泥棒は哲学で解決する


 世界に5枚しかないという貴重なコインを盗みに入った家には、すでに天窓から忍び込んだ泥棒たちによってめちゃくちゃに荒らされていた。
しかしバーニィが欲しかったコインはまだ残されており、バーニィは先客の犯行に見せかけられるとして楽な仕事をしたはずだった。
ところが、翌朝その家では住人の妻が死体で発見される。
そしてなぜかバーニィが殺人犯とされてしまうのだった。

 やっぱり仕事をした家で見つかる死体。
そしてさらに、コインや切手を扱っていた故買屋のなじみまで殺されてしまう。
バーニィが自らの無実を証明するために奮起するという流れも同じだが、これまでの登場人物も相棒になったり友人になったりと不思議で楽しい関係が起こる。
犯人を追い詰める探偵としても頼もしく、でも泥棒という特性もちゃんと生かした解決で変わっていて面白い。

泥棒は詩を口ずさむ


 引退する古本屋を買い取り、主人となったバーニィ。
元泥棒だと知っている人は少ないはずなのに、わざわざやってきたその客は、世の中に一冊しかない本を盗めと頼んできた。
楽勝で盗んでこれた本だったが、なんとそれを奪われてしまう。
しかもまた殺人事件にも巻き込まれ、バーニィはまたもや自分の無実を証明するために事件を解決する羽目になる。

 頼まれた仕事はしないはずのバーニィが、これで三度目の依頼泥棒なうえ、そのすべてで殺人事件の犯人にされてしまう。
同じ展開であきれてしまうが、話自体は面白い。
相棒となる女性もちゃんといるし、何かと融通を聞かせてくれる刑事のレイもいる。
奇抜な推理でもなく、ちゃんとヒントも隠されていて、ちょっと周りくどいが飽きずに読めた。

望月の烏 八咫烏シリーズ


 権力者・博陸侯の下、金烏代となった凪彦。
まだ幼いゆえに信用もなく、政はすべて博陸侯がになっていた。
それでも凪彦の妃選びのための四人の姫君たちが集う〈登殿の儀〉が行われることとなり、宮中は華やいでいた。
ところが、女の身でありながら髪を落とし、落女として下級士官となった澄生がとんでもない嵐を巻き起こす。

 雪哉の変わりように驚いて、まだ同一人物だと納得できない。
しかし年月は流れ、奈月彦は死に、外遊を終えた雪哉が何を考えているのかが気になってしょうがない。
さらに、強烈な存在感を残す澄生の素性に驚いて、しばらく相関図を眺めていた。
ますます複雑になっていく世界に、驚くことばかり。

泥棒はクロゼットのなか


 盗みに入った家で、まさかの家主帰宅。
集めた宝石を置いて慌ててクロゼットに隠れたに閉じ込められたバーニィは、そこで殺人現場を目撃してしまう。
さらにはその殺人の容疑者とされ、宝石までなくなっておりまさに泣きっ面に蜂の状態。
泥棒が本業のはずが、またしても探偵となって真犯人を探す羽目になったバーニィだった。

 ターゲットを紹介され、安全で確実なはずが失敗し、さらにはそこに死体までついてくるというのは第一弾と同じ展開。
そして魅力的な女性との出会いも。
樋口有介の「柚木草平シリーズ」に似た印象で、事件を深刻にしすぎないバーニィのおかげで読みやすい。
泥棒なのになぜか女にもモテるところも似ていて、若いのから老女まですべてに好かれる様子は見ていて楽しい。
ただ今回はちょっと疑問点の残る結末。
シリーズは続くが、展開は変わっていくだろうか。

泥棒は選べない


 泥棒のバーニイ・ローデンバーは、錠前破りが得意。
欲張らずに年に3,4回ほどの仕事で満足しているはずが、うまい話に釣られて入った家で、警察と出くわした。
さらに奥の部屋で死体も見つかり、やってもいないのに殺人犯として追われることになってしまう。
再びプロの泥棒に戻るためには、自分の手で真犯人を見つけるしかない。
バーニィは、古い知り合いが留守をしていることを思い出し、そいつの部屋に隠れながら、泥棒なのに探偵をする羽目になっていた。

 しっかり者だったはずが、うっかり欲に負けたせいで背負ってしまう殺人犯という汚名。
潜伏先に選んだ部屋で出くわした女性ともうっかり仲良くなってしまったり、泥棒のわりに人が良い。
そして職業柄なのか観察眼もすぐれていて、小さな違和感にもよく気づくので探偵にはピッタリだった。
他の登場人物とのやり取りも軽快で楽しいので読みやすく、泥棒だが憎めない。

荒野のホームズ


 親も兄弟も失い、二人きりになった兄弟・オールド・レッドとビッグ・レッド。
今は西部の牧場を渡り歩く、雇われカウボーイの生活を送っている。
ある時雇われた牧場で、支配人がぐちゃぐちゃに踏みつぶされたようなひどい状態の遺体で見つかる。
兄のオールド・レッドは、論理的推理を武器とする探偵となるべく推理を始める。

 ホームズの影響が西部まで。
『赤毛連盟』に出会って探偵を始める兄と共に、牧場で起こるおかしな事件に立ち向かうビッグ・レッド。
西部の荒々しさの中で頭脳を働かせ、観察によって情報を集めて回る様子は面白かった。
ただ、ホームズは小説の中の人物として扱っているのかと思っていたら、途中から急に実在する人物として描かれているので戸惑う。
それでもホームズをまねて推理をする兄弟が微笑ましく、閉鎖的な牧場での悲惨な事件が重い雰囲気にならずに最後まで楽しめた。

悪なき殺人


 フランスの山間の小さな村で、一人の女性が行方不明になった。
殺人事件として捜査が始まり、関係者として浮かんだ人物たちはみんな村の者だったが、誰もが孤独と秘密を抱えていた。
そしてその事件は、遠く海を渡った西アフリカに住む詐欺師の少年へと結びつき、やがてすべてを巻き込んだ複雑な状況が見えてくる。

 田舎の出来事のはずが、いつの間にか国を超えた事件へとなっていく。
だが、最初の行方不明者の死体がいつ発見されて、どんな状況だったのかの印象がまるでなく、事件だったのかも記憶に残らない。
次第に大ごとになっていく出来事と、関係者それぞれからの視点で進む物語は面白いが、はっきりしたことは何もわからずにすべてを匂わせたまま進んでいく。
スッキリとはしないが、膨らんでいく関係図を追うのは面白かった。

ウェルテルタウンでやすらかに


 推理作家をしている私の元へ、おかしな依頼が舞い込んだ。
過疎化した町の人集めに、小説を書いてほしいという。しかも町を、自殺の名所にしたいというではないか。
そんな依頼は受けたくないが、何の因果かその町は私の実家がある町であり、そこから逃げ出してきた身であり、だが自殺の名所にはしたくはないという複雑な気持ちが巻き起こる。

 おかしな依頼をしてきた人物はいかにもうさん臭く、町の自殺の名所を次々案内する様子もコミカルに描かれているし、出てくる住民も変わった人ばかり。
自殺という暗いイメージとはかけ離れた雰囲気なのでコメディとして楽しめる。
でも最後にはこれまでの事がどれも裏の意味を持っているようで考えさせられ、どれもどこかで関係があっていちいちハッとさせられる。
分かりにくさはあるものの、いろんな仕掛けに気づくとより楽しめる。

一夜―隠蔽捜査10―


 神奈川県警刑事部長・竜崎伸也のもとに、著名な小説家・北上輝記が小田原で誘拐されたという知らせが入る。
同じ小説家で友人だというミステリ作家・梅林の助言を得ながら、犯人の行方を追うが、行方はおろか、犯人からの要求すらないため、捜査は全く進まなかった。
同じころ、警視庁管内で殺人事件が起こっていた。

 淡々とした竜崎の事件。
他の場所で起こった事件とかかわりが出てくることはよくある事なので予想はできてくるが、竜崎と梅林の個性が強調されていて、竜崎に良き友人ができたようだ。

隠居おてだま


 優雅な余生を送るはずだった老舗糸問屋・嶋屋元当主の徳兵衛。
しかし孫の千代太が犬猫にとどまらず人の子までも拾ってくる。そのため静かなはずの隠居屋は常に賑やか。
さらにそこでの出会いが新しい商いを生んだり、徳兵衛は忙しい毎日に充実していた。
しかし、家族に起こった問題ごとに気づかず、徳兵衛は家族との最大の危機が待ち受けていた。

 隠居はしても、何もないとただ暇を持て余す。
そんな生活に張りを与えていたのが、新しい商いと孫を含めた子供たちだった徳兵衛。
そんな彼が、何よりも苦手な恋路の問題に悩まされることになった。
頑固で意固地な自分を自覚しながらも、どうしていいかわからずにいる様子は微笑ましいが、当事者となると大変迷惑なもの。
だけどそれを溶かすのもまた家族で。
最後は優しく降る雪がすべて洗い流してくれたよう名ほっこりした場面で終わる。