焔【ほむら】と雪【ゆき】 京都探偵物語


 鯉城は、怪我をして警察を辞めてから、探偵をしている。
病弱の幼馴染の露木の知恵を借りながら、立場の違う二人だから気づく視点で可能性を探り真実を見つけていく。
自らに火をつけて死んだ男、別荘で鳴り響く怒号の謎、製薬会社社長の妻に付きまとう不審な男など、大正の京都で起こる事件を追う。

 二人の立場が違うおかげで見えてくる世界が違うが、お互いの思いが推理に大いに左右されていて、どっちも納得がいく部分もあればいかない部分もある。
特に露木の執着が大きく、その部分だけ見れば不気味でもあるが、起こる事件はいつの時代も変わらない人の思いだった。
二人の対比は面白いが、推理には強引な部分があった。

でぃすぺる


 小学校卒業まであと半年。
ユースケは、自分の好きなオカルトを聞いてほしくて、“掲示係”に立候補する。
すると、委員長になるとばかり思っていた優等生のサツキも立候補してきた。
転校生のミナも加わり、三人で掲示新聞を作ることになる。
サツキが掲示係を選んだ理由は、去年亡くなった従妹のマリ姉の犯人が捕まっていないため、少しでも解決に近づけたいという思いがあったのだ。
マリ姉のパソコンから見つかった、町の七不思議の話をヒントに、小学生最後の二学期を過ごす。

 オカルトを押すユースケと、理屈で責めたいサツキ、そして冷静な判定を下すミナという構図で七不思議を解き明かしていく様子は楽しい。
ふとしたきっかけで気づくことに喜ぶ姿は頼もしいし微笑ましい。
何か所か腑に落ちない場所があったけれど、登場人物の面白さがあったので突き進んでこられた。

蠟燭は燃えているか


 宇宙ホテルでの事件から無事逃れ、脱出ポッドの中で生演奏をした京都の女子高生真田周。
しかし、待っていたのは配信動画の炎上だった。
それから周の周りは迷惑系動画配信者や動画絵の誹謗中傷で日常を過ごすことも困難となる。
そんな時、週の動画に「まずは金閣寺を燃やす」というコメントが書き込まれ、そこから次々と国宝や文化財が放火されていく。
一連の放火にはどんな意味があるのか、週は瞳子と会えるのか。

 宇宙ホテルの結末からすぐの出来事。
瞳子を探すために配信した動画から、京都の文化財の多くが焼かれてしまうことになってしまい、周は戸惑いながらも瞳子へ近づいている事を感じている。
加害者であり被害者でもある周の周りに集う、加害者家族と被害者家族。
彼らの思いが煮詰まって思い雰囲気となる。
でもどこかに、いくら子供でもそこまで世間知らずかと思うような行動や、逆にそこまで大きなことを考えついて行動できるのかといった違和感もあった。

兇人邸の殺人 〈屍人荘の殺人〉シリーズ


 閉園となった遊園地を買い取り、廃墟テーマパークとして人気の施設に、「兇人邸」があった。
そこでは、従業員が定期的に消えるという噂が流れていて、さらに葉村たちが追っていた班目機関の記録が眠っているらしい。
ある企業の社長から同行を依頼され、ヒルコと葉村は夜中に「兇人邸」へ忍び込む。
ところが、その屋敷で見つけたのは鉈を振り回す巨大な殺人鬼だった。

 ヒルコと葉村がまたもや命の危険にさらされる。
今度は巨大な屋敷に殺人鬼と共に閉じ込められるというホラーな設定。
そしてどうしても予想できない結末に毎回驚かされる。
班目機関のことも少しずつわかってきて、おもしろくなってきた。

縁切り上等!―離婚弁護士 松岡紬の事件ファイル


 夫のモラハラと浮気に耐えられなくなった聡美は、小さな子供を抱いて実家に逃げた。
その途中で出会ったのは、縁切寺として名高い「東衛寺」の娘で、離婚専門弁護士の松岡紬だった。
同性婚カップルの親権問題、定年間近の夫と別れたい妻など、離婚したい女たちの仲介をする紬だが、彼女は結婚どころか恋愛というものに感情が動かない。
幼馴染で探偵の出雲と組んで困っている女たちの悪縁を断ち切る。

 誰が見てもモラハラなのに本人は全く自覚がないなど、もうどうしようもない問題から、今を逃せば死ぬまでチャンスはなさそうだという案件など、いろんな問題に立ち向かう。
もし自分が何かのトラブルに巻き込まれたら、養育費を払いたくないから資産を隠そうとするような男にもきっちり交渉してくれる紬のような弁護士に出会いたいと思う。

詐欺師と詐欺師


 海外で稼いで一時帰国していた詐欺師の藍は、ある政治家のパーティで知り合ったみちるに興味を持った。
あらゆる事を犠牲にして親の仇を殺すことだけを生きる理由にしてきたみちるは、仇である戸賀崎グループ筆頭株主の戸賀崎喜和子を探すために金を欲しがっていた。
普段なら関わらない藍だが、なぜかみちるから目が離せず、復讐に付き合うことになるが、思いもよらない事に巻き込まれていく。

 世界中の悪党から何億という金をせしめてきた藍にとって、みちるのとる行動は拙く、ついかまってしまう。
そのうち引き返せないところまで来てしまい、みちるの執着と同じくらい暗くて深い闇をのぞき込んで怖い真実を知ることになる。
これは逃げ出せないんじゃないかと思った頃、また不思議ななりゆきですんなり脱出までできるが、この先の二人が気になってしょうがなくなってしまう。
タイプの違う詐欺師と、犯罪者たちのゲーム。

月花美人


 菜澄藩の郷士・望月鞘音は、剣鬼とも呼ばれたほどの使い手だった。
両親を亡くして姪の若葉を引き取り、彼女との生活のためにと傷の治療に使う〈サヤネ紙〉を作っていた。
幼馴染の紙問屋・我孫子屋壮介と町の女医者・佐倉虎峰から、改良を頼まれる。
理由を言い渋る壮介に問いただすと、「月役(月経)」の処置に使うという返答。
武士である自分が、女の穢れで糊口をしのぐことに抵抗がある鞘音だが、ちょうど初潮を迎えた若葉の辛そうな様子を見て、少しづつ考えが変わっていくのだった。

 女性の整理事情は、男には隠されてきた。
古紙や古布をつめて処置し、穢れ小屋に隔離されたりしてきた女性たちの清潔を守り、生活を楽にするために奮闘した武士の物語。
実際にあった話とは違うが、人々の意識を変えようと戦う様子に心を打たれる。
ずれを防ぐための羽根つきを思いついたのが鶏の羽というところは無理があったが、それ以外は続きが気になって止められないほどだった。

ワトソン力


 自分の周りの人の推理力を大きく上げる力を持つ和戸。
だがなぜか自分にはその力がでないので、和戸の所属する警視庁捜査一課の検挙率は前代未聞の10割という。
しかしなぜか、彼はとらえられ、窓のない小部屋に連れてこられていた。
犯人は顔も出さず、なぜ連れてこられたのか分からないまま監禁された和戸は、これまで自分には効果がなかったその力を、自分に使ってみる気になった。
そしてこれまで和戸が解決してきた事件を思い返す。

 周りの推理力を高める力をワトソン力と名付けた和戸。
これまでの7つの事件を順に思い返していくのだが、どんな状況でも発揮される便利機能だが、それがかえって身を危なくしてしまう。
居合わせた素人みんなが拙い推理を発表する場面はおもしろく、これだけのバリエーションを考えるのは大変だと勝手にねぎらいたくなる。

魔眼の匣の殺人


 葉村譲と剣崎比留子は、葉村のクラスメイトから聞いた預言者の話が気になり、預言者と恐れられる老女の住む場所へ向かう。
人里を離れ、かつて班目機関の研究所だったという施設に一人で済むという。
そこへ、唯一の通行手段である橋が燃やされ、高校生と思しき男女、墓参りに来たという女性、ツーリングの途中でガソリンが切れて困っていた男性、車のトラブルで困っていた父子と共にその施設に閉じ込められてしまう。
預言者はこの二日のうちに男女二人づつが死ぬと予言しており、皆は慄きながらも救助が来るまではどうしようもなくなってしまう。

 葉村と比留子はまたしてもクローズドサークルでの恐怖と戦うことになる。
班目機関の秘密を覗こうとしたばかりに巻き込まれる参事に二人は慣れてしまったように見え、謎解きも複雑になってくる。
細かすぎて覚えていないこともあったりしたが、二人は危険を冒しながらもなんとか犯人を追い詰める。
そしてこの班目機関はまだ立ちはだかるようである。

令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法


 架空の法律で、その法律に振り回される人々の様子を描く。
過剰な動物愛護の精神で、動物にも教育を受ける権利や性質に応じた環境を得る権利などができ、それに従って裁判も起こるようになった。
自家製の醸造酒を家庭の味とする風習が広がった世界。
現金が禁止された世界など、今の社会で問題になっていることを法律にしてみた結果。。

 今世間で問題になっていることを、ちょっと大げさにしてみたらどうなるか、そんな極端な世界を想像してみる。
ゾクッとするような怖い事も起こり、どうなってしまうのかと不安になる。
これまでの新川帆立の作品とはちょっと違ったダークな世界。