リケイ文芸同盟


 数学をこよなく愛する根っからの理系である主人公・桐生蒼太。
彼が務めるのは出版社の文芸編集部。理論的なことが全く通用しない「感覚」で仕事をする人たちとの葛藤のお仕事小説。

 全く違う分野に一人入り込むことの難しさは、言葉にしにくい。
感覚も常識も考え方も違うために話がかみ合わないもどかしさは蓄積するから。
 そんな環境を生き抜こうと決めた桐生が、腐れ縁の同期と起こした理系文芸同盟が、ミリオンセラーを出してやると意気込むところはまさに「お仕事小説」。そして、半ばに危機が訪れ、「4章でピンチは一度ではなく、畳みかける」を4章で起こす。最後にタイミングを見計らった驚きのニュース。
小説内で起こす定石をすべて盛り込んであるし、話の中で出てくる小説たちともリンクさせている。
ただ、中身が共感できるかのみ。

名もなき星の哀歌


 昼は銀行員として働く良平と漫画家志望の健太。
二人には裏の仕事がある。それは人の記憶を売り買いすること。
ある日二人は路上で歌を歌う星名という女性のことが気になり始め、医者一家焼死事件との関わりを見つけた。
そして店の仕事を使って探偵をすることを思いつく。

 二人の仕事が面白くなり始めるのは後半。
それまでは退屈で、何も起こらないまま終わるのかと思い始めた頃だった。
政治家の汚職、火事の真相、良平と健太の記憶、そして店の仕事などが、やっと起動し始めてからが本番だった。
前半の退屈がなければもっと引き込まれたかも。

死因


 潜水禁止地域の川で毒殺されたジャーナリスト。
調べていくと、狂信的なカルト教団が浮かび、ケイにまとわりつく不気味な刑事と、その後ろには海軍の影も浮かんでくる。
ケイが狙われたと思える事故で解剖助手の好青年まで死んだことで、ケイはおびえながらもルーシーの助けを借りて立ち向かう。

 マリーノとの関係は相変わらずだけどとてもいい相棒となり、ルーシーは頼もしくなった。
だけど、ケイの周りで巻き添えとなった人が死にすぎることが気になるし、解決となるきっかけの発見が軽く書かれすぎて見逃しそうになるのは毎度のこと。
そのせいでいつもちょっとした消化不良な感じが残る。

清明: 隠蔽捜査8


 神奈川県警刑事部長に着任した竜崎伸也は、着任早々東京と神奈川の県境で起こった死体遺棄事件に関わる。
被害者の身元が外国人だったことから、公安も交えた捜査となり、それぞれの壁に捜査を阻まれる。

 どこへ行っても竜崎は変わらず。
言っていることは正論で、しかもそれが本心であるため、周りを唖然とさせることもある。
でもいつしか皆の視野を広げさせ、協力者を増やす。
それが事件解決へとつながるが、いつもいつもうまくいっているのが不思議になってくる。

鳥居の密室: 世界にただひとりのサンタクロース


 ある喫茶店で、たくさんある時計の中で、たった一つの振り子時計だけが、なぜか毎日動き出す。
その謎を、いくつかのヒントをもとに解き明かした御手洗は、10年ほど前に起こった殺人事件のトリックと同じだと言った。
 それは完全な密室となっていた家に、サンタクロースが少女にプレゼントを置き、母が殺されていた事件。

 同じような現象を解き明かす話はいくつかあるため、すぐに原因は予感できるが、それが昔の殺人事件まで解決していくとなると面白くなってくる。しかし、それぞれが最後まで真実を隠していたくらいの大きな訳が、解決されていないまま。
真実を見つけたら、後はそれぞれで納得するように勝手になんとかしろと突き放された感じ。

神奈川宿 雷屋


 神奈川宿の茶屋・雷屋では、隠れて宿屋もやっている。
割高にもかかわらずやってくる客といえば、訳ありやおかしな人ばかり。
ある日、女中をやっているお実乃の目の前で、客が突然死んだ。年寄の客だったために事件とはならなかったが、四日後にはまた二人、泡を吹いて死んでしまう。
 お実乃は不審を抱き、原因を探り始める。

 不穏な雰囲気がずっと付きまとう話だった。
おかげで読んでいても気分が悪くなり、誰も信用できないし誰の気持ちもわからない。
締めの章となってようやく明るい気分になって終われたが、どうも不信感が残ったままになってしまった。

シャーリー・ホームズとバスカヴィル家の狗


 女医のジョー・ワトソンは、ベイカー街221bで、世界唯一の顧問探偵シャーリー・ホームズと同居していた。
ある日、ジョーの叔母キャロルが結婚するという知らせを受け、ジョーはデヴォン州に向かった。
ところがそこは、何代にもわたって続いてきた、秘密の事業があった。

 ジョーの叔母キャロルの結婚相手が実は貴族で、突然当主を失い跡継ぎになったことで起こった、いくつかの 殺人事件。
魔犬の呪いの伝説まであるドラマチックな設定だが、学園シリーズ「カーリー」の少女たちと似たキャラクターで混乱する。おしゃべりが大好きで止まらなかったり、女同士で盛り上がって騒ぐ様子が、とても戦医として働いていたとは思えないくらいのギャップ。でもそこも可愛らしいと感じられるくらい面白い主人公と、頭脳はとびぬけているが健康に難があるシャーリーの個性がもうちょっと描かれていたらなぁと残念に思う。

琴乃木山荘不思議事件簿


 山小屋「琴乃木山荘」のアルバイト、棚木絵里。
オーナーの琴乃木正美やベテランアルバイトの石飛匠に助けられながら、日々充実していた。
そんな時、同じアルバイトの先輩が「幽霊を見た」と言い出す。
絵里は、石飛と共に幽霊の正体を確かめに行くことになった。

 日常の謎を、わずかな手がかりの中から解き明かす短編集。
でも、大崎 梢の書店員シリーズと同じ。舞台が書店から山小屋になっただけ。
謎も特に興味をそそるような謎でもなく、やがて殺人事件にまで出くわすのは、物足りなかったからか。

小説 日本博物館事始め


 御一新に伴い、全国の寺院や城が壊され、美術品も海外に流出していく。
そんな日本をさみしく思う一人の男が、留学中に観た大英博物館のようなミュージアムを作りたいと願い、叶えた町田久成の物語。

 小説というよりエッセイのような雰囲気の一人語り。
強い願いをただ持ち続け、様々なことをあきらめ、譲歩しながらも夢をかなえた久成の心情が、長年持ち続けた情熱を感じさせない静かさで描かれている。そのため、時々退屈に感じる。
まだ日本にはなかった博物館という概念を形にした久成をの人となりには興味がわいた。
そのあたりはもう少し描いてほしかったと思う。

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早朝始発の殺風景


 始発の電車で出会ったクラスメイト。特に親しいわけではない。
女子高生3人が、ファミレスでかわすいつもの意味のないおしゃべり中、意見が対立する。
遊園地の観覧車でなぜか男二人になってしまった。

 そんな、ちょっと気まずい密室での出来事。
『体育館の殺人』、『水族館の殺人』、『図書館の殺人』などの作者。
普通の日々の中で、ちょっと観察するとわかるけど、なんとなくどうでもよくて見過ごしている謎を拾い上げる。
短編集として、結末は「まだもう少し気になる」程度で終わらせてあるため、どれももうちょっと読みたいと思わせる。

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