神の手 (下)


 遺体の体内から見つかった薬莢は、2年前に押収されたショットガンだった。
殺される直前には、庭のグレープフルーツの木に今はもう使われていない印をつける不審な人物が目撃されている。
また別のところでは、ベントンが調査していた被験者である囚人のDNAが、ルーシーが探していた魅惑的な女性と一致したりと、不可解なことが続く。

 ひどい経験が起こした人格障害が、今回のカギ。
不審な行動をする人物が多くて混乱したが、みな同じ要因だったことで納得はいくが、すっきりしない。
突然終わる結末が、すべてを解明されたわけではないような気がするためで、せっかく複数の人の目線で書くことに変えたのに、スカーペッタやベントン側以外からの解釈がされずに終わっているせいである。
書き方を変えたのは犯人側からの目線を盛り込むためではなかったのか。

痕跡 (下)


 死因不明の少女の口に残っていた微物と、その2週間後にトラクターに轢かれて死んだ成人男性の遺体に残っていた微物が同じものだったことで、ミスでなければ何らかの関連があるとして調べ始めたスカーペッタ。
次第に気づき始める不穏な監視者の元へ、スカーペッタはマリーノとルーシーの手を借りて乗り込んでいく。

 今回はマリーノが大した失敗をやらかす。
そのおかげで得たものはマリーノの大嫌いな変態たちの性癖の情報だった。
彼はいつも損な役ばかりな気がして気の毒になる。
そしてこれまでの性格異常な犯人とは違い、陰湿に思い詰める犯人だったせいで、マリーノが得意な追い詰め方をした。
この事件はマリーノのための事件だったのかもしれない。
 ところで、伏線としていろいろ張られていた出来事は大きな絡みにもならず、やっぱりいらなかったんじゃないかという気もする。

黒蠅 (上)


 バージニアの検屍局長を辞め、フロリダに移り住んだケイの元へ、死刑囚となった「狼男」から手紙が届く。
悪夢はまだ終わっていなかったことにおびえるケイ。
その頃、女性ばかり何人もが行方不明となっている事件も発生していて、「狼男」の一族との関連に感づいている人物がいた。

 検死局長を辞めたケイは、主人公から脇役へと移っていったかのよう。
さらに、いろんな人物からの視点にころころと移り変わるため目まぐるしい。
「私」という言葉でケイが語ることはなく、「スカーペッタは」と他人のような視点で描かれていて、言動もかつての勇ましさはない。
モリアーティと共に谷に落ちたホームズをよみがえらせたのと同じような手でベントンを出してくるのも不自然。

審問(下)


 ケイの審問の日が近づいてくる。
これまでの事件を洗い直していくうちジェイの身元が怪しくなってきた。
自殺した少年のことが気になるケイは、近くのモーテルで殺された人物がカギを握るのではないかと気づく。
そしてケイの判決は。

 「警告」から続くこの事件がやっと解決する。
ケイが感じたジェイへの違和感が意味を持ってくるまでは、ジェイの正体不明感が仕事柄のせいなのか区別がつかなかった。
検死局長を辞めると決めたケイだが、仕事を辞めて「検視官」としてのストーリーはどうなるのか。

審問(上)


 「狼男」に襲われ、危ういところで助け出されたケイは、精神科医である友人のアナのところへ身を寄せる。
しかし、いけ好かないと思っていたブレイ副所長が殺され、その容疑はケイにかけられた。

 ますます追いつめられるケイ。
不気味なだけでなく、あざとい手で回りを煙に巻く知能をもった「狼男」によって、ケイは一つの決断を下すことになる。
政治的な取引がメインのこの巻では、特にケイもルーシーも役に立たない。
アナの存在感が一番大きかったが、それはアナの家の中だけのこと。
物語が進んでいる雰囲気がない。

リケイ文芸同盟


 数学をこよなく愛する根っからの理系である主人公・桐生蒼太。
彼が務めるのは出版社の文芸編集部。理論的なことが全く通用しない「感覚」で仕事をする人たちとの葛藤のお仕事小説。

 全く違う分野に一人入り込むことの難しさは、言葉にしにくい。
感覚も常識も考え方も違うために話がかみ合わないもどかしさは蓄積するから。
 そんな環境を生き抜こうと決めた桐生が、腐れ縁の同期と起こした理系文芸同盟が、ミリオンセラーを出してやると意気込むところはまさに「お仕事小説」。そして、半ばに危機が訪れ、「4章でピンチは一度ではなく、畳みかける」を4章で起こす。最後にタイミングを見計らった驚きのニュース。
小説内で起こす定石をすべて盛り込んであるし、話の中で出てくる小説たちともリンクさせている。
ただ、中身が共感できるかのみ。

名もなき星の哀歌


 昼は銀行員として働く良平と漫画家志望の健太。
二人には裏の仕事がある。それは人の記憶を売り買いすること。
ある日二人は路上で歌を歌う星名という女性のことが気になり始め、医者一家焼死事件との関わりを見つけた。
そして店の仕事を使って探偵をすることを思いつく。

 二人の仕事が面白くなり始めるのは後半。
それまでは退屈で、何も起こらないまま終わるのかと思い始めた頃だった。
政治家の汚職、火事の真相、良平と健太の記憶、そして店の仕事などが、やっと起動し始めてからが本番だった。
前半の退屈がなければもっと引き込まれたかも。

死因


 潜水禁止地域の川で毒殺されたジャーナリスト。
調べていくと、狂信的なカルト教団が浮かび、ケイにまとわりつく不気味な刑事と、その後ろには海軍の影も浮かんでくる。
ケイが狙われたと思える事故で解剖助手の好青年まで死んだことで、ケイはおびえながらもルーシーの助けを借りて立ち向かう。

 マリーノとの関係は相変わらずだけどとてもいい相棒となり、ルーシーは頼もしくなった。
だけど、ケイの周りで巻き添えとなった人が死にすぎることが気になるし、解決となるきっかけの発見が軽く書かれすぎて見逃しそうになるのは毎度のこと。
そのせいでいつもちょっとした消化不良な感じが残る。

清明: 隠蔽捜査8


 神奈川県警刑事部長に着任した竜崎伸也は、着任早々東京と神奈川の県境で起こった死体遺棄事件に関わる。
被害者の身元が外国人だったことから、公安も交えた捜査となり、それぞれの壁に捜査を阻まれる。

 どこへ行っても竜崎は変わらず。
言っていることは正論で、しかもそれが本心であるため、周りを唖然とさせることもある。
でもいつしか皆の視野を広げさせ、協力者を増やす。
それが事件解決へとつながるが、いつもいつもうまくいっているのが不思議になってくる。

鳥居の密室: 世界にただひとりのサンタクロース


 ある喫茶店で、たくさんある時計の中で、たった一つの振り子時計だけが、なぜか毎日動き出す。
その謎を、いくつかのヒントをもとに解き明かした御手洗は、10年ほど前に起こった殺人事件のトリックと同じだと言った。
 それは完全な密室となっていた家に、サンタクロースが少女にプレゼントを置き、母が殺されていた事件。

 同じような現象を解き明かす話はいくつかあるため、すぐに原因は予感できるが、それが昔の殺人事件まで解決していくとなると面白くなってくる。しかし、それぞれが最後まで真実を隠していたくらいの大きな訳が、解決されていないまま。
真実を見つけたら、後はそれぞれで納得するように勝手になんとかしろと突き放された感じ。