいというメンバーのために頑張るおやつ部。
先輩の頼みでお菓子のシルエットクイズに参加するおやつ部。
彼らの楽しい部活の様子。

 喫茶部ではあるものの、レトロ喫茶をめぐる人、コーヒーに凝る人などいろいろで、そのこだわりのうんちくも細かくて楽しい。
そんな中、コンビニやスーパーでも売っているおやつを食べる活動というなんとも微笑ましい4人。
高校生活の楽しみ方がいっぱいで、お菓子もいっぱい出てきて、懐かしいお菓子がたくさん食べたくなる。

からくりがたり


 高校三年の冬に自殺した兄が残した日記には、教師や妹の同級生、喫茶店のウエイトレスたちとの、恋愛遊戯が事細かに綴られていた。
それは事実も交ざっていたが、およそ兄とはかけ離れた人格で、やがて妹は疑念を抱く。
さらにその日記に登場した女性たちを訪ね歩くうち、彼女たちは次々と事故や事件で死亡していることを知る。
市内で毎年年末に起こる殺人事件と、時々現れ語り掛ける正体不明の男とは。

 女友達のやや行き過ぎたはしゃぎっぷりと、自殺した兄の暗くこごった欲望の沈みっぷりが対照的。
でも全体的に下品で、そのうち気持ち悪くなってきたうえ、最後まで混沌とした物語だった。
ホラーのような雰囲気もあって、不気味さが残る。

剣持麗子のワンナイト推理


 亡くなった町弁のクライアントの仕事を引き継いでいたら、次々に舞い込む厄介で金にならない仕事。
ある日、「武田信玄」と名乗り、住所も本名も言わない男に呼び出される。
どう見てもホストだが、不動産会社の事務所に侵入したら、死体があったらしい。
他に、認知症のおばあさんを家まで送ったら、男が首をつっていたり、やたらと死体と出会う夜に、通常の仕事のために麗子は夜明けまでに解決しようと奮闘する。

ドラマに使われていた話もあり、イメージがしやすかった。
人懐っこいが胡散臭い刑事の橘にもいいように使われているような気もしながら、武田信玄と名乗っていた黒丑をアルバイトとして雇うことになったりして麗子のお人好しな面がたくさん出ていた。
最後の話は、黒丑の父親も出てきたたため時系列が混乱した。

犬は知っている


ゴールデンレトリバーのピーボは、警察病院のファシリティドッグだ。
小児病棟に常勤して患者の治療計画にも介入し、入院している子供たちの心を癒している。
だが、彼にはもう一つ大事な仕事があった。
特別病棟に入院する受刑者と接し、彼らから事件の秘密や真犯人の情報などを聞き出すことだ。
死を前にした犯罪者たちが語る本音を、今日もピーボは静かに聞いている。

 手術を怖がる子供に付き添って手術室の前まで行ったりする傍ら、凶悪犯と向き合うピーボ。
他に人間のいない部屋で彼らが語る事件の真実を聞き出す特殊な任務だが、その仕事に矜持を持っているような姿も見せ、なんとも頼もしい。
やがてハンドラーの笠門巡査部長の傷まで癒し、また次の子供たちの元へと行く。
ファシリティドッグという彼らの仕事が本当にあるものだと初めて知った。

藍色ちくちく-魔女の菱刺し工房


 菱刺しの工房をやっているより子先生と出会ってから、憂鬱から抜け出せなかった綾の生活はがらりと変わる。
なぜかついてくる賢吾と共に工房へ通うようになり、そこで出会う人たちとの交流で目標を見つける。
母の認知症に悩む女性や、より子の孫で引きこもりの亮平など

、菱刺しを通してつながる人々。

 いろんな悩みを抱えた人たちが、どんな経緯でここに来ることになったのか、一人ひとりの背景を取り上げている。
菱刺しの歴史や模様の意味などもところどころで詳しく描かれ、知らなくても充分に楽しめ、興味を持てた。
実物を見てみたい。

競争の番人 内偵の王子


九州事務所への転勤となった白熊楓。
昔からいる人たちの結束が強い場所で、なかなか話をしてもらえず、パワハラ気味の上司と敵意むき出しの同僚、そして人当たりが良く誰に対しても優しいが自由な上司に疲れ切っていた白熊。
呉服業界のカルテルを探るうち、巨大なカルテルに行きつく。
本部のメンバーもやってきて、それぞれ別口の摘発に動くうち、地元の暴力団も絡むと知る。

 九州へやってきた白熊は、知り合いもなく、同僚ともなじめず、疎外感を感じていたが、本部の仲間がやってきてからは調子を取り戻す。
白熊と小勝負の関係も変わらずで安心する。
そして解決を見る頃には、また白熊は地元の大きな力によって戻されることになる。
普段は知ることのない仕事と、地域の権力者、個性的な登場人物の多さで全く飽きない。