芦屋山手 お道具迎賓館


 先祖から受け継いだ芦屋山手のとある屋敷に住む「先生」と呼ばれている一人の男性。
彼が畑仕事の最中に土の中から見つけた白い器。欠けたりもせずきれいであったので「先生」は洗って日々の茶碗として使っていた。
しかしそれは、長時を経て付喪神となった白天目茶碗だった。
「先生」は彼をシロさんと呼んで、同じように付喪神となった器たちと賑やかな日々を過ごす。

 かつての権力者たちに愛され、現在は行方不明となっている器たちが付喪神となり、お茶席の時に集まっては思い出を語る。
実在した器たちが、誰の元で、どんなふうに使われていたかが語られるため、歴史としてみれば面白いのかもしれないが、主人公のシロさんや付喪神たち、持ち主の「先生」も含めてキャラクターとして登場しているのに個性が薄くて読んでいて少しも面白くなかった。
物語にするのか、器の歴史を追うのか、中途半端な印象だけが残る。

ペットショップ無惨 池袋ウエストゲートパーク18


 外からは見えにくい家庭の事情。学校にも行けないヤングケアラーの少女の、心を殺した目をみつけたマコト。
さらに売春を運営している奴らに目をつけられていたために放っておけず、タカシやゼロワンの力を借りてと救い出そうとする。
生後半年を過ぎた犬や猫は、見た目がいいものは繁殖に、それ以外は処分される世界。そんなものを見せられたマコトがした反撃や、引きこもりのハッカーがした淡い恋にも目をそらさずにすべて見つめる。

 池袋のトラブルシューター・マコトが今回出くわした弱い者たちは、家族の介護ですり減った子供や外国人労働者、そして逃げ出すこともできないペットたち。
それでももう新しいネタは少なくなってきた感じで、マコトはちょっと弱気になり、タカシはどんどんキングになっている。
ただ今回は、敵か味方かの分類ではない取引もあって、丸く収める瞬間の見極めは成り行き任せで危なっかしかった。

吉原と外


 お照が母の再婚相手から命ぜられたのは、義父が務めている商家の若旦那が囲う妾宅の女中だった。
花魁になっていくらも経たずに身請けされた美晴は、お照の5歳も下だが女でも見とれるほどの美しさ。
義父からは、美晴が男を作らないように見張っておけといわれていていたお照だが、お照の前では飾らない本音を言う美晴に付き合っているうちに、複雑な友情を持ち始める。

 親の都合で婚期を逃し、今また主が妾というお照は、うんざりしながらも仕方なく美晴に従っていたはずだった。
でも、年下なのに吉原で磨いた観察眼で周りの人間の動きを見事に言い当てる美晴に、お照はほだされていく。
最後は男の身勝手からくる自業自得に巻き込まれそうになったりするが、強くいようとする美晴に助けられもする。
嘘しかつかないはずの花魁をどこまで信じていいのか迷いながらも、自分の感性を信じることにしたお照は、きっと美晴と仲良く暮らせるだろう。

或るエジプト十字架の謎


 カメラマンの南美樹風は、自分の心臓移植をしてもらった医師の娘で法学者のエリザベスと共に、トランクルームで起こった殺人事件の検死に向かっていた。
本来は、警察が企画した法医学交流シンポジウムに参加していたエリザベスだったが、日本の捜査に興味があるということで、急遽予定を変更して捜査の現場へ向かったのである。
そこは、帽子が並んだ趣味の部屋という感じだったが、どうやら麻薬密輸にも関係していたらしい。

 カメラマンだが独特の閃きで事件の道筋を見つけ出してしまう主人公。
シリーズものだったようだがそれなりに説明は入るので困ることなく楽しめた。
主人公は発想が、エリザベスはその口調が特徴的で、理解しがたい現場でも面白い推理を見せてくれる。

初詣で 照降町四季(一)


 文政11年暮れ。18で男と駆け落ちした鼻緒屋の娘・佳乃が三年ぶりに照降町に戻ってきた。
どうやって父に詫びようと逡巡していると、通りすがりの顔なじみから、父が病で倒れていると聞く。
慌てて戻った佳乃の前に立ったのは、見習いとして父の弟子になっていた九州の小藩の脱藩武士・周五郎だった。
出戻りと浪人の鼻緒屋は、佳乃の独特なセンスで徐々に評判になっていったが、ある日佳乃の駆け落ちの相手・三郎次が姿を見せたという噂を聞く。

 駆け落ちして3年。
三郎次が作った借金のかたに女郎屋へ売られそうになって逃げかえった佳乃だが、鼻緒挿げの職人として生きていくことを決心し、また浪人の周五郎とも息が合ってきて、商いを広げていく様子は、一度地獄を見てもそこから逃げ出せた強さが続いているようで力が沸いてくる。
いかにも訳ありそうな浪人の周五郎だが、秘密があっても頼もしさの方が強く描かれていて、この一家の行く末が楽しみになる。

幻月と探偵


 革新官僚・岸信介の秘書・瀧山が急死した。
元陸軍中将・小柳津義稙の孫娘の婚約者で、小柳津邸での晩餐会で毒を盛られた疑いがあったため、相究明を依頼された私立探偵・月寒三四郎は小柳津邸へとやってきた。
そこで、義稙宛に古い銃弾と『三つの太陽を覚へてゐるか』と書かれた脅迫状が届いていたことを知る。
瀧山の件を調べていたはずが、またも小柳津邸で毒殺事件が起こる。
事は満州の裏の顔にまで広がっていった。

 登場人物の人種が様々で、さらに部隊が満州ということもあり、名前や地名などが分かりにくく、繋がりが見えてくるまでは苦労した。
ただの殺人の調査だったはずが、大きな政治の力まで加わってきたときにはもう戻れないくらい巻き込まれている探偵の月寒。
それでもはったりをかませながらも恐れず乗り込んでいき、最後は大物とも駆け引きをする。
すべてを知りたいと思ってしまうのは探偵らしいが、命知らずと紙一重でハラハラしながら楽しめた。

しのぶ恋 浮世七景


 浮世絵の名作から生まれた江戸の話。
いずれ親の決めた人の元へ嫁ぐことは決まっているからと、わかっていても気持ちがあふれる若い娘。
過去と名前を捨てて生きてきたが、10年たっても決して消えない思い。
火事で死んだはずの美少女と乳母の秘密。
次の絵を描くために引っ越してきたものの、構図が浮かばず苦悩する絵師。
いろんな「人を思う」場面が描かれる。

 恋だけじゃない思いもあり、様々な立場にも思いを馳せることができる。
でも最後は、一生懸命なのにどこか滑稽な女の話で、不思議と癒されて終わる。
読んだ後でもう一度絵を見て、こんな風に見えるのかと考えることもできて楽しかった。

同時に編むアラン模様、両面同じ柄で Ⅰ


使用糸:ハマナカ オフコースビッグ (107)
編み図:裏も楽しい手編みのマフラー より
     D 同時に編むアラン模様、両面同じ柄で Ⅰ
使用針:8 ㎜、280 g

播磨国妖綺譚


 室町時代、播磨国。
律秀と呂秀の兄弟は、それぞれ違った職からの商売替えを経て、薬草を育て処方しながら庶民を相手に病を診る法師陰陽師だった。
ある晩、呂秀のもとに恐ろしい異形の鬼が現れ、かつて蘆屋道満に仕えた式神で、今は仕える主を探しており、呂秀が最も主にふさわしいから使役しろとやってきた。
その恐ろしい姿から御しきれるか不安になった呂秀は、小さくて儚いものの名を付けた。
鬼は、時に呂秀を軽くあしらいながらも、「鬼は人ができぬことをする、人は鬼ができぬことをする。ただ、それだけだ」と言い、呂秀を助けてくれるようになる。

 播磨の国、姫路城と、馴染みのある土地の名で、その景色も想像しやすかった。
恐ろしい姿の鬼ではあるが式神で、時に山の神ともやり取りをする強気なところがあるが、小さいものには優しかったりと妙に人間臭い。
妖が見える弟と、陰陽師の力は強いが全く見えない兄という二人の違い、都からの使者も含めて個性がはっきりしていて面白かった。

薔薇色に染まる頃 紅雲町珈琲屋こよみ


 手放したことを後悔していた帯留が戻ってきたと連絡をもらい、草は東京のアンティークショップへ向かう。
しかし、そこで草は、あるバーの雇われ店長であり、幼いころから見知っていたユージンが殺されたと知らされる。
彼との約束を思い出し、あちこち回る草だが、新幹線でとある母子のトラブルに出くわし、なりゆきで子供をかくまううちに、これはユージンの大きな企ての一部などだと悟る。

 今回は、シリーズ第一作の時のような危なげな話。
普通の老婆である草が巻き込まれるには大きすぎるトラブルだが、不運な子供を放っておけない草の性質をよく見極めたユージンの勝利だろう。
なかなか解決しないトラブルと、予想はしても確認はできない真実を飲み込み、草は一人大冒険をする。
普段の穏やかな小蔵屋のお草さんとは違った、勇敢な草だった。