11月そして12月


 高校も大学も中退し、今はカメラを持って虫を撮り歩いているフリーターの柿郎。
ある日公園で出会った女性に恋をした。
しかし、彼女と親密になる前に家族に巻き起こった不穏要素が、暇なはずの柿郎を忙しくする。
父の不倫に姉の自殺未遂、挙句には「彼女には関わるな」と言いに来る男性まで。
冬のひと時、柿郎に起こった大騒動。

 柿郎の口調が淡々としてどこか長閑なせいで、緊急事態もするりとやり過ごせそうな気がする。
出会った女の子が気になって調べたり家に押しかけたりというのはちょっとやりすぎだが、柿郎なら不思議はないような気になってしまったり、父の身勝手な理論も受け入れて協力させられたり、母にも使い走りをさせられて、それでもそれが自分のやりたいことだったという雰囲気を出す。
やっかいな男だが憎まれはしなさそう。

レンタルフレンド


 友人や恋人、ママ友や人数合わせ、何でも来い。
大手の商社を辞めて始めた仕事はレンタルフレンドで、七実はあらゆる人物になりきる。
デザートブッフェへ一緒に行ってほしい、月に一度一緒に映画を見に行って感想を話し合う、婚約者の友人たちの集まりに一緒に行ってほしい。
依頼のなかで、七実は依頼者の人となりを観察していく。

 依頼してくる人にはいろんな理由があって、それでも依頼者に嫌な思いをさせないように精いっぱいのことをする。
人見知りせず、物怖じしない七実の様子は頼もしいがハラハラする場面もある。
同業者と出くわすこともあるし、設定がばれそうになることもあって、何とか乗り切ってはいるがちょっと都合が良い進み方。
それでも最後は前向きなシーンで終わるのでほっとした。

風景を見る犬


 那覇市大道の栄町にある売春宿の息子・香太郎。
「アミーゴ」でバイトをして、平和な夏休みになるはずだったのに、近所で2件の殺人事件が起きてしまう。
狭いご近所さんでそんな偶然はおかしい。
 自由で頼もしい近所の有力者の母、いつの間にか疎遠になっていた隣の幼馴染、女好きで悠々自適な近所のゲストハウス「アミーゴ」のマスター、そしてふらりとやってくる本土からの素性のわからない旅行客。
香太郎はいつの間にか、母や居候と共に事件を探る役割を担う。

 被害者の過去が分かってくるととたんに複雑になる事件。
捜査に顔を突っ込んで不思議と情報を集めてくる母達に振り回されているようで、香太郎はしっかり周りを見渡している。
そして皆は、沖縄のゆるりとした曖昧な雰囲気の中で何年も前の重い秘密を探り出してしまうが、当事者がすべていなくなり、彼らの気持ちを注がれた「今生きている者」を守るために考える。
 むやみに犯罪を暴くことをしない。

あなたの隣にいる孤独


 母と二人、「あの人」から逃げながら各地を転々としてきた無戸籍児の玲菜。
もちろん学校にも行ったことがないけど、優しい母にきちんと躾けられてきたから勉強も得意。
いつものリサイクルショップで出会った風変わりな男・周東に頼られなんとなく手助けするうちに、玲菜はこの店の人たちに癒されてしまう。
ある日、母から急に「あの人に見つかった。必ず連絡するから、帰ってきてはダメ」と言われ、周東のリサイクルショップに居候することになってしまった。

 戸籍がなく、学校にも通えず、友人もすぐに入れ替わるような生活をしているのに、玲菜は母と仲良しで、優しく育てられていて歪んだところもない。
そんな生活が続いていたのに、なぜか今の街にはなじんでいるような気がして不思議に感じていたら、突然やってきた逃亡生活の終わり。
理由はすぐに明らかになる。
事実に愕然とはするが反発する気は起きず、頼もしいリサイクルショップの店主と飄々とした周東のおかげで淋しくもないし、むしろこれで「普通」の生活が手に入るかもしれないと期待をしたりしている。
事件としては10年以上も続いた残酷な出来事なのに、とてもさっぱりとしていて涼しい風に吹かれているような気分の話だった。

超高速!参勤交代 老中の逆襲


 「5日以内に江戸へ参勤せよ」と無理をさせられた「参勤」が終わり、湯長谷の者たちは帰りはゆっくり行こうと決めていた。
それぞれの特技を生かして江戸で稼ぎ、お咲を身請けし、物見遊山を夢見ていた。
しかし老中・信祝はまたも湯長谷藩に無茶をつきつける。
「あと二日のうちに交代を終えよ」さらに「江戸城天守閣の普請」との沙汰を出し、一同は青ざめる。

 行きも帰りも知恵で乗り切り、傍から見れば滑稽な事を真剣にやっている姿が想像できて楽しい。
それは、どちらも最後の最後まで助けてくれない上様が呑気すぎて腹が立つほど。
死んだと思っていた段蔵は今度も頼もしいが、ほかのメンバーの個性はちょっと埋もれ気味。
映画を見てやっと区別できた。

ミレニアム 6 上: 死すべき女


 ストックホルムの公園で死んだ男は、黒ずんだ頬に、何本か欠けた指、そして真夏にもかかわらずダウンジャケットを着ていた。
そして妙なことに、ポケットにミカエルの電話番号が書かれたメモが入っていた。
リスベットにも協力を頼み、ミカエルは男のことを調べ始める。
珍しい遺伝子を持った家系であること、かつて国防大臣と交流があったらしいこと、欠けた指について。
妹を追うリスベットと、死んだホームレスを追うミカエルは、どこで出会うのか。

 今回はミカエルもリスベットも疲労困憊。
疲れきっているのに休むことをせず、取りつかれたように情報を吸い上げる。
さらに妹のカミラの様子も伝わって、緊迫感が強まってくる。
新3部作の中では一番興味をそそられた。
そしてもう一つの気がかりは、共同経営者のエリカの離婚話。
ハリエットも出てこなくなり、ミカエルの近くに来る女性たちは入れ替わっても行くけど、エリカだけは変わってほしくない。

ミレニアム5 下: 復讐の炎を吐く女


 ホルゲルの死が殺人として捜査が始まる。
そして釈放されたリスベットは、ミカエルと共に”レジストリー”の正体を追う。
それは双子に関する不思議な研究で、完全に秘匿されているとわかったミカエルは、リスベットから知らされた双子を調査し、そこに大きな陰謀を見つける。
一方、リスベットに叩きのめされたベニートは仕返しを目論み、仲間と共にリスベットを拉致する。

 ぶっきらぼうで他人に冷ややかなリスベットだが、刑務所でいじめられていたファリアを救い、弁護士をつけてその後の生き方までも保護しようとする。
暴力を振るわれることも振るうこともあるのに、理不尽な暴力は他人でも見逃せないでつい手を貸してしまうため、こちらは心配し通しである。
そしてミカエルの方は巻き込まれたことにはとことん調査してしっかり記事にするちゃっかり者だし、この二人は特ダネをつかみ取る力が大きい。
まだリスベットの妹との対決が待っているのだろうが、ホルゲルを失った後に拠り所となる人物がいないままなのは心もとない。

いわいごと


 江戸町名主の跡取り息子・高橋麻之助のところには、日々町内のもめごとや悩み事が持ち込まれる。
今日は、3人で買った富くじが当たった男たちが、どこに旅をするかで揉めていた。
麻乃助は、男たちはきっと他に理由があるのではと思い、突破口を見つけるべく動き出す。
さらに、縁談相手のお雪との先々も決まらずにいる麻乃助のところへは、年頃の友の縁談が先に決まっていく。

 こちらは『しゃばけ』と違い、不思議は起こらない。
その分現実の厳しさがあるが、周囲のもめ事を解決に導くところは同じ。
今回は友と自分の縁談や出世という、人生の岐路がたくさんやってきた。
穏やかに見ていられる『しゃばけ』と違い、『まんまこと』シリーズは、何があるかわからない。

明治乙女物語


 東京・御茶ノ水の高等師範学校女子部で学ぶ咲と夏。
ある日、森有礼主催の舞踏会に出席した二人は爆発事件に遭遇する。
犯行声明により犯人が特定され、警備も強化されていたが、咲は現場で見つけたものから、全く違う犯人も見つけていた。
女が学ぶことについて偏見が大きかった時代、二人は様々な障害を自分たちで切り抜けながら、自分の人生を歩もうと前を向く。

 ままならないことが多いことで、生き急ぐ者たちの哀しさがじんわりと染み出す。
強く生きているつもりでも、幼いころの思い出に心を揺らしたり、憧れに気をはやらせたり、諦めに身を投じたり、これから人生を選び取っていく乙女たちの心の揺れが、時代の揺れに共鳴しているよう。
心を強く持とうという気を残す物語。

ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士(上)


 ザラチェンコとの戦いで瀕死のリスベットを助けたミカエルは、リスベットを過去から救おうと、調査を始める。
ザラチェンコがなぜその罪を何度も見逃されてきたのか、カギは公安にあると読んでいたが、彼らも策をめぐらせミカエルを追い詰める。
一方リスベットは、二つ隣の部屋にザラチェンコがいることに気づき、お互いを監視し合っていた。

 しぶといザラチェンコ。
でもリスベットはあきらめない。どうにかして自分の未来を守ろうとする気持ちが強く、同じように真実を知りたいと強く思っているミカエルとやっと同じ方向を見始めた。
そしてさらにいくつかの死体ができ、事態は急変する。
エリカは『ミレニアム』から距離を取ったところから、ミカエルは国の中心へ、リスベットは自分を出せる世界で、つながりも増え、メンバーも増えてくるので複雑になってくる。
政治的な部分も増えてもきた。