星球


 退職したエリート会社員が、妻を亡くして2年。新たな伴侶を探そうと参加した「出会いの会」で、自信いっぱいだったのに誰からも選んでもらえなかった。
里帰り出産で受診した産婦人科で、まさかの昔の同級生が先生だった!
年上の天体マニアの女性に恋をした男。
いろんな恋の物語。

 ほのものとしたものもあれば、切なくて苦しいもの、どうしても忘れられない昔の恋や、仕事だけど気になる相手など、いくつもの感情があふれる。
なかにはがっかりするほどつまらないものもあるが、一つでもじんわり来るものがあれば良い。
個人的には、何十年も前の、戦時中の妻と家族への思いが一番心に残った。

アンブレイカブル


 治安維持法成立。太平洋戦争の影が迫る日本。
函館漁労に、小説の題材に『蟹工船』を取り上げたいという銀行員の小林多喜二という男がやってきた。
その裏で、嘘は言わず、隠さず、ありのままを話してくれればいいと依頼してきたのは、内務省から来たクロサキという男。
妙な依頼に戸惑う二人の漁師たちは、やがて多喜二にかけられた一つの言葉で世界が変わる。

 クロサキが暗躍する短編集。
反戦川柳作家・鶴彬や、知人たちの失踪が続き、怯える編集者・和田喜太郎、そして哲学者の三木清。
彼らの話は、日本の沈んだ雰囲気の中で何を思っていたのか、謎かけのように解決や発展はしないまま終わる。
唯一『蟹工船』の物語だけは前向きだった。
政治の複雑さばかり目立つ。

医学のひよこ


 生物オタクの中学3年生・曾根崎薫は、中学生でありながら東城大医学部に通う特殊だけど平凡な男子。
ある日仲間たちと洞穴を探検していると、巨大な卵を発見する。
こっそり育てようとしたが、そこは中学生、知恵も技術もなく、東城大医学部の先輩に助けを求めた。
しかし、大人たちの協力は得たが野次も入ってきて、いつしか国を動かす政治の駒となってしまっていた。

 ひと夏の冒険が、思いがけず大ごととなったカオルたち。
巨大な卵では、ヒトに似たものが育っているらしい。でもこれまで地球上で知られている生き物とは全く違う、新種でもあるらしい。
そんなものを引き当ててしまったせいで、いろんな人が興味を持ち、関わってきて、いつの間にかかすめ取られていく。
しかも唐突に結論が出ずに終わる。
なんとも理不尽だけど、そういえば子供の頃はそんなことが多かったなぁと思う。

捜査一課OB-ぼくの愛したオクトパス


 初老の巡査長・鉄太郎と、若手キャリアの警部・賢人。
二人が今手掛けているのは風俗嬢ばかり狙った通り魔強盗事件。
頑固な鉄太郎に冷や冷やしながらも、捕まえた容疑者に賢人は違和感を覚える。
そんな時、母が浜辺で捕まえた傷ついたタコを飼い始め、ソクラテスと名付けたそのタコに触れられると不思議な予感を得られることに気づく。
頭の良いタコに導かれる賢人。

 赤川次郎のような読みやすさと、大倉崇裕のようなタイトルで、どちらも二番煎じ感たっぷり。
特に個性的な部分があるわけでもなく、すぐに埋もれてしまうような話なうえ、プロローグ的な周囲の説明が長くてうんざり。
視点がそれぞれの登場人物に何度も切り替わるため、いろんな角度から見られるがちょっとうるさい。
賢人の母の久子が癒しとなる。

書店員と二つの罪


 書店員の椎野正和は、ある日届いた新刊の中に、17年前の少年犯罪の犯人が書いた告白本を見つける。
それは正和が中学の頃、女生徒が殺され、バラバラにされた事件。
犯人は正和の隣家の同級生だった。
それ以来、マスコミや世間から受けた扱いでひどく傷つき、正和は地元から逃げて一人暮らしをしていたのだ。
その本を売るのか、正義はどこにあるのか、モラルとしてどうか。
葛藤の挙句、読むことを決めた正和だが、そこにある違和感を抱く。

 過去のある犯罪を思い起こさせる。
一貫して否定してきた正和だが、内容から気づいた違和感の結果に自信の信条が揺らぐ。
ミステリーとしては楽しめたが、現実の事件を思い起こさせるために嫌悪感も同時に起こる。

ミレニアム 6 下: 死すべき女


 やっと身元が判明した浮浪者が、エベレストの案内人”シェルパ”のリーダーだったことから、国防大臣の過去が明らかになっていく。
その悲劇は、たくさんの人の人生を傷つけていた。
そしてミカエルがリスベットをあぶりだすために拉致される。
リスベットは、過去を向き合う決意を固める。

 妹カミラとの決着をつける時がやってきた。
ミカエルが追っている事件に首を突っ込んでいたら、とんでもない目にあってしまうリスベットだが、それでも見捨てられないのがリスベット。
ミカエルの犠牲に比べたらカミラとの決着はちょっと肩透かしだったが、カミラらしい最後と言えばそう思える。
でも、『ミレニアム』やエリカの存在が薄くなっているのが残念だし、ミカエルの活躍もなんだか曖昧になった。
大げさな兄弟げんかで終わった感じ。

ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女 (下)


 リスベットはある目的のためにNSAに侵入したのだが、ファイルの解析に手間取っていた。
一方ミカエルは、殺されたフランス・バルデルの息子アウグストを助けて共に姿を消したリスベットが心配でならない。
アウグストを狙う者、ハッカーのスワプを狙う者、リスベットを憎む者、いろんな悪意が入り乱れる。

 ずっと続く緊迫感。そしてやっと姿を現すリスベットの妹・カミラ。
知らなければ作者が変わったと思えないほどだが、どうにもつかみにくい内容だった。
結局、そこまで大げさにするほどの話だったのかと思うほど感想もうかばず、リスベットの個性も薄まっている。

ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女 (上)


 雑誌『ミレニアム』は経営不振に陥っており、株式を売り、ミカエルにも特ダネはなく、精彩を欠いていた。
そんな時、人工知能研究の世界的権威であるバルデル教授が大きな問題を抱えているというタレコミを受け取る。
胡散臭いと感じたミカエルだが、そこにリスベットが関係していると気づいたとたん、興味を持った。
一方、アメリカのNSA(国家安全保障局)では、バルデル教授が産業スパイ活動をしたとつかみ、情報収取をしている最中にNSAのネットワークに侵入されていた。
リスベットはなにをしようとしているのか。

 これまでと同様、ミカエルたちが停滞している時に物語が始まる。
作者が変わってもここまで違和感がないものかと驚いたが、導入部である事の起こりが分かりにくいところまでそっくり。
一般市民になったリスベットがこれまで通り動けるわけがないだろうと思っていたが、そんなことはなく、やっぱり思いもかけない行動に出る。
他人に興味を持つことが増えたようだが、そのせいかこれまで秘密の顔だった「スワプ」がついに表に出てこようとしている。

ダブル・ミステリ (月琴亭の殺人/ノンシリアル・キラー)


 不思議な招待状で〈日本のモン・サン・ミッシェル〉と称えられる天眼峡へ呼び出された探偵の森江春策。
ところが、会場となる月琴亭ホテルでは、同じように様々な理由で呼び出された者たちが5人。
皆、それぞれに興味をそそられる内容が書かれた嘘の招待状だった。
そして不気味な陸の孤島と化したそのホテルで、拉致されてきたと思われる男が一人、拘束されていた。

 両側から、二つの物語が進行し、真ん中で一つになる。
面白い作りだが、事件自体はありふれたもの。
しかし登場人物が交差し、二つの事件を行き来するため、人間関係がややこしい。
ミステリとして近年ではアンフェアと言われる手段を使っていたことも、面白いが混乱される要因だったため、何度も読み返すことになる。
最後に人物相関図が欲しいと思ってしまった。

うさぎ幻化行


 飛行機事故で死んだ義理の兄。
リツ子のことを「うさぎ」と呼んでかわいがってくれていた兄が残したのは、音風景の音源だった。
しかしリツ子は、その音は自分あてではないような気がして、義兄の残した音を訪ね歩くことにした。

 事故から始まった物語は、静かでもの悲しい様子でずっと続く。
しかしリツ子は、音源を求めて旅に出た道中で出会う人たちとの妙な接点から不穏な矛盾を見つけてしまい、少しづつ正気を失っていくような感覚で読み進めていく。
判明する謎あり、曖昧にされた謎あり。
でもどちらかというと余韻に浸れる謎ではなく、ただ突然打ち切られたという感覚が強く残る。
すべては幻想で終わってしまいそう。