ミレニアム2 火と戯れる女(上)


 リスベットの後見人のビュルマンは、復讐を誓い策をめぐらせていた。
そしてその頃、『ミレニアム』では、人身売買と強制売春の調査をしているカップルと特集号と書籍の刊行を計画していた。
上手く出版に持ち込めそうだという時、突然カップルとビュルマンが銃で撃たれて殺されてしまう。
その銃にリスベットの指紋がついていたことから、リスベットは殺人犯として指名手配され、様々なところから行方を追われることになる。

 リスベットが姿を消していた間の出来事が平和で穏やかだったせいか、その後の展開が急なうえ恐怖も大きい。
正体不明の「ザラ」という人物、カップルとリスベットの関係。
ビュルマンがもっと腹黒いかと思っていたらあっさり殺されてしまうこと、ミカエルにハリエットとも関係を持てるほどの魅力が感じられない事、リスベットのミカエルに向かう怒りが強すぎる理由、今はまだわからないことばかりで、頭がいっぱいになってしまう。

上流階級 富久丸百貨店外商部 (3)


 神戸の富久丸百貨店芦屋川店で敏腕外商員として働く鮫島静緒。
静緒を信用して仕事を頼んでくれるお客様も増え、ますます忙しく動き回る。
美容整形に興味があるけど怖くて静緒に話を聞いてきてほしいという女性投資家。息子の中学受験で義親からの圧力と本人の希望がかみ合わないという主婦。
著作権を侵害されているイラストレーターに弁護士を探したり。
そんな中、母に初期のがんが見つかり、静緒は急に将来に不安を感じ始める。
今のうちに家を買い、母と暮らす場所を見つけておく方がいいのか、そして幼馴染からのヘッドハンティング。
悩みが増える一方の静緒。

 今回もいろんな要望に応えるべく走り回る静緒。
中でも終活の一環でホームパーティーを開いた清家の方々とのやり取りは、慌ただしい静緒にほっと一息つかせる穏やかさと柔らかさがあってこちらも和む。
家出した勢いで家をキャッシュで一括購入するような人たちの言動は、決して我儘ではない上品さがあるため、力になりたいと思ってしまう魅力がある。

うさぎ幻化行


 飛行機事故で死んだ義理の兄。
リツ子のことを「うさぎ」と呼んでかわいがってくれていた兄が残したのは、音風景の音源だった。
しかしリツ子は、その音は自分あてではないような気がして、義兄の残した音を訪ね歩くことにした。

 事故から始まった物語は、静かでもの悲しい様子でずっと続く。
しかしリツ子は、音源を求めて旅に出た道中で出会う人たちとの妙な接点から不穏な矛盾を見つけてしまい、少しづつ正気を失っていくような感覚で読み進めていく。
判明する謎あり、曖昧にされた謎あり。
でもどちらかというと余韻に浸れる謎ではなく、ただ突然打ち切られたという感覚が強く残る。
すべては幻想で終わってしまいそう。

プルオーバー



使用糸:パピークイーンアニー(965)
編み図:ヨーロッパの手編み 2018秋冬より
     No.3 7号針 509g

平凡な革命家の食卓


 出世を目論む女性警察官・卯月枝衣子警部補29歳。
ある地味な市会議員が自宅で死亡した。一見普通の急性心不全で、事件性はないとみられたが、枝衣子はこれを事件性ありと強引に単独捜査を始めてしまう。
ところが、議員の主治医やその婦人との古い因縁に気づき、さらには向いのアパートの住人まで巻き込んで大騒動になってしまう。
本当はは本庁捜査一課へ栄転の足がかりとしてなにか目立つ功績を狙っていただけなのに、事件と共に恋人までゲットして、枝衣子の人生は大きく動き出す。

 退屈な出だしだったし、枝衣子よりもジャーナリストの柚香のほうが存在感があり、事件も平凡だったためにうっかり投げ出すところだった。
出世欲のために事件を捏造するんじゃないかと冷や冷やさせるような子供っぽい枝衣子かと思ったら、強かで勘も冴える優秀さ。
恋人のジャーナリストの穿った見方も楽しく、どこまでも深追いしたくなる人物と事件だった。
探偵の柚木も名前だけは出てくる。

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (下)


 ハリエット失踪事件に関する膨大な資料を調べるミカエル。
一人では限界があると思いヘンリックの弁護士に相談すると、背中にドラゴンのタトゥーを入れた女性調査員・リスベットを紹介される。
リスベットの個性に驚きながらも、二人は気が合い、深い闇をもつヴァンゲル一族の謎へと分け入っていく。

 ミカエルが見つけたハリエットのメモと失踪当日の写真に写ったハリエットの姿から、ミカエルは恐ろしい真実をつかむ。
真相を見つけたとたんにミカエルは命を狙われ、リスベットと共に生還するまでを一気に読み進んだ。
大げさなほどの危機だが、途中では止まれないほど息をつめた危機だった。
そのせいか、生還後はもう余韻だと感じていたが、ヘンリックの依頼を受けるきっかけとなった事件がまだ終わっていなかった事をやっと思い出す。
それは後日談のように淡々と語られていたためにちょうどいい余韻のまま進み、やがてすべて解決した頃にはミカエルに起こった衝撃も薄れてきて落ち着いて読み終えることができた。

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上)


 月刊誌『ミレニアム』の発行責任者ミカエルは、大物実業家の暴露生地を書いたせいで名誉棄損で訴えられ、有罪判決を受けた。
そして『ミレニアム』の発行責任者から身を引くことになったミカエルに、とある企業グループの前会長ヘンリック・ヴァンゲルから1年の契約として仕事を持ち掛けられる。それは、表向きはヘンリックの自叙伝の執筆だが、本当はおよそ40年前に失踪した兄の孫娘ハリエットを殺した犯人を見つけてほしいというものだった。

 人生の危機にタイミングよくあらわれる人物と依頼。
転機にすべく依頼を受けるミカエルだが、サブタイトルにもなっているドラゴン・タトゥーの女はいつミカエルにとっての重要人物になるのかとうずうずしながら読んだ。
かなり物語が進まないと絡んでこない彼女は、姿も言動も人目を惹く奇異な人物の割に控えめな登場で、彼女・リスベットが次に何をするのかが気になりつつも、ハリエット事件の捜査も充分に興味を惹かれる。

大雪物語


 ある冬、N県K町が観測史上初の大雪に見舞われる。
いろんな事情でK町に来ていた人たちは、住民とともに雪のK町に閉じ込められる。
 派遣切りにあい、ひったくりで金を稼いで逃げてきた男は、優しい独居老人の家で寒さをしのぎ、遺体を乗せた車で立ち往生しているドライバーと遺族は静かなやりとりで慰め合い、飼い犬が脱走して探していたら身動きが取れなくなり、通りがかった雪男みたいな人物に助けられた女子高生の安堵など。
雪で閉ざされた世界での6つの物語。

 大雪で孤立したK町の中では、普段では起こらない出会いが起こる。
人の力ではどうにもならないほどの大雪の圧迫感と、閉ざされて音がなくても明るい雪の中での奇妙な安心感が、不思議な心境を起こしている様子が分かりやすい。
短編集によくある、最後はみんなどこかでつながっていましたというような事もなく、ただ淡々と雪深い孤独をかみしめていた。
雪の温かさと白い闇の雰囲気が感じられる。

砂漠と青のアルゴリズム


 今や絶滅の危機にある日本人。AIによって探し出され、粛清される時代。
一方、2015年の東京では、新人の編集者がスランプの作家の元へ新作の依頼へ向かう。
どの現実も、地球の滅亡を予言したと言われる3部作の絵画をめぐって、現実と虚構が入り乱れる。

 哲学的な言い回しと、時代も場所も入り乱れた夢とも現ともつかない描写で、混乱させたままどこまでも続く。
そのうち考察しようという気すら起こらないほどの虚無感でどうでもよくなる。

うしろから歩いてくる微笑 柚木草平シリーズ


 母と相性ピッタリだから結婚しろと迫る変わり者の美早から、娘の加奈子にダイレクトメールが届く。釘を刺しておこうと訪ねると、友人だという薬膳の研究家を紹介された。そして、10年前に失踪した同級生の目撃情報が鎌倉周辺で増えているので調べてほしいという依頼を受ける。
なぜ今頃になって突然目撃情報が増えたのか、鎌倉の<探す会>に向かったが成果はなく、それどころかその夜、訪ねた女性が殺されてしまう。
10年前の事件と今回の殺人は関連しているのか、柚木は月刊EYESに正式にオファーをもらい、本格的に調べ始めた。

 加奈子とのやり取りから始まり、人脈を広げていく柚木。
だがそこははやり変わり者の友人は変わり者であり、振り回されることを楽しんでいるようで、美女たちの自由に巻き込まれる柚木の声にしないツッコミがやけに面白い。
そして流されるままにいる間は勝手に事件は解決するように思えた。
しかし柚木は突然動き出し、そこからの彼は毎回驚くほど人を動かす。
今度の事件は苦しいほどの執念を持った人たちが一人の少女を救い、守り通したことで、柚木も手を出すことはやめているが、なんともむなしい後味を残すものだった。
でも柚木らしい引き際が見れたことで無力感はなく、むしろ区切りをつけられた満足感があった。