使用糸:リッチモアバカラエポック<ファイン> (24)
編み図:まきものいろいろ から
フューシャパープルのカシミアストール 204g 5号針
犬用マフラー
使用糸:ALPS 純毛中細 (1)、パピー シェットランド (43)、ハマナカ アメりー (15)、横田株式会社 ウールスラブ (1)、毛糸ZAKKAストアーズ メランジェスラブ(22)
編み図:オリジナル
白:61g、オレンジ:30g、水色:47g
捨て猫という名前の猫
若い女の声で、月刊EYES編集部にかかってきた電話。
「秋川瑠璃は自殺じゃない。そのことを柚木草平に調べさせろ」
単なる女子中学生の自殺とされていた事件のはずが、とりあえず調べ始めた柚木は、事件とは断定できないが自殺ともいいにくい、というなんとも妙な感覚を抱く。
事件の日の足取りを追い始めた柚木の元へ、野良猫のように迷い込んできた青井麦という少女。そして亡くなった少女の母親、さらには通っていた七宝焼きの教室の女主人と、今度も女たちに囲まれる柚木。
進むようで進まない調査にもどかしい思いをしながらも、女たちの言動から目が離せない。
それでも、いったいいつからこの企みが始まっていたのか、事件の詳細が分かってからも細部まで見逃さない柚木が語る推理には身の毛がよだつ。
美女に甘いのが悪癖でも、麦への対応は紳士だったりするから、冴子や小高は見放さないのだろう。
そして娘の加奈子が序章で言う一言が、柚木のすべてを表していた。
「パパって、話をはぐらかすのが、ほーんと上手だよね」
不良少女
「刑事事件専門のフリーライター」と言ってはいても、仕事がなくて探偵業を引き受ける柚木。
かつての上司だった吉島冴子の姪に届いた奇妙な手紙を調査したり、夜のコンビニで出会った金髪の少女のお家騒動を探ったり、月刊EYESの担当の小高直海から依頼された先輩の家の犬と猫の死因を調べたりする。
美女に惹かれる柚木の性格がとても分かりやすく、出てくる女性たちのタイプが全く違ったものであればただの女たらしだが、柚木の好みは一貫している。
結末はやり切れないものもあるがそれで悲観的にならず、柚木らしい客観性で距離をおいていているので、こちらも必要以上に感情移入しないで済む。
そして、これだけ酒癖も女癖も悪い柚木を許せてしまうのは、探偵業だけは手を抜かず義理も通し、決して間違えないような天才探偵ではなく、かっこ悪いミスも犯すといったちょっと情けない中年の描写が必ず入るからだろうか。
夢の終わりとそのつづき 柚木草平シリーズ
警察を辞めて8か月、無職同然の生活をしていた柚木の元へ、美女が訪ねてきた。
依頼はただ、ある家から出てくる男を1週間尾行すること。
不審なくらい簡単な依頼に2百万の報酬。
柚木は2日、男を尾行するが、3日目、男は公園のトイレで遺体となって発見された。しかも、胃も腸も空っぽの衰弱死という状態で。
さらに依頼者の美女までもが死に、柚木は昔の伝手をたどって背後関係を調べ始める。
デビュー前の作品に大幅な手を加えた文庫化で、当初は主人公も柚木ではなかったらしい。
でもその性格はしっかり柚木で、めんどくさい人物を煙に巻いたり、美女に逆らえなかったり、権力へ大博打を売ったりと、ハードボイルドを気取る柚木の特徴はしっかり作られている。
面倒ごとに首を突っ込み、女には口説き文句を、そして噛み合わないセリフで話の腰を折る。
口説き文句と微妙にずれた会話のうるささが丁度よい息抜きとなっていた。
プラスチック・ラブ
中学時代の同級生・寛子が、ラブホテルで殺害された。高校二年生の木村時郎はどうにも気になることがあり、彼女の高校の友人を訪ねる。寛子が“プラスチック・ラブ”という言葉を残していたことを知り、事件を取材している柚木草平にそのことを伝えたことで、事件は進展する。
高校生の木村が、中学時代の同級生の女の子が死ぬことで彼女たちの行動を調べ始める短編集。
時系列を考えればおかしなことが起こっている。木村が関わる女の子たちは各編ですべて違うし、季節は多少違ってもどれも高校2年という時期で、それがなんともない風に書かれている。
でもそんな設定と時間を無視しても、ごく普通の、毎日に退屈している高校生で人とはちょっと違う感性を持っている木村の様子は、殺人事件が起こっている割にはゆったりとした気分で読み進められた。
柚木草平も一瞬登場し、彼のキャラクターが出来上がるための足掛かりのような木村くんだった。
偶然にして最悪の邂逅
ふと気が付くと元号が変わっていた。
どうやら自分は殺されていたらしい。幽霊となっていた遊佐は、なぜだか急に起こされて戸惑う。
起こしたのはかつての教え子だった男。そいつはなぜか床の下に穴を掘っている。
どうやら死体を隠したいらしい。
不思議な出会いからその男の身の上を聞くうち、自分の来し方を知る幽霊。
自宅前で殴られた女性が警察にもひたすら隠そうとした事実。どうしても忘れられない教え子から頼まれた殺人。
面白い設定で起こる事件はなかなかに悲惨だが、語り口調の文体が軽い印象を残す。
その割に複雑だが、だんだん何を言っているのかわからなくなってくる。
どうでもいいようなことの言い合いを繰り返すためか。
終わってみれば何も記憶に残っていない。
攫い鬼 怪談飯屋古狸
毎度のように怖い話を聞かされ、そこへ行かされる虎太。
今度は女の幽霊に「子供を探して」と頼まれごとまでされる。
怖がりのくせに正義感を発揮して、幽霊の依頼を受けてしまった虎太が突き止めた、生きている者の仕業。
調べていくと、ほかにも攫われた子供がいたことが分かる。
そしてなぜか、昔名をはせた泥棒の話もついて回った。
関係なさそうなその二つが、なんととても近くで起こっていたことに虎太は驚く。
ハッピーエンドで終わるのはいいけれど、それまで虎太が「古狸」で受けた仕打ちはちょっとひどすぎるんじゃないかと思ってしまった。
探偵は教室にいない 真史と歩シリーズ
第28回鮎川哲也賞受賞作。
中学でバスケ部の仲間との楽しい日々を送っている主人公の海砂真史。
ある日机の中に差出人不明のラブレターが入っているのを見つける。何のことはない手紙が妙に気になり、真史は長く合っていない幼馴染を訪ねることにした。
その幼馴染は、幼いころから大人びた頭のいい子で、きっとなにか新しいことを見つけてくれる。
日常の謎解き短編集。
中学生たちの周りの謎なのでそれほど難しいことはないが、幼馴染で探偵役として登場した歩の語り口が特徴的なので面白い。頭がいいが周りの空気を読まず、一人変わった行動をし、それを少しも気にしない歩の賢しげな口調。
ありがちな設定だけどキャラクターの印象は強い。
代わりに、いつもつるんでいるバスケ部の仲良したちが、メインメンバーにしては印象が薄い。
青崎 有吾の裏染シリーズに似てると思ったら彼も第22回鮎川哲也賞受賞していた。
出身成分
平壌郊外の保安署員クム・アンサノは11年前の殺人・強姦事件の再捜査を命じられた。
記録はずさんとしかいいようがなく、記録した人物の署名すらされていない。
関係者の話を聞くべく現地に向かったアンサノは、11年たった今でも口を閉じ、真実を語りたがらない住人たちに困惑する。
出身であらゆるものが制限され、理不尽に抗う気も起らずに生きる人たちを見て、アンサノは父を思い出していた。
最上位階級である「核心階層」で、医師をしていた父の政治家への毒殺疑惑があってから、国の体制に疑問を持ち始めていたことに気づく。
脱北者からの証言に基づいており、地味で複雑であると冒頭に書かれているが、決して単調でも地味でもなかった。
調べが進むうちに見えてくるものは、環境や教育の偏りが思考にこれほど影響するのかという驚愕と絶望。
ただ、同じように育ったアンサノがどこで人とは違った視点を持ち、北朝鮮以外の国ではごく普通とされる考えを持てるようになったのかが疑問として残り、時間をかけた周到な工作に力を貸した上司の悲しみが救われない。