おりせ人形帖


 魂が宿った人形たちの声が聞こえる不思議な力があるおりせ。
おりせは小さいころから人形の声を聴くことができた。
女では人形師に慣れないと言われ、婿を取るしかないとわかってはいても、気持ちは結婚などしたくない。
そんなおりせが人形たちの声を聴き、人形にも人にも気持ちを繫げていく。

 このところ手に取る本はなぜか人ならぬものの声が聞こえる主人公の話が多い。
今度のおりせは人形に取り付いた何者かの魂との会話。
でもどの人形も生きている人を攻撃しようという気持ちはなく、忘れている名前を思い出したい、幼くして死んでしまったけど母の側にいたいという穏やかな望み。
そのせいかずっと優しい雰囲気で穏やかな気持ちで読み進められた。

やっぱり犬は知っている


 警察病院で働くファシリティドッグのピーボ。
今日も死が近い犯罪者の側で、秘密を聞き出す。
でもそれだけじゃない。猟奇的殺人者を察知したり、万引き犯をかぎ分けたりと今日も忙しい。

 人の気持ちを感じる能力に優れたピーポ。
病気の子供に寄り添ったりもするし、よからぬことを企む人には緊張して、その相棒である笠門巡査部長に知らせる。
その能力は警察内でも有名だが、表向きの仕事じゃない部分の暗さにいつもドキッとする。
でもその優しさと美しい毛並みで柔らかな印象だけが残る不思議な話。

ホテル・カイザリン


 子供の頃から他人の物を欲しがってきた千尋。
誰もいないはずの上の階から毎夜洗濯機を動かす音がする。
お気に入りのホテルに放火してしまう鶴子。
ちょっと怖い話の集まり。

 短編ですぐに読めるけど、じっくり考えると怖い事。
そんな話が集まった一冊だった。
ある集落の奇病の話はどことなくホラーだったし、いろんな恐怖でいっぱいになる。

蝶として死す 平家物語推理抄


 1183年、源氏の木曾義仲軍が平家を破って都入りした。
平家一門は都を捨て西国に落ち延びたが、平清盛の異母弟である平頼盛は一門と決別し、都にとどまっていた。
そんな頼盛に、彼を知恵者と聞いた義仲に「首がない五つの屍から恩人の屍を特定してほしい」と頼まれる。
ただでさえ遺体は身元が分かりくいのに、そのうえ首がないとはほとんど不可能と思われた。
しかし頼盛は、遺体の特徴から恩人の体を当ててしまう。
源氏と平家の有名な人物を登場させ、頼盛の知恵が光る短編集

第15回ミステリーズ!新人賞受賞作を含む6編。
政治のやり取りや史実を知らなくても楽しめた。
頼盛の知恵に頼る人たちの気持ちや、おもわず裏を読んでしまいそうになる頼盛、

時代が違っても人々は今と同じ悩みを抱えている。
優雅な貴族たちの様子も垣間見ることもでき、ややこしい人物関係図を知らなくても充分楽しめた。

虚ろな十字架


 幼い娘を殺され、別れた夫婦。
今度はその元妻が、通り魔に殺されてしまう。
中原は、元妻が何をして生計を立てていて、なぜ殺される羽目になったのか。
調べていた刑事もそれ以上追求できなくなった違和感を中原も感じ、ひとり調べ始める。
人を殺しても、死刑にならない場合があるのはなぜか。。。

 家族を二人も殺された中原。
通り魔だと決着してしまったが、どこか違和感が残るという刑事の言葉に押されて調べ始めるうち、フリーライターの元妻が書いていた記事から思いがけないつながりを見つけ出す。
死刑制度に関する葛藤、遺族の思いがずっとついてくる。
全体的に暗いが、重い読後感はない。

森笠邸事件 探偵の流儀II


 所長の嶋岡が入院の間、姪の美菜子が所長を代行している探偵事務所。
美奈子もだんだん慣れてきた頃、以前つき合いのあった地元の名家・森笠家から呼び出しが来た。
依頼は、当主の森笠和史から嶋岡の名誉にもかかわる監禁事件の調査ということだった。
世間に公にできない事情をを抱えている森笠家へ乗り込み、そこで知った恐るべき事実に困惑しながらも、美奈子たちは調査を開始する。

 事務所のメンバーが全員かかって調べ上げる森笠家。
そこには、過去の事件にまでつながる醜聞があった。
今回の探偵の仕事は危険続き。
美奈子も危うく死にそうになる。
大きな家には大きな秘密がある。

探偵の流儀


 刑事を辞めて探偵事務所で働いている松代。
その事務所の所長が階段から落ちて重症を負う。
残された所員の間宮と松代、飯田は、事務所存続の危機に直面することになるが、残りの仕事を精いっぱいこなしながらも所長の事故に疑問を抱いていた。
所長の姪が代理になってくれないかと目論む飯田や、刑事時代の悪縁である同僚との遭遇、そして政治家や大企業をも巻き込む問題にまで広がってしまう。
小さな探偵事務所はどうなってしまうのか。

 所長の信用で成り立っていた小さな探偵事務所が、このままつぶれるかもしれないという危機感のなか、思いもよらない大きな事件を探り当ててしまう。
皆それぞれ個性がはっきりしているので分かりやすい反面、政治的な陰謀で分かりにくさが出てくる。
おかげでただ謎や問題の解決に留まらない探偵らしい仕事となった。

退職クロスロード


 年度末の3月31日、清掃員として派遣先の大手の総合メーカー・万屋カンザキ本社ビルで大忙しの日を迎えていた守田。
部署移動や退職などで大量に出されるゴミの回収に追われていた守田は、この日で定年を迎え、会社を去る窓際部長の佐和山義男から朝食に誘われる。
そして佐和山に、「あなたは命の恩人だ」と告げられ驚く。
堂やら5年前に、自殺しようとしていた佐和山を知らず知らずのうちに救っていたらしい。
バブル期入社の剛腕営業マンと、就職氷河期の挫折の末派遣社員となった守田との、立場も年も全然違う二人。
そこから万屋カンザキの過去の闇が掘り出されていき、やがて社内の同期や部下をも巻きこんだ、封じられた過去が明らかになっていく。
 
 派遣社員として常駐する会社で黙々と清掃の仕事をしてきた守田が、思いもよらぬ事に巻き込まれていく。
佐和山の一言が本来なら関係のない社内政治にまで飛び火し、守田の生き方まで変えてしまう結末に。
どんどん大きくなる事件に興味がとまらなかった。

うらぎり長屋


 江戸は本所、霧左衛門長屋の裏側にあるから「裏霧長屋」という。
しかしそこは、江戸で生きづらくなった者たちが行き着く場所であり、人はそこを「うらぎり長屋」と呼んだ。
 元大工の石蔵は、ふとしたことで盗みの一味に加わってしまう。しかし居酒屋で働く娘に惚れて足を洗おうとする。
料亭で女中として働いているおたつは、亭主が酒豪だと嘘をついて酒を買い続けていた。
怠け者の母を支えるため内職をしていたおえんは、ある日お店者らしき男に声をかけられる。
 裏長屋に住む人たちの人生。

 風通しも日当たりも悪い長屋に住む人々は、なぜそこに集まってきたのだろう。
彼らの来し方が一人ずつ語られる。
物悲しい出来事ばかりだが、途中に折り込まれる季節の花や子供の声にふと立ち止まるような、ゆっくりした時間が流れていた。

天神さまの花いちもんめ


 私は天神さまこと、菅原道真。
大宰府へ左遷され、失意のもと憤死し、仇に雷を落として呪い殺した。
しかしその後太宰府天満宮に祀られている学問の神さまとなり、今では日々人の願いを聞きその背を押す。
日本におわす八百万の神さまたちとの交流を描く、ほのぼの神さまの友達付き合い。

 生まれてすぐ捨てられた蛭子の恵比寿様を親友に、あちこち古今の神さまたちとの付き合いはコミカルで面白い。
家電が苦手だったり好物は卵かけご飯だったりと設定が庶民派なので神とのギャップもある。
軽く読めて、人の幸せを願い続ける神たちの交流が楽しかった。