白の王


 廃墟の塔が林立する“塔の森”で、大人になって魔鳥から攻撃されるまでの子供の間、孤児たちは塔に棲む魔鳥が盗んできたものを集めて暮らしていた。
ある日そこへ、魔鳥に緑の宝石を盗まれたという男が立ち寄る。
宝石を見つけたアイシャは、まさにその時、魔鳥から攻撃を受けて落下したが、気が付くと胸に宝石が埋まっていた。
宝石は取り出せず、アイシャは男と共に旅に出る。

 偶然助けた子供を道連れに旅をして、やがて魔族の王と出会うというのがこのシリーズの大きな目的だったようだ。
青と赤で大きな存在感を残した翼船は世代交代をし、新しい街や、そこでの文化、不思議な力とそれを使う者たちなど、強い印象を残すものがたくさん登場した。
白の王ももれなく力強く、静かだが偉大さは十分伝わる。
一番読みごたえがあった。

青の王


 豊かな水の都ナルマーンでは、王が魔族を支配していた。
その都で盗みを働いたとして捕まった少年ハルーンが、投げ込まれた枯れ井戸の先に見つけた扉の先で、捕らえられた少女を見つける。
その少女を助けて逃げるうち、運よく出会った翼船の女船長と共に、少女の名前を取り返す旅を始める。

 「赤の王」とは違う眷属の、青の魔族は、長い間人間の支配下にあり、辛い思いをしてきたせいで荒んだ者が出始めていた。事情を知らずに助けた少女とハルーンとの出会いが偶然ではなかったことが最後に明らかとなり、すべては均衡の保たれた美しい時代を取り戻すまでの物語。
こちらも赤の王と同じような運命をたどり、奪われた力を取り戻すことができる冒険譚。
戦いの壮大さと、青の王城の想像できる美しさ、危機と、手助けしてくれる人たちの人物像など、「赤の王」よりもインパクトは強い。
登場人物の魅力もこちらの方が上回っていた。

幽霊たち


 栄養失調と脱水症で入院中の作家・横江の元へ、刑事が訪ねてきた。
加形野という男が、子供の頃に仲の良かった多治見康祐を殺害し、自首してきたという。
そして、事情は横江へ聞いてくれといったらしい。
加形野に覚えがない横江は、次第に多治見と過ごした40年前の記憶をたどり始める。

 人間関係がややこしく、幽霊まで出てきて、40年前の出来事を振り返り始めるが、いつしか当初の事件のことは忘れ、40年前からの複雑な人間関係に振り回される。
分かりづらいうえに、出来事もおかしなことばかりで納得いかないまま進み、最後は幽霊ばかりの昔語りとなる。
煙に巻かれたような読後感。

鳥居の密室: 世界にただひとりのサンタクロース


 ある喫茶店で、たくさんある時計の中で、たった一つの振り子時計だけが、なぜか毎日動き出す。
その謎を、いくつかのヒントをもとに解き明かした御手洗は、10年ほど前に起こった殺人事件のトリックと同じだと言った。
 それは完全な密室となっていた家に、サンタクロースが少女にプレゼントを置き、母が殺されていた事件。

 同じような現象を解き明かす話はいくつかあるため、すぐに原因は予感できるが、それが昔の殺人事件まで解決していくとなると面白くなってくる。しかし、それぞれが最後まで真実を隠していたくらいの大きな訳が、解決されていないまま。
真実を見つけたら、後はそれぞれで納得するように勝手になんとかしろと突き放された感じ。

証拠死体


 作家ベリル・マディソンが、自宅で無残に殺されているのが発見される。
調べていくと、彼女は何かにおびえ、遠くまで逃げていたにもかかわらず、自宅に戻り、その晩に殺されていた。
防犯ベルも稼働していたのに、なぜ。

 前作では、ケイはマリーノのことを嫌悪していた。
でも今回は少しづつ頼りにしてきている。そんな関係はきっと長く続くだろうと思うと先が楽しみになる。
前作で存在感を示していた姪のルーシーが登場しなかったのが残念だが、それでも十分読みごたえがあった。
そして今回は、検死官という職業でしかわからないことがキーになっているので、やっと彼女の存在感が出てきたと感じた。
ただ、マークのうさん臭さは消えないまま。ケイが簡単に信用してしまうのが不思議でしょうがない。

捜査官ガラーノ


 マサチューセッツ州捜査官のウィンストン・ガラーノは、上司のラモントからの突然の命令で、いつも振り回されていた。
今回も遠いアカデミーでの研修を受けるよう指示され、そしてまた、20年前の老女殺害事件を再捜査するよう命じられる。

 結局何だったの?と言いたくなるような内容。
上司は地位ある人物としての魅力が全くないし、主人公に至っては見た目が美しいと書かれているだけで行動も仕事面でも特徴がない。ストーリーも惹きつけるところがないまま終わり、疑問すら思いつかないほどどうでもよくなった。
これはもう他を読もうと思う気が起こらない。

就職相談員蛇足軒の生活と意見


 研究者志望のシーノは就職に失敗し、職安に通う日々。
ある日目についた「急募 秘書1名」の張り紙に惹かれやってきた蛇足軒というところ。
嘘術という怪しげな道の家元だという。
すぐさま採用となったシーノは、雇い主のもう一つの顔である、就職相談員の仕事を手伝うことになる。

 現代のパラレルワールドのような、微妙に違ったところのある現代。
やってくる求職者も変わった人(?)ばかり。
彼らに適切な職業を紹介するというのは面白い視点だが、後半は失速。
独りよがりで飛び出し、ホームレスのような生活をしてみたり、これまでを簡単に捨ててしまい、人にも頼らず、本来の話からどんどん遠ざかる。
ちょっとしたトラブルや失敗で絆が深まるのとはどこか違い、気がそがれてしまった。

神奈川宿 雷屋


 神奈川宿の茶屋・雷屋では、隠れて宿屋もやっている。
割高にもかかわらずやってくる客といえば、訳ありやおかしな人ばかり。
ある日、女中をやっているお実乃の目の前で、客が突然死んだ。年寄の客だったために事件とはならなかったが、四日後にはまた二人、泡を吹いて死んでしまう。
 お実乃は不審を抱き、原因を探り始める。

 不穏な雰囲気がずっと付きまとう話だった。
おかげで読んでいても気分が悪くなり、誰も信用できないし誰の気持ちもわからない。
締めの章となってようやく明るい気分になって終われたが、どうも不信感が残ったままになってしまった。

落花狼藉


 売色稼業の西田屋に拾われ、店の娘分として育った花仍は、主の甚右衛門の妻となり、女将となった。
夫の甚右衛門が13年越しに御上に願い出ていた「売色御免」が認められ、徳川幕府公認の傾城町・吉原を作り上げたが、それからも、奉行所からは無理難題を突き付けられ、さらにすべてを焼き尽くす大火事も出た。
そんな吉原の時代を生き抜いた一人の女の生涯。

 花仍が何を思い、何を願って生きたのかがじっくりと描かれていて、事が起こるたびこちらもいちいち息をのんだり苦しくなったりと、感情を振り回された。
吉原の悲喜こもごもではなく、遊女屋としての形を成す過程が書かれたものはあまり見ないので興味もそそられ、花仍が人生の最後に思った艶やかな景色が目に浮かんだ。

小さき者たち


 屍体が悪霊にならぬよう見守る“家守”として、父と共に暮らしてきたモチカ。
父の後を継ぐと思っていた自分の運命が、ある日訪ねてきた祖母によって一変した。
突然連れてこられた大きな町で、少年たちが15歳になると必ず受けることになる神からの“試しの儀”に臨むモチカ。
そこでは、献上人として神に命を捧げる者を選んでいた。

 一つの国の繁栄と衰退。
高い理想で作られた国は、世代を重ねるごとに建前が増えていく。
理不尽な仕来りに疑問を持つものたちの声が亡霊となって襲ってくる不気味さと、従うしかない者たちの窮屈な不満がとぐろを巻いて順番にやってくる。
決まり事を外から見たときに感じる滑稽さが目いっぱい詰め込まれていて、描写も細かいので、状況がくっきりと目に浮かぶ。