魔法使いと副店長


 買ったばかりの新居に妻と息子を残して単身赴任中の四十路男・藤沢太郎。
スーパーマーケットの副店長として日々頑張っているが、そんなある日、窓を破って一人の少女が押しかけてきた。
一緒にやってきたモモンガに似た小動物は目付け役だと話し出し、太郎は困惑する。
一人暮らしの男の部屋に、どう見ても10歳くらいの女の子が急に出入りしたら警察沙汰になる。
慌てる太郎に少女はなんと、自分は魔法使いの見習いだと話し出す。

 見た目よりも言動が幼い少女はアリス。
人間界に修行に来たという話はどう考えても胡散臭いが、ドタバタな日々で考える暇もなく、友達を作ったり公園で飛ぶ練習をしてみたりと振り回される。
ファンタジーというには現実っぽく、ライトノベルというにもなんだか社会人生活のしんどさもしっかりあって、ねじくれ家族小説というだけあってよくわからない。
少女の成長物語という感じで読めば単純に楽しめる。

箱庭の巡礼者たち


 洪水でがれきだらけになった街の片隅で見つけた黒い箱。
それは箱庭だった。しかも生きている。その秘密を知る人たちとのぞき込むうち、彼らは箱庭の中に入っていってしまう。
そこでは王がいて、竜や吸血鬼もいた。英雄が生まれ、銀の時計で世界を移動したり、不思議な発明をする人、意思を持った機械人形、挙句の果てには不老不死の薬と、あらゆる異世界があった。

 一つ一つは現実なのに、合わさるとすべてがどこかの箱庭で誰かに観察されているという、入れ子のような世界。
どこと誰がつながっているのかを考えながら、それぞれに楽しい世界が広がる。
最後は壮大な話になり、広がっていく宇宙のような余韻で終わる。
でもちょっと大きすぎてうさん臭く感じてしまった。

サイチカさんのベレー帽&ハンドウォーマー


使用糸:元廣 毛混並太 (501)、パピークイーンアニー(986)、パピープリンセスアニー(532)、パピーシェットランド(43)
編み図:NHKすてきにハンドメイド 2020年 11 月号 サイチカ ベレー帽&ハンドウォーマー
使用針:4号棒針、5号棒針 80g~100g

黒猫と語らう四人のイリュージョニスト


 一月前に大学に長期の休暇願を出してから、黒猫は一切の連絡を絶った。
学部長の唐草教授から、探してほしいと頼まれた付き人は、失踪前に研究室を訪ねてきた4人に、話を聞くことにした。
黒猫はなぜ姿を消し、ずっと連絡が取れないのか。
なぜその4人と会っていたのか。
付き人もこの先を考えなければいけない時が来ていた。

 久しぶりの黒猫シリーズでわくわくしていたが、なにやら不穏な気配。
黒猫は相変わらず美学を語るが、なぜか探偵のように4人の人物の影を明らかにしてしまう。
こんな風に追い詰める人ではなかった気がしていた。
いつもと違う雰囲気だったのに、結末は全く予感も予想もしなかったから衝撃が大きかった。
これで終わり?ちょっと辛すぎる。

誘拐屋のエチケット


 炎上やスキャンダル、またはほとぼりを覚ますためにや危険から身を守るため、誘拐屋と呼ばれる闇の職業の者が対象を誘拐し、運びます。
一人で仕事をこなしていた腕利きの誘拐屋・田村は、新人を育てるよう組織から指示される。
やってきた新人はおしゃべりで人懐っこく、涙もろくてすぐに同情しておせっかいを焼く困った奴だった。
契約外の仕事までやってしまう新人に、田村はいやいやながらもつい付き合ってしまう。
ところが二人は過去に意外なつながりがあった。

 誘拐という物騒な仕事だが、クールなはずの田村もいつのまにか新人に巻き込まれ、対象の事情を知ってしまう。
それぞれは関係のない人たちだったはずだが、最後の依頼で田村とつながってきて驚いた。
それでも軽い文章で暗さを出さず、ハードボイルドなはずの仕事も気軽に依頼できるような気がしてしまう。
雰囲気が似ていると思ったら「ルパンの娘」シリーズの人だった。

週末探偵


 大学時代からの友人である湯野原海と瀧川一紀は、平日は社会人として働き、週末だけの限定で探偵をすることにした。
料金は無料。だけど週末だけとなるので急ぐ依頼はうけない。そしてなにより、二人が楽しめるような、日常のちょっとした謎を求む。
空き地に見つけた不思議な車掌車を事務所として、二人はのんびり依頼を待つ。

 ぽつんと置かれた車掌車を見つけ、それがなぜそんなところにあるのかという謎から始まった探偵。
だけど、犯罪にかかわらない、日常の謎を解くというコンセプトのはずが、刑事事件となるものが多すぎる。
殺しや誘拐にまで発展してしまい、のんびりでも楽しい謎でもない。
しかも謎を解くというわりには、思いついた推理が都合よく正解で、こじつけ感がすごい。
納得できる謎解きではなかった。

北緯43度のコールドケース


 博士号を持ち、30歳で北海道警察の警察官となった沢村。
未解決となっていた5年前の少女誘拐事件の被害者・島崎陽菜の遺体が発見される。
犯人と思われていた男は既に死亡していたのだが、共犯者がいたのかと再び捜査本部が設置される。
しかし今回も解決には至らなかった。
しばらくして、5年前の捜査資料が漏洩し、沢村が疑われる。

第67回江戸川乱歩賞受賞作
 研究者の身分を捨て警察官となった沢村が、ここでも自分の居場所を見つけられずもがく。
5年前の事件では捜査から外された沢村が、今度は秘密漏洩の建議までかけられてどうするか。
沢村の迷いがずっと付きまとい、事件の薄暗いイメージと並行して事件解決の困難さを強調している。
ちょっと読みずらいと感じるところもあったが、一つ一つ解明していく事実が心地よくて一気に読めた。

うさぎ玉ほろほろ


 武士から菓子職人へと転身した「南星屋」の主・治兵衛。
娘と孫、そして最近店に入った職人の雲平で切り盛りする小さな店だが、店主の治兵衛が全国を歩いて集めた珍しい菓子を出すため人気の店だった。
店に顔を出すようになった中間の鹿蔵が、ある日文を託したまま姿を消してしまい、皆で心配する。
鹿蔵が大きな事件に関係しているのではないかと気を揉むが、孫のお君がうっかり買った恨みによることだとわかり怖い思いをしたり、小さな子供が思い詰めて店に直談判にやってきたり、店はいつも人であふれている。

 可愛い客にほっこりしたり、おいしそうな菓子を想像したり、知らない地域の菓子を調べたりと、とても楽しい時間だった。
剣呑な事件に巻き込まれそうになってヒヤリとしたが、「南星屋」のみんなが軽口をたたきながらも次の菓子の話をする場面が好きで、どんなふうになるかと想像してうれしくなる。
甘いもので幸せになる気持ちがあふれていた。

インビジブル


 昭和29年、政治家の秘書が、麻袋を頭にかぶせられた刺殺体として発見される。
初めての札事件捜査で意気込む大阪市警視庁の新城は、国警から派遣された警察官僚の守屋と組み捜査に当たる。
守屋はエリートなのに捜査の仕方も知らず、イライラする新城。
すると同じような刺殺体が発見され、事件は連続殺人となる。
戦争を挟んだ日本の混沌とした時代を描く。

 儲かると聞いて開拓団として満州へ渡った者たちが、その後戦争によってどんな人生を送ったのか。
暗くて苦しい時代を生きた者たちの事件だったが、時代と政治、大阪弁がなじまず、最後まで息苦しい感じが抜けなかった。
この手の作りは私には合わないようだ。

数学の女王


 博士号を取得後に警察官となった沢村依理子は、突然本部の警務部に異動となる。
そんな中、新札幌に新設されたばかりの北日本科学大学で爆破事件が発生。
そしてまた急に捜査一課へ行けと命じられ、沢村は困惑していた。
爆破事件の犯人は一向に絞られず、捜査の方向も曖昧になっていくなか、沢村は一人の男のことが気になっていた。

 爆破で狙われたのは学長で、沢村は真という名前と学長という立場から勝手に男だと思い込んでいた。
自分が女であることを理由にした人事異動に憤りを覚えていたくせに、自分もジェンダーバイアスがかかったものの見方をしていたことに気づいて愕然とする沢村の様子が生々しい。
能力はあるのに女であるために報われないと信じ込んだ者、それでも運をつかんで転機を迎える者など、なにがきっかけになるか紙一重で怖くなる。