赤の王


 大砂漠で生まれた赤子は、赤い紙に赤い目をした、火を操る子供だった。
親代わりの師匠を殺され、逃げ出した子供・シャンは、バヤルという町でマハーンという少年と出会い、友情をはぐくむ。そして二人は砂漠の国ナルマーンからの使者と共に凶王サルジーンを倒すべく修行を積むが、やがて真実に気付き始める。
 
 ナルマーン年代記三部作の、完結編。
先のシリーズは読んでいなかったけれど、問題なくその世界を楽しめた。
少年の心の動きや大人たちの目論見、様々な技の使い手、面白そうな設定がたくさんあった。
そしてくどくならない程度の長さと軽いやりとりが、少しの間の現実逃避にはぴったり。

検屍官


 バージニア州都リッチモンドの検屍官ケイの下には、毎日のように解剖を必要とする遺体が運ばれてくる。
そんな中、今一番注目されている連続殺人事件の遺体には、異常なほどの残忍さの痕跡が残されていた。
犯人の痕跡はいくつか残されているものの、遺体が増えるばかりで捜査ははかどらず、難航していた。

 遺体に残された痕跡から手がかりを探す専門家。
その目の付け所に驚きと興味が沸くが、登場人物たちは皆それほど特徴がないため、区別しにくかった。
誰の考えが出てきても、誰でも言い出しそうなことであったり、どんな行動もさして特別意外でもない。
唯一印象に残るのは姪のルーシー。
彼女の活躍が今後出てくればきっと楽しくなるだろう。

夢は枯れ野をかけめぐる


 早期退職して無職の48歳、独身の羽村祐太は、ある日高校の同級会で奇妙な相談を持ち掛けられる。
暇な祐太はそれを受け、ご近所さんとの交流も楽しみ始めた。
祐太の周りで起こる、介護や孤独死などの、ちょっと憂鬱な大問題を、それぞれの視点から描く短編集。

 介護、惚け、死などの、暗いイメージのことを、祐太の視点でさらりとさせて語るため、気の重くなる事が思いのほか気詰まりではない雰囲気になっている。
最初は探偵ぽい立場を持たせようとしていたようだが、むしろ後半の祐太のほうが魅力的だった。
ご近所さんの、いろんな「老い」。

太平洋食堂


 明治の世、無理やりなこじつけとも思える罪で死罪となった大石誠之助の半生。
山と川と海に囲まれた紀州・新宮で生まれ、その風変りな人となりで人気者だったドクトル大石が、どんな人たちと友好を結び、どんな縁が元で不幸な終わりを見ることになったのかを、作者の時代考証や人物考証と共に読み解いていく。

 不思議な魅力があった大石誠之助の人物像がまず描かれ、それから一風変わった親族たちや、才能豊かな友たちを交えて時代の理不尽を解く。
そのページ数の多さから、じっくり読もうと覚悟をしていた割には、ほんの二日であっという間に読んでしまえる吸引力があった。
それほど昔でもない日本でのこと。そして、一人をじっと観察するように描かれていることで、むやみに入り込まないでいられ、そのおかげで自分なりの考察も持ちながら読めたため、ただ物語を楽しむだけでは終わらず、ずいぶんとエネルギーのいる読書となった。