悪魔を殺した男


 「逆さ五芒星」を残した連続殺人犯の阿久津は、一人隔離された病室にいた。
面会にやってくるのは、かつての相棒・天海。
阿久津の能力を使って事件を解決してきた天海だが、それを利用しようとする者が現れた。
阿久津は、その巧妙な心理戦に勝てるのか。

 触れた物の記憶を読み取れるという阿久津を信じる天海は、どんなに隠しているつもりでも阿久津への気持ちを回りに悟らせていたために利用される。
発覚していない犯罪を裁くために人を殺してきたために「悪魔」と呼ばれた阿久津をも罠にはめようとするもう一人の「悪魔」の様子は、姿が見えない気味悪さが最後まであって気が抜けないが、いろんなところに手を出して散らばりすぎた感じがする。
誰もが関係者となってしまった時にはこじつけが過ぎる気がした。

欺瞞の殺意


 無実にもかかわらず、自白して「殺人犯」として服役していた元弁護士の治重。
自白と反省、そして協力的なその態度から、治重は無期懲役を言い渡された。
それから40年以上たち、仮釈放された治重は、事件関係者でまだ存命していた澄子へ長い手紙を送る。
「わたしは犯人ではありません。あなたはそれを知っているはずです。」

 舞台、話の構成から、かなり昔に書かれたものかと思ってしまうような雰囲気だが、2020年のもの。
関係者数人だけの、事件の日の推理だけで話が進むため、閉塞感があり、時間が止まったよう。
そのなかで登場人物を駒のように動かしながら様々考えることで、じっくり話に入り込める。
入り組んだ謀略にはなるほどと思わせるが、結末はおおよその予想通り。

浄土双六


 若くして出家したいたが、くじ引きにより将軍に決まり、還俗した義政。
乳母として尽くした若君に疎まれ、自害する今参局。義政の妻の富子に拾われた雛女。
 乱世での己の生き様に疑問を持つ者たちの、苦しい胸の内を束ねた短編集。

 前の章で主人公の身近にいたものを次の章で主人公にしたりと、つながりが見えているので関係が分かりやすい。
同じ頃に生きた者たちが同じ時を過ごしていても、それぞれでこれほど視点が違ってくるのかと驚くほど見え方が違う。
でもほとんどのものは自らの境遇を恨んで気持ちを荒ませているため全体的に暗くて苦しい。
ただ最後は、気まぐれに拾われた貧しい少女から見た世界で、一番視野が広かったためか、閉塞感が和らいでほっと息がつけた気がした。

星球


 退職したエリート会社員が、妻を亡くして2年。新たな伴侶を探そうと参加した「出会いの会」で、自信いっぱいだったのに誰からも選んでもらえなかった。
里帰り出産で受診した産婦人科で、まさかの昔の同級生が先生だった!
年上の天体マニアの女性に恋をした男。
いろんな恋の物語。

 ほのものとしたものもあれば、切なくて苦しいもの、どうしても忘れられない昔の恋や、仕事だけど気になる相手など、いくつもの感情があふれる。
なかにはがっかりするほどつまらないものもあるが、一つでもじんわり来るものがあれば良い。
個人的には、何十年も前の、戦時中の妻と家族への思いが一番心に残った。

アンブレイカブル


 治安維持法成立。太平洋戦争の影が迫る日本。
函館漁労に、小説の題材に『蟹工船』を取り上げたいという銀行員の小林多喜二という男がやってきた。
その裏で、嘘は言わず、隠さず、ありのままを話してくれればいいと依頼してきたのは、内務省から来たクロサキという男。
妙な依頼に戸惑う二人の漁師たちは、やがて多喜二にかけられた一つの言葉で世界が変わる。

 クロサキが暗躍する短編集。
反戦川柳作家・鶴彬や、知人たちの失踪が続き、怯える編集者・和田喜太郎、そして哲学者の三木清。
彼らの話は、日本の沈んだ雰囲気の中で何を思っていたのか、謎かけのように解決や発展はしないまま終わる。
唯一『蟹工船』の物語だけは前向きだった。
政治の複雑さばかり目立つ。

医学のひよこ


 生物オタクの中学3年生・曾根崎薫は、中学生でありながら東城大医学部に通う特殊だけど平凡な男子。
ある日仲間たちと洞穴を探検していると、巨大な卵を発見する。
こっそり育てようとしたが、そこは中学生、知恵も技術もなく、東城大医学部の先輩に助けを求めた。
しかし、大人たちの協力は得たが野次も入ってきて、いつしか国を動かす政治の駒となってしまっていた。

 ひと夏の冒険が、思いがけず大ごととなったカオルたち。
巨大な卵では、ヒトに似たものが育っているらしい。でもこれまで地球上で知られている生き物とは全く違う、新種でもあるらしい。
そんなものを引き当ててしまったせいで、いろんな人が興味を持ち、関わってきて、いつの間にかかすめ取られていく。
しかも唐突に結論が出ずに終わる。
なんとも理不尽だけど、そういえば子供の頃はそんなことが多かったなぁと思う。

捜査一課OB-ぼくの愛したオクトパス


 初老の巡査長・鉄太郎と、若手キャリアの警部・賢人。
二人が今手掛けているのは風俗嬢ばかり狙った通り魔強盗事件。
頑固な鉄太郎に冷や冷やしながらも、捕まえた容疑者に賢人は違和感を覚える。
そんな時、母が浜辺で捕まえた傷ついたタコを飼い始め、ソクラテスと名付けたそのタコに触れられると不思議な予感を得られることに気づく。
頭の良いタコに導かれる賢人。

 赤川次郎のような読みやすさと、大倉崇裕のようなタイトルで、どちらも二番煎じ感たっぷり。
特に個性的な部分があるわけでもなく、すぐに埋もれてしまうような話なうえ、プロローグ的な周囲の説明が長くてうんざり。
視点がそれぞれの登場人物に何度も切り替わるため、いろんな角度から見られるがちょっとうるさい。
賢人の母の久子が癒しとなる。

書店員と二つの罪


 書店員の椎野正和は、ある日届いた新刊の中に、17年前の少年犯罪の犯人が書いた告白本を見つける。
それは正和が中学の頃、女生徒が殺され、バラバラにされた事件。
犯人は正和の隣家の同級生だった。
それ以来、マスコミや世間から受けた扱いでひどく傷つき、正和は地元から逃げて一人暮らしをしていたのだ。
その本を売るのか、正義はどこにあるのか、モラルとしてどうか。
葛藤の挙句、読むことを決めた正和だが、そこにある違和感を抱く。

 過去のある犯罪を思い起こさせる。
一貫して否定してきた正和だが、内容から気づいた違和感の結果に自信の信条が揺らぐ。
ミステリーとしては楽しめたが、現実の事件を思い起こさせるために嫌悪感も同時に起こる。

ミレニアム 6 下: 死すべき女


 やっと身元が判明した浮浪者が、エベレストの案内人”シェルパ”のリーダーだったことから、国防大臣の過去が明らかになっていく。
その悲劇は、たくさんの人の人生を傷つけていた。
そしてミカエルがリスベットをあぶりだすために拉致される。
リスベットは、過去を向き合う決意を固める。

 妹カミラとの決着をつける時がやってきた。
ミカエルが追っている事件に首を突っ込んでいたら、とんでもない目にあってしまうリスベットだが、それでも見捨てられないのがリスベット。
ミカエルの犠牲に比べたらカミラとの決着はちょっと肩透かしだったが、カミラらしい最後と言えばそう思える。
でも、『ミレニアム』やエリカの存在が薄くなっているのが残念だし、ミカエルの活躍もなんだか曖昧になった。
大げさな兄弟げんかで終わった感じ。

ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女 (下)


 リスベットはある目的のためにNSAに侵入したのだが、ファイルの解析に手間取っていた。
一方ミカエルは、殺されたフランス・バルデルの息子アウグストを助けて共に姿を消したリスベットが心配でならない。
アウグストを狙う者、ハッカーのスワプを狙う者、リスベットを憎む者、いろんな悪意が入り乱れる。

 ずっと続く緊迫感。そしてやっと姿を現すリスベットの妹・カミラ。
知らなければ作者が変わったと思えないほどだが、どうにもつかみにくい内容だった。
結局、そこまで大げさにするほどの話だったのかと思うほど感想もうかばず、リスベットの個性も薄まっている。