コロナ狂騒録


 新型コロナウィルスの騒動が始まって1年。
東京では五輪へ向けて様々な裏工作と腹の探り合いが起こっていた。
そして、鉄壁の防疫を守っていた東城大学医学部付属病院で院内クラスターが起こる。
すでに医療は崩壊しており、いつも冷静に人をこき使う高階病院長もさすがに疲れ、うっかり田口に弱音を吐く始末。
乗り切る方法を一任(丸投げ)された田口は、さっそく病院内の再編成や大規模PCR検査をする決定をする。

 続編が出たということはそれなりに効果や同意があったのだろう。
またも、胸焼けするほどの悪口が次々と出てくるが、攻撃相手はくっきりと分けられており、現実に起こったことと沿っているために、世の中の動きを思い出しながら取りこぼしている情報を調べてみたりしていると、時間を忘れていた。
他の作品でワクチンセンターの設立の話があったなぁとかも思い出され、コロナ禍が収まっても長引いても、次作はありそうだと期待する。
どんなこともネタにでき、面白い視点で物事を見せてくれるので楽しみだ。

とんちき 耕書堂青春譜


 蔦屋重三郎の店・耕書堂へ、行き倒れ寸前でたどり着いた磯五郎。
戯作者になりたい一心で蔦屋へ来たと訴え、蔦重の言うことを聞いたら考えてやると言われてやる気を出す。
蔦屋には、口が上手く思いついたらすぐさま行動する威勢のいい大男・鉄蔵、能役者だが絵が好きで、存在感のない十郎兵衛、そしてひたすら気が弱い瑣吉といった個性豊かな変人が集まっていた。

 日々のどんなことでも戯作のネタとしようとする磯五郎は、商才があると太鼓判を押されながらも戯作への熱意を貫き通す。
しかし、興味があるというだけで人を追い詰めてしまう鉄蔵や、人にはない画力であっという間に売れ、そして姿を消す写楽に比べるとキャラクターとして弱い気がしていた。
ところが、これほど癖の強い者たちをまとめてしまう力はさすが。
いずれ大物として世に出る者たちばかりがこんな風に集まっていたのかもしれないと想像すると楽しくなる。

准教授・高槻彰良の推察5 生者は語り死者は踊る


 大学で百物語をやるという企画が持ち上がる。
夜通しのイベントなので学生だけでは許可が下りず、民俗学の准教授である高槻に監督してほしいと依頼される。
100話目の妹を亡くした男子学生の話のあと、暗闇となった香以上に「おにいちゃん」という声が聞こえ、皆は驚き恐れるが、高槻は一人、白けた顔をしていた。
 そして夏休みになると、深町と高槻と佐々倉の3人は、深町の故郷へと向かう。
そこで行われていた「死者の祭り」を確かめに。

 百物語はいつものように高槻が見抜き、先生らしくしっかり教えを説いて頼もしくもあり、以前読んだ圓朝の話も出てきて興味深かったが、青い提灯の祭りから生還する場面は、ドラマの方が納得できるストーリーだった。
不思議な生き物である沙絵の力が大きく働いていたが、現実の問題として今までの怪異を解き明かしてきたこのシリーズにはかえって不自然に感じた。
ドラマのように、伝説や逸話の教訓をもとにしてひとつづつ解決していく方が高槻らしい気がする。

ボーンヤードは語らない


 U国の空軍基地から、兵士の変死体が発見される。
サソリに刺され、転落死したように見せられていたが、実はまた別の犯罪を隠蔽しようという目論見が隠されていた。
少佐のジョンは、刑事マリアとその部下である漣に、非公式に操作を依頼する。
 さらに、彼らがなぜ警察官になったのか。お互いに抱く疑問に答えるように、マリアと漣の過去も語られる。

 息が合っているのかわからないような二人の過去が、それぞれ明かされた。
マリアは昔から人と違った観察眼を持っているし、漣はその冷静さから俯瞰した着眼点から事件を見渡せる。
二人の特徴がよく出た短編集となっていた。

准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき


 他人が嘘を言うと歪んで聞こえるという耳を持つ深町尚哉は、大学進学と共に一人暮らしを始めた。
人と関わらないことを選び、嘘を聞かないで済むように生きてきた深町だが、何気なく受講した民俗学の講義で准教授・高槻に気に入られ、怪異を聞き謎を解くバイトを始める。
怪異と聞くとテンションが上がってしまう高槻の「常識担当」といてついていく深町は、相談者たちの嘘を聞き、初めて自分の耳が役に立つことを知る。

 怪異を楽しみ、自ら怪異へと飛び込んでいくのは「ばけもの好む中将」と同じような感じだが、こちらは現代。
立ち向かう理由も姿勢も違い、民俗学の勉強もできて楽しい。
幽霊の出るアパートや、仕返しをする藁人形、天狗の神隠しなど、どれも知っている都市伝説を元にした話だから難しくもなくとっつきやすい。
そして高槻の方にも秘密がありそうで、興味が沸いた。

クラゲ・アイランドの夜明け


 岩手県沖の海上コロニー。
「楽園」と名付けたその地では、殺人、傷害、性犯罪、交通事故、違法薬物、違法労働、自殺者がゼロという「七つのゼロ」を謳っていた。
とろこが、外洋からやってきたらしい新種のクラゲが発見され、クラゲ好きの友人・ミサキがクラゲに食べられ自殺した。
事故として発表されたその死に疑問を持ったナツオは、ミサキがなぜ死んだのかを調べ始める。

 強い自分の意思を持たないはずだったナツオが、関わる人たちの意思に、まるで風を受けたようにあおられる様子がまさにクラゲのよう。
周りの意見や熱量をうけてひらひらとあちこちを漂いながら、周囲を伺い、やがてミサキの意思を見つける。
クラゲが好きすぎて混ざりたくなったのかなと気楽に予想していたのとは違い、シュールな結末だったが、「楽園」としてはそちらの方がしっくりくる。

ダークナンバー


 東京で起きた連続放火殺人事件の捜査で、警視庁分析捜査係の警部・渡瀬敦子はプロファイリングをするが、予測を外し、周囲から冷たい目を向けられていた。
一方、東都放送の土方玲衣は、元同級生の敦子を特集しようと思いつき、よりインパクトが出るようにと同時期に起きていた埼玉の連続路上強盗致死傷事件を絡めようとしていた。
警察と報道で、例のない共同捜査が進むとこになり、二人の執念が過去を探り当てる。

 警察の敦子と、報道の玲衣。
立場が違う二人が同級生として築いてきたつながりが事件を追い詰める様子は、後半でやっと盛り上がる。
それまではダラダラと長いなぁと感じていたが、事件の背景や人物のつながりが分かってくるにつれて面白くなってきた。
潔い敦子の采配も頼もしいと感じたし、玲衣の行動力と野望は逞しい。
複雑な事件と背景も想像力を掻き立てる。

赤い糸の呻き


 新聞紙を鷲掴みにして死んでいた男性の捜査に来た私は、上司の音無刑事の美貌に見とれながら、妄想の中にいた。
家が裕福だから働かなくていいし、働きたくもないけど父親がうるさいので働いているように見えて実は怠けていられる仕事として探偵を選んだ物部太郎。
建築家が人を殺してまでこだわった家からの景観。
 人死にが出ている事件ばかりなのに、どこかユーモラスな短編集。

 事件を追いながらも何かに気を取られている人たちによって、時折おかしな妄想が入り込み、くすりと笑える出来事も起こる。
そのせいで深刻にはならず、意外な人が真相を言い当てたりと、どれも楽しかった。
個性的な人物もいて、短い割には印象に残る。

高校事変 X


 名門私立高校・慧修学院高校三年の生徒たちが、国際文化交流のためホンジュラスを訪問するというニュースを目にした。
結衣は、かつて父が建てた計画を思い出す。
そしてホンジュラスでは、メキシコの武装勢力ゼッディウムに襲撃され、日本へ身代金の要求が来る。
結衣は兄を止め、慧修学院高校の生徒たちを救うため、ホンジュラスへ向かう決意をする。

 ついに最後の決戦か。と思ったらまだ続くらしい。
今度は日本を出て戦闘区域での戦いで、結衣は本場の戦場でこれまでとの大きな力の差に翻弄される。
それでも力になってくれる大人と出会い、知恵と機転で切り抜ける自分の長所を知る。
場所や相手は違っても、これまでと同じような展開となり、そろそろ高校を卒業する結衣はこれからどうするのだろう。

高校事変IX


 川崎市に家がある長谷部家。ある日玄関のベルが鳴り、戸口に顔を出した主婦の恭子は、そこにぼろぼろの格好をした有名人を見た。
フェリーから逃げ出してきた田代勇次は、かつて一度ファンイベントで合った家族の元へ逃げ込み、そこであっという間に一家を制圧し、仲間を集め始める。
勇次の目的は、結衣。

 結衣に殺意を向ける勇次との決戦。
もうアイドルの顔は打ち捨てた勇次が、あらゆるものを利用して結衣に迫る。
同じような境遇で、同年代の相手との対決だからか、むしろ手こずっていたよう。
これまでの大げさなほどの戦闘の大きさと異様さには、映画のような突き抜けた感じがあったが、今回はこじんまりとした雰囲気。
そして最後は大人の大きな力に頼り、高校生の世界の狭さを思い知らされている。