深夜の博覧会 (昭和12年の探偵小説)


 昭和12年、銀座で似顔絵を描きながら漫画家になる夢を追いかける那珂一兵。
彼のところへ、帝国新報の女性記者・瑠璃子が開催中の名古屋汎太平洋平和博覧会の取材に同行して挿絵を描いてほしいと訪ねてきた。
名古屋へ向かった二人だが、銀座で名古屋にいた女性の切断された足が見つかったというニュースが入り、それが一兵が好意を寄せている少女の姉だとわかる。
一兵は、似顔絵描きで培った観察眼で事件を推理する。

 どうやら続き物だったようで、ところどころ一兵がこれまで手掛けた推理の話が出てくるが、今回の事件については全く問題なく読めた。
男女それぞれの嫉妬が起こした事件でもあって、彼らの性質が事件の起こし方に大きく関係していて恐ろしかった。
殺された杏への残酷さも辛いが、彼女のために一生をかけた犯人の執念も恐ろしい。
しかし生きている者に対する願いもあって、ただ憎むだけでは終わらないため、最後は一兵の切ない思いだけが残った。

雨の日は、一回休み


 人事から、セクハラ被害の訴えが出ていると告げられた課長。40を過ぎたオジサンだが、ジムでマメに運動しているので見た目はそこまでみっともなくないはずだ。
なのに誰が訴えてきたのか。次の日から部下を観察する日々。
 妻は気づいていないはずと侮って浮気をしていたために離婚された男が、10年ぶりに娘に会ったのが病院だった。
40代で派遣社員の男が、憂さ晴らしにつくった女子高生を騙ったSNS。
 オジサンたちが、変わってしまった時代への嘆きをこぼし、女性たちは困ったオジサンたちの様子に苦笑いをする。
そんなお話。

 自分の感覚が信じられなくなるほど変わってしまって、もうどうしていいかわからなくなったオジサンたちと、こんなオジサンに困っていますという女性たちの、すれ違う思いがコミカルに描かれている。
ちょっと愚痴が多いため、全体的に僻みっぽくて雰囲気は軽いとは言えないが、オジサンも女性たちも実感する部分はありそう。

アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿


 娯楽系ウェブマガジン『アウターQ』編集部。
そこで新人ライター湾沢陸男は、子供の頃によく遊んでいた公園で不思議に思っていたことを調査しようと企画する。
公園の遊具の隅に書かれた不気味な言葉。それを紐解いていこうというのだ。
しかし大人になって知恵を絞ってたどり着いたのは、思いもよらぬ真実だった。
 さらに、湾沢が数年前に遭遇した花火大会での事故にもつながり、知らないうちに誰かを傷つけ、死ぬ間際まで追い詰めていたことを知る。

 気楽なウェブマガジンの、ちょっと不思議な身近な出来事を追求するはずが、人の人生を変えてしまう事件にたどり着いた。
そんな繋がりがあったのかと素直に驚いたが、それがどんなに気軽にやったことであっても、怖いほどの憎しみを受けたりもすると思うと、簡単に何かを発表するのをためらってしまう。

いつまで【しゃばけシリーズ第22弾】


 若旦那が行方不明になった。
まずは噺家の場久、次は火幻医師が消え、それを助けようと若旦那も影へ行ってしまう。
そして長崎屋は経営が傾き、許嫁の於りんとも縁が着れようとしていた。
なぜか5年後へ飛ばされた若旦那は、すべては西から来た妖・以津真天の仕業だと気づき、5年前に戻るか、またはここで生きていくか、選択を迫られる。

 とうとう時空まで超えてしまう若旦那。
いつもの面目は周りにいるが、どうも妖の話というよりSFになってしまい、今までのようにいくつかの章に分かれてもいないでまるまる一冊がこの話だった。
進まない話にしんどくなってくる。

誰に似たのか 筆墨問屋白井屋の人々


 白井屋の、三代にわたる人たちのそれぞれの立場から見た胸中を、一人ずつ描いた短編集。
商才はあったけど女にだらしなかった店の前主人が死に、隠してあった妾の存在が明らかになったり、跡取り息子の頼りなさに頭を悩ませる当代主人。
親の反対を押し切って惚れた相手と一緒になった者の、すぐに死なれて今は貧乏暮らしをしている妹と、その娘。
手習いで嫌みを言われてずる休みをしようとした跡取り。
周りの思惑はどうあれ、自分の気持ちをただ大事にしたいと奮闘する白井屋の者たちの、頭の痛い日々を綴る。

 それぞれの立場で見た白井屋のことが語られていくが、たいてい不満で埋まる。
一つの家族の内情がよくわかりはするが、誰もがなにかしらの屈託を抱えて生きているんだと気づかされる。
でも不満ばかりで読んでいる方はあんまりいい気分ではなかった。

怖い患者


 区役所に勤務する愛子は、同僚女子の陰口を聞いたことがきっかけで、たびたび「発作」を起こすようになり、クリニックを受信すると「パニック障害」と言われた。
この恐怖がただのパニックのはずがないと、愛子はドクターショッピングを始めてしまう。
 介護施設を併設する高齢者向けのクリニックでは、利用者の人間関係が次第に悪くなり、雰囲気がピリピリし始めるが、施設長は平等に接しようとするあまり、解決させないまま放っておくことになっていた。
 など、クリニックの周りで起こる人々の思いを濃縮して毒に変えたような不気味さが漂う短編集。

 怖いのは患者だが、医者だって他の科にかかば患者に変わる。
うっすらと張った毒の膜を一つ一つめくって奥へ進んでいくようなうすら寒い怖さがあった。

トランパー 横浜みなとみらい署暴対係


 神奈川県警みなとみらい署刑事第一課暴力犯対策係係長・諸橋夏男。
管内の暴力団・伊知田組が関わっているという「取り込み詐欺」を調べ始めたが、ガサ入れに失敗する。
そして、警察内部からの情報漏洩が疑われ、県警本部と協力して始めた捜査が、いつの間にか公安や監察まで加わり、大ごととなっていく。

 やっぱりこれも同じパターンだった。
主人公を他のシリーズの誰に変えても成り立ち、もう誰が誰かわからない。
主人公の性格がバラバラならともかく、同じような人たちばかり。

無痛


 「見るだけで病を当てる」と言われる医師・為頼。
彼の元へ訪ねてきた一人の女性から、ある依頼を受ける。
神戸市内で起こった一家惨殺事件をやったのは私だと、精神障害のある少女が告白しているので真意を確かめてほしいと。
為頼は精神科医師として事件に関わることになる。
姿を消した少女、執拗に元妻を追い掛け回すストーカー男、無痛症の男と、そして心神喪失で罪を逃れようとする犯罪者への憎悪を抱える刑事たちとの絡まり合う因縁。

 一家惨殺事件がきっかけで関わることになった人たち。
出てくる人物のうち、複数の行動が不気味すぎて投げ出したくなる。
そして事件は解決しても安心できない状況のままなので、読後ももやもやと不安が残ってしまう。

週末探偵


 大学時代からの友人である湯野原海と瀧川一紀は、平日は社会人として働き、週末だけの限定で探偵をすることにした。
料金は無料。だけど週末だけとなるので急ぐ依頼はうけない。そしてなにより、二人が楽しめるような、日常のちょっとした謎を求む。
空き地に見つけた不思議な車掌車を事務所として、二人はのんびり依頼を待つ。

 ぽつんと置かれた車掌車を見つけ、それがなぜそんなところにあるのかという謎から始まった探偵。
だけど、犯罪にかかわらない、日常の謎を解くというコンセプトのはずが、刑事事件となるものが多すぎる。
殺しや誘拐にまで発展してしまい、のんびりでも楽しい謎でもない。
しかも謎を解くというわりには、思いついた推理が都合よく正解で、こじつけ感がすごい。
納得できる謎解きではなかった。

探花―隠蔽捜査9―


 横須賀基地の近くで他殺体が発見された。
刃物を持った白人の人物が目撃されたため、アメリカ人が関係している可能性を考え、米軍犯罪捜査局へ協力を要請した竜崎。
周りからは様々な反発があったが、しがらみや体面よりも事件解決を優先する竜崎のやり方が、次第に受け入れられていく。
さらに、息子が留学先で行方不明になったと知らされ、心配事を抱えての捜査となった。

 何を言われようと淡々と正しいと思ったことをやる竜崎。
近頃は度のシリーズでも同じテイストになってきて、区別がつかない上に同じパターンばかり。
事件そのものよりも、主人公の人間性をメインにしているためだが、それにしても似すぎている。