亀と観覧車


ホテルの清掃員として働く涼子は16歳。
夜間高校に通い、怪我で失業中の父と、鬱病と言いながら毎日パチンコに通う母がいて、生活保護を受けている。
ある日、クラスメイトに誘われて「クラブ」へと出かけた涼子は、小説家だという初老の男性・南馬に出会う。

 南馬との出会いが、涼子の生活を変えていく。
父と母にうんざりしながらも放っておけず、こまごまと面倒を見る涼子の世界の狭さに驚き、ただのスケベ爺だと疑っていた南馬への見方も変わる。
面白がって受け入れてくれた南馬が逝き、両親の時は冷静だった涼子がどうするのか不安に思うところで終わるため、想像が膨らむばかり。

めぐり逢いサンドイッチ


 靭公園にある『ピクニック・バスケット』はサンドイッチ店
笹子と蕗子の姉妹でやっている小さな店だが、常連もいて毎日楽しい。
やってくるお客さんの中には悩みを抱えた人もいて、タマゴサンドが嫌いだという人には故郷のタマゴサンドを、コロッケが憎いという人にはサンドイッチにしておいしく、店主の笹子がふんわりとパンにつつんでくれる。

 ほんわかした笹子の雰囲気が心地よい店となっている。
どんな人も優しく見つめている感じがするが、穏やかゆえに印象も薄い。

圓朝語り


 ふと見かけた落語に感動し、侍の株を売ってまで弟子入りしたいと押しかけてきた蔓草に戸惑い迷う圓朝。
そんな折、大川のほとりで、蕎麦屋の娘が絞殺される。
お吉というその娘は、圓朝がよく通う店で愛想よく客をあしらう、人気ものだった。
下手人はわからないまま時がたつが、どうしても気になる圓朝は、個人的に調べようと思い立つ。

 師匠に嫉妬され意地悪をされても「悩んで芸の肥やしに」と言っていた圓朝。
その師匠が死んだあとの彼の芸は、悩み多きものだったようだ。
お吉を殺めた犯人を推理し、話を聞きに回っては徒労に終わるという日々の中で、あちこちから聞いた幽霊話や呪い、悋気で身を持ち崩す者たちのことを取り入れて新しい話を作ろうと苦悩する。
圓朝を語るうえで欠かせない「牡丹灯篭」、一度聞いてみたい。

噂を売る男 藤岡屋由蔵


 神田旅籠町、足袋屋の軒下にむしろを引いて古本を売る男。
その男・吉蔵が売っていたのは、裏が取れた噂や風聞といった事実。
人によっては使い道があり、またどう使うかは買ったものの自由という吉蔵のところには、時には侍や町年寄の隠居、果ては藩の関係者と、様々なものが顔を出すようになっていた。
そこでつかんだ噂がやがて、日の本を揺るがす大事件とつながっていく。

 町の噂を売る男。
きっちり裏を取るやり方で信用を得ていた吉蔵だが、危ない奴らも呼び寄せていたために起こった事件。
手下が命を落としてしまうという、どうしても許せない一件を追ううちにわかる事の大きさに驚くが、興味も沸く。
急がず、自棄にならず、じっくり詰めていく話の進め方が、頼もしい力に後押しされているようで落ち着いていられた。
さらに史実での顛末を知っているために、事件の大きさより吉蔵の気持ちに想像を働かせることができた。

もういちど


 廻船問屋兼薬種問屋、長崎屋の若旦那・一太郎は、暑さで倒れ、熱を出した。
いっそ北の涼しいところに家を買おうという話が出ていたところ、あちこちで雨ごいのために呼ばれた竜神が酒に酔い、川を荒れさせているという。
そんな折、星の代替わりに巻き込まれた若旦那は、何の力が働いたか、赤子の姿になってしまった。
もう一度生きなおす機会を得た一太郎は、健康な体を十分に楽しむことにする。

 200年ぶりの星の代替わりに巻き込まれ、赤子に戻ってしまった若旦那。
運のいいことに、今度は健康だったので、このまま健康に育てばいいと思ったが、そううまくはいかなかった。
そして、それでもあちこちの問題に首を突っ込む若旦那と、変わらない妖たちとのやりとりはほのぼのとして深刻さはない。
今回は妖たちのほうが活躍した。

むかしむかしあるところに、死体がありました。


 弦の恩返し、桃太郎、一寸法師など、よく知っている昔ばなしのお話に、さらりと死体が混じっている。
はなさかじいさんが殺されていたり、一寸法師が容疑者だったりといった、どこかで間違えた昔ばなし。

 むかしむかしのお話は、もともときれいごとだけではなかったし、惨いことも非情なことも多いのだが、するりとわき道にそれてしまうと突然死体が増えていたりする。
どこから間違えたのかと思い出すうちに、どんどん話は進んでいって、全く違う後味になっていた。
でもどれも、もの悲しいというよりは悪意の方が大きく、煙に巻かれた感じで残念な気分になる。

ポンチョ



使用糸:元廣 Soft Wool Mix (705)
編み図:パンドラハウス 手作りレシピ MO-104-21AW 270 g 8号針


使用糸:ハマナカ グランエトフ(101)
編み図:オリジナル 15号針

死にふさわしい罪


 一族でするクリスマスパーティーの準備を手伝うため、母方の伯父の別荘へとやってきた和典。
駅で出会った不思議な女性が、隣家の人であり、また楽しみにしてて突然更新が途絶えた数学のブログの作者の妻だと知り、和典は新記事の下書きがあるという女性に頼み込んで見せてもらうことにした。
ところがその女性の家では1年前、ブログの作者である女性の夫が行方不明となっていることを知る。
漫画家だった叔母が秘密を握っていると思い、女性の家を訪ねてみるが。

 少女をターゲットにした作品や、中世ヨーロッパが舞台の作品では、一文字も読み漏らすまいというほどの集中力を持って読んだのに、少年が主人公のこのシリーズはとたんにつまらなく感じるのはなぜだろう。
同じように緻密な設定と興味深い専門分野の知識が織り込まれているが、どうも熱中できない。

高校事変 XI


 慧修学院高校襲撃事件後、日本で緊急事態庁が発足した。政府の行動力のなさを押し倒して次々と打ち出す政策に、日本は好景気となる。
日本近海に油田も発見されたと思い込まされ、国民は浮かれていた。
そして、ホンジュラスの襲撃からも何とか生き残った結衣は、帰国する。
緊急事態庁を操っていた優莉架祷斗が日本を支配し、破壊しようとする場に向かうため。

 優莉の兄弟がだんだん集まってくる。
戦う相手が兄弟になってきた頃から、規模は大きいが小さい世界の争いとなり、途端につまらなくなってきている。
結衣の母が誰かも明かされるが、ほかのシリーズとの関連がこんなに違和感を出すのは珍しい。
同じように、ほかのシリーズと絡む樋口有介のものは、見つけると嬉しくなる関連だったのに。

うらんぼんの夜


 閉鎖的で、排他的、そこら中に地蔵があり、人々はただ祈る。
そんな田舎を嫌い、早く都会に出たいと願う高校生の奈緒は、東京から越して来た亜矢子と仲良くなる。
嫁いできて20年にもなる奈緒の母でさえよそ者扱いする村の年寄にうんざりしながらも、亜矢子に村でのしきたりを教える奈緒に、周りは警戒を深めていた。
そして盂蘭盆会が来る。

 戦争がはじまった頃、村を出たいと願う少女が地蔵にかけた願いの後で年寄りがたくさん死んでいった。
そんな出来事から、地蔵へよそ者が参ると呪われるというしきたりができ、亜矢子の一家が越してきてからは、不審に思う奈緒を追い詰めるように、年寄りたちは団結していく。
それまでは奈緒への共感しかなかったのに、突然奈緒の感情がひっくり返る。
その変化に追いつかないまま終わるため、何度か読み返した。
狐に化かされたかのようだった。
デビュー作の『よろずのことに気をつけよ』を思い出させる不気味さだった。