姥捨て山繁盛記


 軽度の認知症を診断された亮輔は、山間にある高齢者介護・医療を目玉とする「シニアの郷」へ入居を決める。
そこは、いずれダムに沈む集落への移住の保証金を使って建てた施設だった。
ダム建設が進まないのは、建設に反対した1%の住人が、そこで自給自足の生活をしていたせいときき、亮輔は好奇心から覗いてみる。
すると、山のシニアの郷よりも生き生きと生活している人々がいた。

 すでに何億もかかっているダムの建設を今更中止にできないというメンツと、美しく作物も美味しい里を守ろうとする人たちとの長い戦い。
プロローグの部分ですでに興味を失ってしまい、読み進めるのに苦労した。
移住をしない人たちの生活は豊かに見えるが、破綻する危険が大きいのも見て取れるために手放して応援しずらい。
しびれを切らして強引な手段に出るダム賛成派との闘いが一応は終結するが、安心できる状況とは言えないためずっとハラハラして終わる。
それに、「姥捨て山」と「姥捨て村」の言葉が混在し、どちらに向かせたいのか曖昧。

神々の宴 オーリエラントの魔道師たち


 本の魔道師ケルシュが夜に頭にけがをした少年を拾う。
少年に付き従うジャッカルは、彼の闇の部分を切り出した存在だった。
生命の魔導師は亡霊ともいえる自分の傷の命乞いを頼まれ、自らの寿命と引き換えにしてまで救う命かと苦悩する。
黒い運命を呼吸する魔道師たちが、その力と共に背負う苦悩を描く短編集。

 それぞれの力が不思議で面白い。
魔導師たちの個性もステキなのに、短編で急に終わってしまうので物足りなく感じる。
いろんな魔導師がいる、それを想像するだけで楽しい。
急に断ち切られる話が消化不良のままで落ち着かない。

解錠師


 8歳の時の事件がきっかけで声を出せなくなったマイク。
だがあることに興味を示し、彼は驚くほどの才能を発揮した。
それは絵を描くことと、どんな鍵でも開けること。
やがて高校生となったマイクが、同級生に乗せられて忍び込んだ家で捕まったことがきっかけで、プロの金庫破りの弟子となる。
そこから続くマイクの人生を、彼の独白と共に綴る。

 子供の頃の出来事と、大人になり解錠師となったマイクとの二つの視点が入れ替わりつつ、彼の人生が語られる。
時に起こる大きな仕事と危険。
そうやってマイクが10年も入れられている刑務所からの独白へと続くが、一言も話さないのに周りの出来事だけで充分生き生きとしている。
それでも刑務所へと続く人生の話のため全体的に暗いイメージが付きまとう。
あちこちに飛ぶ時代と視点と、マイクの思い込みと好転しない人生とで、楽しく読めると言った雰囲気ではなかった。

初瀬屋の客 狸穴屋お始末日記


 訴訟の手続きや裁きが出るまでの間の宿を生業とする公事宿。
そこへ見習いの手代として入った絵乃。
絵乃自身も、借金と浮気を繰り返す夫との離縁を経験しており、訴え出る人たちの今後の人生が良くなるようにと仕事を張り切る日々だった。
そんな狸穴屋にやってくる客は、諍いや屈託を抱えている。

 主に離婚を扱う狸穴屋。
生業はいろいろだが、作者は人々の人情をじっくり書くものが多い。
今回も市井の人々ばかり出てくるが、皆なぜか影が薄い。
話も終わったら忘れてしまうようなものばかりで、印象に残る出来事はなかった。

魔法律学校の麗人執事1 ウェルカム・トゥー・マジックローアカデミー


 スポーツでも学業でも日本一の、修道院育ちの野々宮椿。
好きな男の子から「女としてみれない」と言われて落ち込んでいた時、魔法の天才・条ヶ崎マリスの執事にならないかと通りすがりのオジサンから誘いを受ける。
女だということを隠し、男子寮で暮らすことになってしまう。
棒弱婦人の主人・マリスに振り回されながら、魔力ゼロの一般人である椿が魔法と法律の学び舎・魔法律学校に入学する。
生意気なオレ系主人と男装の執事の、恋と魔法のファンタジー。

 これまで法律の小説をたくさん出してきた作者が、ライトノベルシリーズとして出したのがいきなり魔法学校。
魔力は遺伝で決まり、その力を持った数少ない人たちだけが日本を動かしているという設定。
あまりのギャップに追いつけないけど、王道のファンタジー。

キノの旅XXIV the Beautiful World


 キノとエルメスが旅の途中で出会った人たちや国の話、24段。
わずかな温度差でも許せない人たちの国では、国の空調温度の設定で国民投票が行われていた。
若者しかいない国や、冗談を言ってはいけない国など、今回も不思議な国がたくさん。

 今回はキノの師匠の話もあった。
長い年月を経て持ち主のところへ戻ってきたライフルの話は、いつもの皮肉な国の話とは違ってセンチメンタルな雰囲気。
これまでより残酷さが減った国が多かった。

矢上教授の午後


 夏のある日、大学の古い研究棟に偶然居合わせた人たちが、停電によって建物に閉じ込められてしまう。
電話もつながらず、エアコンもなく外は大嵐で出ていくこともできず、ただ天気の回復を待つひと時のはずだった。
しかし、そこでなぜか大学関係者でもない男の死体が見つかってしまう。
犯人がまだこの中にいるかもしれない状況で、午後のティータイムのお供にと矢上が真相を突き止めようとする。

 小さな謎も大きな謎も、盛り込みすぎてどれが解決に向かっているのか全くつかめない。
さらにそれぞれの章が短く、ころころと場所も視点も変わっていくので流れがつかみにくかった。
最後にはすべて解明するが、どれもなくても良かったのではと思うような小さな出来事ばかりで興味も沸かず、退屈な午後といった感じだった。

女たちの江戸開城


 慶応四年、鳥羽伏見の戦いに敗れた十五代将軍徳川慶喜が江戸へ逃げ帰って来た。
江戸へ向かって官軍が進発しようとしている中、慶喜の弱腰を非難する者もいたが、慶喜は江戸を戦場にしたくないと言い、自ら蟄居する。
そこへ、慶喜から朝廷との仲立ちを頼まれた皇女和宮の密命を受けた大奥上臈・土御門藤子が、京都へ向け命がけの旅をすることになった。

 藤子が持つ和宮の親書を、京都の帝へ。なんとしても。
人がたくさん死んでいく戦をなんとかして止めるため、そして和宮を京都へ戻すため、藤子は急ぐ。
その旅の中で護衛としてついてきた者たちとの絆も生まれるが、死んでいく者もいた。
怖い思いを何度もしながら、大奥で地位のある立場だった藤子がやり遂げるのは2度の旅だったのだが、話は旅のことだけだった。
江戸開城というタイトルなのに、城のことも大奥のこともほとんどなく、ただ急いだ命がけの旅のことばかり。
藤子と仙田のことは気になるが、タイトルとの違和感が大きかった。

ミノタウロス現象


 史上最年少市長で市長になった利根川翼。
支持率を気にしつつ、くだらない因習やおじさんたちのマウント取りにうんざりしながらも真面目に仕事をこなしていた。
そんな時、世界のあちこちで角を持ち、ヒトよりも大きな体と力を持った怪物が現れる。
その怪物への対策を話し合うことになっていたある日、議会の最中に突然怪物が現れた。
何とか銃殺したものの、なんとそれは着ぐるみを着せられた議員だった。

 現代に、ファンタジーのような怪物が現れる。
それでもただの不可解な現象ではなく、ちゃんと出現や生態を検証していて、対処法まである。
最初はあまりの非現実感に醒めていたが、そのうち理由を考え始めた頃から私も一緒に検証に立ち会っている気になってくる。
空想ではあるけど、こうゆう人知を超えた現象が起こることもあるかもしれないと思って楽しめた。

時空犯


 私立探偵、姫崎智弘の元に、報酬一千万円という破格の依頼が舞い込んだ。
依頼主は情報工学の権威・北神伊織博士で、なんと依頼日である今日、2018年6月1日は、すでに千回近くも巻き戻されているという。
そして集められた人は8人。
皆にも巻き戻しを体験してほしいというものだった。
しかし再び6月1日が訪れた直後、博士が他殺死体で発見される。

 時間が巻き戻り、同じ日を永遠に繰り返し、しかもその記憶まであるという。
情報伝達としてのプログラムに、人間の情報を吸い出して大量にかき混ぜたら、知恵をもつ何かが生まれるのではないかという途方もない研究。
荒唐無稽だけどかなり理論的な説明があり、研究の一分野という感じはある。
その繰り返しの中で人を殺すという検証をした犯人を追い詰めることができはしたが、犯人の考えも理解できない分野だった。
人知を超える、全く別のものと出くわしたとき、どうすればいいのか。