数学者の夏


 数学が好きな上杉和典は、高校2年の夏、行き詰っていた。
部活で部員でリーマン予想の証明に取り組んでいたのだが、皆でディスカッションしながら進める方法に納得できず、一人で解いて見せたかった。
そしてこの夏、学生を対象に学生村を開設していた長野の山奥の村へこもることを決める。
ホームステイ先で数学だけに向き合うつもりが、不注意で解きかけのノートを隣家に飛ばしてしまい、そこから意外な出会いを得ることになる。

 開けてみればKZのメンバー。
ちょっとがっかりしたが、数学に夢中になり、自分には思いもつかなった方法をスラリと出されたことに羨望と嫉妬をあふれさせる様子は生々しく書かれていて、そんな心中を表現するのは作者の得意分野だったと思い出す。
次第に事は大きくなり、古い出来事を蒸し返すことになる。
戦争が起こした2次災害的な悲劇が何十年も心に傷をつけ続けることにこちらも苦しくなるが、それでもくたばらない力強さも隠さない昔の人々の印象が強く残り、子供っぽいKZ達はどうでもよくなる。