捜査官ガラーノ


 マサチューセッツ州捜査官のウィンストン・ガラーノは、上司のラモントからの突然の命令で、いつも振り回されていた。
今回も遠いアカデミーでの研修を受けるよう指示され、そしてまた、20年前の老女殺害事件を再捜査するよう命じられる。

 結局何だったの?と言いたくなるような内容。
上司は地位ある人物としての魅力が全くないし、主人公に至っては見た目が美しいと書かれているだけで行動も仕事面でも特徴がない。ストーリーも惹きつけるところがないまま終わり、疑問すら思いつかないほどどうでもよくなった。
これはもう他を読もうと思う気が起こらない。

就職相談員蛇足軒の生活と意見


 研究者志望のシーノは就職に失敗し、職安に通う日々。
ある日目についた「急募 秘書1名」の張り紙に惹かれやってきた蛇足軒というところ。
嘘術という怪しげな道の家元だという。
すぐさま採用となったシーノは、雇い主のもう一つの顔である、就職相談員の仕事を手伝うことになる。

 現代のパラレルワールドのような、微妙に違ったところのある現代。
やってくる求職者も変わった人(?)ばかり。
彼らに適切な職業を紹介するというのは面白い視点だが、後半は失速。
独りよがりで飛び出し、ホームレスのような生活をしてみたり、これまでを簡単に捨ててしまい、人にも頼らず、本来の話からどんどん遠ざかる。
ちょっとしたトラブルや失敗で絆が深まるのとはどこか違い、気がそがれてしまった。

神奈川宿 雷屋


 神奈川宿の茶屋・雷屋では、隠れて宿屋もやっている。
割高にもかかわらずやってくる客といえば、訳ありやおかしな人ばかり。
ある日、女中をやっているお実乃の目の前で、客が突然死んだ。年寄の客だったために事件とはならなかったが、四日後にはまた二人、泡を吹いて死んでしまう。
 お実乃は不審を抱き、原因を探り始める。

 不穏な雰囲気がずっと付きまとう話だった。
おかげで読んでいても気分が悪くなり、誰も信用できないし誰の気持ちもわからない。
締めの章となってようやく明るい気分になって終われたが、どうも不信感が残ったままになってしまった。

落花狼藉


 売色稼業の西田屋に拾われ、店の娘分として育った花仍は、主の甚右衛門の妻となり、女将となった。
夫の甚右衛門が13年越しに御上に願い出ていた「売色御免」が認められ、徳川幕府公認の傾城町・吉原を作り上げたが、それからも、奉行所からは無理難題を突き付けられ、さらにすべてを焼き尽くす大火事も出た。
そんな吉原の時代を生き抜いた一人の女の生涯。

 花仍が何を思い、何を願って生きたのかがじっくりと描かれていて、事が起こるたびこちらもいちいち息をのんだり苦しくなったりと、感情を振り回された。
吉原の悲喜こもごもではなく、遊女屋としての形を成す過程が書かれたものはあまり見ないので興味もそそられ、花仍が人生の最後に思った艶やかな景色が目に浮かんだ。

小さき者たち


 屍体が悪霊にならぬよう見守る“家守”として、父と共に暮らしてきたモチカ。
父の後を継ぐと思っていた自分の運命が、ある日訪ねてきた祖母によって一変した。
突然連れてこられた大きな町で、少年たちが15歳になると必ず受けることになる神からの“試しの儀”に臨むモチカ。
そこでは、献上人として神に命を捧げる者を選んでいた。

 一つの国の繁栄と衰退。
高い理想で作られた国は、世代を重ねるごとに建前が増えていく。
理不尽な仕来りに疑問を持つものたちの声が亡霊となって襲ってくる不気味さと、従うしかない者たちの窮屈な不満がとぐろを巻いて順番にやってくる。
決まり事を外から見たときに感じる滑稽さが目いっぱい詰め込まれていて、描写も細かいので、状況がくっきりと目に浮かぶ。

赤の王


 大砂漠で生まれた赤子は、赤い紙に赤い目をした、火を操る子供だった。
親代わりの師匠を殺され、逃げ出した子供・シャンは、バヤルという町でマハーンという少年と出会い、友情をはぐくむ。そして二人は砂漠の国ナルマーンからの使者と共に凶王サルジーンを倒すべく修行を積むが、やがて真実に気付き始める。
 
 ナルマーン年代記三部作の、完結編。
先のシリーズは読んでいなかったけれど、問題なくその世界を楽しめた。
少年の心の動きや大人たちの目論見、様々な技の使い手、面白そうな設定がたくさんあった。
そしてくどくならない程度の長さと軽いやりとりが、少しの間の現実逃避にはぴったり。

検屍官


 バージニア州都リッチモンドの検屍官ケイの下には、毎日のように解剖を必要とする遺体が運ばれてくる。
そんな中、今一番注目されている連続殺人事件の遺体には、異常なほどの残忍さの痕跡が残されていた。
犯人の痕跡はいくつか残されているものの、遺体が増えるばかりで捜査ははかどらず、難航していた。

 遺体に残された痕跡から手がかりを探す専門家。
その目の付け所に驚きと興味が沸くが、登場人物たちは皆それほど特徴がないため、区別しにくかった。
誰の考えが出てきても、誰でも言い出しそうなことであったり、どんな行動もさして特別意外でもない。
唯一印象に残るのは姪のルーシー。
彼女の活躍が今後出てくればきっと楽しくなるだろう。

夢は枯れ野をかけめぐる


 早期退職して無職の48歳、独身の羽村祐太は、ある日高校の同級会で奇妙な相談を持ち掛けられる。
暇な祐太はそれを受け、ご近所さんとの交流も楽しみ始めた。
祐太の周りで起こる、介護や孤独死などの、ちょっと憂鬱な大問題を、それぞれの視点から描く短編集。

 介護、惚け、死などの、暗いイメージのことを、祐太の視点でさらりとさせて語るため、気の重くなる事が思いのほか気詰まりではない雰囲気になっている。
最初は探偵ぽい立場を持たせようとしていたようだが、むしろ後半の祐太のほうが魅力的だった。
ご近所さんの、いろんな「老い」。

太平洋食堂


 明治の世、無理やりなこじつけとも思える罪で死罪となった大石誠之助の半生。
山と川と海に囲まれた紀州・新宮で生まれ、その風変りな人となりで人気者だったドクトル大石が、どんな人たちと友好を結び、どんな縁が元で不幸な終わりを見ることになったのかを、作者の時代考証や人物考証と共に読み解いていく。

 不思議な魅力があった大石誠之助の人物像がまず描かれ、それから一風変わった親族たちや、才能豊かな友たちを交えて時代の理不尽を解く。
そのページ数の多さから、じっくり読もうと覚悟をしていた割には、ほんの二日であっという間に読んでしまえる吸引力があった。
それほど昔でもない日本でのこと。そして、一人をじっと観察するように描かれていることで、むやみに入り込まないでいられ、そのおかげで自分なりの考察も持ちながら読めたため、ただ物語を楽しむだけでは終わらず、ずいぶんとエネルギーのいる読書となった。

シャーリー・ホームズとバスカヴィル家の狗


 女医のジョー・ワトソンは、ベイカー街221bで、世界唯一の顧問探偵シャーリー・ホームズと同居していた。
ある日、ジョーの叔母キャロルが結婚するという知らせを受け、ジョーはデヴォン州に向かった。
ところがそこは、何代にもわたって続いてきた、秘密の事業があった。

 ジョーの叔母キャロルの結婚相手が実は貴族で、突然当主を失い跡継ぎになったことで起こった、いくつかの 殺人事件。
魔犬の呪いの伝説まであるドラマチックな設定だが、学園シリーズ「カーリー」の少女たちと似たキャラクターで混乱する。おしゃべりが大好きで止まらなかったり、女同士で盛り上がって騒ぐ様子が、とても戦医として働いていたとは思えないくらいのギャップ。でもそこも可愛らしいと感じられるくらい面白い主人公と、頭脳はとびぬけているが健康に難があるシャーリーの個性がもうちょっと描かれていたらなぁと残念に思う。