しのぶ恋 浮世七景


 浮世絵の名作から生まれた江戸の話。
いずれ親の決めた人の元へ嫁ぐことは決まっているからと、わかっていても気持ちがあふれる若い娘。
過去と名前を捨てて生きてきたが、10年たっても決して消えない思い。
火事で死んだはずの美少女と乳母の秘密。
次の絵を描くために引っ越してきたものの、構図が浮かばず苦悩する絵師。
いろんな「人を思う」場面が描かれる。

 恋だけじゃない思いもあり、様々な立場にも思いを馳せることができる。
でも最後は、一生懸命なのにどこか滑稽な女の話で、不思議と癒されて終わる。
読んだ後でもう一度絵を見て、こんな風に見えるのかと考えることもできて楽しかった。

同時に編むアラン模様、両面同じ柄で Ⅰ


使用糸:ハマナカ オフコースビッグ (107)
編み図:裏も楽しい手編みのマフラー より
     D 同時に編むアラン模様、両面同じ柄で Ⅰ
使用針:8 ㎜、280 g

播磨国妖綺譚


 室町時代、播磨国。
律秀と呂秀の兄弟は、それぞれ違った職からの商売替えを経て、薬草を育て処方しながら庶民を相手に病を診る法師陰陽師だった。
ある晩、呂秀のもとに恐ろしい異形の鬼が現れ、かつて蘆屋道満に仕えた式神で、今は仕える主を探しており、呂秀が最も主にふさわしいから使役しろとやってきた。
その恐ろしい姿から御しきれるか不安になった呂秀は、小さくて儚いものの名を付けた。
鬼は、時に呂秀を軽くあしらいながらも、「鬼は人ができぬことをする、人は鬼ができぬことをする。ただ、それだけだ」と言い、呂秀を助けてくれるようになる。

 播磨の国、姫路城と、馴染みのある土地の名で、その景色も想像しやすかった。
恐ろしい姿の鬼ではあるが式神で、時に山の神ともやり取りをする強気なところがあるが、小さいものには優しかったりと妙に人間臭い。
妖が見える弟と、陰陽師の力は強いが全く見えない兄という二人の違い、都からの使者も含めて個性がはっきりしていて面白かった。

薔薇色に染まる頃 紅雲町珈琲屋こよみ


 手放したことを後悔していた帯留が戻ってきたと連絡をもらい、草は東京のアンティークショップへ向かう。
しかし、そこで草は、あるバーの雇われ店長であり、幼いころから見知っていたユージンが殺されたと知らされる。
彼との約束を思い出し、あちこち回る草だが、新幹線でとある母子のトラブルに出くわし、なりゆきで子供をかくまううちに、これはユージンの大きな企ての一部などだと悟る。

 今回は、シリーズ第一作の時のような危なげな話。
普通の老婆である草が巻き込まれるには大きすぎるトラブルだが、不運な子供を放っておけない草の性質をよく見極めたユージンの勝利だろう。
なかなか解決しないトラブルと、予想はしても確認はできない真実を飲み込み、草は一人大冒険をする。
普段の穏やかな小蔵屋のお草さんとは違った、勇敢な草だった。

少女は夜を綴らない


 「人を傷つけてしまうのではないか」という強迫観念に囚われている中学3年生の理子。
それは3年前に目の前で同級生が死んだ時から、理子にのしかかる強迫観念だった。
そのせいでカッターや包丁は触れず、医者にっても気のせいと言われ、理子は自らの衝動をノートに「創作」として綴っていた。
ある日、死んだ同級生の弟から、「姉を殺したことをばらされたくなければ自分の父を殺す手伝え」と脅迫される。
二人で計画を練りながら、やがて決行の日がやってきた。

 物騒な思いを抱える少年と少女。
さらに心の病の母とおかしな性癖の兄という、個性の強い二つの家族の話。
殺人の計画をずっと練っているため、全体的に暗くて剣呑で、読んでいて気持ちも暗くなる。
明るい友人たちにとても助けられているが、思春期特有の思い詰めたような感じが良く出ている。

我、鉄路を拓かん


 明治、政府により日本に初めての鉄道を通すことが決まる。
そのうち芝~品川間は、海上を走らせるという。海外から知識を持った人を雇い、全国から大工、石工などの工事を請け負うものを集める。
「築堤」部分の難工事を請け負ったのは、芝田町の土木請負人・平野屋弥市。勝海舟から亜米利加で見た蒸気車の話を聞いてから、どうにも興味が抑えられず、どうしても蒸気機関車を見たい、乗りたいという強い思いでひたすら進んできた弥市。
イギリスからやってきた技師エドモンド・モレル、官僚の井上勝らと共にこの難題をやり通す。

 2022年10月で、新橋~横浜間の鉄道開業150年となるそうだ。そして近年、高輪ゲートウェイ駅付近でこの時の石垣の一部が発見されたという。
弥市は、商人から土木請負人に商売替えをした変わり者。
それでも、土台を作る矜持があり、それが鉄道への情熱へとなる。
建っている建物だけが注目されるが、その基となる土台を作り、地図に残る仕事が誇らしいと語る弥市が頼もしい。

星影さやかに


 東京で教師をしていたが罷免され戻ってきた父。書斎にこもっている神経症の父を恥じながら、立派な軍国少年となるべく日々を過ごしていた良彦。
しかし戦争に負け、生活が一変していく。
引きこもり「非国民」とそしられる父を支え続けた母、一家に君臨し、地域でも大きな権力を持っていた祖母、東京で就職し、結婚した兄と、まだ小さな妹。
 父が亡くなり、遺品である日記から見えてきた、自分には見えなかった父の一面。

 良彦が見ていた不甲斐ない父の姿。そして母から見た父と、日記から見えてきた父の思い。
家族の思いを、それぞれの立場からに描いている。
特に、口を出すだけで何もしない祖母への感情はわかりやすく、良彦側と母側の比較ができて面白い。

お誕生会クロニクル


 「誕生日」にいい思い出はない。いつも家族の割を食うように生きていた母が、最も割を食った日。
小学校で「お誕生会」が禁止になって苛立つ娘に、サプライズで誕生日会を開いてやろうとした父親。
3月11日に生まれた双子たちに、震災の悲劇があったことを知らせないようにしていた母親。
誕生日がただ楽しくてうれしい日だけじゃない人たちの、生き方を変えるストーリー。

 誕生日をテーマにしているけど、一つ一つはもっと広い視野で描かれていて、親しくはないけど近くにいる人たちの物語。
誕生日は「誰もが自分自身と向き合う日」として、主に家族との関係を考えるものが多かった。
いろいろ納得もしたし、考えもしたけど、一番はやっぱり「男は皆、逃げる」かな。

探偵と家族


 高円寺にオフィスを構える銀田探偵事務所。
だが父は5年前、ある事件があってから仕事をしなくなり、代わりに母がペット探偵として家計を支えている。
そんなある日、フリーターの長女・凪咲は、父が仕事をしなくなったきっかけの事件の関係者から、うっかり依頼を受けてしまう。
ゲーム好きの長男・瞬矢を巻き込んで、凪咲は5年前の事件と父の出した結論の真意を知りたくなってしまったのだ。

 「黒猫」シリーズにたくさん出てきた、ちょっと変わった視点からのたとえを混ぜた表現が、「黒猫」シリーズよりも控えめに配置されている。
話の腰を折らない程度に脱線する比喩が、どことなく冷めた目で家族を眺める凪咲の立ち位置や心情を表しているよう。
頭のいい子供が、解決できる時が来るまでの時間稼ぎをどうするのか、そして大人がそれに気づいたとき、父がどうしたのか。
謎が解けてもしばらく考え込んでしまう。