虎の首


 休暇から戻ったツイスト博士を出迎えたのは、事件の捜査で疲れ切ったハースト警部。
郊外の静かな村で、スーツケースに入ったバラバラ遺体が見つかる。
その後ロンドンでも見つかり、事件は連続殺人事件となる。
いっぽう事件の発端となったレドンナム村では、密室でインド帰りの元軍人が殺される怪事件が起きていた。
魔導士から買った虎の首が付いた杖から出た魔人に殴り殺されたという。

 静かで平和な村に突如起こる不穏な事件。
バラバラ事件だけでなく、魔人の出る杖と持ち主の死という、一見別の事件がつながる。
密室殺人の方がメインだと思っていたらバラバラ事件の方がメインだった。
そして最後にツイスト博士が見せた、自殺か私刑を待っているような行動は、今までの彼の人物像からはかけ離れているように見えてぎょっとした。
犯人に向き合う際に珍しくハースト警部と一緒じゃないと不審に思ったが、最後のシーンはもっと気になるようにしてある。
何度か読まないとわからないだろう。

狂人の部屋


 ハットン荘には、開かずの部屋があった。
そこは100年ほど前、部屋にこもって執筆活動をしていた青年が怪死し、その死因は不明、さらに暖炉の前の絨毯が水でぐっしょりと濡れていたという。
それ以来、開かずの魔となっていた部屋を、現在の当主が書斎に改装した。
すると直後から、屋敷には不可思議な事が次々と起こるようになる。

 屋敷に関係する人物の目線で物語は始まり、ツイスト博士とハースト警部が登場するのはだいぶん後。
それでもそこまでに起こる不思議な事件は充分恐ろしく、屋敷の住人が一人もいなくなるのではないかという勢いで、次々と人が死ぬ。
予想を立てることもできないまま目が離せないので不安がずっと続くが、ツイスト博士は最後にあっさり解明してしまった。
半分くらいが屋敷の住人目線で進むため、ツイスト博士のことを忘れそうになる。

名探偵再び


 親戚に名探偵がいたらしい。
父の探偵事務所が閉鎖になり、生活に困るようになった我が家では、その名探偵がいた高校への特別枠を使って私立雷辺(らいへん)女学園に入学した時夜翔。
翔自身は探偵のノウハウなど持っていないが、あまりにも有名な親戚のせいで、学校で起こる事件を解決させられる羽目になる。
困った翔は、30年前に学園の悪を裏で操っていた理事長・Mと対決し、とともに雷辺の滝に落ちてなくなってしまったというその場所へと出向くと、なんと幽霊と出会ってしまった。
幽霊の知恵を借りながら、翔はいくつかの事件を解決する。

 探偵なんてできない翔が、学園生活を乗り切るために考えたのが、推理は全部幽霊にまかせて自分はその名誉だけもらおうというもの。
相談を持ち込まれるたびに幽霊に会いに滝まで行き、すっかり名探偵となってしまう。
あまりにも有名な親戚のせいで逃げられない翔だが、ハッタリと幽霊の知恵で乗り切ろうとする様子が面白い。
そして黒幕と思われる人物には予想がついていたが、それでも一番重要な事にはすっかり騙されていた。

カーテンの陰の死―ツイスト博士シリーズ


 殺人の現場に偶然居合わせたマージョリー。
その犯人と同じような恰好をした男が、自分のいる下宿人の中にいて慄く。
そしてハースト警部のところには、同居人が殺人者の眼をしていると訴えてきた婦人を追い返していた。
続けて、玄関先で突如ナイフに刺されて下宿人の一人が死ぬ事件が起こり、ハースト警部とツイスト博士は捜査に乗り出す。
その下宿屋には、個性の強い人たちが集まっているだけあってなかなか犯人が見えてこず、またその事件が75年前に起きた迷宮入り事件とそっくりであることがわかり、事件は複雑になっていった。

 ツイスト博士の推理は最後に驚くことを暴く。
下宿での事件と75年前の事件とのつながりが分かってほっとした瞬間、それまで気にもしなかった事が出てきてしまう。
ツイスト博士の推理が、見過ごせない過去を拾ってきたことに驚き、種明かしも意外で面白かった。

まぼろしの女 蛇目の佐吉捕り物帖


 十手を預かる若い岡っ引きの佐吉は、亡き父の人徳で周りからは親分と呼ばれてはいるが、まだ若造で自分の生業に自信が持てずにいた。
ある朝、大川で若い女の死体があがるが、服ははぎとられて髪までそられているという惨いものだった。
身元が分かるものもなく、佐吉は必死で調べる画全く手がかりがない。
友人であり町医者の秋高と共に依頼を調べ、推理したのちにわかる真相は、驚くべきことだった。
 死体のそばに二十四文銭を残す連続辻斬り、病でろくに動けない老人が殺された事件、佐吉が江戸本所を走る。

 検死をする医者の秋高と共に、佐吉が出くわす殺しの事件。
不可解だったり理解できない考えだったりと様々で、よくある設定ではあるものの起こる事件が珍しいことばかりで興味が沸いた。
立場が違えば考え方も違い、それに納得できなくて悩む佐吉を見ていると、まだ経験は浅いがとても頼もしく感じる。

絵師金蔵 赤色浄土


 幕末の土佐、髪結いの家に生まれた金蔵は、絵の才能を見込まれ、江戸で狩野派に学び「林洞意美高」の名を授かる。
郷によびっ戻された金蔵は国元絵師となるが、商人の身分で国元絵師にまでなった金蔵をやっかむ者に贋作を作ったと冤罪をかけられ投獄されてしまう。
なんとか放免になったものの、親友の死、弟子の武市半平太の切腹、師匠の死、そして大地震と、金蔵を悲しみが襲う。
幸せとは何かを追い求め、たどり着いた金蔵の色とは。

 いきなり投獄のシーンから始まるので、どんな偏屈な主人公かと思っていまいち集中できず、読み進める気がお空なかった。
でも少しづつ進めていくと、金蔵の人となりが見えてくる。
それでも史実をなぞっている部分は淡々として、絵への執着はそれほど見えてこなかった。
血の赤を厄払いと考える金蔵にたどり着いてからは、時代の流れの速さを追いかけるようにあっという間に何年も後の話になって追いつけないところもあった。

牧谿の猿 善人長屋


 裏稼業を持った者たちばかりが住む長屋だが、なぜかいつも人助けをする羽目になるので「善人長屋」と呼ばれている場所がある。
そこでただ一人だけ、裏も表も善人の加助が拾ってくるこまりごとは、長屋の全員で解決すると決まっていた。
ある日加助が連れて帰ってきたのは、大事な根付を無くして憔悴したお内儀だった。

 加助が拾ってくる人たちは、どれも結構深刻だ。
命を助けてもらった相手からもらった根付を無くして憔悴していたり、商家に盗みに入った賊を切り殺してしまった侍への恨みだったりする。
厄介な困りごとを拾ってくるが、加助のために長屋の者みんなで策を練る仲の良さが羨ましい。
そして最後は最初の盗賊へと話が戻り、善人長屋の名にふさわしい活躍をする。
毎回、彼らの裏の職業の話はほとんど出てこないが、それぞれの得意を生かしてはいる。

彼女は逃げ切れなかった


 父の介護のために5年前に早期退職した纐纈古都乃。
介護が終わってからは燃え尽き症候群のようになり、さらに先月古い友人の訃報も届いたとあって、共通の友人である刻子のやっている洋風居酒屋で飲み明かす日々。
ある朝道端でひき逃げを目撃したが、その時不思議な現象を起こす双子に出会う。
後日、刻子の店で偶然再会した双子と共に、元警察官の古都乃は事件を見抜いていく。

 不思議な力を持つ双子と元警察官という組み合わせが面白かった。
古都乃が考えていることがどんどん書かれているので、とめどないおしゃべりを聞いている気がしてあっという間に時間が過ぎる。
ただ、あくまでも元警察官の立場なので、推理に終わり、その後の真実までは明かされない。
もっと考察できるのではと続きを考えたくなる。

写楽女


 寛政六年春、日本橋通油町にある地本問屋の「耕書堂」で女中として働くお駒。
ある日買い物に出る途中に見かけた、この辺りでは見ない雰囲気の男。
その人は、「耕書堂」の主・蔦屋重兵衛から写楽と名付けられた絵師だった。
五月興行が始まり、「耕書堂」に並んだ錦絵は人々を驚愕させる。
気を良くした重兵衛は、次の興行で売り出す絵の手伝いをお駒に命じ、それからはひたすら線を描く練習を始める。

 写楽の物語の中では割と軽めのお話。
写楽の人物像も、秘められた謎の人物というより寡黙で実直な部分を強調してあり、さらにお駒は北斎の幼馴染としている。
当時名を馳せた絵師たち。そしてその中で、写楽に寄り添った女の話として、お駒から見た絵師たちの時代を描く。
読みやすく、また登場人物の個性がはっきりしていて悲壮な部分もなく、ただ錦絵の世界を楽しめる。

最後に二人で泥棒を: ラッフルズとバニー3


 前作で戦争に参加し、その最後の話でラッフルズが負傷したバニーと話す場面で、ラッフルズの言葉を最後まで聞かないうちにおそらく気を失ったであろうバニー。
その後ラッフルズの行方は分からず、帰還したバニーが彼との思い出を語るという、手記のような今作。
そして今作は、バニーの恋の話も含まれている。

 ラッフルズの思い出を、その活躍で語るという今作だが、意外にもバニーが活躍した事件が多い。
これまでのようなぼんくらなイメージが少し和らぐが、相変わらずバニー自身に自信がなく、ラッフルズの言いなりになっている面が卑屈に見えてしまう。
今回はバニーの機転や行動力が功を奏するものがあったが、ラッフルズの人格はやっぱり不遜で、紳士というより悪ガキのよう。
なので、ラッフルズが海外では有名で人気者という話はまだ信じられない。