スカーペッタ (下)


 なりすましの人物から立ち上る噂が一段とひどくなる。
そして、頼ってきたはずのオスカーも、彼女の前から逃げるようにして消えてしまった。
それでもスカーペッタはオスカーを信じようとし、捜査の途中でマリーノとも再会する。
また昔のように4人がそろい、それぞれの得意分野を生かして犯人を突き止め、オスカーの身に起こった真実を解き明かした。

 シリーズ何冊か分のギスギスした物語がやっとなくなり、雰囲気も柔らかくなってきたせいで、穏やかに読み進められた。
オスカーの言葉がどれくらい本当なのかが明かされた点も、読み終わってほっとした。
これまでのように、途中で説明するのが面倒になったから勝手に推察してくれ、といったような突き放した終わり方ではなくなった気がする。
遺体や証拠品と向き合うスカーペッタも戻ってきた感じ。

スカーペッタ (上)


 ベントンの妻となり、二人でニューヨークへ移り住んだスカーペッタ。
そこに、恋人殺しの嫌疑がかかった青年から「スカーペッタにしか話さない」と言われ呼び出される。
ベントンの近くにいながらも、立場の違いから詳しいことは話せず、二人の間には壁があるように感じてしまうスカーペッタ。
青年がスカーペッタにだけ話した攪乱捜査は、何を意味するのか。

 恋人の死を疑われた青年に接見したというだけなのに、なぜか話のほとんどは1年前にマリーノがスカーペッタにしたレイプ未遂の件の暴露と嘘交じりの醜聞。
そして事件の方は、全く関係のなさそうな事件につながりがあるように見える、という「前と同じ」感。
ただの身内のいざこざの話になってきた。

こわれもの


 漫画作家・陣内。漫画は人気絶頂、婚約者もいて、陣内は幸せの中にいた。
ところが突然、恋人の里美が事故で死んでしまう。
衝撃のあまり、陣内は連載中の漫画のヒロインを作中で殺してしまった。
ファンからは抗議の嵐。しかしその中に、里美の死を予言した手紙がみつかり、陣内は差出人にコンタクトをとる。

 幸せから一転、絶望へと転がり落ちた陣内の行動は、動揺をそのまま表して一貫性がなくなってしまう。
そんな彼に寄り添おうとする手紙の差出人を、陣内が信用してしまうのは当然のことだろう。
最後のどんでん返しのための伏線もちゃんとつくってあり、混乱も大げさなくらいに次々と起こる。
でも、やっぱりどこにでもある流れ。「やっぱりか」としか思わなかった。

泣きの銀次


 妹を殺され、その時から死体を見ると大泣きしてしまう銀次。
大店の跡取りだったのに、犯人を捕まえるために岡っ引きになった銀次には「泣きの銀次」という二つ名までついた。
身投げや行方不明などの、いまだ真相がわからない事件を探るうち、銀次は不審な行動をする人物に目を付ける。

 安定の宇江佐真理。
読みやすく、心情も想像しやすく、軽快なストーリー。
銀次の人となりにも近づきすぎず遠すぎずで観察できるので、周りの人物の気持ちまで想像できる。
大の男が大泣きするシーンなど、銀次のキャラクターが面白く、人物も皆、嫌みがないので読後感も良い。

異邦人(下)


 人気テニスプレイヤーを殺した「サンドマン」を追うスカーペッタ。
ドクター・セルフに振り回されながらも、ルーシーの力を借りてなんとか真実を探り出す。

 意外な血縁関係が明かされる。
でもスカーペッタはもう検死をほとんどせず、証拠品の調査の方に力を入れているよう。
そしてベントンからは指輪をもらったのにすれ違う日々。
唯一ブルが固い雰囲気を和らげてくれた。

「再考し、配役を変え、一新する」という作者の言葉は、作品に魅力を足す結果にはならなかったようだ。
マリーノが心配。

異邦人(上)


 女子テニス界の人気者だったドリューが遺体となって発見された。
その様子は異様で、眼球がくりぬかれ、砂を入れられたうえで接着剤で瞼をくっつけられており、さらに複数個所で肉がえぐり取られていた。
イタリア政府から依頼を受けた法医学コンサルタントのスカーペッタは、ベントンと共に調査に乗り出す。

 もう過去の話となると思っていたベントンの脳の研究や、ドクター・セルフまで再登場してきた。
セルフとベントンのかみ合わない会話に息苦しくなり、マリーノの壊れ具合は痛々しくて見ていられない。
一貫してまっとうな人物であったローズにまで災難が訪れ、読んでいて気が滅入ってくる。
この雰囲気をがらりと変えてくれる人物が登場してきてほしい。

アクセントカラーのプルオーバー


使用糸:ハマナカ ソノモノロービング (92)
    毛糸ZAKKAストアーズ ごきげんWool(07)
編み図:おうちニット vol.4 より
      「アクセントカラーのプルオーバー」 510 g

輪舞曲


 松井須磨子の舞台が忘れられず、女優になると決心した繁。
夫と子供を残して東京へ向かい、劇団でキャリアを積み、人気を得る。
女優・伊澤蘭奢の人生を、4人の男の目から描く。

 一大決心をして上京し、あくまで舞台にこだわり、40歳で死ぬと言い、愛人や息子との時間を楽しんだ女性。
いろんなことが起こるが、まるで教科書のように淡々と紡がれるだけで、そのうえ4人から見た彼女像ということもあり、
印象が一貫しない。
さほど活躍したようにも見えず、「二十歳になったら死ぬんだもの」と言っていた駿雄の友人の妹のほうがよほど印象深かった。

祟り神 怪談飯屋古狸


 怖い話を聞かせるか、実際に幽霊が出るというところに行って確かめると飯代がタダになるという飯屋「古狸」に通う桧物職人修業中の虎太。
押し込みで皆殺しになった家に肝試しに行った若者3人のうち、一人が行方不明になったという話を聞いて、虎太はその家に泊まり込むことになる。その夜、死体が埋まっている夢を見た虎太。すると本当にその場所から男の遺体が発見される。

 本当は怖いことが大嫌いな虎太が、今度も怖い思いをさんざんする。
しかしちょっとは慣れてきたのか、怖がるついでにいろんな情報まで手に入れている。
怖いながらもちゃんとおかしなことをやらかす虎太は見ていて楽しいが、皆塵堂と溝猫長屋と同じテイストなのでそろそろ飽きてくる。

神の手 (下)


 遺体の体内から見つかった薬莢は、2年前に押収されたショットガンだった。
殺される直前には、庭のグレープフルーツの木に今はもう使われていない印をつける不審な人物が目撃されている。
また別のところでは、ベントンが調査していた被験者である囚人のDNAが、ルーシーが探していた魅惑的な女性と一致したりと、不可解なことが続く。

 ひどい経験が起こした人格障害が、今回のカギ。
不審な行動をする人物が多くて混乱したが、みな同じ要因だったことで納得はいくが、すっきりしない。
突然終わる結末が、すべてを解明されたわけではないような気がするためで、せっかく複数の人の目線で書くことに変えたのに、スカーペッタやベントン側以外からの解釈がされずに終わっているせいである。
書き方を変えたのは犯人側からの目線を盛り込むためではなかったのか。