焔【ほむら】と雪【ゆき】 京都探偵物語


 鯉城は、怪我をして警察を辞めてから、探偵をしている。
病弱の幼馴染の露木の知恵を借りながら、立場の違う二人だから気づく視点で可能性を探り真実を見つけていく。
自らに火をつけて死んだ男、別荘で鳴り響く怒号の謎、製薬会社社長の妻に付きまとう不審な男など、大正の京都で起こる事件を追う。

 二人の立場が違うおかげで見えてくる世界が違うが、お互いの思いが推理に大いに左右されていて、どっちも納得がいく部分もあればいかない部分もある。
特に露木の執着が大きく、その部分だけ見れば不気味でもあるが、起こる事件はいつの時代も変わらない人の思いだった。
二人の対比は面白いが、推理には強引な部分があった。

蠟燭は燃えているか


 宇宙ホテルでの事件から無事逃れ、脱出ポッドの中で生演奏をした京都の女子高生真田周。
しかし、待っていたのは配信動画の炎上だった。
それから周の周りは迷惑系動画配信者や動画絵の誹謗中傷で日常を過ごすことも困難となる。
そんな時、週の動画に「まずは金閣寺を燃やす」というコメントが書き込まれ、そこから次々と国宝や文化財が放火されていく。
一連の放火にはどんな意味があるのか、週は瞳子と会えるのか。

 宇宙ホテルの結末からすぐの出来事。
瞳子を探すために配信した動画から、京都の文化財の多くが焼かれてしまうことになってしまい、周は戸惑いながらも瞳子へ近づいている事を感じている。
加害者であり被害者でもある周の周りに集う、加害者家族と被害者家族。
彼らの思いが煮詰まって思い雰囲気となる。
でもどこかに、いくら子供でもそこまで世間知らずかと思うような行動や、逆にそこまで大きなことを考えついて行動できるのかといった違和感もあった。

ワトソン力


 自分の周りの人の推理力を大きく上げる力を持つ和戸。
だがなぜか自分にはその力がでないので、和戸の所属する警視庁捜査一課の検挙率は前代未聞の10割という。
しかしなぜか、彼はとらえられ、窓のない小部屋に連れてこられていた。
犯人は顔も出さず、なぜ連れてこられたのか分からないまま監禁された和戸は、これまで自分には効果がなかったその力を、自分に使ってみる気になった。
そしてこれまで和戸が解決してきた事件を思い返す。

 周りの推理力を高める力をワトソン力と名付けた和戸。
これまでの7つの事件を順に思い返していくのだが、どんな状況でも発揮される便利機能だが、それがかえって身を危なくしてしまう。
居合わせた素人みんなが拙い推理を発表する場面はおもしろく、これだけのバリエーションを考えるのは大変だと勝手にねぎらいたくなる。

令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法


 架空の法律で、その法律に振り回される人々の様子を描く。
過剰な動物愛護の精神で、動物にも教育を受ける権利や性質に応じた環境を得る権利などができ、それに従って裁判も起こるようになった。
自家製の醸造酒を家庭の味とする風習が広がった世界。
現金が禁止された世界など、今の社会で問題になっていることを法律にしてみた結果。。

 今世間で問題になっていることを、ちょっと大げさにしてみたらどうなるか、そんな極端な世界を想像してみる。
ゾクッとするような怖い事も起こり、どうなってしまうのかと不安になる。
これまでの新川帆立の作品とはちょっと違ったダークな世界。

名探偵じゃなくても


 いつもの居酒屋で飲んでいた三人は、紳士然とした男性・我妻に声をかけられた。
彼は、かつて小学校の校長を務めていた楓の祖父の教え子なのだという。
今は認知症を患っている祖父だが、今でも楓が持ち込む相談事を聞くと頭がさえ、名探偵のごとく謎を解いていく。
そんな祖父に、我妻は相談があるという。

 少しづつ進む祖父の症状に心を痛めながらも、謎を解く時に見せる顔が見たくて通う楓。
ただ、岩田と四季の楓への思いが語られるうちだんだんうさん臭くなっていく。
それは楓に魅力が感じられないためで、都合よくプリンセスに仕立て上げられて行っている。
極端な自己犠牲に走る四季にも同情しにくい。

泥棒は深夜に徘徊する ― 泥棒バーニイ・シリーズ


 仕事の決行は週末と決め、今夜は下見だけのつもりだったのに、どうしても別のいい場所を見つけてしまったら立ち去れなくなったバーニィ。
しっかり道具も持っていたことから、忍び込むことに成功するが、そこでまたもや住人が帰ってきてしまう。
ベットの下に隠れたバーニィ。
そこで彼は、なんとも嫌な場面を見てしまう。
さらに、偶然その一画で別件の強盗殺人が発生しており、街角の防犯カメラに姿をとらえられていたために、今度は殺人の容疑者になってしまう。
そこでバーニィは今度も自分の無実を証明するために走り回ることになる。

 偶然だと思われたことが仕組まれたことだったり、そこにバーニィのちょっとした嘘も混ざってますますややこしくなってくる。
そして国をまたいだ犯罪に絡んできて歴史の知識も手に入り、バーニィはすっかり探偵となってしまう。
今回はちょっとわかりにくかった。
最後のキャロリンとの種明かしが楽しみになる。

育休刑事


 捜査一課の巡査部長である秋月は現在、育休中である。
男性刑事として初めての1年間の育児休暇中、生後3ヶ月の息子を連れていると、世界が今までと違った見え方をする。
そしてトラブルを呼び込む体質の姉と一緒に出掛けていたある日、偶然入った質屋で三人は強盗に出くわしてしまう。
育休中なはずなのに、被害者であるはずなのに、息子を抱いたまま捜査に加わることになってしまう秋月。

 育児中であるがゆえに気が付く目線で捜査をするという特殊なタイプ。
現在の社会問題もいくつも盛り込まれていてなるほどと思える部分も多いが、いくつも続くとうんざりしてくる。
縁のない人でも気づきにはなるが、ちょっと盛り込みすぎでしんどかった。

泥棒は野球カードを集める


 このところ古本屋の仕事で満足しており、しばらくは泥棒を辞めていたバーニィ。
しかし大家から、急に家賃を上げると言われ、困り果てる。
そしてちょうどミュージカルのチケットを買おうと並んだ列で、裕福な夫婦が旅行に出るという話を小耳にはさんだ。
バーニィは家賃を払うために仕事をすることにしたのだが、入り込んだ部屋で、またもや死体を見つけてしまう。

 仕事先で死んだ人間と出会うのが上手いバーニィ。
今度もまた、美女に利用され、死体にも出会っている。
関係してくる人たちが皆誰かを利用してくるためにややこしかった。
警察官であるはずのレイがバーニィに解決をせかしてくるという妙な関係もすっかりなじみ、レイが出てくると、ここで流れが切り替わるという指針にもなっている。

泥棒は抽象画を描く


 友達のキャロリンが飼っている猫が攫われた。身代金は25万ドルで、払えなければある絵画を持ってこいという。
美術館のものは警備が厳重なので、個人所有の物を狙おうと計画たバーニィは、とある高級なマンションへ忍び込む。
ところがそこにあったはずの絵が無くなっていて、代わりに住人の死体があった。

 バーニィの入るところには必ず死体がある。
無くなった絵はどこへ行ったのか、バーニィは捜索を開始するが、今回は登場人物が多すぎて把握しきれなかった。
さらに同じマンションでもう一つ死体が出てきてからは、美術館や銀行の人たちも巻き込んでどんどん話が大きくなる。
そしてバーニィは泥棒なのに、皆の前で犯人を指し示すという探偵となる。

鏡の国


 ミステリー作家だった叔母の室見響子が亡くなり、その相続権を譲り受けた私。
彼女の遺稿が見つかってそれを出版したいという話が出た時、私は原稿を読んで叔母のことが嫌いになった。
しかし編集者の勅使河原は、原稿には「削除されたパート」があるのではないかと言い募り、私へ再度原稿を読むように言ってきた。
ほとんどの部分はノンフィクションだという話を読み返しながら、私は叔母の人となりを考え直すきっかけが訪れたと感じていた。

 叔母が書いた小説と、それを読む私との間で話は行き来する。
小説の中の主人公とそれを読んでいる私とのどちらかに感情移入することもなく、読みやすい。
話が進むにつれ解明してくる真相に驚きつつも、大御所ミステリー作家の描いたものであるというには少し物足りないと感じた。
作家になる前の習作である設定であるとはいえだ。
結末のやり取りも削除された部分も、これはどうも胡散臭いという感じがあって、どちらの最後も消化不良だった。
そのため、最終章以外の面白さが消えてしまって印象はイマイチ。