探偵は今夜も憂鬱


 仕事の締め切りが迫っている時に限って、美女からの依頼で探偵業をする羽目になる。
エステ・クラブの美人オーナーからは義妹に近づく悪い男との縁を切ってほしいと言われ、芸能プロダクションの社長からは突然失踪した売れっ子の女優を探してほしいと言われ、さらに雑貨店のオーナーからは、死んだはずの夫から3年ぶりに手紙が来た届いたので生死を調べてほしいと言われる。
 柚木は何とかライターの仕事を終え、それぞれ調査に乗り出す。
気乗りしない仕事のはずが、いやな予感や小さな不審に気を持っていかれ、またも美女に振り回される。

 短編3つ。
ハードボイルドを気取る柚木の、美女とのかみ合わないやり取りがちょっとうっとおしく感じる。
真実を悟るきっかけがさらりと流されているので、キーとなる違和感に気づかず、いつの間にか解決させているのがいつもの流れとなってきた。
個性あふれるメインメンバーの冴子がいないと締まらない。

初恋よ、さよならのキスをしよう 柚木草平シリーズ


 正月に娘の加奈子と訪れたスキー場で、高校時代の同級生だった卯月実可子と再会する。
初恋の相手は今も美しかったが、それから1か月後、彼女の営む雑貨店で何者かに殺されているのが発見される。
彼女の姪から、「自分に何かあったら柚木さんに相談するように」と言い残していたことを聞き、調査を始める。
警察は強盗殺人の線で追っていたが、柚木は実可子が仲良くしていた高校の同級生たちを訪ねていき、これは強盗ではなく、殺人が目的だったのではと思い始める。

 女たらしの柚木が、今回も盛大に美女に振り回されながらもあらがえない様子が笑いを誘う。
そしてところどころ出てくる娘のチクリとした冷たい眼差しと一言が、進展しない調査と人間関係をコミカルなものに変える。
 犯人を示唆する伏線がなかったように思うが、突然閃いて犯人に真相を問うことになったのが急すぎた。
それでも柚木の来し方が少し語られたので、これまでの疑問が解けた部分もあり、そちらでスッキリ感を持ってきた感じ。

ばけもの好む中将 九 真夏の夜の夢まぼろし


 皇太后の父が建てた夏の離宮で、華やかな宴が催されていた。
その離宮では、先日生まれた孫の顔を見たいという皇太后、もちろん帝や妃である弘徽殿の女御、梨壺の更衣を始め、宮中で働く者たちが大勢集まり、恋のかけひきや政治の駆け引きなど、様々な思惑が動いていた。
もちろんそこには宗孝と中将も招かれており、「美しい妻を持った嫉妬深い夫が、妻と娘たちを惨殺した」という噂があることを知った中将は、めったに立ち入ることのできない離宮での不思議をなんとしても見つけようと、嬉々として散策を始めていた。

 夏の夜の熱に浮かされたような宴の様子が、夢の中のように美しい。
そんな中を、中将は不思議を求め、若宮は真白に会いに、宗孝はめったに姿を見せない姉を探して、それぞれさ迷い歩く。
肝試し的な様子になってくるが、結局はドタバタでなぜかうまく収まる。
何もかも知っているような十の姉に振り回される宗孝が可愛い。

ねじまき片想い (~おもちゃプランナー・宝子の冒険~)


 おもちゃプランナー富田宝子は、もう5年も片思いをしている。
相手は外注のデザイナーの西島。本人は隠しているつもりだが、周りはみんなとっくに気づいている。
ある日西島の自宅兼オフィスのマンションで、今まで見えていたスカイツリーが見えなくなったと不満を漏らすのを聞いた宝子は、なぜ突然向いのマンションの屋上に貯水タンクが設置されたのか、頼まれてもいないのに調べだした。

 子供たちにひたすら夢を見せるおもちゃプランナーが仕事の宝子が、なぜか急に探偵まがいのことをし始めることに、切ない片思いの話がいっきにスリルを含んだものに変わる。
でも勝手に西島の周りの危険を取り除こうとする姿はある意味不気味なストーカーでしかない。
周りは面白いキャラクターがたくさんいるのに、最後はみんなしてどっちつかずの曖昧な気付きで終わっている。

獣たちのコロシアム 池袋ウエストゲートパーク16


 世間がタピオカミルクティーに狂っていたころ、マコトの友人でありヤクザの幹部であるサルも店を出していた。
そこへやってきた一人のオジサン。一部上場企業に勤めながらも、追い出し部屋へ入れられ、バイトをしにサルの店へやってきたのだった。

 ラブホテルばかりを狙う強盗や、新手のオレオレ詐欺ならぬバースディ詐欺、記憶に新しい児童虐待など、今回もつい最近こんな事件を聞いたというものばかり。
マコトはタカシやゼロワンの力を借りながら、相手を探り出していく。
 胸の悪くなるような事件を知った後の解決は、やっぱりスッキリする。

模様編みでスモッキング風なセーター

パピー シェットランドとのサイズ比較

使用糸:パピー クイーンアニー (986)
編み図:今着たいセーター から
    模様編みでスモッキング風なセーター 620 g 8号針

初夏の訪問者 紅雲町珈琲屋こよみ


 お草が営む「小蔵屋」の近所のもり寿司は、最近評判が悪いようだ。店主が代替わりしてから味も変わり、新興宗教や啓発セミナーを呼び込み、店舗一体型のマンションにも空き部屋が目立つようになった。
そんなご近所さんを心配している草の元に、息子の良一だと名乗る男が突然訪ねてきた。
草は、そんなはずはないと思いながらも、水の事故で死んだはずの良一が万一生きていたらと思う気持ちもあり、気になってしょうがない。
 男の言うことは本当か、気持ちが乱れ、仕事にも身が入らない。

 今回は草の心にこれまでにないほどの嵐を起こす。
悪人も心を弱らせた人もたくさん出てきて、どちらかというと暗い話が多かった。
それでも最後は拍子抜けする真実で、むしろいい大人の男(50代)が幼いころの母の嘘をなんの根拠もなく今でも信じ込んでいるところに違和感が残った。

心淋し川


 江戸の千駄木町の一角に、心町(うらまち)と呼ばれる場所がある。
小さな川が流れていて、その両側には貧乏長屋が並んでいた。その川は流れが悪く、淀んで悪臭を放つ季節もあるが、ここに住む者からは心川(うらかわ)と呼ばれ、人々の生活の中にしみこんでいた。
そんな心町に住む人の、川と同じように流れだせずに行き詰り、もがく人生の様子を描く。

 妾を4人も囲った青物卸の大隅屋六兵衛。妾の一人があるときふと思いついて、六兵衛が持ち込んだ張方に彫刻を施す。
若いころ、手ひどく捨てた女が今になってやたらと思い出される四文飯屋の与吾蔵。
半身麻痺となってしまった息子に異常な執着を見せる母。息子を殺した盗賊を12年も探している男。
いろんな闇を抱えた人たちがいて、でもそれらを詮索するような人もいず、皆何とか生きていけている。
暗くなりがちな生い立ちの人ばかりだけど、ゆったりと流れる川のように静かに互いを思いやっている様子が、やがて癒しとなっている。
心川の本当の名の通り、うら淋しい物語。

楽園の烏


 変わり者と言われた養父は、行方不明になって7年たつ。
死亡宣告によって遺言が施行され、山を受け継いだ安原はじめ。その不可解な相続には、一言「この山を売ってはならない理由が分かるまで、売ってはいけない」とだけ書かれてあった。
山を売ってくれとやってくる不審な人物をかわしていくうち、「幽霊」と名乗る美女に誘われ、はじめは山内へと拉致されていた。

 八咫烏シリーズ第2部のスタート。
「人間」側から見た山内の様子は、異世界そのもの。しかし、猿との対戦から20年後、あの雪哉が出世していて、身内である烏たちを守ってもいるけど迫害もしているという。
1部の雪哉からは想像できない仕打ち。キャラクターのイメージのあまりの違いに戸惑いながらも、はじめの行動には何かの意図があると気づいてくる。
これまでのように没頭できるほどではないのは、序章だからか。
最後になって明かされる事実がやっとスタートなのだろう。

悪霊じいちゃん風雲録


 商家の跡取りである伊勢次は、かなりの怖がり。なのに死んだはずのじいちゃん・左五平が幽霊となって孫の前にたびたび現れる。それも、幽霊退治を言いつけに。
一方、貧乏御家人の七男・文七郎にも、祖父の十右衛門の幽霊が稽古と称して扇子やキセルを打ち付ける日が続いていた。
二人は互いの困った先祖に振り回される。

生きている者よりも元気な幽霊が、孫をあの手この手で怖がらせながら、世間の幽霊騒ぎの真相をあばけと迫ってくるのは面白い光景。
しかも孫への頼みが幽霊退治である。
でも、両者の違いをもっとくっきりと出してほしかった。