死層(下)


 どうやらマリーノが騙されていたことが分かり、様々な方面から疑われる。
さらに、自宅の地下室で転落死したと思われていた遺体がずっと気になっていたケイは、そちらも調査を始めた。
すると、二つの事件がつながり、身近な人の裏切りも発覚してしまい、ケイは信頼する人達との時間を切実に求めていた。

 下巻も半分くらいはだらだらとした印象。
ベントンに近づいてくる女性と、何かとケイに触れてくる男のせいで、二人とも嫉妬していたり、何を考えているのかと勘繰ったり、そんな話ばかり。
最近ルーシーとマリーノの存在感が薄くなってきて、ベントンとケイの嫉妬話でうんざりさせられ、半分以上は無駄話としか思えなくなっている。
最後は事件も解決し、マリーノは動物に癒されて、いい雰囲気で終わっているが、あまり後味はよくない。

死層(上)


 ケイの元に、カナダの化石発掘現場で撮影したと思しき、耳の断片を映した謎の画像メールが寄せられた。
暗い画像なうえ、前触れもなく謎ばかりだったため、ケイは悩む。
そして、ボストンの湾内では、上下に釣られた女性の遺体が発見される。
発見時の不思議な様子に気を取られ、法廷に呼ばれていたにもかかわらず、遺体に向き合うことを優先してしまう。

 ケイが海から引き揚げた遺体は、少しの衝撃でバラバラになるよう上下に引っ張られていて、その様子だけでも興味を惹かれる。
でもその後遅刻して出向いた法廷での意地悪なやり取りに嫌悪感が大きく、行方不明の古生物学者や海の中の死体よりも印象が大きくなる。
まだ上巻ではケイが仕事をする場面は少なく、ただ居心地の悪い場所での嫌な経験と、命令を無視した部下にいら立つケイしかいない。もっと死体に向き合う場面がほしい。

蝉かえる


 16年前、災害ボランティア中に見た少女の幽霊のことが気になり、再度その場を訪れたの青年から聞いた少しのヒントで、魞沢は真相を語りだす。
交差点で起こった交通事故と、団地で起きた負傷事件の謎。
虫好きの魞沢が、その場の虫と共に語る真実。

 静かに、淡々と話す魞沢の話が、時に虫の話にすり替わり、その時だけは熱く語り始めるという変わった探偵。
短編集なのでそれほど込み入ってはないし、虫と言っても割と身近な虫たちなのでイメージも沸く。
魞沢の語り口が優しいので、犯罪者からも悪意は感じないため嫌な気持ちは残らない。
少年の頃の魞沢からも、すでにその優しい探偵ぶりがうかがえてほほえましくなる。

双子同心捕物競い


 そっくりの双子なのに、正確は正反対の二人。
兄の左京は真面目に父の跡を継いで同心になり、弟の右近は家を飛び出し地回りとして生活していた。
ある日、老人から「隠居したいので同心株を買わないか」と言われた右近。
何の因果か、二人は北と南に分かれて同心をやることになった。

 タイトルから、一つの事件でどちらが手柄を上げるか競うのかと思っていたら、そう簡単ではなかった。
それぞれが別々に調査し、話し合いなどしない。
しかし、反発してもそれは双子。どこか似た考えがあり、最後は少し歩み寄る。
二人が違う縄張りで同じように励んでいたら、きっと町はとても平和になるだろう。

ノッキンオン・ロックドドア2


 不可能担当の御殿場倒理と、不可解担当の片無氷雨。
二人の探偵が得意分野をうまく集めて探偵をしている二人。
今度の依頼は、大きな穴の開いた密室殺人だった。

 一風変わった依頼人よりもさらに変わった二人の掛け合いが楽しい。
大学のゼミで一緒だった4人組の残りは、一人は刑事に、一人は軽犯罪の知恵を売っているという点も風変り。
この関係が始まった事件を最後に解決し、関係に変化が起こるかと思いきや、4人は何もなかったかのようにあいさつを交わす。
居心地の良いままを望む4人は、読んでいても居心地がいい。

血霧(下)


 刑務所にいたキャスリーンが急死したという知らせが入る。
駆け付けたケイは、熱湯に触れる機会がないはずの収監者が火傷を負っていることに不審を持つ。
さらにジェイミーまでが死体で発見され、ケイは数時間前までジェイミーと一緒にいたことで恐怖に慄き、巻き込まれた事件に真剣に向き合うことになる。

 キャスリーンの死体に見られた不審な火傷や、これまでの被害者が死ぬ前に訴えていた症状の類似点から、ケイは一つの可能性にたどり着く。
そしてまた恐ろしい事実にも気づくが、サイコパスと思われる人物の血のつながりに恐怖を感じる。
ケイが自宅でドーンに襲われた時と同じく、またルーシーに助けられた。
決着がついた結末は明るい。

血霧(上)


 殺人鬼ドーン・キンケイドの母で、女子刑務所にいるキャスリーン・ローラーからの依頼で接見することになったケイ。
ところが、レンタルした車が違っていたり、予約したホテルも誰かにキャンセルされていたりと不審なことが起こる。
それはルーシーとジェイミーが仕組んだことだった。

 仕組まれたことに腹を立てながらも放っておけずに付き合うケイ。
しかし、身近な人に様々なことを黙っていられたことにばかり気を悪くしている。
愚痴が多いのは以前からだが、誰もかれもを責めるのにはうんざりした。
9年前の事件に新事実が出てきたことに興味を惹かれて付き合うことにしたケイだが、あまり主体的に動いてないのでだらけた感じ。

あしたの華姫


 江戸、両国の見世物小屋では、「真実を語る」と評判の華姫がいる。
それは木偶人形で、使い手の月草が声色を変えてしゃべっているのだが、近くで見ても人形とは思えないほど人間にそっくり。
そして華姫は、両国一帯を仕切る地回りの親分の娘・お夏からも贔屓をいただいていた。
そんな時、親分の山越がお夏と共に風邪で寝付いてしまう。すると巷は、跡継ぎが誰になるかでもめ始めた。

 ずいぶん久しぶりの華姫。もう設定すら忘れていたのに、全く気にならないほどすんなりと入り込める。
軽くて読みやすく、明るい内容で、華姫の華やかさもあって、どんな事件が起こってもどこか微笑ましい。
周りのもめ事を収めるといった内容は作者のほかのシリーズと同様だが、こちらは常に明るい気分でいられる。

変死体(下)


 失踪したままのフィールディングを疑う証拠が次々と出てくる。そのうえ検死の結果の不可解な面の解明も進まない。
スカーペッタは、部下の行動に動揺し、これまでの自分を振り返り攻め続ける。
やがて、ルーシーが見つけた小型のロボットと被害者の部屋にあった試作品のロボットとの関係を突き止めることで、事件はしだいに政治的な意味合いも浮上してきた。

 長年の部下だったフィールディングが、時々精神的に追い詰められている様子がありながらもこれまで大きな不安にはなってなかったはずなのに、今回は踏みとどまれなかった。
仲間の身内がサイコパス的な要素を持っていたのはマリーノに続き2例目。
それにいつのまにかケイの呼び名も一人称に戻っている。
内容も、突然また検死を重視しはじめ、人物像も何もかも、ブレが大きい。
科学的な技術としては面白い要素がたくさん盛り込まれていることと、事件の解決がなされていることでとりあえず納得。

変死体(上)


 米軍監察医務局で半年間の研修を受け、明日には帰るという日、スカーペッタはマリーノとルーシーにヘリで法病理学センターまで送られる。
スカーペッタが責任者となっているその新しい仕事場は、自分のいない間に無法地帯となっており、そこへ運び込まれた遺体が冷蔵庫の中で大量の血を流すという、常識では考えられない現象が起きていた。

 タイトル通りの変死体が何者なのか、また死んでいたはずの遺体から血が流れだすということがなぜ起こったのか。
事件を追う本筋は興味をそそるが、大半はどうでもいいことでつぶされ、忘れた頃にやっと次の情報が出てくる。
そのため、多くのことを忘れている。
これまではマリーノを気の毒なくらい貶めていた流れが、今度は長年の部下であるフィールディングに向かっていて、好青年を一気に「使えないおじさん」にした。
本来の事件の話はたまたま今手を付けている仕事なだけとでもいいたげな軽んじた扱いになっているのが残念。
とても興味深い事案なので、早く本来の仕事をしてほしい。