ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女 (上)


 雑誌『ミレニアム』は経営不振に陥っており、株式を売り、ミカエルにも特ダネはなく、精彩を欠いていた。
そんな時、人工知能研究の世界的権威であるバルデル教授が大きな問題を抱えているというタレコミを受け取る。
胡散臭いと感じたミカエルだが、そこにリスベットが関係していると気づいたとたん、興味を持った。
一方、アメリカのNSA(国家安全保障局)では、バルデル教授が産業スパイ活動をしたとつかみ、情報収取をしている最中にNSAのネットワークに侵入されていた。
リスベットはなにをしようとしているのか。

 これまでと同様、ミカエルたちが停滞している時に物語が始まる。
作者が変わってもここまで違和感がないものかと驚いたが、導入部である事の起こりが分かりにくいところまでそっくり。
一般市民になったリスベットがこれまで通り動けるわけがないだろうと思っていたが、そんなことはなく、やっぱり思いもかけない行動に出る。
他人に興味を持つことが増えたようだが、そのせいかこれまで秘密の顔だった「スワプ」がついに表に出てこようとしている。

ダブル・ミステリ (月琴亭の殺人/ノンシリアル・キラー)


 不思議な招待状で〈日本のモン・サン・ミッシェル〉と称えられる天眼峡へ呼び出された探偵の森江春策。
ところが、会場となる月琴亭ホテルでは、同じように様々な理由で呼び出された者たちが5人。
皆、それぞれに興味をそそられる内容が書かれた嘘の招待状だった。
そして不気味な陸の孤島と化したそのホテルで、拉致されてきたと思われる男が一人、拘束されていた。

 両側から、二つの物語が進行し、真ん中で一つになる。
面白い作りだが、事件自体はありふれたもの。
しかし登場人物が交差し、二つの事件を行き来するため、人間関係がややこしい。
ミステリとして近年ではアンフェアと言われる手段を使っていたことも、面白いが混乱される要因だったため、何度も読み返すことになる。
最後に人物相関図が欲しいと思ってしまった。

うさぎ幻化行


 飛行機事故で死んだ義理の兄。
リツ子のことを「うさぎ」と呼んでかわいがってくれていた兄が残したのは、音風景の音源だった。
しかしリツ子は、その音は自分あてではないような気がして、義兄の残した音を訪ね歩くことにした。

 事故から始まった物語は、静かでもの悲しい様子でずっと続く。
しかしリツ子は、音源を求めて旅に出た道中で出会う人たちとの妙な接点から不穏な矛盾を見つけてしまい、少しづつ正気を失っていくような感覚で読み進めていく。
判明する謎あり、曖昧にされた謎あり。
でもどちらかというと余韻に浸れる謎ではなく、ただ突然打ち切られたという感覚が強く残る。
すべては幻想で終わってしまいそう。

攫い鬼 怪談飯屋古狸


 毎度のように怖い話を聞かされ、そこへ行かされる虎太。
今度は女の幽霊に「子供を探して」と頼まれごとまでされる。
怖がりのくせに正義感を発揮して、幽霊の依頼を受けてしまった虎太が突き止めた、生きている者の仕業。

 調べていくと、ほかにも攫われた子供がいたことが分かる。
そしてなぜか、昔名をはせた泥棒の話もついて回った。
関係なさそうなその二つが、なんととても近くで起こっていたことに虎太は驚く。
ハッピーエンドで終わるのはいいけれど、それまで虎太が「古狸」で受けた仕打ちはちょっとひどすぎるんじゃないかと思ってしまった。

誰もわたしを愛さない 柚木草平シリーズ


 月刊EYESの新人・小高直海が新しい担当になり、女子高生がラブホテルで殺されたという事件の記事依頼を受けた柚木草平。
行きずりの犯行と思われ、警察もその線で動いているのだが、柚木は事件現場の写真から不審な点をいくつか見出していた。
新担当の小高や、被害者の友人の姉である美人エッセイスト、娘の加奈子や元上司の吉島冴子、またもや女たちに振り回される柚木のシリーズ第6弾。

 一見おとなしく真面目な被害者。しかし隠された銀行口座には大金が預けてあり、どうやら後ろ暗いアルバイトをしていたと気づく柚木。
刑事とは違った視点で人物を観察し、言葉で説明できないような勘や印象を突き詰めていく様子はちゃんと探偵なんだけど、ところどころで女たちに踊らされていると感じている柚木が、それでも毎回口説き文句は言ってしまうので急に信用できなくなる。そんな様子がどんな女にも何度も繰り返されるので、事件の印象が薄くなってしまっていた。
真相がわかっても、後は警察の仕事とばかりに放りだすため、なんだか消化不良で終わる。

猫をおくる


 いつの間にか猫が集まり、「猫寺」と呼ばれていた都内の木蓮寺。
そこには、猫を専用に扱う霊園がある。
高校教師だった藤井は、住職の真道に誘われて猫専門のスタッフとして家族として過ごした猫たちの供養をしている。
炉の温度や時間を工夫し、骨がきれいに残るように。そして小さな星を見つけられるように。
 猫と過ごした時間、猫に救われたり、癒されたり、共に生きたものをいたわる人たち。

 小さな骨の中になってしまった猫たち。
猫に選ばれた人間たちが集まり、ただ優しい時間を過ごす。
これまでの辛い出来事を隠して、死んでしまった猫を思い、今生きている猫たちとの時を描いた優しい物語。
童話のよう。

ねじまき片想い (~おもちゃプランナー・宝子の冒険~)


 おもちゃプランナー富田宝子は、もう5年も片思いをしている。
相手は外注のデザイナーの西島。本人は隠しているつもりだが、周りはみんなとっくに気づいている。
ある日西島の自宅兼オフィスのマンションで、今まで見えていたスカイツリーが見えなくなったと不満を漏らすのを聞いた宝子は、なぜ突然向いのマンションの屋上に貯水タンクが設置されたのか、頼まれてもいないのに調べだした。

 子供たちにひたすら夢を見せるおもちゃプランナーが仕事の宝子が、なぜか急に探偵まがいのことをし始めることに、切ない片思いの話がいっきにスリルを含んだものに変わる。
でも勝手に西島の周りの危険を取り除こうとする姿はある意味不気味なストーカーでしかない。
周りは面白いキャラクターがたくさんいるのに、最後はみんなしてどっちつかずの曖昧な気付きで終わっている。

彼女はたぶん魔法を使う


 元刑事でフリーライター、私立探偵でもある柚木草平は、キャリア組の元上司から、「調べてほしい事件」を紹介される。
「車種も年式も判明しているのに、犯人も車も発見されないまま」だというその事件は、やがてもう一つの殺人事件を生んでしまう。

 洗濯が趣味という柚木。女にはつるりと口説き文句がこぼれるほどの女好きだが、マメで面倒見がいい。
権力はないがそのぶん勘で真実に近づいていて、いつの間にかカギをつかんでいる。
登場人物は皆魅力的だが、最後はそんな女性たちにはぐらかされたような結果でなんだか落ち着かなかった。

邪悪(下)


 キャリーの予想通りの行動をしているのではないかと、すべてのことに不安を感じるケイ。
ハリウッド女優の娘と、ルーシーやジャネットが知り合いだったかもしれないと思い、ルーシーの唯一安心できる場所までもFBIに暴かれ、そのFBIの行動はきっとベントンも知っていたはずと、疑心暗鬼が膨れ上がる。
そして、最初に出向いた現場で聞いた大きな音の正体を突き止めるため、結局は最初の場所に戻ることになる。

 今回もケイの気分は振り回されるばかり。
そしてベントンに裏切られた気分になり、誰も信じられないと感じ、口喧嘩をしかける。
ここのところ、事件そのものはあまり印象に残らなくて、ケイの精神的な浮き沈みがメインになっているよう。
最後は何事もなかったかのような団らんで終わるのも同じ。
ただ、今回は衝撃的な虐待に出くわした。しかし肝心のキャリーは姿を見せずじまいなので、直接対決は持ち越しか。

邪悪(上)


 海の中で太ももを撃たれて2か月。復帰したケイが現場で検死をしていた時、ケイの携帯に1通のメールが届く。
そのメールには、17年前、ルーシーがまだFBIの寮にいた頃の映像が添付されていた。
一時停止も巻き戻しもできず、ただ見続けることしかできない動画に、ケイは仕事の集中力を乱され、すぐさまルーシーに会いに行く。
するとそこでは、FBIがルーシーの家の家宅捜索をしていた。

 天敵との命がけの再会の後、やっと仕事に戻れたケイのところに送られてきたメールは、キャリーが何年も前から計画していたと言わんばかりの不気味なメール。
そして、ルーシーが丁寧に作り上げた安全な場所を踏み荒らされている場面に出くわして、ケイは動揺する。
仕事どころじゃないケイの様子は、恐れでいっぱい。
やっと仕事に頭が向いたころにはもう次巻で、恐怖と不安のやりとりばかりの上巻だった。
検死中の事件と関係があるのかが気になる。