最高のウエディングケーキの作り方


 夢だったホテルアフタヌーンティーの仕事についていた涼音だが、パティシエの達也と付き合い、2人でパティスリーを作りたいという新たな夢を持ち、ホテルを辞めてしまう。
あまりにもあっさりと見えた退職に、裏切られたと思う者、まぶしく思う者、理解できない者と様々。
そんなホテル時代の同僚のそれぞれの思いを綴る。

 婚姻届けを描こうとして夫婦の氏に悩む涼音。
同性婚や非正規社員の理不尽などが題材で、まさか続きが出るとは思わなかった話。
涼音のこだわりはちょっとやりすぎと思う時もあったが、達也と寄り添い、協力していこうという気持ちが大きかったための題材だったのだろう。
この人の話は、辛い思いもあったり冷たく当たったり後悔したりもするが、基本的にわかり合いたいと思う人たちばかりで辛い終わり方はないので安心して読める。

山の上の家事学校


 政治部の記者として忙しくしていた幸彦だが、離婚して1年。
家のことは何もできず、すさんだ生活を送っていた。
そんな時、妹からある学校を教えられる。
そこは、労働として認められにくい「家事」を教える学校だった。

 家のことを手伝っていると思っていたけど、「ここから先は自分の仕事じゃない」と思っていたことが多かった。
妻から「一人になった時のために」と勧められた。
など、入学の理由は様々だけど、やらなければ生活の質が下がったり、体調を壊すことになること全般を教える学校。
近頃こうゆう、「男たちへの静かな抗議」が題材の本がよくある。
確かに「そうそう」と思う事は多いし、できれば意識を変えてもらいたいとずっと思ってきたけど、そうゆう相手はたいてい本など読まない。

化け者手本


 文政、江戸。
稀代の女形だった元役者の魚之助の足をなくしてから、鳥屋の藤九郎は彼の足となることにした。
ある日座元から呼び出され行ってみると、舞台の幕が下りたとき、首の骨がぽっきり折られ、両耳から棒が突き出た死体が、客席に転がっていたという。
その異様な死にざまのため、これは何かの見立て殺人ではと考えた二人だが、なんとこの奇妙な死人出はこれで二人目だという。

 シリーズ物の二作目だと知らなかったが、それなりに説明もちゃんとあったので困ることなく読めた。
ただ歌舞伎に興味がなかったり知識がなかったりするととても読みにくい。
メインの登場人物2人は個性的で魅力もあり、そのため歌舞伎の独特な言葉使いや振る舞いなどの部分になじめなくても読み進められる。
魚之助が足を無くす理由を知りたくなった。

ゴミの王国


 父の病的なほどの潔癖症の影響で過剰なきれい好きの日下部朝陽。
東京の民間清掃会社で契約社員として日々ゴミの回収をしている。
ある日、半年前に越してきた佐野友笑の部屋がゴミであふれていることを知り、恐怖に陥る。
人見知りしない仕事仲間兼映像アーティストのミントが朝陽を巻き込み友笑と仲良くなり、彼女の作るゴミアートをあるミュージックビデオを作ると意気込む。

 掃除をしないではいられない朝陽と、ゴミを集めてしまう友笑。
正反対の二人が仲良くなって、少しずつ変わっていく。
それぞれの育った境遇が極端なのも、2人の性分の対比がはっきり出てわかりやすい。
でもところどころで童話のような出来事や表現があって子供っぽい。
そのせいか、大きな問題も簡単に解決してしまってあっけない。

魔法を描くひと


 1937年、美術学校を出たばかりのレベッカは、アメリカで生まれたアニメーション会社となったスタジオ・ウォレスに「結婚・出産などで数年で退職する女性を雇うことはない」と断られる。
女だからという理由で諦めるものかと幹部に絵を見せて直訴し、気に入られて入社はしたものの、やっぱり軽く見られたりからかわれたりとひどい扱いを受ける。
それでもめげずに、少ない女性の同僚と共に戦う決意をするレベッカ。
 そして20xx年の東京では、彼女たちがこっそり隠していた絵を発見した非正規雇用のマコトが、その絵に魅せられる。

 レベッカたちが戦った理不尽は、20xx年ではまた違う理不尽となって非正規雇用のマコトをむしばむ。
結婚して子供もいて正社員の女性との格差に落ち込むマコト。
女だからというだけで雇ってもらえず、実力も見てもらえずに家庭に入ることを強要される時代と、どんなに頑張っても成果として評価されるのは正社員だけで、”対等に”という聞こえのいい言葉でいくらでも都合よく使われる派遣社員の時代。
世代が変わるほどの時間が過ぎてもある理不尽の対比が、どちらの主人公にも感情移入させられる。
それでもあきらめなかった女性たちの話だけど、切ない後味も大きく残る。

贖罪の1オンス


 老舗おもちゃメーカーのお客様相談室で日々電話対応をしているの佐伯。
ある日、2億円に相当する金貨を1週間以内に用意しないと針を仕込んだぬいぐるみをばらまくという脅迫状が届く。
警察へ届けるよう進言するが、上層部は隠蔽を測る。
犯人を突き止めようと過去のクレームを洗い出し、一人の人物に目を止める。
それは、3年前に起こった、自社製品のカイロが爆発して幼い女の子が火傷を負った事件だった。
そしてなぜか、犯人への金貨の受け渡しを佐伯がすることになってしまう。

 企業への脅迫という、大掛かりな事件。
ユーザーに寄り添おうとしない上司にいいくるめられ、正直でいたい佐伯は苦しむ。
上手くいくはずもない犯行だが、思いもよらない犯人と、計画の告白が妙にしんみりとする。
ただタイトルはなんだかしっくりこなかった。

私の死体を探してください。


 人気作家の森林麻美がブログで自死を宣言し、「「私の死体を探してください」というメッセージを残して姿を消した。
担当編集者の池上は新作原稿を手に入れるためにあらゆる手を使って探そうとする。
しかし、家じゅう探しても手がかりはなく、そのうえブログでは次々と麻美の近親者の秘密が暴露されていく。
果たして麻美の意図は、そして本当に死んでいるのか?

 少しづつ明かされる秘密と新作。
麻美が高校の時に起こった衝撃的な事件の真相も加えて、周囲の人をじわじわ追い詰める。
暗くはなく、ホラーでもなく、長いわけでもないのですぐに読めてしまう。
結論も思わせぶりだけど、嫌な後味はない。

殺しも芸の肥やし 殺戮ガール


 10年前、高校の遠足で生徒30人と教師が乗ったバスが忽然と姿を消した。
墜落した気配もなく、わずかな痕跡さえないまま時がたち、この事件で姪を失った奈良橋は、刑事となっていた。
ある日管轄内で起きた「作家宅放火殺人事件」を担当することになるが、そこから不可解な人物が浮かび上がる。
気になって調べていくと、その人物は女である以外は顔も体系も違うが一人の人物へとつながっていることが分かる。
次々と人を殺しながらいろんな人物に成り代わる殺人鬼。

 天涯孤独な人物を見つけては、巧みに入れ替わる女。
まるでスパイのようだが、その実ただの殺人鬼。だがその女のかなえたい夢はなんとお笑い芸人という。サイコなのかコメディなのかわらかない。
恐ろしいけどそれぞれの人物も細かく描かれていて気になってしまい、あっという間に読めてしまう。
ホラーというわけではないので嫌な読後感もなく、謎のまままた姿を消す。

アンと幸福 和菓子のアン


 東京デパートの食品売り場、「みつ屋」でアルバイトをしている杏子。
食べることが大好きで和菓子も大好きなアンが、今回はちょっと冒険をする。
「みつ屋」も新しい店長を迎えて新体制。
しかし、新店長の藤代は、年配の客や子供を連れた客のときだけ横入りのように会話に入ってくる。
その理由が分からず悩むアン。
アルバイトから正社員へとの誘いを受け、悩むアン。
そして新しい場所へ。

 長くあいたシリーズで細かいことろは忘れているけど、読み始めるとするすると蘇る世界感。
正社員を選んだアンが初めて出張で出かけた菓子の祭りでの出来事はちょっと大げさな気がするけど、おいしそうな和菓子や言葉の歴史などが分かりやすく楽しく解説されていておもしろかった。

パンとペンの事件簿


 織物工場で働いていたぼくは、工場主が変わって労働環境が急激に悪くなったことを訴える代表を押し付けられ、しかも同僚は裏切って知らん顔をしたために一人貧乏くじを引いた。
工場主の取り巻きから殴られ、路地裏に捨てられて動けなくなっていたところを救ってくれたのが、「文章に関する依頼であれば、何でも引き受けます」という変わった看板を掲げる会社、その名も「売文社」の人たちだった。
さらにこの会社の人間は皆が皆、世間が極悪人と呼ぶ社会主義者だという。
一風変わった人ばかりの場所で、ぼくは仕事が決まるまでおいてもらえることとなる。

 でっち上げの陰謀で絞首刑になるようなご時世。
ぼくは「売文社」の仕事を見て様々な人の事情を知っていく。
持ち込まれる依頼はまっとうなものだけではなく、あやうく詐欺の仲間だと思われたり、暗号が届いたり、人攫いの証拠をつかんだりと忙しい。
そしてそんなことすら楽しんでいる様子の「売文社」の人たち。
楽しくてあっという間に読めてしまう。