祟り神 怪談飯屋古狸


 怖い話を聞かせるか、実際に幽霊が出るというところに行って確かめると飯代がタダになるという飯屋「古狸」に通う桧物職人修業中の虎太。
押し込みで皆殺しになった家に肝試しに行った若者3人のうち、一人が行方不明になったという話を聞いて、虎太はその家に泊まり込むことになる。その夜、死体が埋まっている夢を見た虎太。すると本当にその場所から男の遺体が発見される。

 本当は怖いことが大嫌いな虎太が、今度も怖い思いをさんざんする。
しかしちょっとは慣れてきたのか、怖がるついでにいろんな情報まで手に入れている。
怖いながらもちゃんとおかしなことをやらかす虎太は見ていて楽しいが、皆塵堂と溝猫長屋と同じテイストなのでそろそろ飽きてくる。

三年長屋


 下谷、山伏町にある裏店、通称『三年長屋』。そこは河童を祀っており、3年ほどで望みが叶うという噂があった。
元武士だった佐平治は、大家のお梅と出会ったことで、その長屋の差配としてそこに住むことになった。
錺職人や辻占、下駄屋や古手屋などを商う店子たちと、にぎやかな暮らしを送っていた。

 元武士で、上役の不正を質そうとして疎まれたために藩を出てきた佐平治が、店子の悩みや厄介ごとを聞きながら、それぞれの旅立ちを見送る。
お梅が佐平治を差配にした理由は何だろうと考えながら読んでいたが、前半は特に理由も思いつかないほど平凡。
退屈になってきた頃、やっと店子たちの個性も出てきた。
それぞれがきちんと生きていこうとする様子がしっかり描かれているが、長屋が舞台の似たような話は多くあって、その中では特に特徴がなく、印象に残りにくい感じ。

江戸前浮世気質 おちゃっぴい


 本石町の裏店に住む者たちの、一人を主人公にして日々の出来事や思い。
町のおてんば娘と言われるお吉の嫁入り話まで、お江戸に住む人たちの悲喜こもごもな短編集。

 どれもほっこりする話。
いろんな世代の人が集まっていて、いろんな見方をするから、誰か一人に肩入れすることなく、すべてを受け入れられる。

接触


 ごみ収集所で見つかった、手足と頭のない、胴体だけの死体。
同じ手口ですでにもう何件も続いていた事件に、ある日ケイの家に被害者の切断された手足が写った電子メールが届く。
発信者の名は、deadoc。ケイは慄きながらも、遺体の体の小さな発疹に目を付ける。

 最後は知らないうちに犯人の元へと乗り込んでいたケイ。
目に見えない凶器の話はやはり怖い。
が、最後の遺体だけ違った特徴があった件について、布をかぶせたことは理解できたが、切断面が違っていたことについての説明はなかった。このシリーズは、こういった推し量るしかない事が結構多い。
主人公が検死官で、化学で事実をつかもうとする話で、事実をはっきりできることが放っておかれているのはどうにも後味が悪い。

たらふくつるてん


 塗師の武平は、腕はそこそこで稼ぎはいまいち。酒も弱いし人付き合いも得意じゃないという、そこそこな職人だった。
ある日、出来上がった品を届けに行った先で酒を供され、飲みつぶれて朝目が覚めると、そこには女が殺されていた。
肝をつぶして逃げ帰った武平は、なんとか江戸へ逃げ出し、そこで出会った絵師の石川流宣と共に、噺家をするようになる。

 「江戸落語の始祖」といわれた鹿野武左衛門の人生。
武平と、武平を追うかたき討ちの兄弟の二つの流れがあり、それが交わるまでは流れが分かりにくくつまらない。
やがて噺家として稼げるようになった武平たちがお上に目を付けられないよう身を縮こませるころになってやっと話が乗ってくる。
胡散臭いと思っていた流宣のことが知れる頃にはもう終わりになっていた。

クローバー


 わがままで強気で何でも押し通す華子と、そんな華子にされるがままの理系男子・冬冶。
ある日華子にストーカーさながらのおしかけ彼氏がやってくる。
やがて冬冶にも、大学で気になる子ができ、4人のすったもんだの恋愛話。

 軽快でするすると話は進み、嫌みな人物もなく、少しずつ打ち解けていく4人の関係が楽しい。
華子の身勝手さは極端な前向きさと同じ感じで、言うことを聞いてしまう冬冶の気持ちもわかるし、それを見ているほかの人にも不快感は感じさせない。短編なので気楽に出来事にも向き合えて、明るい読後感。

私刑


 雪の舞うセントラルパークで、全裸で殺されている女性が見つかる。
犯行手口からゴールトの仕業とわかり、スカーペッタ、マリーノ警部、ベントン捜査官が捜査を進める。
やがて被害者はゴールトの双子の妹だと判明した。
ゴールトを追い詰めようと、ルーシーも含めて大掛かりな罠を仕掛け、やっと長い戦いが終わる。

 わざと自分の姿を見せつけるようなうすら寒い犯行が繰り返され、やっとゴールトの尻尾をつかむことに成功したケイたち。
薄気味悪い出来事ばかりで暗い気持ちだったのが、最後はほっとして力が抜けた。

死体農場


 ある日教会から自宅へ戻ったエミリーが何者かに連れ去られ、死体となって発見された。
死体の内腿と胸の上部及び肩の肉は切りとられていたため、テンプル・ゴールトの仕業だとみなされ、ケイとマリーノは捜査を始める。
だが、犯行手口に共通点は多いものの、一向に証拠はでてこない。
不信に思った二人が目を付けた次の被疑者は。

 マリーノが迷走している。仕事以外の面で。
ケイの行動にも精神的な揺れが見られて一貫していないので、こちらも揺さぶられてばかり。
今回はルーシーが大きな役割を持ったため、そちらへの興味が増してケイとマリーノの存在感が薄くなった。
マリーノが一番信用できそうな登場人物となってきた。

真犯人


 死刑囚ロニー・ジョー・ワデルが刑を執行されたその夜、まるで彼が起こした事件とそっくりな殺人事件が起こる。
その後も、女性霊能者の殺害現場ではワデルの指紋が見つかり、同僚の検屍局主任まで殺される。
ケイは身近な者として、メディアから執拗に攻撃され、辞職をするよう通告されてしまう。

 専門的な検証による証拠集めの様子が興味深かった。姪のルーシーも得意分野で活躍し、ケイのネガティブな精神状態が続いて暗くなりがちなのを時々リセットする。
ただ、真犯人を作った者が、なぜ囚人を選び出したか、逃亡を成功させられたかのところがあっさりとしか書かれてなかったので、いまいちすっきりしない。

小さき者たち


 屍体が悪霊にならぬよう見守る“家守”として、父と共に暮らしてきたモチカ。
父の後を継ぐと思っていた自分の運命が、ある日訪ねてきた祖母によって一変した。
突然連れてこられた大きな町で、少年たちが15歳になると必ず受けることになる神からの“試しの儀”に臨むモチカ。
そこでは、献上人として神に命を捧げる者を選んでいた。

 一つの国の繁栄と衰退。
高い理想で作られた国は、世代を重ねるごとに建前が増えていく。
理不尽な仕来りに疑問を持つものたちの声が亡霊となって襲ってくる不気味さと、従うしかない者たちの窮屈な不満がとぐろを巻いて順番にやってくる。
決まり事を外から見たときに感じる滑稽さが目いっぱい詰め込まれていて、描写も細かいので、状況がくっきりと目に浮かぶ。