名探偵再び


 親戚に名探偵がいたらしい。
父の探偵事務所が閉鎖になり、生活に困るようになった我が家では、その名探偵がいた高校への特別枠を使って私立雷辺(らいへん)女学園に入学した時夜翔。
翔自身は探偵のノウハウなど持っていないが、あまりにも有名な親戚のせいで、学校で起こる事件を解決させられる羽目になる。
困った翔は、30年前に学園の悪を裏で操っていた理事長・Mと対決し、とともに雷辺の滝に落ちてなくなってしまったというその場所へと出向くと、なんと幽霊と出会ってしまった。
幽霊の知恵を借りながら、翔はいくつかの事件を解決する。

 探偵なんてできない翔が、学園生活を乗り切るために考えたのが、推理は全部幽霊にまかせて自分はその名誉だけもらおうというもの。
相談を持ち込まれるたびに幽霊に会いに滝まで行き、すっかり名探偵となってしまう。
あまりにも有名な親戚のせいで逃げられない翔だが、ハッタリと幽霊の知恵で乗り切ろうとする様子が面白い。
そして黒幕と思われる人物には予想がついていたが、それでも一番重要な事にはすっかり騙されていた。

カーテンの陰の死―ツイスト博士シリーズ


 殺人の現場に偶然居合わせたマージョリー。
その犯人と同じような恰好をした男が、自分のいる下宿人の中にいて慄く。
そしてハースト警部のところには、同居人が殺人者の眼をしていると訴えてきた婦人を追い返していた。
続けて、玄関先で突如ナイフに刺されて下宿人の一人が死ぬ事件が起こり、ハースト警部とツイスト博士は捜査に乗り出す。
その下宿屋には、個性の強い人たちが集まっているだけあってなかなか犯人が見えてこず、またその事件が75年前に起きた迷宮入り事件とそっくりであることがわかり、事件は複雑になっていった。

 ツイスト博士の推理は最後に驚くことを暴く。
下宿での事件と75年前の事件とのつながりが分かってほっとした瞬間、それまで気にもしなかった事が出てきてしまう。
ツイスト博士の推理が、見過ごせない過去を拾ってきたことに驚き、種明かしも意外で面白かった。

まぼろしの女 蛇目の佐吉捕り物帖


 十手を預かる若い岡っ引きの佐吉は、亡き父の人徳で周りからは親分と呼ばれてはいるが、まだ若造で自分の生業に自信が持てずにいた。
ある朝、大川で若い女の死体があがるが、服ははぎとられて髪までそられているという惨いものだった。
身元が分かるものもなく、佐吉は必死で調べる画全く手がかりがない。
友人であり町医者の秋高と共に依頼を調べ、推理したのちにわかる真相は、驚くべきことだった。
 死体のそばに二十四文銭を残す連続辻斬り、病でろくに動けない老人が殺された事件、佐吉が江戸本所を走る。

 検死をする医者の秋高と共に、佐吉が出くわす殺しの事件。
不可解だったり理解できない考えだったりと様々で、よくある設定ではあるものの起こる事件が珍しいことばかりで興味が沸いた。
立場が違えば考え方も違い、それに納得できなくて悩む佐吉を見ていると、まだ経験は浅いがとても頼もしく感じる。

絵師金蔵 赤色浄土


 幕末の土佐、髪結いの家に生まれた金蔵は、絵の才能を見込まれ、江戸で狩野派に学び「林洞意美高」の名を授かる。
郷によびっ戻された金蔵は国元絵師となるが、商人の身分で国元絵師にまでなった金蔵をやっかむ者に贋作を作ったと冤罪をかけられ投獄されてしまう。
なんとか放免になったものの、親友の死、弟子の武市半平太の切腹、師匠の死、そして大地震と、金蔵を悲しみが襲う。
幸せとは何かを追い求め、たどり着いた金蔵の色とは。

 いきなり投獄のシーンから始まるので、どんな偏屈な主人公かと思っていまいち集中できず、読み進める気がお空なかった。
でも少しづつ進めていくと、金蔵の人となりが見えてくる。
それでも史実をなぞっている部分は淡々として、絵への執着はそれほど見えてこなかった。
血の赤を厄払いと考える金蔵にたどり着いてからは、時代の流れの速さを追いかけるようにあっという間に何年も後の話になって追いつけないところもあった。

牧谿の猿 善人長屋


 裏稼業を持った者たちばかりが住む長屋だが、なぜかいつも人助けをする羽目になるので「善人長屋」と呼ばれている場所がある。
そこでただ一人だけ、裏も表も善人の加助が拾ってくるこまりごとは、長屋の全員で解決すると決まっていた。
ある日加助が連れて帰ってきたのは、大事な根付を無くして憔悴したお内儀だった。

 加助が拾ってくる人たちは、どれも結構深刻だ。
命を助けてもらった相手からもらった根付を無くして憔悴していたり、商家に盗みに入った賊を切り殺してしまった侍への恨みだったりする。
厄介な困りごとを拾ってくるが、加助のために長屋の者みんなで策を練る仲の良さが羨ましい。
そして最後は最初の盗賊へと話が戻り、善人長屋の名にふさわしい活躍をする。
毎回、彼らの裏の職業の話はほとんど出てこないが、それぞれの得意を生かしてはいる。

彼女は逃げ切れなかった


 父の介護のために5年前に早期退職した纐纈古都乃。
介護が終わってからは燃え尽き症候群のようになり、さらに先月古い友人の訃報も届いたとあって、共通の友人である刻子のやっている洋風居酒屋で飲み明かす日々。
ある朝道端でひき逃げを目撃したが、その時不思議な現象を起こす双子に出会う。
後日、刻子の店で偶然再会した双子と共に、元警察官の古都乃は事件を見抜いていく。

 不思議な力を持つ双子と元警察官という組み合わせが面白かった。
古都乃が考えていることがどんどん書かれているので、とめどないおしゃべりを聞いている気がしてあっという間に時間が過ぎる。
ただ、あくまでも元警察官の立場なので、推理に終わり、その後の真実までは明かされない。
もっと考察できるのではと続きを考えたくなる。

写楽女


 寛政六年春、日本橋通油町にある地本問屋の「耕書堂」で女中として働くお駒。
ある日買い物に出る途中に見かけた、この辺りでは見ない雰囲気の男。
その人は、「耕書堂」の主・蔦屋重兵衛から写楽と名付けられた絵師だった。
五月興行が始まり、「耕書堂」に並んだ錦絵は人々を驚愕させる。
気を良くした重兵衛は、次の興行で売り出す絵の手伝いをお駒に命じ、それからはひたすら線を描く練習を始める。

 写楽の物語の中では割と軽めのお話。
写楽の人物像も、秘められた謎の人物というより寡黙で実直な部分を強調してあり、さらにお駒は北斎の幼馴染としている。
当時名を馳せた絵師たち。そしてその中で、写楽に寄り添った女の話として、お駒から見た絵師たちの時代を描く。
読みやすく、また登場人物の個性がはっきりしていて悲壮な部分もなく、ただ錦絵の世界を楽しめる。

最後に二人で泥棒を: ラッフルズとバニー3


 前作で戦争に参加し、その最後の話でラッフルズが負傷したバニーと話す場面で、ラッフルズの言葉を最後まで聞かないうちにおそらく気を失ったであろうバニー。
その後ラッフルズの行方は分からず、帰還したバニーが彼との思い出を語るという、手記のような今作。
そして今作は、バニーの恋の話も含まれている。

 ラッフルズの思い出を、その活躍で語るという今作だが、意外にもバニーが活躍した事件が多い。
これまでのようなぼんくらなイメージが少し和らぐが、相変わらずバニー自身に自信がなく、ラッフルズの言いなりになっている面が卑屈に見えてしまう。
今回はバニーの機転や行動力が功を奏するものがあったが、ラッフルズの人格はやっぱり不遜で、紳士というより悪ガキのよう。
なので、ラッフルズが海外では有名で人気者という話はまだ信じられない。

またまた二人で泥棒を: ラッフルズとバニー2


 ラッフルズが海へを消えてから数年、バニーは刑務所での勤めを終え、犯罪に関するエッセイで生計を立てていた。
そんな時届いた一通の電報。
そこには、新聞の求人欄を見ろと書かれており、求人は<病弱な老人が男性看護師>を募集するものだった。
バニーは、これは自分あてだと察し、すぐさま応募する。
病弱な老人とは、ラッフルズのことだった。
再会した二人は、再び行動を開始する。

 海へ落ちたラッフルズは、一人たどり着いた島のぶどう園で働いていて、恋をした。
そこでの経験をバニーに語った効かせる場面は刺激的だったが、2人がまた行う事は前と同じように、バニーへの説明は最小で、相棒をは言い難い。
それでも1作目よりはラッフルズのやり方が決まってきたので役割ができてくるが、バニーの少し抜けたお人好しは変わらなかった。
最後は二人して戦争に参加し、そこで会話の途中で途切れた意識のまま終わるのが、なんだか哀愁を誘う。

東京ハイダウェイ


 東京・虎ノ門の企業で働く桐人は、何度も希望を出してやっと配属されたマーケティング部門で、仕事への向き合い方がつかめず、また有能と期待されている同期との確執で疲弊していた。
ある日、普段は無口な同僚の璃子が颯爽と通り過ぎていく場面を目撃し、思わず後をつける。
そこで桐人が見たのは、昼休憩の間の短いプラネタリウムプログラムでで静かな時間を送る璃子だった。
 桐人と直也の上司にあたるマネージャー職として、中途で採用された恵理子。
しかし人事のトラブルで疲れ切った恵理子は、ある日会社へ向かう電車から降りないことにした。
終点でみつけたそこは、夢の島だった。
 ある会社の中の人間関係を、一人ひとり切り取って見つめる。

 誰の話もかなりしんどい。
読んでいると苦しくなってくるが、短編だとわかっているので読み進められる。
人には見せない部分の苦しさにさらされて、短い割には気分の消耗が激しかった。