ほたる茶屋 千成屋お吟


 日本橋で御府内のよろず相談を引き受ける『千成屋』の女将・お吟。
ある日、突然連絡が途絶えた姉を探して田舎からやってきた幼い娘を助け、姉探しを引き受ける。
女郎小屋で働いていたという姉は、足抜けをしたと言って行方不明になっていた。
 前の妻を探してほしいとやってきた参勤交代で江戸へ来た初老の男性、茶屋の女将が家族のように思っている店の若い衆の憂いなど、困りごとを自分のことのように思いながら真摯に解決していく、

 十手持ちだった父が亡くなってから、後を継ぐように始めたというよろず相談屋。
持ち込まれる相談を解決するという話はいろいろあるが、主人が女という点はあまり見ない設定。
そのためどこか懐の大きな母のような、見守ることがメインのような話でほっこりする。

1目ゴム編みのアラン模様 両面同じ柄で


使用糸:パピー キッドモヘア マルチ(805)
編み図:楽しい手編みのマフラー より
     C. 1目ゴム編みのアラン模様 両面同じ柄で 96 g 5号針

天龍院亜希子の日記


 第30回小説すばる新人賞受賞作。
ブラックな人材派遣会社の営業をしている田町譲。忙しいのに人は補充されず、夜中まで働くこともザラで、それでも残業代はほぼなし。
付き合って3年の彼女ともなんだか離れ気味。
そんな時、えらく豪華な苗字を持つ小学校の時同級生だった天龍院亜希子のブログを見つけてしまう。
つまらない日々を、今はもうどうしているのかも知らない同級生の平凡なブログを読むことで流している田町の、平凡な日々。

 天龍院亜希子のブログが何かにつながるわけでもなく、本当に平凡な日常だった。
彼女とのこと、同僚とのこと、派遣スタッフのことで終わる毎日がだるそうに語られる。

スイッチ 悪意の実験


 夏休み、就職活動が上手くいっていない先輩から、バイトの話を持ち掛けられた。
それは、日当1万円、期間1か月の、初日のみ拘束時間ありのおかしな仕事だった。
心理コンサルタントとしてテレビにもよく出ている人物からの仕事で、「純粋な悪意」を知りたいという。
集められた6人の大学生には、自分達とはなんの関わりもなく幸せに暮らしている家族を破滅させるスイッチのアプリがインストールされ、押す押さないを任された。

 「理由のない悪」と、それをしてしまう人の心理を知りたいというリサーチ。
しかし、それが大きな事件へとつながり、それぞれの過去とも向き合う羽目になることで、心が軽くなる人、将来を真剣に考える人、達観する人、いろんな考えが見える。
でもところどころわかりにくい。
宗教の教えや概念のことだけでなく、物語の進み方が分かりにくい。
結局、大酒を飲んでは豪快に失言を飛ばす就活中の先輩が一番個性的で楽しかった。

婿どの相逢席


 小さな楊枝屋の四男坊・鈴之助は、好き合ったお千瀬と結婚でき、うれしさでいっぱいだった。
ところが、お千瀬の実家である大店の仕出屋『逢見屋』に婿入りとなった鈴之助は、驚くことを知らされる。
そこは、女が仕切り、女が最も偉い家だった。
表向きは主人となるが、商売の一切は蚊帳の外、仕事もなく、ただ無為に過ごすことだけを望まれ、鈴之助は途方に暮れる。

 逆玉の輿のつもりが、婿入り早々隠居暮らしとなった鈴之助。
だが前向きな鈴之助は、可愛い妻を助けつつ、暇なことをいいことに、気になることにどんどん首を突っ込んでいく。
鈴之助の穏やかで人を安心させる性格が、あちこちで幸せの種となっていく様子がとても気持ちがいい。
捻くれた人も多く出てくるが、そうなってしまった原因をときほぐしていく鈴之助の言動が、やがて『逢見屋』にも変化をもたらしていきそうだ。

彼岸の花嫁


 富豪のリン家から、死んだ跡継ぎ・ティアンチンの嫁にしたいと言われたリーラン。
幽霊の嫁になどなりたくないと拒否するリーランだが、やがて夢の中で毎夜死んだティアンチンが現れ、食事や贈り物でリーランを説得しようとする。
不眠と恐怖で寝付いてしまうりーれんだが、なんとか結婚を阻止しようと、黄泉の国へ行くことを決意。

 リン家へと出向いた日に、奇しくも当主の甥にあたるティアンバイに恋をしてしまうリーレンが、どうにかして彼と結婚できないかといろんなことを考える様子がかわいい。
夢の中のティアンチンはどこまでもウザく書かれているし、意地悪な人はわかりやすく意地悪。
あの世と現世との行き来や、人間ではないものとの交流にはファンタジーらしくて楽しいし、恋した相手を一目見たいと衝動を抑えきれないなど少女らしいところや、どちらの求婚をうけようか悩んだりと、10代の少女の悩みと憧れが盛沢山だった。

うめ婆行状記


 北町奉行所同心の夫・霜降三太夫を卒中で亡くしたうめは、一度でいいからやってみたいと思っていたことをすることにした。
堅苦しい武家の作法から離れて、一人暮らしを始める。
手頃な家を借り、庭に生えていた梅の木になっている実をもいで梅干しに。
そして昔の知り合いがお隣さんだと知り、うめは楽しみが広がってうれしくなる。
ところが、甥っ子の隠し子が現れたり、お隣のおかみさんが亡くなったりと、ゆっくりする時がない。

 未完の遺作。
気の強そうなうめは、始めは意地っ張りの印象が強かったのだが、だんだんと母の顔、叔母の顔、義姉の顔と、いろんな面を見せてくれる。
周りの人たちをうまく橋渡しもして、家から離れて客観的な目をもったうめから見た、ご近所親戚ひとまとめの日常が楽しそう。
うめ自身の老いも語られてきた頃に唐突に終わってしまったのでとても淋しい。

Twig


使用糸:ハマナカ Pure Merino(17)、ウイスター エーデル(51)
編み図:まきもの より
     Twig 130 g、6号針

前作と色違い


孤虫症


 主婦の麻美は、夫には言えない”趣味”を持っていた。
週に3度、それぞれ曜日によって決めた男たちと逢瀬を習慣にしていたが、男たちが次々とおかしな症状で原因不明の死を遂げる。
やがて麻美自身もおかしな音に困らされ、腹部の痛みを感じ、やがて体中に虫が入り込んでいるように感じられ、手を切り落として失踪してしまう。
それは、麻美から相談を受けていたという妹にも起こる。これは忌まわしい家族のつながりのせいか。

 奇妙で、気味の悪い話だった。
近所の人たちの薄暗い悪意や、母親からの開き直った悪行、周りのすべてから責め立てられるような不気味な出来事は、やがて気が狂わんばかり。
しかもそれは麻美の身に起こったことか、妹か、母か。女たちの嫉妬も絡まり、道筋を立てて考えることができなくなりそうで、しばらく違和感と嫌悪感でいっぱいになる。
この手の話は苦手。

高校事変 XII


 長男の架禱斗がこれまで計画してきたことが実行に移された。日本は武力による支配の元へと下り、法律も警察もあてにできなくなってしまう。
その中で結衣は、亡き母が残した遺産を受取るため富津市の東京湾観音へ向かい、隠された意図を知る。
結衣をおびき寄せるために用意された舞台は、かつて矢幡元総理夫妻の関与が取り沙汰され、疑惑の中心として世間を賑わせた挙句、開校されないまま放置された茅ヶ崎の森本学園。そこで兄弟がそろう。

 決着をつけるために死ぬべきだと決意をする結衣。
そこで行われた戦闘は国家存続をも賭けた戦いで、結衣はどんな決着を選ぶのかと思っていたら、ほかのシリーズの登場人物がさらりと現れる。
死ぬつもりだった結衣が、生きるための思考へと変更した頃からのスピード感は想像を超えた。
ラストシーンでは、やっと終わったのかという安堵感。長かった。