山の上の家事学校


 政治部の記者として忙しくしていた幸彦だが、離婚して1年。
家のことは何もできず、すさんだ生活を送っていた。
そんな時、妹からある学校を教えられる。
そこは、労働として認められにくい「家事」を教える学校だった。

 家のことを手伝っていると思っていたけど、「ここから先は自分の仕事じゃない」と思っていたことが多かった。
妻から「一人になった時のために」と勧められた。
など、入学の理由は様々だけど、やらなければ生活の質が下がったり、体調を壊すことになること全般を教える学校。
近頃こうゆう、「男たちへの静かな抗議」が題材の本がよくある。
確かに「そうそう」と思う事は多いし、できれば意識を変えてもらいたいとずっと思ってきたけど、そうゆう相手はたいてい本など読まない。

贖罪の1オンス


 老舗おもちゃメーカーのお客様相談室で日々電話対応をしているの佐伯。
ある日、2億円に相当する金貨を1週間以内に用意しないと針を仕込んだぬいぐるみをばらまくという脅迫状が届く。
警察へ届けるよう進言するが、上層部は隠蔽を測る。
犯人を突き止めようと過去のクレームを洗い出し、一人の人物に目を止める。
それは、3年前に起こった、自社製品のカイロが爆発して幼い女の子が火傷を負った事件だった。
そしてなぜか、犯人への金貨の受け渡しを佐伯がすることになってしまう。

 企業への脅迫という、大掛かりな事件。
ユーザーに寄り添おうとしない上司にいいくるめられ、正直でいたい佐伯は苦しむ。
上手くいくはずもない犯行だが、思いもよらない犯人と、計画の告白が妙にしんみりとする。
ただタイトルはなんだかしっくりこなかった。

私の死体を探してください。


 人気作家の森林麻美がブログで自死を宣言し、「「私の死体を探してください」というメッセージを残して姿を消した。
担当編集者の池上は新作原稿を手に入れるためにあらゆる手を使って探そうとする。
しかし、家じゅう探しても手がかりはなく、そのうえブログでは次々と麻美の近親者の秘密が暴露されていく。
果たして麻美の意図は、そして本当に死んでいるのか?

 少しづつ明かされる秘密と新作。
麻美が高校の時に起こった衝撃的な事件の真相も加えて、周囲の人をじわじわ追い詰める。
暗くはなく、ホラーでもなく、長いわけでもないのですぐに読めてしまう。
結論も思わせぶりだけど、嫌な後味はない。

殺しも芸の肥やし 殺戮ガール


 10年前、高校の遠足で生徒30人と教師が乗ったバスが忽然と姿を消した。
墜落した気配もなく、わずかな痕跡さえないまま時がたち、この事件で姪を失った奈良橋は、刑事となっていた。
ある日管轄内で起きた「作家宅放火殺人事件」を担当することになるが、そこから不可解な人物が浮かび上がる。
気になって調べていくと、その人物は女である以外は顔も体系も違うが一人の人物へとつながっていることが分かる。
次々と人を殺しながらいろんな人物に成り代わる殺人鬼。

 天涯孤独な人物を見つけては、巧みに入れ替わる女。
まるでスパイのようだが、その実ただの殺人鬼。だがその女のかなえたい夢はなんとお笑い芸人という。サイコなのかコメディなのかわらかない。
恐ろしいけどそれぞれの人物も細かく描かれていて気になってしまい、あっという間に読めてしまう。
ホラーというわけではないので嫌な読後感もなく、謎のまままた姿を消す。

アンと幸福 和菓子のアン


 東京デパートの食品売り場、「みつ屋」でアルバイトをしている杏子。
食べることが大好きで和菓子も大好きなアンが、今回はちょっと冒険をする。
「みつ屋」も新しい店長を迎えて新体制。
しかし、新店長の藤代は、年配の客や子供を連れた客のときだけ横入りのように会話に入ってくる。
その理由が分からず悩むアン。
アルバイトから正社員へとの誘いを受け、悩むアン。
そして新しい場所へ。

 長くあいたシリーズで細かいことろは忘れているけど、読み始めるとするすると蘇る世界感。
正社員を選んだアンが初めて出張で出かけた菓子の祭りでの出来事はちょっと大げさな気がするけど、おいしそうな和菓子や言葉の歴史などが分かりやすく楽しく解説されていておもしろかった。

時間の虹 紅雲町珈琲屋こよみ


 コーヒーと和食器の店、小蔵屋。
最近間違い電話が多いこと、そして久美が一ノ瀬の話を全くしなくなったこと。
不安なことが重なるが、お草さんは敢えて普段通りに過ごす。
これまでとは違う問題が起こりそうな不穏な雰囲気に包まれていた。

 小蔵屋が閉店!?
もうなじんだシリーズだが、今回はサブタイトルが不穏で驚いた。
いつの間にか過ぎている時間が、より不安を引き立てる。
そして小蔵屋閉店。
何があったのか、お草さんは何を思っていたのか、想像が膨らむばかりで一向に解決しない。
でも何か区切りではある感じはした。

午後のチャイムが鳴るまでは


 九十九ヶ丘高校のある日、昼休みに禁じられた外出を企む男子。
先生に見つからず、午後の授業に間に合うように帰ってくるというミッションに挑む。
文化祭で販売する部誌の表紙に入れる予定の絵が出来上がってこない!
屋上にある天文部の望遠鏡からある日突然消えた女子生徒。
学校で起こる小さくてもばかばかしくても青春だった出来事。

 クラスで起こる出来事の一つ一つが大事だった頃。
そこで起こる出来事をあっという間に解き明かす生徒会長。
バラバラの事件だけど、探偵役はあっという間に気付く。だけどあえてそれを解かずに関わる人に任せて気づかせる。
全部読んでやっとつながりが楽しく感じる。

新宿特別区警察署 Lの捜査官


 歌舞伎町、新宿二丁目、三丁目を管轄する「新宿特別区警察署」。
そこへ日着任の新井琴音警部は、小学三年の息子のインフルエンザで初出勤に送れそうだった。
夫は警視庁本部捜査一課の刑事だが、琴音の方が階級が上であることで屈託を抱えている。
琴音がなんとか出勤したとたん、管内で殺人事件が発生したので出動の号令がかかり、さらにその夜、二丁目のショーパブ上階のイベントスペースで無差別殺傷事件が発生する。
新宿二丁目という特殊な場所で起こる、性的マイノリティのために追い詰められた人たちの事件。

 幹部になって初めての事件。
新しい配属先で起こる、これまでの価値観を覆される琴音。
調べていくにつれ、思いもよらない価値観と感情にあふれる琴音に、読むうちにこちらも感情を揺さぶられる。
そのうえ苦しい現実の描写が多いためこちらも苦しくなるが、読みやすいので一気に読んだ。

春休みに出会った探偵は


 中学2年生の花南子は、父親の海外勤務によって春休みから曾祖母の五月さんが経営するアパートで一人暮らしを始めた。
その矢先、五月さんがぎっくり腰で入院してしまう。
一人五月さんの部屋でいる時にあて先不明の封筒が届き、その内容のおかしさに気を惹かれ、同級生の根尾くんと調べようと決める。
すると偶然出会った無愛想だけど親切な男性の手助けを得ることができ、花南子たちは彼を”名探偵”と呼ぶことにした。

 中学生ではできることが限られていて、しぶしぶながらもそのフォローをしてくれる探偵に信頼を寄せ始める。
もちろん謎はご近所さんのことだし、そうそう世界は広がらないけど、子供の不自由さをできるだけ越えようと頑張る花南子の様子が力いっぱい表現されている。
春休みの自由さが自立心を引き立てているようだった。

明智恭介の奔走 屍人荘の殺人シリーズ


 神紅大学ミステリ愛好会会長・明智恭介。
探偵に憧れ、謎を求めてあちこちに出入りしては名刺を配り歩く変人。
サークル内で起こった不可解な盗難、商店街での噂の真相、わずか数分で起こった試験問題の盗難騒ぎなど、身近で出くわす日常の謎に迫る。

 『屍人荘の殺人』より前に葉村と共に挑んだ謎。
変人だが、ミステリを求めるエネルギーは大きい。
屍人荘であんなにあっさり姿を消したのが今でも意外なほどの存在感で、葉村から見たちょっと滑稽な様子がまだ未熟な探偵感が出ていてでおかしい。
それに確かに小さな謎だが、商店街の謎はほっこりさせれたし、シリーズにあるような政治的な陰謀がない分読みやすかった。