編集ガール!


 出版社の経理部で働く久美子。気まぐれで書いた提案書がワンマン社長の目に留まり、急遽編集長を言い渡された。
編集経験皆無の久美子と、同じく他の課から集められた素人集団で、新しい雑誌を作ることになり、戸惑う久美子。
しかも彼氏の学まで部下となってしまう。
唯一編集の経験がある学に頼る久美子だが、女性誌なのにどうも目線が違う方向へ行こうとしている。
無事創刊できるのか、誰もがいっぱいいっぱい。

 お仕事小説。
似たようなドラマを見た気がするが、違うものだった。
そして軽くてどんどん読めるのであっという間に終わる。
ピンチもあるが、最強の隠しコネのおかげですんなり片が付く。
とても分かりやすい結末だった。

雨だれの標本 紅雲町珈琲屋こよみ


 雨の続く梅雨、お草が営む珈琲豆と和食器の店・小蔵屋では、ゴミが荒らされる日が続いた。
黒い自転車で走り去る人影を目撃して怖くなっていたが、お草はある日散歩の途中である小屋の隅で自分のゴミを見つける。
さらに、小蔵屋がある映画の撮影予定地となり、噂を聞きつけた近所の人たちの注目の的になってしまう。
だが監督と面会すると、彼はお草に頼み語ををした。
ある人物を探してほしいと。

 小蔵屋の周りがまた騒々しくなる。
不審者の素性はすぐにわかるが、それでも騒動は収まらず、久美と一ノ瀬の問題にまで発展し、お草は心が休まる日はない。
それでも毎日暮らしていかなければならず、お草は思うようにいかなくなってくる体と共に静かに祈り、でもちゃんと行動を起こす。
今回は一つ一ノ瀬が大きな決断をし、ふわりとした気分で終われると思ったら、なんだか賑やかだった。

エンドレス・スリープ


 大井の港湾倉庫で火災が発生した。ただの火災かと思っていたら、そこから冷凍された5人の死体を発見する。
最初に身元が判明したフリーライター・如月啓一が書いたと思われる原稿には、6人の素性が書かれており、警察はそこから身元を特定し、なぜ冷凍されていたのかを調べ始める。
少しずつ公表される如月のブログと警察の調べが交互に描かれ、冷凍されていた経緯や身元などが分かり始めると、より一層不気味な謎が深まってく。
彼らはなぜ、冷凍されていたのか。

 一人ずつ判明していく死体の素性。
彼らは皆、死の間際にいたことが分かる。
そして彼らの、身震いを起こすほどの死への恐怖が伝わってきて恐ろしくなる。
ただ、警察の視点で描かれている部分がそれを中和させてくれいて、ホラーの部分が薄まっていたために読みやすかった。
コールドスリープ、不死、延命、緩和ケアなど、死を考える題材にはいいかもしれない。

神の呪われた子 池袋ウエストゲートパーク19


 新興宗教「天国の木」に走った母親に振り回され、薬も病院も連れて行ってもらえずに、週末は布教活動に振り回されている女子高生のルカ。
50代の教祖の次の花嫁候補となってしまい、マコトはなんとか逃れようとするルカに手を貸すことを決める。
 転売目的でビンテージのウイスキーを狙い、小さなバーに嫌がらせを始める悪質なバイヤー。
闇バイトの連続強盗団などが登場する4編。

 宗教二世、闇バイトや転売ヤー、個人情報を盗み取る行き過ぎたファンなど、今回も今問題になってることがテーマ。
タカシとマコトのやり取りもいつも通り。
そしてタカシの強さも描かれている。その分マコトの知恵は今回はあまり出てこなかった気がした。

残照 アリスの国の墓誌


 新宿ゴールデン街に店を構えるバー『蟻巣』の最後の日。
マンガ家・那珂一兵が亡くなってからもミステリ好きの常連が集まったこの店で、彼らは思い出に浸る。
そして話題は、一兵のマネージャーをしていた姉の千鳥と、祖母の死における残りの謎に向かう。

 家を飛び出して似顔絵書きをしていた一兵が、有名漫画家となり、すでに死していたことに衝撃を受ける。
そして彼の生涯で付きまとった身近な人の死の謎と姉への思い。
今度も切なさがたくさん入っていた。
探偵役として登場しているもう一人の様子も気になるが、そちらは今後登場するのだろうか。

馬鹿みたいな話! 昭和36年のミステリ 〈昭和ミステリ〉シリーズ


 昭和36年、中央放送協会(CHK)でプロデューサーとなった大杉日出夫から、ミステリドラマの脚本を手がけることになった風早勝利。
キャストをそろえ、様々なトラブルを乗り越えたクライマックスで、主演女優が殺害されるという事件が起こる。
現場のスタジオには大勢の人がいたのになぜ!
風早と那珂一兵は、大きな密室となったスタジオでの事件に挑む。

 一兵と風早、大杉、瑠璃子と、おなじみの顔がそろう。
今度も辛い過去を覗くことになり、それやはっぱりよく知った顔。
事件は解決しても切なさが残るのは毎度同じで、今回はある程度覚悟ができていたためダメージは少なかった。
それと、これまでよりはマイルドなイメージ。
ラジオがメインだった時代に、テレビの世界へ飛び込んだ大杉たちの大きな挑戦の話。

たかが殺人じゃないか (昭和24年の推理小説)


昭和24年、敗戦した日本に進駐軍が推し進めた改革で男女共学の新制高校3年生になった勝利少年。
推理研と映画研の二つの部合同で行われた修学旅行替わりに一泊で湯谷温泉に行くことになった。
楽しんでいた部員たちだが、そこで一つの殺人事件に遭遇してしまう。
さらに夏休みの間にもう一つの事件とも出くわし、勝利は推理小説家を目指す身として事件に挑む。

 『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』に続くとあったので、同じ少年が主人公かと思ったら、彼は成長していた。
そして今度は絵描き兼探偵として、事件を解決へと導いていく。
前半は一兵が出てこないので、全く別の話かと思っていた。
しかし、まだまだ未熟な勝利少年の助けとして呼ばれた一兵が、落ち着いた青年として現れ、ゆっくりと皆を納得させていく様子は別人のようだった。
さらに、今回の殺人も背景には悲しい過去が隠されていて、やり切れない気持ちで終わるため、スッキリ解決したわりには切ない気分が残る。

書架の探偵、貸出中


 推理作家E・A・スミスの複生体(リクローン)のE・A・スミスは、図書館間相互貸借の制度によって、海沿いの村の図書館に送られた。
そこで母親と暮らしている13歳の少女チャンドラに借り出された彼は、何年も前に姿を消した彼女の父親探しを頼まれる。
解剖学教授の父親は革装の本を残しており、その本には極寒の氷穴がある“死体の島”の地図がはさまれていた。
そしてチャンドラからは、また別の依頼を受けてしまう。

 ウルフの未完の遺作。
スミスと同じように図書館の蔵者として作られた者たちと共に、地図に書かれた場所を探す。
いくつかの謎を解いて帰ってきたスミスは、次にチャンドラの依頼である家の幽霊を探り始める頃には、章の間のつながりが亡くなってきて、まだ未完である所以を感じることができる。
扉の向こうが異世界とつながっているという、前作と同じ展開が出てきたときは少しがっかりした。
それでも前作はうまく断絶させる方法をとっていたことを思うと、今回はどんな手段ができただろうかと想像することは楽しい。

一橋桐子(76)の犯罪日記


 仲良しのトモと一緒に住んでいた桐子は、トモが死んで途方にくれていた。
年金と清掃のパートで細々と暮らしているが、このままでは孤独死が待っている。
絶望していた桐子の眼に、テレビで高齢受刑者が刑務所で介護されている様子が映る。
「犯罪を犯して刑務所に入ろう」と決心する桐子。
ただ、どうすればいいのかが分からず、つい仕事先の顔見知りに相談してしまった。

 この先どうやって生きていこうと考え出すと不安しか残らない桐子。
偽札をコンビニのコピー機で作ろうかとするが、店員だった雪菜と友達になってしまったり、ステキだなと思っていた男性が詐欺にあってしまったり、犯罪には縁がなかった桐子の行動がやけにコミカルで明るい。
そしていろんな問題にちゃんと解決もして、最後は明るく読み終えられる。

博物館の少女 騒がしい幽霊


 明治16年、博物館の怪異研究所で働くイカルは、陸軍卿、大山巌とその婚約者、山川捨松の博物館観覧への動向を求められる。
恐縮するイカルだが、捨松との会話で彼女が好きになる。
そしてそんなある日、捨松の兄、山川健次郎が怪異研究所にやってきた。捨松と巌の結婚後、大山邸で続いている怪異現象の謎を解き明かしてほしいという。
研究所の所長であるトノサマは、イカルを幼い娘たちの教育係として大山邸に送り込むことを思いつく。

 二作目のようだが、問題なく楽しめた。
歴史上の人物である捨松の話はあちこちで出くわすが、どれも自立した素敵な女性として描かれており、この作品でももれなくそうだった。
そんな彼女の頼みを受けたイカルが、複雑な結婚をした捨松の元へ行き、怪異を覗こうとするのはとても楽しく、幽霊を怖がる使用人たちとは違って微笑ましい場面も多かった。
結局人間の仕業の方は決着がつき、不可解なものは不可解なままで、人には理解できないものとして残る。
それでも不思議と消化不良な気分はない。