死が招く―ツイスト博士シリーズ


 内側からカギがかかった密室の状態で、ミステリ作家が死んでいた。
しかもその状況は作家が構想を練っていた途中の小説の内容と同じだった。
異様な現場に駆り出されたハースト警部は、友人のツイスト博士を伴い、事件解決へ捜査を始める。
しかも、死んだ作家は顔と手を焼かれており、本人という確証が持てなくなってくる。

 2作目はツイスト博士が最初から登場する。
今度も奇妙な一家が舞台で、おかしな人たちが多いため疑えばきりがない。
しかも事件現場は奇抜なため、どうしても興味をそそられる。
ツイスト博士は探偵役だけど主人公ではないという点で進むようだ。
その成果影は薄いし、探偵としての謎解きもあっさりしているが、その分事件が濃いため充分満足する。

第四の扉―ツイスト博士シリーズ


 オックスフォード近郊の小さな村。
そこには、数年前に全身を切り刻まれて死んだダーンリー夫人の幽霊が出るという家がある。
その屋敷に、霊能力を持つという美しい妻を連れたラティマー夫妻が越してきた。
さらに、屋根裏から足音がしたり、光が見えたりと不可解な事が続き、屋根裏部屋で行われた高齢実験のさなかにまた密室殺人が起こる。

 小さな村で起こる不気味な事件。
次々に起こる不可解な出来事と、おかしな住人。
かなり不安が募ってきた頃、突如世界が入れ替わってしまう。
これまでの出来事は入れ子のような状態で架空のものとなり、その後の進み方に慣れるまでに終わってしまった。

ブラック・ショーマンと覚醒する女たち


 隠れ家的なバーのマスターは、元マジシャン。
その店に訪れる客の不審な行動を見破り、または
 亡き夫から莫大な遺産を相続した女性の前に絶縁したはずの兄が現れて、「あんたは偽物だ」と言い張り、金を請求する。
妹は本物か偽物か。
バーのマスターが、華麗なマジックで謎を解く。

 映画化している作品。
マスターのうさん臭さがもっと欲しかった。
なじみ客を大事にするやり方は良いが、何も知らせず姪を模擬強盗の人質にして、本物のナイフを首にあてがうといったやり方がひどすぎる。
そのせいで後味がとても悪かった。

月虹の夜市 日本橋船宿あやかし話


江戸・浅草川に浮かぶ島、箱崎の小さな船宿「若狭屋」の女将である涼。
幼いころに妖の嫁になることが決まっていたお涼は、普通の人が見えないものが見える。
そして彼ら妖たちから頼みごとを去れると断れない。
片目片足の小僧の探し物や、蹴鞠の神様たち。
彼女のそんな性質は、親から受け継がれたものだった。

 今回は、お涼の物語より父と祖父の物語が多かった。
彼らがどんな出会いがあって、どんな妖と交流が合って、お涼へとつながったのかがたくさん綴られていた。
不思議と優しい妖たち。

まぼろしの女 蛇目の佐吉捕り物帖


 十手を預かる若い岡っ引きの佐吉は、亡き父の人徳で周りからは親分と呼ばれてはいるが、まだ若造で自分の生業に自信が持てずにいた。
ある朝、大川で若い女の死体があがるが、服ははぎとられて髪までそられているという惨いものだった。
身元が分かるものもなく、佐吉は必死で調べる画全く手がかりがない。
友人であり町医者の秋高と共に依頼を調べ、推理したのちにわかる真相は、驚くべきことだった。
 死体のそばに二十四文銭を残す連続辻斬り、病でろくに動けない老人が殺された事件、佐吉が江戸本所を走る。

 検死をする医者の秋高と共に、佐吉が出くわす殺しの事件。
不可解だったり理解できない考えだったりと様々で、よくある設定ではあるものの起こる事件が珍しいことばかりで興味が沸いた。
立場が違えば考え方も違い、それに納得できなくて悩む佐吉を見ていると、まだ経験は浅いがとても頼もしく感じる。

絵師金蔵 赤色浄土


 幕末の土佐、髪結いの家に生まれた金蔵は、絵の才能を見込まれ、江戸で狩野派に学び「林洞意美高」の名を授かる。
郷によびっ戻された金蔵は国元絵師となるが、商人の身分で国元絵師にまでなった金蔵をやっかむ者に贋作を作ったと冤罪をかけられ投獄されてしまう。
なんとか放免になったものの、親友の死、弟子の武市半平太の切腹、師匠の死、そして大地震と、金蔵を悲しみが襲う。
幸せとは何かを追い求め、たどり着いた金蔵の色とは。

 いきなり投獄のシーンから始まるので、どんな偏屈な主人公かと思っていまいち集中できず、読み進める気がお空なかった。
でも少しづつ進めていくと、金蔵の人となりが見えてくる。
それでも史実をなぞっている部分は淡々として、絵への執着はそれほど見えてこなかった。
血の赤を厄払いと考える金蔵にたどり着いてからは、時代の流れの速さを追いかけるようにあっという間に何年も後の話になって追いつけないところもあった。

百鬼園事件帖


 昭和初期、平凡で誰の記憶にも残らない影の薄さが悩みの大学生・甘木。
カフェなのにコーヒーが不味い店の常連だった。
そこで出会った偏屈で厳しいドイツ語教師の内田榮造先生と親しくなる。
先生は内田百間という作家でもあり、夏目漱石や芥川龍之介とも親交があったようで、そんな先生と行動を共にしていると、だんだん不可解な現象に出会い始める。

 偏屈だけど見捨てない先生と一緒にいるうちに、おかしな気配に気づき始める甘木。
そして話は芥川が描いた先生の絵へと移り、目の中にグルグルとした渦巻きを持つ影と出会ってしまう。
それはドッペルゲンガーだという事になっていくが、それは今まで持っていたドッペルゲンガーのイメージとは全然違うもので、この作品独自の存在だった。
その存在が面白くて意外で、それらが出てきてからは急に話が進み始めて面白かった。
特に先生のドッペルゲンガーは一味違っていて、どんなふうに現れて先生と協力しているのかもっと知りたくなる。

伯爵と三つの棺


 フランスが革命に入ろうとしている時、近隣の小国で起こった出来事。
ある日家を抜け出した小貴族の次男は、領地の堺である少年に出会う。
彼は三つ子で、仲良くなった4人は友情を深めていくが、大人になり三つ子の父であり彼らを捨てたという吟遊詩人と面会の機会が訪れる。
しかし面会直前に吟遊詩人が射殺され、目撃証言から犯人は三つ子の誰かだということになった。

 鑑定の技術がない時代、推理だけで犯人を追い詰める。
主人公の次男・クロは伯爵の書記官という職を得て、あらゆることを記録する傍ら、三つ子や伯爵との信頼関係も築く。
そこで起こった事件を追ううち、犯人は捕らえられ刑も済み、事件は終わったかにみえる。
しかしいくつかの疑問や違和感を持つ者が次々と新たに出てくるという止まらない思惑が、手が止まらないほど集中させた。
事実が語られるのは常にその者が死んでから手記で、という共通点も、まだ何か残っているのではと思わせる。

記憶の対位法


 自分が生まれる7年も前に死んだ祖父の遺品をかたずけることになったジャンゴ。
対独協力者として断罪され、一族から距離を置いていた祖父が晩年過ごした寒村の家で、ジャンゴは大量の書物と二十ほどの小箱を見つける。
遺品の中でただその小箱だけが、祖父の人となりを表すものだった。
そしてその箱から見つかった古く小さな紙片。
ジャンゴは西洋古典学を研究する大学院生ゾエと共に、その紙片の来し方を追求していく。

 「図書館の魔女」と同様、こちらも深い考察が多いため難しい専門知識の話がたくさん出てくる。
その道の研究者とゾエとの討論や、ジャンゴへの説明は大学の講義のよう。
そのため半分くらいはわからないままだった。
そして最後もなんだかよくわからないまま祖父への考察と、今を生きる自分たちへの応援で終わる。
ダヴィンチ・コードのような真実も解決もないので、長く読んできた割にしっくりこない。

PIT 特殊心理捜査班 水無月玲


 ビッグデータ解析による犯罪予測システムを開発している蒼井俊。
プロファイリングをするチームと一緒に、東京で起こった連続猟奇殺人犯“V”を追う。
足で捜査が信条の捜査員たちとぶつかりながらも、プロファイラーの水無月玲が率いるPITと共に捜査を進める中、現職のけいさつかんが惨殺されてしまう。
また、AIとプロファイリングとは違い、刑事の勘ともいうべき人に蓄積されたデータが告げた犯人にも注目が集まる。

 それぞれの得意分野から迫る事件だが、最後はなんだか拍子抜けしてしまう。
これは隠された事実だけど、これまでのミステリのようなあちこちにヒントがあるような感じではなかったため、予測できない。
そしてある意味よくある結末だった。