写楽とお喜瀬


 江戸で、わずか10か月ほどで姿を消した謎の絵師・写楽。
彼には表だって名乗れないわけがあった。
能役者が本業の十郎兵衛は、非番の時にだけ書くと決め、自身のうちに潜む黒々とした後悔と自責の念を紙にぶつけるように描いていた。
それはこれまで見たこともないような描写で、見るものに衝撃を与える絵だった。

 謎の絵師はどう生まれたのか。なぜ1年もたたずに姿を消したのか。
その強い印象を残す絵はどんな心持で描かれたのか。
その心の内は、強烈に描かれているが、その一端となるお喜瀬が妙に気持ちの悪い書かれ方をしている。
性別ではなく、人となりが。
写楽となった十郎兵衛を描くなら、許嫁となった香都のほうを絡ませたほうが読みたかった。
その違和感が、お喜瀬の気持ち悪さとしてずっと残る。

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