いわいごと


 江戸町名主の跡取り息子・高橋麻之助のところには、日々町内のもめごとや悩み事が持ち込まれる。
今日は、3人で買った富くじが当たった男たちが、どこに旅をするかで揉めていた。
麻乃助は、男たちはきっと他に理由があるのではと思い、突破口を見つけるべく動き出す。
さらに、縁談相手のお雪との先々も決まらずにいる麻乃助のところへは、年頃の友の縁談が先に決まっていく。

 こちらは『しゃばけ』と違い、不思議は起こらない。
その分現実の厳しさがあるが、周囲のもめ事を解決に導くところは同じ。
今回は友と自分の縁談や出世という、人生の岐路がたくさんやってきた。
穏やかに見ていられる『しゃばけ』と違い、『まんまこと』シリーズは、何があるかわからない。

明治乙女物語


 東京・御茶ノ水の高等師範学校女子部で学ぶ咲と夏。
ある日、森有礼主催の舞踏会に出席した二人は爆発事件に遭遇する。
犯行声明により犯人が特定され、警備も強化されていたが、咲は現場で見つけたものから、全く違う犯人も見つけていた。
女が学ぶことについて偏見が大きかった時代、二人は様々な障害を自分たちで切り抜けながら、自分の人生を歩もうと前を向く。

 ままならないことが多いことで、生き急ぐ者たちの哀しさがじんわりと染み出す。
強く生きているつもりでも、幼いころの思い出に心を揺らしたり、憧れに気をはやらせたり、諦めに身を投じたり、これから人生を選び取っていく乙女たちの心の揺れが、時代の揺れに共鳴しているよう。
心を強く持とうという気を残す物語。

ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士(上)


 ザラチェンコとの戦いで瀕死のリスベットを助けたミカエルは、リスベットを過去から救おうと、調査を始める。
ザラチェンコがなぜその罪を何度も見逃されてきたのか、カギは公安にあると読んでいたが、彼らも策をめぐらせミカエルを追い詰める。
一方リスベットは、二つ隣の部屋にザラチェンコがいることに気づき、お互いを監視し合っていた。

 しぶといザラチェンコ。
でもリスベットはあきらめない。どうにかして自分の未来を守ろうとする気持ちが強く、同じように真実を知りたいと強く思っているミカエルとやっと同じ方向を見始めた。
そしてさらにいくつかの死体ができ、事態は急変する。
エリカは『ミレニアム』から距離を取ったところから、ミカエルは国の中心へ、リスベットは自分を出せる世界で、つながりも増え、メンバーも増えてくるので複雑になってくる。
政治的な部分も増えてもきた。

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上)


 月刊誌『ミレニアム』の発行責任者ミカエルは、大物実業家の暴露生地を書いたせいで名誉棄損で訴えられ、有罪判決を受けた。
そして『ミレニアム』の発行責任者から身を引くことになったミカエルに、とある企業グループの前会長ヘンリック・ヴァンゲルから1年の契約として仕事を持ち掛けられる。それは、表向きはヘンリックの自叙伝の執筆だが、本当はおよそ40年前に失踪した兄の孫娘ハリエットを殺した犯人を見つけてほしいというものだった。

 人生の危機にタイミングよくあらわれる人物と依頼。
転機にすべく依頼を受けるミカエルだが、サブタイトルにもなっているドラゴン・タトゥーの女はいつミカエルにとっての重要人物になるのかとうずうずしながら読んだ。
かなり物語が進まないと絡んでこない彼女は、姿も言動も人目を惹く奇異な人物の割に控えめな登場で、彼女・リスベットが次に何をするのかが気になりつつも、ハリエット事件の捜査も充分に興味を惹かれる。

プラスチック・ラブ


 中学時代の同級生・寛子が、ラブホテルで殺害された。高校二年生の木村時郎はどうにも気になることがあり、彼女の高校の友人を訪ねる。寛子が“プラスチック・ラブ”という言葉を残していたことを知り、事件を取材している柚木草平にそのことを伝えたことで、事件は進展する。

 高校生の木村が、中学時代の同級生の女の子が死ぬことで彼女たちの行動を調べ始める短編集。
時系列を考えればおかしなことが起こっている。木村が関わる女の子たちは各編ですべて違うし、季節は多少違ってもどれも高校2年という時期で、それがなんともない風に書かれている。
でもそんな設定と時間を無視しても、ごく普通の、毎日に退屈している高校生で人とはちょっと違う感性を持っている木村の様子は、殺人事件が起こっている割にはゆったりとした気分で読み進められた。
 柚木草平も一瞬登場し、彼のキャラクターが出来上がるための足掛かりのような木村くんだった。

探偵は教室にいない 真史と歩シリーズ


 第28回鮎川哲也賞受賞作。
中学でバスケ部の仲間との楽しい日々を送っている主人公の海砂真史。
ある日机の中に差出人不明のラブレターが入っているのを見つける。何のことはない手紙が妙に気になり、真史は長く合っていない幼馴染を訪ねることにした。
その幼馴染は、幼いころから大人びた頭のいい子で、きっとなにか新しいことを見つけてくれる。

 日常の謎解き短編集。
中学生たちの周りの謎なのでそれほど難しいことはないが、幼馴染で探偵役として登場した歩の語り口が特徴的なので面白い。頭がいいが周りの空気を読まず、一人変わった行動をし、それを少しも気にしない歩の賢しげな口調。
ありがちな設定だけどキャラクターの印象は強い。
代わりに、いつもつるんでいるバスケ部の仲良したちが、メインメンバーにしては印象が薄い。
青崎 有吾の裏染シリーズに似てると思ったら彼も第22回鮎川哲也賞受賞していた。

刺青白書 柚木草平シリーズ


 人気が出始めたアイドルが、自宅で殺されているのが発見される。
全裸で後ろ手にガムテープで縛られ、複数の刺し傷があった。
事件の記事を依頼された柚木草平は、続いて水死体で見つかった女性とアイドルが同じ中学の同級生だと知り、関係を調べ始める。
 一方、女子大生の三浦鈴女もおかしな共通点だと気づき、周りの同級生から話を聞いていた。
そしてそれらは、中学の頃自殺した女子や、右肩に入れた刺青、消したいと思っていた過去を掘り起こすことになってしまう。

 今回は鈴女という歴史を学ぶ女子大生が中心に置かれ、彼女の動きで事件は見えてくる。
柚木の女たらしぶりも今回は控えめで、寄ってくる美女もいない。
その分鈴女が印象深く、鈴女の落ち着いた佇まいが、何事もゆっくりと説得されているような雰囲気でやってくる。
最後は柚木と共に決着をつけるところまで付き合い、ハッピーエンドにまでなっている。
珍しい回。

ばけもの好む中将 十 因果はめぐる


 「ばけもの好む中将」である宣能の妹・初草は、文字が動いたり、色がついて見えるという共感覚の持ち主。そのため、文字そのものを読み取りにくく、読み書きができなかった。
そこで発明家に嫁いだ宗孝の5番目の姉に協力を頼み、初草が文字を読める発明品を作ってもらうこととなった。
一方、宣能と共に怪奇探しに出た宗孝は、宣能と別れた帰りに河原で瀕死の男に出会う。
その男が言い残した言葉が宣能に関わる名であったために、宗孝は苦悩の夜を重ねていた。

 初草の能力に宗孝の姉の知恵が重なり、とても愛らしい姿となった場面を想像するのが楽しかった。
宗孝は相変わらず姉たちとの微笑ましいやり取りで場を和ませ、宣能の麗しい姿が優雅を催す。
悪意を吐き出す多情丸が最後に不気味な高笑いを残すために後味が不穏だが、これから宣能の活躍が待っているのだろうか。

見た目レンタルショップ 化けの皮


 大学1年生の主人公・吾妻庵路は、レンタルショップの店長である。
通常のレンタル品に加え、もう一つの店の顔も持つ。
それは「見た目」のレンタル。
見た目を変えたい人たちが、思い通りの見た目に変身して、やりたい事とは?

 狐使いの後継者である庵路は、狐の化ける力を利用して、見た目を変えたい人たちの望みをかなえる。
おかしな設定だけど、長く生きている狐たちの力を使えるのはその力を持つ男子のみ。
そして利用者は、自分と同じように虐待を受けている子供を救いたい、見た目で得をしている人たちへのささやかな復讐、いつも一人でいる女性に、声をかけたいなど、様々。
でも結局、ちょっとバージョンを変えたいじめや虐待が原因のものが多かった。
柔らかい語り口と、誰も責めない終わり方は、小路幸也とそっくり。

数学者の夏


 数学が好きな上杉和典は、高校2年の夏、行き詰っていた。
部活で部員でリーマン予想の証明に取り組んでいたのだが、皆でディスカッションしながら進める方法に納得できず、一人で解いて見せたかった。
そしてこの夏、学生を対象に学生村を開設していた長野の山奥の村へこもることを決める。
ホームステイ先で数学だけに向き合うつもりが、不注意で解きかけのノートを隣家に飛ばしてしまい、そこから意外な出会いを得ることになる。

 開けてみればKZのメンバー。
ちょっとがっかりしたが、数学に夢中になり、自分には思いもつかなった方法をスラリと出されたことに羨望と嫉妬をあふれさせる様子は生々しく書かれていて、そんな心中を表現するのは作者の得意分野だったと思い出す。
次第に事は大きくなり、古い出来事を蒸し返すことになる。
戦争が起こした2次災害的な悲劇が何十年も心に傷をつけ続けることにこちらも苦しくなるが、それでもくたばらない力強さも隠さない昔の人々の印象が強く残り、子供っぽいKZ達はどうでもよくなる。