血霧(下)


 刑務所にいたキャスリーンが急死したという知らせが入る。
駆け付けたケイは、熱湯に触れる機会がないはずの収監者が火傷を負っていることに不審を持つ。
さらにジェイミーまでが死体で発見され、ケイは数時間前までジェイミーと一緒にいたことで恐怖に慄き、巻き込まれた事件に真剣に向き合うことになる。

 キャスリーンの死体に見られた不審な火傷や、これまでの被害者が死ぬ前に訴えていた症状の類似点から、ケイは一つの可能性にたどり着く。
そしてまた恐ろしい事実にも気づくが、サイコパスと思われる人物の血のつながりに恐怖を感じる。
ケイが自宅でドーンに襲われた時と同じく、またルーシーに助けられた。
決着がついた結末は明るい。

血霧(上)


 殺人鬼ドーン・キンケイドの母で、女子刑務所にいるキャスリーン・ローラーからの依頼で接見することになったケイ。
ところが、レンタルした車が違っていたり、予約したホテルも誰かにキャンセルされていたりと不審なことが起こる。
それはルーシーとジェイミーが仕組んだことだった。

 仕組まれたことに腹を立てながらも放っておけずに付き合うケイ。
しかし、身近な人に様々なことを黙っていられたことにばかり気を悪くしている。
愚痴が多いのは以前からだが、誰もかれもを責めるのにはうんざりした。
9年前の事件に新事実が出てきたことに興味を惹かれて付き合うことにしたケイだが、あまり主体的に動いてないのでだらけた感じ。

わかれ縁


 夫婦となって5年。働かず、借金を作っては飲み、幾人もの女を作ってなお離縁に応じない夫に失望し、家を飛び出した絵乃。あてどなく歩いていると、離縁の調停を得意とする公事宿「狸穴屋」の手代に拾われる。
そこで絵乃は、離縁を依頼した。しかし手間賃を払えない絵乃に「狸穴屋」の主人・桐は、手代として働くことを進める。

 身投げをもくろんでいた絵乃に、新しい道を示してくれた「狸穴屋」。
そこで様々な夫婦のありようと別れ様を見て、絵乃は自分の視野の狭さを知り、夫との離縁を決心する。
桐の度胸と気持ちのいい啖呵に、自分も世界が広がる気がした。
最後に見せた絵乃の裁きには、空恐ろしい執念も感じつつ、溜飲も下がる思いで複雑な後味を残す。

高校事変 VI


 修学旅行中、同じ班の5人からのいじめに耐え切れなくなった結衣は、仕返しをした後でこっそり宿を抜け出した。
来る途中でバスから見た、ヤクザのカモとなっていた貧困家庭の集まる地域へと足を向け、そこで銃の密売と少女売春の斡旋を目にする。

 今度は少女が被害にあっている場面がたくさん出てくる。しかも相手は軍人。
そしてどうやら捕まっていた凛香と再会はしたものの、すぐさま襲い掛かってくるほどの敵意を向けられる。
それでも息はぴったりで、隠蔽されようとしていた犯罪を明るみに出すことに成功する。
それにしても、一つ一つの行動がすべて後のつじつま合わせへの工作となっていて、どんなことが起こっても回収できるような小細工をしているのは恐ろしいとも感じられる。
そしてまた一人、結衣の兄弟が登場しそう。

高校事変 V


 武蔵小杉高校事変で優莉結衣と交流を持った濱林澪は、ショックのため不登校になっていた。
そこで、事件に遭遇した生徒を対象にした救済措置としての転校で、ある農業高校に見学に行く。
教師の言動に違和感を感じた澪は、とっさに結衣に助けを求める。
その学校では、生徒たちの知らないところで巨大なプラントが作られており、結衣にとっては忘れられない記憶と結びつく化学兵器が作られていた。

 学校へ招かれてそのまま恐慌に巻き込まれるのはもう何度目になるか。
結衣の容赦ない仕打ちは想像すると恐ろしいが、それは結衣に敵意を向けるものだけに限り、結衣の心に少しでも近づいてこようとした人は見捨てない。そのため、次に繰り出す技はなんだろうと期待すらしてしまう。
田代親子だけでなく、新しく登場した理系の高校教師が次の脅威か。

ジグザグヨークプルオーバー


使用糸:リッチモア バカラエポック<ファイン>(24)
編み図:「じっくり編んで永く愛せるニットのふだん着」 から
     ジグザグヨークプルオーバー 220 g 9号針

前回

使用糸:ハマナカ アルパカモヘアフィーヌ グラデーション(108)

あしたの華姫


 江戸、両国の見世物小屋では、「真実を語る」と評判の華姫がいる。
それは木偶人形で、使い手の月草が声色を変えてしゃべっているのだが、近くで見ても人形とは思えないほど人間にそっくり。
そして華姫は、両国一帯を仕切る地回りの親分の娘・お夏からも贔屓をいただいていた。
そんな時、親分の山越がお夏と共に風邪で寝付いてしまう。すると巷は、跡継ぎが誰になるかでもめ始めた。

 ずいぶん久しぶりの華姫。もう設定すら忘れていたのに、全く気にならないほどすんなりと入り込める。
軽くて読みやすく、明るい内容で、華姫の華やかさもあって、どんな事件が起こってもどこか微笑ましい。
周りのもめ事を収めるといった内容は作者のほかのシリーズと同様だが、こちらは常に明るい気分でいられる。

変死体(下)


 失踪したままのフィールディングを疑う証拠が次々と出てくる。そのうえ検死の結果の不可解な面の解明も進まない。
スカーペッタは、部下の行動に動揺し、これまでの自分を振り返り攻め続ける。
やがて、ルーシーが見つけた小型のロボットと被害者の部屋にあった試作品のロボットとの関係を突き止めることで、事件はしだいに政治的な意味合いも浮上してきた。

 長年の部下だったフィールディングが、時々精神的に追い詰められている様子がありながらもこれまで大きな不安にはなってなかったはずなのに、今回は踏みとどまれなかった。
仲間の身内がサイコパス的な要素を持っていたのはマリーノに続き2例目。
それにいつのまにかケイの呼び名も一人称に戻っている。
内容も、突然また検死を重視しはじめ、人物像も何もかも、ブレが大きい。
科学的な技術としては面白い要素がたくさん盛り込まれていることと、事件の解決がなされていることでとりあえず納得。

変死体(上)


 米軍監察医務局で半年間の研修を受け、明日には帰るという日、スカーペッタはマリーノとルーシーにヘリで法病理学センターまで送られる。
スカーペッタが責任者となっているその新しい仕事場は、自分のいない間に無法地帯となっており、そこへ運び込まれた遺体が冷蔵庫の中で大量の血を流すという、常識では考えられない現象が起きていた。

 タイトル通りの変死体が何者なのか、また死んでいたはずの遺体から血が流れだすということがなぜ起こったのか。
事件を追う本筋は興味をそそるが、大半はどうでもいいことでつぶされ、忘れた頃にやっと次の情報が出てくる。
そのため、多くのことを忘れている。
これまではマリーノを気の毒なくらい貶めていた流れが、今度は長年の部下であるフィールディングに向かっていて、好青年を一気に「使えないおじさん」にした。
本来の事件の話はたまたま今手を付けている仕事なだけとでもいいたげな軽んじた扱いになっているのが残念。
とても興味深い事案なので、早く本来の仕事をしてほしい。

焦眉 警視庁強行犯係・樋口顕


 世田谷区の住宅街で投資ファンド会社を経営する男性が刺殺された。
捜査一課の樋口班も特捜本部に参加することになり、怨恨の線だと感じていたが、東京地検特捜部の検事・灰谷が現れ、被害者と親友だった野党の衆議院議員・秋葉康一の周囲を探り始める。

 樋口の良さがふんだんに出てくる。
どんなに立場が上の人に対しても、反発してくる人に対しても、いつの間にか樋口のペースに巻き込まれ、考えを変えたりする。
こんな人が見方だと力強い。
今回は無茶な混乱を招いた東京地検の者が捜査をかき回し、ハラハラさせた。
そして一つの事件が終わった時、また一人樋口の見方が増える。