週末探偵


 大学時代からの友人である湯野原海と瀧川一紀は、平日は社会人として働き、週末だけの限定で探偵をすることにした。
料金は無料。だけど週末だけとなるので急ぐ依頼はうけない。そしてなにより、二人が楽しめるような、日常のちょっとした謎を求む。
空き地に見つけた不思議な車掌車を事務所として、二人はのんびり依頼を待つ。

 ぽつんと置かれた車掌車を見つけ、それがなぜそんなところにあるのかという謎から始まった探偵。
だけど、犯罪にかかわらない、日常の謎を解くというコンセプトのはずが、刑事事件となるものが多すぎる。
殺しや誘拐にまで発展してしまい、のんびりでも楽しい謎でもない。
しかも謎を解くというわりには、思いついた推理が都合よく正解で、こじつけ感がすごい。
納得できる謎解きではなかった。

探花―隠蔽捜査9―


 横須賀基地の近くで他殺体が発見された。
刃物を持った白人の人物が目撃されたため、アメリカ人が関係している可能性を考え、米軍犯罪捜査局へ協力を要請した竜崎。
周りからは様々な反発があったが、しがらみや体面よりも事件解決を優先する竜崎のやり方が、次第に受け入れられていく。
さらに、息子が留学先で行方不明になったと知らされ、心配事を抱えての捜査となった。

 何を言われようと淡々と正しいと思ったことをやる竜崎。
近頃は度のシリーズでも同じテイストになってきて、区別がつかない上に同じパターンばかり。
事件そのものよりも、主人公の人間性をメインにしているためだが、それにしても似すぎている。

敬語で旅する四人の男


 大学を出てから合っていない母に会いに佐渡に向かう真嶋。生まれ育った京都から出たくないと離婚された繁田。彼女からの束縛にうんざりする中杉。イケメンだけどこだわりが強く、曖昧な表現が苦手で空気を読むことができない男・斎木。
特に友人でもなかった男4人が、なぜか旅をする。

 不思議な距離感でつながる男たちの様子が奇妙で面白い。
特に大きな出来事が起こるわけではないが、友人とも言えない4人には、広々とゆったりした空間を感じさせる。
のんびり読むことができる。

優莉結衣 高校事変 劃篇


 ホンジュラスでの死闘の後、日本で帰ろうと少しでも日本に近づくために北朝鮮行きの船に潜り込んだ結衣。
ところが、途中で船が襲われ、結衣はかろうじて抜け出したが、気が付いたら北朝鮮の工作員と入れ替わっていた。
テレビなどの情報がない国だから、結衣の顔は知られていない。
それをいいことに、工作員を教育する学校へ入れられた結衣は、そこでまたもや銃撃戦に巻き込まれる。

 まさかの北朝鮮。
そこで優衣が淹れられたのは、潜入工作員を育てる高校。
必死で言葉を覚え、なんとかその生活に慣れた頃、結衣の素性がばれてしまい、クラスメイトや教師もろとも消し去られようとする国の圧力へ立ち向かうことに決める。
パターン化してきた。
また学校で、大人たちから狙われ、一部のクラスメイトと共に戦い、やがて命からがら抜け出す。
やっぱりどこへ行っても結衣は結衣。

誰が疑問符を付けたか?


 誰もが振り返るほどの美人でありながら、「鉄の女」「氷の女」「カミソリ女」という強面なあだ名で呼ばれるほどの冷徹な仕事ぶり。
愛知県警の警部補・京堂景子は、一瞬で相手を凍らせるほどの眼差しと声で事件現場を引き締める。
しかし家に帰るとラブラブな夫の新太郎の作る美味しいごはんに笑顔があふれ、そのギャップは誰も知らない。
今日も手料理を食べながら、新太郎が事件を解くカギを見つけている。

 表と裏の顔を持つ景子警部補の、頭脳は実は新太郎で、ちょっと話を聞いただけでヒントをつかんでしまう新太郎。
その変わり身のギャップが面白いが、事件は本当にあっという間に解決してしまうのでちょっと物足りなく感じる。
でも無理やり感はないので納得できる推理。

無明 警視庁強行犯係・樋口顕


 荒川の河川敷で見つかった高校生の水死体。
所轄は自殺と決定した事件だが、記者の遠藤から聞かされた疑問がひっかかった樋口は、再捜査を進言する。
いったん自殺で決着した事件を掘り返すのは、所轄のメンツをつぶし、他所の縄張りを荒らすことになる。
それでも樋口は、犯人を見逃してしまうことの方が重大だと、別動隊として探り始めた。

 きっかけが小さなことでも、気になったことは解決させる。
なぜか評価が高い樋口のやり方でいつも事件は解決し、周りは改心するが、安積班のようなチームでの活躍でもなく、今回は部下もほぼ登場しないため、どことなく独りよがりな感じがしてくる。
樋口の人徳の所以がいまいち納得できないため、共感もしにくかった。

楡の墓


 北海道の開拓時代を綴る短編集。
開拓の指揮を執る者が次々と変わり、その度に方針も変わる。
工夫は金をもらえればそれに従うが、幸吉は己のやっていることがどこにつながるのか、未来が見えずにいた。
地元から逃げて蝦夷へやってきた幸吉には帰ることろもなく、拾ってくれた年上の女性の元からも出ていこうとしていた時、ふと見上げた楡の木の下で、幸吉は己の人生を振り返る。

 開拓に関わる者たちそれぞれの目線から見た北海道。
でも、なんだかまとまりがないなぁと感じていた。
そして印象に残ったものを見返すと、それだけが最初に雑誌掲載され、残りはそれを元に書き下ろされたものだったようだ。
北海道開拓の物語はどれも、どこか淋しい雰囲気が残るものばかり。

少女は夜を綴らない


 「人を傷つけてしまうのではないか」という強迫観念に囚われている中学3年生の理子。
それは3年前に目の前で同級生が死んだ時から、理子にのしかかる強迫観念だった。
そのせいでカッターや包丁は触れず、医者にっても気のせいと言われ、理子は自らの衝動をノートに「創作」として綴っていた。
ある日、死んだ同級生の弟から、「姉を殺したことをばらされたくなければ自分の父を殺す手伝え」と脅迫される。
二人で計画を練りながら、やがて決行の日がやってきた。

 物騒な思いを抱える少年と少女。
さらに心の病の母とおかしな性癖の兄という、個性の強い二つの家族の話。
殺人の計画をずっと練っているため、全体的に暗くて剣呑で、読んでいて気持ちも暗くなる。
明るい友人たちにとても助けられているが、思春期特有の思い詰めたような感じが良く出ている。

シェルター


 小さな安らぎを与えてくれるシェルターのようなカフェで、10代と思われるとても奇麗な女の子に声をかけられる。
行く先もなく、帰るところもないと心細げな彼女を、恵は拾ってしまう。
恵自身も、都会から逃げてきたのに。
 その出会いから始まる、守りたい事と逃げたい事の葛藤が、恵と彼女を行方不明にさせる。

 豪快な整体師の先生のシリーズだったようだが、これだけ読んでも充分不自然じゃない。
過去に後悔を抱える姉妹と、同じく過去に因縁を抱える兄弟弟子。
そこにふわふわした一人の男が混ざった時点で、とても柔らかい雰囲気の物語となっている。
過去の重さに似合わない軽さであっさりと読めるところは良いが、すぐに忘れてしまいそうなくらいキャラクターたちの個性も軽かった。

ミステリなふたり あなたにお茶と音楽を


 愛知県警捜査一課、通称“氷の女王”こと京堂景子警部補は、頭脳明晰の優秀な刑事。
彼女の一言で現場は緊張し、くだらないおしゃべりは一瞥で止める。
だが、そんな彼女は家に帰るとイラストレーターの夫に甘えるツンデレな女だった。
そして、料理の上手な夫・新太郎は事件の話を聞いてさらりと真実を察してしまう名探偵で、二人は食事の合間に謎解きをする。

 おいしそうな料理と紅茶の香りが漂ってきそうな短編集。
事件は、京堂警部補に憧れる新人刑事・築山瞳が足となり、頭脳の新太郎と指揮の京堂警部補の3人で進む。
ことさら意外な結末というわけではないが、3人で集まったことはないのに見事なチームワークでするする進むので楽しい。