太平洋食堂


 明治の世、無理やりなこじつけとも思える罪で死罪となった大石誠之助の半生。
山と川と海に囲まれた紀州・新宮で生まれ、その風変りな人となりで人気者だったドクトル大石が、どんな人たちと友好を結び、どんな縁が元で不幸な終わりを見ることになったのかを、作者の時代考証や人物考証と共に読み解いていく。

 不思議な魅力があった大石誠之助の人物像がまず描かれ、それから一風変わった親族たちや、才能豊かな友たちを交えて時代の理不尽を解く。
そのページ数の多さから、じっくり読もうと覚悟をしていた割には、ほんの二日であっという間に読んでしまえる吸引力があった。
それほど昔でもない日本でのこと。そして、一人をじっと観察するように描かれていることで、むやみに入り込まないでいられ、そのおかげで自分なりの考察も持ちながら読めたため、ただ物語を楽しむだけでは終わらず、ずいぶんとエネルギーのいる読書となった。