バチカン奇跡調査官 王の中の王


 オランダ・ユトレヒトの小さな教会からバチカンに、「礼拝堂に主が降り立って黄金の足跡を残し、聖体祭の夜には輝く光の球が現れ、司祭に町の未来を告げた」という奇跡の連絡が入る。
ロベルトと平賀は、42人もの目撃者すべてに話を聞き、主の足跡の調査を始めた。
小さな教会にのこされた聖遺物。そしてそれが収められていたステンドグラスのケースまで。
そこで二人が見つけたものは、大昔の隠し部屋と隠し通路、そして聖遺物が持ち込まれた時代の宝だった。

 一つの奇跡のはずが、当時の先端技術や流行にまで広がり、教会の存在した年月の長さを感じさせる。
追及自体は興味深いし、盗賊は天の罰を受けたような形で見つかって、奇跡調査は終了する。
それでもなんだか消化不良な感覚が残るのは、解明された現象がどんな風なのか、想像ができないからだろうか。

オフマイク(スクープシリーズ)


 継続捜査を担当する捜査一課特命捜査係の黒田と矢口。
黒田の同期・多岐川から二十年前の大学生自殺について、不審な点があるが確証がないため、こっそり調べてほしいと依頼される。二人が聞き込みを進めていると、「ニュースイレブン」の報道記者・布施もこの事件に目を付けていると知る。
交友範囲の広い布施と情報交換を始めた黒田たちは、IT業界で注目の藤巻という男に注目した。

 ニュース番組のメンバーと継続捜査の刑事たちの、奇妙な協力捜査。
交互に語られるそれぞれの捜査が、やがて20年間隠されてきた事件の真相を突き止める。
でも、事件を追う人物が多すぎて一人一人の印象が薄い。
布施の飄々とした雰囲気にのまれる感じで、みんながいいなりになっていくよう。
もっと個性のある人たちが欲しい。

わが殿 下


 藩の負債をなくすため、幕府から大きな借金をして銅脈を掘り当てたり、食う分だけの金しか使わない政策で3年をすごしたり、大野藩は借金という敵と戦うために様々なことをしてきた。
やがて完済のめどが立ち、一安心できるかと思いきや、夢を語る若者はお構いなしに使いまくる。
しかし、そんな者たちへ頼もしいやり繰りを続けていた七郎右衛門に、見方する者だけではなかった。

 藩の金巡りを良くしようと店を出して商人とやりあってみたり、荷を運ぶ船を借金して買ってみたりと、相変わらず大きなことを大きな苦労をしながらやる七郎右衛門。
しかし、そんな話もずっと続くと飽きてくる。
そして急に藩の中からの不満を持った奴らから狙われ始めるのは、今までなかったことがおかしなくらい。
面白いキャラクターはたくさんいたけど、その割に単調だった。

儀式(下)


 投資運用会社ダブルSとの訴訟の途中で殺された大学院生は、ルーシーとは知り合いだった。さらにベントンは捜査方針の違いでFBIから孤立気味。
遺体からは3色に輝く微物が発見されており、過去の事件との関連も見いだされてきて、事件は混沌としてくる。

 今回はベントンが窮地に置かれるが、これまで泰然としていたベントンが卑屈でひがみっぽい言動を繰り返す。
冷静でいようとしているが、印象がどんどん悪くなっていくのは悲しかった。
そして、わりと始めの頃に手がかりとして注目させた3色の微物が解決へのヒントになるかと思っていたが、まったく使われず、解決後に犯人の持ち物から発見されるだけという結果に。何のためにあれだけ注目させたのか。

儀式(上)


 ケイがインフルエンザで寝込んでいた頃、マサチューセッツ工科大で女子大学院生の変死体が発見される。
マリーノと共に出かけたケイは、遺体に不思議な光る微粉末を発見する。そこへルーシーのヘリでベントンまでやってきて、「ワシントンDC連続殺人事件と同一犯ではないか」と言う。

 これまで通り、前半は事件や遺体の発見までにやたらと長い説明が入る。
ケイの身辺に不審な人物がうろつくのもこれまで通り。やや飽きた。
どんな性質の事件なのかが分かるまでが長すぎるし、会話のやり取りにすれ違いが多いのも不自然で不愉快になる。
質問に答えないで自分の言いたいことだけを言う人物が多すぎる。

高校事変 VII


 新型コロナウイルスで日本中が大騒ぎしている中、センバツ高校野球の中止が決まり、結衣の元には、1年前の甲子園で起こった事件に関して、事情聴取をしに刑事たちがやってきた。
その時一緒にいた他の生徒たちも甲子園に呼び出されていることを知った結衣は、コロナ禍の今だからこその甲子園で行われる犯罪に気づき、一人何も知らされずにいた刑事と共に甲子園へ急ぐ。

 1年前の甲子園と、コロナ禍で閉鎖中の甲子園と、二つの時間が交互に語られる。
さらに甲子園の内部の様子を知らないために混乱する。
これまでは、結衣を消そうとする者たちとの闘いとして自分の身を守るためだったのが、少し前からはむしろ罪のない生徒たちを巻き込むまいとする思いの方が、結衣の行動エネルギーとなっているように思う。
現実に起きた事件や事故を参考にした罠が使われているのも、現実味のない戦いを妙に身近に感じさせる一因となっている。
少し前に気味の悪い登場をした化学教師と、結衣の他の兄弟の存在が最後に意味深に出され、次作への興味をそそる。

シャーロック・ホームズたちの新冒険


 トキワ荘で手塚治虫が消えた。住人たちは皆漫画家で、それぞれに締め切りを抱えていたが、力を合わせて手塚治虫の「次回作」を書きあげる。
「黒後家蜘蛛の会」に持ち込まれたアイザック・アシモフが書いたといわれる手紙の謎。
誰もが知る人物たちの活躍を描く短編集。

 それぞれに「こんなことがあったら面白い」といった要素が詰め込まれている。
短編なのでちょっとのぞき見する気分で読めるので気軽で、最後に作者によるちょっとしたコメントがついているため、なぜ彼らに着目したのがが書いてある。
個人的にはアシモフのロボット話が楽しかった。
タイトルのホームズに関係するのは1作だけなので、その点でいえばガッカリ。

異邦人(下)


 人気テニスプレイヤーを殺した「サンドマン」を追うスカーペッタ。
ドクター・セルフに振り回されながらも、ルーシーの力を借りてなんとか真実を探り出す。

 意外な血縁関係が明かされる。
でもスカーペッタはもう検死をほとんどせず、証拠品の調査の方に力を入れているよう。
そしてベントンからは指輪をもらったのにすれ違う日々。
唯一ブルが固い雰囲気を和らげてくれた。

「再考し、配役を変え、一新する」という作者の言葉は、作品に魅力を足す結果にはならなかったようだ。
マリーノが心配。

異邦人(上)


 女子テニス界の人気者だったドリューが遺体となって発見された。
その様子は異様で、眼球がくりぬかれ、砂を入れられたうえで接着剤で瞼をくっつけられており、さらに複数個所で肉がえぐり取られていた。
イタリア政府から依頼を受けた法医学コンサルタントのスカーペッタは、ベントンと共に調査に乗り出す。

 もう過去の話となると思っていたベントンの脳の研究や、ドクター・セルフまで再登場してきた。
セルフとベントンのかみ合わない会話に息苦しくなり、マリーノの壊れ具合は痛々しくて見ていられない。
一貫してまっとうな人物であったローズにまで災難が訪れ、読んでいて気が滅入ってくる。
この雰囲気をがらりと変えてくれる人物が登場してきてほしい。

輪舞曲


 松井須磨子の舞台が忘れられず、女優になると決心した繁。
夫と子供を残して東京へ向かい、劇団でキャリアを積み、人気を得る。
女優・伊澤蘭奢の人生を、4人の男の目から描く。

 一大決心をして上京し、あくまで舞台にこだわり、40歳で死ぬと言い、愛人や息子との時間を楽しんだ女性。
いろんなことが起こるが、まるで教科書のように淡々と紡がれるだけで、そのうえ4人から見た彼女像ということもあり、
印象が一貫しない。
さほど活躍したようにも見えず、「二十歳になったら死ぬんだもの」と言っていた駿雄の友人の妹のほうがよほど印象深かった。