ロータスコンフィデンシャル 倉島警部補シリーズ


 ゼロ」の研修帰りのエース公安マンでる倉島は、ロシア外相の随行員の行動確認をしていた。
同時期、ベトナム人の技能実習生が殺害される。
その容疑者にロシア人ヴァイオリニストが浮かび、一方、外事二課で中国担当の盛本もこの事件の情報を集めていることがわかる。
いつしかこれは、ロシア、ベトナム、中国が絡む事件となっていた。

 ロシアのスパイを絡ませるのが好きな作者。
今度は中国も絡んできた。国同士の争いというにはなんだか小さい事のような気がして拍子抜けしてしまった。
登場人物も個性はあるのに区別がつきにくい。

めぐり逢いサンドイッチ


 靭公園にある『ピクニック・バスケット』はサンドイッチ店
笹子と蕗子の姉妹でやっている小さな店だが、常連もいて毎日楽しい。
やってくるお客さんの中には悩みを抱えた人もいて、タマゴサンドが嫌いだという人には故郷のタマゴサンドを、コロッケが憎いという人にはサンドイッチにしておいしく、店主の笹子がふんわりとパンにつつんでくれる。

 ほんわかした笹子の雰囲気が心地よい店となっている。
どんな人も優しく見つめている感じがするが、穏やかゆえに印象も薄い。

死にふさわしい罪


 一族でするクリスマスパーティーの準備を手伝うため、母方の伯父の別荘へとやってきた和典。
駅で出会った不思議な女性が、隣家の人であり、また楽しみにしてて突然更新が途絶えた数学のブログの作者の妻だと知り、和典は新記事の下書きがあるという女性に頼み込んで見せてもらうことにした。
ところがその女性の家では1年前、ブログの作者である女性の夫が行方不明となっていることを知る。
漫画家だった叔母が秘密を握っていると思い、女性の家を訪ねてみるが。

 少女をターゲットにした作品や、中世ヨーロッパが舞台の作品では、一文字も読み漏らすまいというほどの集中力を持って読んだのに、少年が主人公のこのシリーズはとたんにつまらなく感じるのはなぜだろう。
同じように緻密な設定と興味深い専門分野の知識が織り込まれているが、どうも熱中できない。

高校事変 XI


 慧修学院高校襲撃事件後、日本で緊急事態庁が発足した。政府の行動力のなさを押し倒して次々と打ち出す政策に、日本は好景気となる。
日本近海に油田も発見されたと思い込まされ、国民は浮かれていた。
そして、ホンジュラスの襲撃からも何とか生き残った結衣は、帰国する。
緊急事態庁を操っていた優莉架祷斗が日本を支配し、破壊しようとする場に向かうため。

 優莉の兄弟がだんだん集まってくる。
戦う相手が兄弟になってきた頃から、規模は大きいが小さい世界の争いとなり、途端につまらなくなってきている。
結衣の母が誰かも明かされるが、ほかのシリーズとの関連がこんなに違和感を出すのは珍しい。
同じように、ほかのシリーズと絡む樋口有介のものは、見つけると嬉しくなる関連だったのに。

ファウンテンブルーの魔人たち


 5年前、新宿に巨大な隕石が墜落し、一帯は壊滅状態に陥った。
そこへ再開発してできたのがブルータワーで、その一室に小説家の前沢倫文は恋人の英理と住んでいた。
ある日、アメリカ、ロシア、中国のロケット開発に関係していた人物が突然死する。そして現場では「白い幽霊」が目撃されていた。
特殊な癖を持っている前沢は、マンション内を偵察し始める。

 近未来の巨大タワーを舞台に、前沢や英理、そしてAIロボットのマサシゲが、新宿へ落ちた隕石の謎と、タワーの地下深くで進められているある計画を探る。
主人公の頭の中を、考えていることをつらつらとそのまま垂れ流しているようで長い。それでも淡々と描かれていて感情的になることがないので割とすらすらと読めた。
ただ隕石をめぐる各国の政治的な陰謀が暴かれるのかと思いきや、もっといろんな人の目論見が集まっていて、最終的にはなんとなく解決へ向かっているようなというあたりで終わっていた。
結局は事件というより人間の進化の選択肢を見せたもので、こんなこともあるかもねという想像が膨らんでいき、最初の疑問はもうどうでもよくなったかのよう。

Team383


 自分でもそろそろと思っていたもの、免許の返納。
タクシーの運転手をしていた葉介は、家族に進められ、返納の手続きを行った。
すると帰りに、同年代の小太りな男性に声をかけられる。
「ママチャリカップに挑戦しましょう」
近所の中華料理店を本拠地にして、70代の男女がママチャリレースに挑む。

 チームを組んだ5人は皆同年代。
練習のあとは中華料理店でビールを飲むという新しい習慣を手に入れた葉介。
そしてメンバーそれぞれの問題や人生を、それぞれの視点で描く。
病気や家族の問題など様々だが、割と普通で印象に残るようなものはない。
キャラクターの個性にしても、現実的な範疇で突飛ということもないため、身近ではあるが区別もつきにくい。

アイスマン。ゆれる


 山本知乃は、祖母の遺品である文箱の中から見つけた古文書の力を使い、男女の相思相愛を使ったことがある。
体の悪い母と二人暮らしのため結婚はあきらめていた知乃だが、ある日高校の同級生・東村と再会し、好きになってしまった。
しかしあの術は自分には使えない。
そんな中、同じく東村を好きになった友人から、術をかけてほしいと頼まれ、困惑した知乃の元へ、不思議な影が近づいてきた。

 古文書に書かれた禁忌の技だったり、魔女のような叔母だったり、夢の中のようにふわふわした物語。
術をかければ自分の体を削ることに気づき、次はないと影からの忠告まで受けてしまった知乃は悩むが、気の弱さと母の一大事で捨て身になったりしても、うまいぐあいに事が収まってしまった。
ただ、東村の礼儀正しさが胡散臭いほどで、投資の話が出た頃にはすっかり詐欺師だと思ってしまっていた。
小説というよりアニメのほうがあっているストーリー。

偽恋愛小説家、最後の嘘


 編集者の月子は、担当する小説家・夢宮宇多への恋心と、仕事へのままならなさに悩んでいた。
ある日、ベストセラー作家である星寛人が自宅マンションの屋上で死体となって発見される。しかも真夏にもかかわらず死因は凍死という不自然さで。
直前に星がSNSに短編小説の最高傑作ができたと投稿していたため、各出版社の編集者による大捜索も行われたが、死の真相も短編の行方もわからずじまいだった。
星の内縁の妻・長崎愛璃、月子の友人・浜岡有希、外部編集者の糸里、人間関係が様々に入り乱れる中、アンデルセンの「雪の女王」を夢宮の誘導で月子は少しずつ読み解きながら、真相を手繰り寄せる。

 言葉と、それを紡ぐ人の個性とをうまく解きほぐす夢宮の様子に、黒猫シリーズを思い出す。
黒猫のようなクールさも、深さもないが、その分身近な題材を用いてわかりやすくしているような感じ。
だけど登場人物の魅力という面では黒猫のほうがしっかりと人物像が作られているためイメージしやすい。
夢宮は、月子の妄想で生み出した人物のような雰囲気だったため、煙に巻かれて終わったような気になってしまう。
事件と、人物と、動機や真相といったことよりも、夢宮と月子の「雪の女王」の解釈が強く印象に残る。

大義 横浜みなとみらい署暴対係


 暴力団を取り締まる暴対係に、「ハマの用心棒」と言われる諸橋と、相棒の城島がいる。
捕まえて刑務所に入っていた人物が出所して、復讐をしにやってきたり、抗争が始まりそうなことを察知して防ぎに動いたり、暴力団員たちが起こす様々ないざこざを取り締まる毎日を描く。

 一つ一つが短いうえに会話で進む出来事も多いため、ちょっとした時間で気軽に読める。
でもそれなりに人間関係も人柄もよくわかり、安積藩、樋口班とはまた違った雰囲気が合って面白いが、短編ゆえか、印象は残りにくい。

暮鐘 東京湾臨海署安積班


 「安積班シリーズ」短編集。
江東区有明で発生した強盗事件は、被害者が病院で死亡し、本格的な操作が開始された。するとそこへ、犯人は自分だと男が出頭してきた。
あっさり解決かとほっとした雰囲気が漂う中、ひとり須田だけはもやもやとした違和感を抱えていた。
 飲み屋で偶然出会った鑑識のベテランと推理競争をしたり、速水のチームの連携を見せつけられたり、署内の人間の複雑でバラエティーに富んだ考えが飛び交う。

 短い話の中で、安積班のメンバーの個性がよくわかる。
それぞれの視点を大事に拾い上げ、日々起こる事件の様子が日常として描かれている。
速水や相楽との絡み、チーム内での考え方の違いなど、署内をいろんな角度から見ているよう。
でも安積を買っている人たちが綴る賞賛は、そこまで納得できる出来事がなかったようでしっくりこない。