星を継ぐもの 巨人たちの星シリーズ


 月面調査隊が発見したのは、真紅の宇宙服をまとった死体だった。
調査の結果、その人物はどこの所属でもなく、なんと5万年前に死亡していたことが分かった。
仮にチャーリーと名付けられた彼は、いったいどこから来たのか。
世界中の注目を集めながら続く調査で、次々とわかる新事実にもかかわらず、すべてのつじつまが合う結論が出せないまま、謎が深まっていく。

 人類がいたはるか昔に死んだとされる人間は、何者なのか。
興味を引く設定で、楽しく読めた。
専門的な調査が綿密に行われていることを示すような難しい解説も多かったが、その分いろんな見方でどうすれば納得のいく結論が出るのかを考えだすのかと興味が深まっていく感じがした。
「猿の惑星」のような結末は物足りないなぁと思っていたら、大きく超えた結果で飽きなかった。
シリーズとなっているようなので次も読んでみたい。

一橋桐子(76)の犯罪日記


 仲良しのトモと一緒に住んでいた桐子は、トモが死んで途方にくれていた。
年金と清掃のパートで細々と暮らしているが、このままでは孤独死が待っている。
絶望していた桐子の眼に、テレビで高齢受刑者が刑務所で介護されている様子が映る。
「犯罪を犯して刑務所に入ろう」と決心する桐子。
ただ、どうすればいいのかが分からず、つい仕事先の顔見知りに相談してしまった。

 この先どうやって生きていこうと考え出すと不安しか残らない桐子。
偽札をコンビニのコピー機で作ろうかとするが、店員だった雪菜と友達になってしまったり、ステキだなと思っていた男性が詐欺にあってしまったり、犯罪には縁がなかった桐子の行動がやけにコミカルで明るい。
そしていろんな問題にちゃんと解決もして、最後は明るく読み終えられる。

博物館の少女 騒がしい幽霊


 明治16年、博物館の怪異研究所で働くイカルは、陸軍卿、大山巌とその婚約者、山川捨松の博物館観覧への動向を求められる。
恐縮するイカルだが、捨松との会話で彼女が好きになる。
そしてそんなある日、捨松の兄、山川健次郎が怪異研究所にやってきた。捨松と巌の結婚後、大山邸で続いている怪異現象の謎を解き明かしてほしいという。
研究所の所長であるトノサマは、イカルを幼い娘たちの教育係として大山邸に送り込むことを思いつく。

 二作目のようだが、問題なく楽しめた。
歴史上の人物である捨松の話はあちこちで出くわすが、どれも自立した素敵な女性として描かれており、この作品でももれなくそうだった。
そんな彼女の頼みを受けたイカルが、複雑な結婚をした捨松の元へ行き、怪異を覗こうとするのはとても楽しく、幽霊を怖がる使用人たちとは違って微笑ましい場面も多かった。
結局人間の仕業の方は決着がつき、不可解なものは不可解なままで、人には理解できないものとして残る。
それでも不思議と消化不良な気分はない。

ヴァンプドッグは叫ばない 〈マリア&漣〉シリーズ


 U国MD州で現金輸送車襲撃事件が発生した。犯人グループの5人は、裏の協力者の力を得て、車と屋敷を手配され、逃げ込んでいた。
応援要請を受けたマリアと漣は州都フェニックス市へ向かい、ジェリーフィッシュや検問で大掛かりな捜査が始まっった。
犯人グループは慄くが、実は二十年以上前に連続殺人を犯した男『ヴァンプドッグ』が逃げ出していたのだ。
ヴァンプドッグは狂犬病ウィルスに罹患しているとみられており、彼の犯行と思われる死体が次々と発見されていた。

 物騒な事件と恐ろしいウィルスに、暗い雰囲気が漂うが、マリアと漣のコンビが交わすやり取りで一瞬にして和やかになる。
発症したら100%死に至るという狂犬病が題材となったことで、恐ろしさが大きいうえに、その変異体となればもうワクチンは効かないかもしれないという不安が膨らみ、現金強奪事件が小さいことに見えてくる。
やがて犯人グループも順に謎の死を迎える頃にはもう目がそらせない。
結果も予想外なところがたくさんあり、とても楽しかった。

星くずの殺人


 完全民間宇宙旅行のモニターツアーで当選した人たちを乗せて、宇宙ホテル『星くず』へたどり着いた添乗員の土師。
ところがその矢先、同僚の伊東が首を吊った状態で死んでいるのが見つかる。
無重力ではありえない、首つりだったために、ツアー客を残してホテルスタッフが逃げてしまう。
しかし脱出前にさらに殺人が起き、ホテルの機器類が故障したりとトラブルが続く。
何とか地球と連絡を取ろうとする伊東。
犯人がまだここにいる状態で、助けはくるのか。

 初の格安宇宙旅行のトライアルツアーということで、民間からの応募からランダムに選んだはずの客たちに、次々に起こる事件が不信感を起こさせる。
これまで面識のなかった人たちがお互いを疑い、宇宙ホテルそのものが大きな密室として恐怖を誘う。
周到な計画と知識が盛り込まれ、そこにも興味をそそられた。
あらゆる安全対策を取っていたとしても、どこかの分野から見れば穴だらけだというような、予想もつかない展開が楽しかった。

大正の后


 大正天皇の后となった節子の一生。
生まれてすぐに里子に出された節子は、農家の家で真っ黒になるまで日焼けしながら育った、元気な娘だった。
それがある日突然呼び戻され、さらには思いもよらぬ縁談を受ける。
そして将来の大正時代の天皇となる皇太子嘉仁親王の妻となり、病弱な夫を支えながら戦争に心を痛め、夫を愛した天皇の后としての日々を綴る。

 とても分かりやすいタイトルのために最初から興味は大きかったが、読み始めるとそんなことは忘れてどんどんはまり込んでいった。
節子が夫にむける優しい目に穏やかな気持ちになり、戦争のせいで国民が受けた傷に傷つき、灯台守の家族や障碍者施設での交流に癒されて、まるで付き人になった気分だった。
自分の国のことなのに、普段見ることのできない部分に興味を持つきっかけになった。

雨の日は、一回休み


 人事から、セクハラ被害の訴えが出ていると告げられた課長。40を過ぎたオジサンだが、ジムでマメに運動しているので見た目はそこまでみっともなくないはずだ。
なのに誰が訴えてきたのか。次の日から部下を観察する日々。
 妻は気づいていないはずと侮って浮気をしていたために離婚された男が、10年ぶりに娘に会ったのが病院だった。
40代で派遣社員の男が、憂さ晴らしにつくった女子高生を騙ったSNS。
 オジサンたちが、変わってしまった時代への嘆きをこぼし、女性たちは困ったオジサンたちの様子に苦笑いをする。
そんなお話。

 自分の感覚が信じられなくなるほど変わってしまって、もうどうしていいかわからなくなったオジサンたちと、こんなオジサンに困っていますという女性たちの、すれ違う思いがコミカルに描かれている。
ちょっと愚痴が多いため、全体的に僻みっぽくて雰囲気は軽いとは言えないが、オジサンも女性たちも実感する部分はありそう。

アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿


 娯楽系ウェブマガジン『アウターQ』編集部。
そこで新人ライター湾沢陸男は、子供の頃によく遊んでいた公園で不思議に思っていたことを調査しようと企画する。
公園の遊具の隅に書かれた不気味な言葉。それを紐解いていこうというのだ。
しかし大人になって知恵を絞ってたどり着いたのは、思いもよらぬ真実だった。
 さらに、湾沢が数年前に遭遇した花火大会での事故にもつながり、知らないうちに誰かを傷つけ、死ぬ間際まで追い詰めていたことを知る。

 気楽なウェブマガジンの、ちょっと不思議な身近な出来事を追求するはずが、人の人生を変えてしまう事件にたどり着いた。
そんな繋がりがあったのかと素直に驚いたが、それがどんなに気軽にやったことであっても、怖いほどの憎しみを受けたりもすると思うと、簡単に何かを発表するのをためらってしまう。

いつまで【しゃばけシリーズ第22弾】


 若旦那が行方不明になった。
まずは噺家の場久、次は火幻医師が消え、それを助けようと若旦那も影へ行ってしまう。
そして長崎屋は経営が傾き、許嫁の於りんとも縁が着れようとしていた。
なぜか5年後へ飛ばされた若旦那は、すべては西から来た妖・以津真天の仕業だと気づき、5年前に戻るか、またはここで生きていくか、選択を迫られる。

 とうとう時空まで超えてしまう若旦那。
いつもの面目は周りにいるが、どうも妖の話というよりSFになってしまい、今までのようにいくつかの章に分かれてもいないでまるまる一冊がこの話だった。
進まない話にしんどくなってくる。

戯場國の怪人


 江戸にある芝居小屋・市村座。
その桟敷席を予約し続ける者がいるが、一度も姿を見せないという不思議な噂が出る中、その一座の一人・八重霧という女方が死んだ。
そこから始まる市村座の怪異は、女形瀬川菊之丞、戯作者平賀源内、二代目市川團十郎、講釈師深井志道軒、広島藩士稲生武太夫、大奥御年寄江島という、一座の役者やシナリオまで巻き込んだ大きな事件となっていく。

 芝居小屋で起こる小さな怪異だと思っていたら、エンマ大王の一番補佐であったという小野篁、冥府まで出てくる大掛かりなものとなっていた。
役者の心意気や、昔江戸で起こった大事件をすべて芝居にして、最後は夢か現か、芝居か嘘かという、大きなはったりに引っかかってしまう。
大ごとになっていくたびに引き込まれていった。